39 ハイキング1
モニカも毎日、ルカと昼食を食べるために時計塔を登っているが、それだけでは体力は養われていなかったようだ。
「モニカちゃん大丈夫? 少し休む?」
今度は小鳥を肩に乗せて連れてきたリアナが、こてりと首をかしげてモニカの顔を覗き込む。その姿も可愛いので、モニカの心だけはとても元気だ。
「だいじょう……ぶです。私のことは、お気に……なさらず」
こんなところで時間を取っていては、リアナが攻略対象たちと楽しむ時間が減ってしまうではないか。
「モニカ、俺が背負ってやろうか?」
続いてルカもモニカを気遣うように近づいてきた。けれどルカは、皆の分のお弁当や飲み物が入ったリュックを一人で背負ってくれている。これ以上の迷惑はかけられない。
「大丈夫……です。まだ歩け……ますよ」
何とか笑みを浮かべようとした時、なぜか、ふわっと身体が軽くなった。軽やかに足が動き出す。
「おっ。元気が戻ってきたみたいだな。手を引いてやるから、もうちょい頑張れよ」
「は……はい」
(何かしら、この浮遊感……)
歩いているというよりかは、まるで浮いているような気分だ。
そして、身体にまとわりついている、心地良い風の気配。
(先生が、魔法を使ってくれているんだわ)
リアナとルカがモニカに対して過保護なのはいつものことだが、そこにカリストが加わっている状況。
なんだか可笑しく思えてきたモニカは、くすくすと笑い出した。
「どうしたモニカ?」
「どうしたのモニカちゃん?」
ルカとリアナに同時に聞かれ、モニカは笑いながら首を横に振った。
「なんでもありませんわ。ハイキングが楽しくて」
皆の助けで山道を登り切ると、開けた平地にたどり着いた。ここが山の中腹のようだ。
視線の先には、日の光を浴びて輝く湖。その奥を大きく仰ぎ見ると、山の頂上付近の岩肌が見える。そこから出ている煙が麓よりもはっきりと見えた。
大自然に感動したい場面ではあるが、それよりもインパクトのあるものが見えて、モニカとリアナは顔を見合わせた。
「わあ! なにこれ? ここってそういう場所なの?」
「雑誌には何も書いてありませんでしたわ。おそらく……」
湖には、とても繊細なレリーフが刻まれたゴンドラ船。
水際では、野生ではない鞍のついた馬が水を飲んでおり、その横には釣りをするための道具が用意されている。
手前の広場には、狩猟大会で使いそうな大型のテントや、食事するためのテーブルセットには、デザートまでセッティングされていた。
そして、中央にはキャンプファイヤー。
(これって……。ゲームのあれよね……)
攻略対象と一緒に小旅行へ行くと、目的地でサプライズを受けるが、それがまさにこの状況。
本来なら攻略対象一人と行く場所だが、今回は攻略対象が四人もいる。サプライズが混み合っているようだ。
「湖で船に乗れたら素敵だと思ってね。俺が用意したんだ」
リアナとのデートに余念がないブラウリオ。
「テントとテーブルセットは僕が用意しました。レディーを地面に座らせるわけにはいきませんから」
的確に必要そうなものを用意するところが、ロベルトらしい。
「キャンプといったらキャンプファイヤーだろ。あとで釣りして魚、焼こうぜ!」
「今日はハイキングのはずですが」
「うっせー。テントを用意したやつに言われたかねーよ」
ルカはこの場を思い切り楽しみたいようだ。
(それじゃあ、残りの馬は……?)
モニカはカリストに視線を向けてみる。すると彼は、困ったような表情でモニカから視線をそらした。
「モニカは、乗馬もあまり経験がないと思ってな……」
(えっ。もしかして私のために?)
刺繍を教えてほしいとお願いした際に、カリストはモニカが普通の貴族令嬢とは違うと気がついたのだろう。それで乗馬を経験させようと用意してくれたようだ。
他の三人はヒロインのために用意したサプライズだが、カリストはモニカと二人きりだと思っていた。
彼だけは確実に、モニカのためにサプライズを用意してくれたことになる。
「あの……ありがとうございます、先生。とても嬉しいですわ」
(きっと教師として、いろいろな経験をさせてやりたいと思ってくれたのね)
カリストとは偶然に出会い、彼の精霊のおかげでゲームに影響されることなく交流することができた。
このような人と出会えたことは、モニカにとっては大切な財産だ。彼に少しでもお礼をするためにも、やはり守護者を目指すようお手伝いしたい。
「みんなのおかげで、楽しくなりそう! モニカちゃん。私たちもお礼をしましょう!」
「はいっ」
ルカが背負ってきたリュックから、お弁当を取り出したモニカとリアナは早速、テーブルに並べて昼食会が始まった。





