38 出発2
(けれど……、好みが同じって、仲良くなるきっかけにはなるわよね……)
そのまま意気投合して、守護者への道が開けてくれたら良いけれど。
「みんなが仲良しで俺も嬉しいよ。カリスト先生をお待たせしているし、そろそろ馬車に乗ろうか」
こんな時はいつもモニカへ不満の矛先を向けるブラウリオだが、今は単に早く馬車で出発したい様子で急かしてきた。
(ふふ。今日は先生がいるから、殿下も嬉しいみたいね)
カリストは一人だけ、馬車から降りていなかったようだ。本当に待たせてしまっているようなので、モニカはすぐに馬車へと乗り込んだ。
「先生おはようございます。お待たせして申し訳ございません」
「……おはよう」
カリスト隣に腰を下ろしながら謝罪したが、カリストは挨拶するだけで目を合わせてくれない。
(先生どうしたのかしら)
彼は授業でも、生徒の些細な雑談などは大目に見てくれるような、おおらかさがある人だ。
皆との挨拶が長引いたことに、怒るような人ではないと思ったが。
「先生……?」
「大勢だとは聞いていなかったぞ」
「えっ。言いませんでしたか?」
あれ? と思いながらモニカは、カリストを誘った時のことを思い出す。
あの時は、リアナがいることを伏せながら話したつもりだった。しかしその結果、メンバーが何人いるかなどの情報は一切、彼に伝えていなかった気がする。
(ってことは、先生は今日、私と二人きりだと思っていたのかしら……?)
どうやらモニカは知らぬ間に、カリストをデートに誘っていたことになる。
ようやく、カリストが誘いに対して慎重だった理由に納得がいった。
そして、モニカはあの時「絶対に、先生と一緒に行きたいんです!」と力説していたこと思い出し、顔が真っ赤になった。
「あっ……あの。先生、私……そんなつもりでは……」
これでは、カリストを好きだと誤解されていたに違いない。
彼はきっと、教師としてどう接して、どう穏便に諦めさせるか、すごく悩んだのだろう。
それを裏切る形になってしまったのだから、怒るのも無理はない。
恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいのモニカを見たカリストは、笑いを堪えるように口元に手を当てた。
「その顔で、許すよ」
気づいたならそれでいい。と言うように、カリストはモニカの頭をぽんっとなでた。
(先生って、やっぱり甘いわ……)
馬車の中ではブラウリオが、飲み物やお菓子を手にカリストをもてなそうとしている姿があった。それを苦笑しながら受けているカリスト。ブラウリオがいかにカリストを慕っているかがわかる、微笑ましい光景だった。
モニカのほうは、いつものようにリアナとルカがひっきりなしに話しかけてくるので楽しく時間を過ごし、ロベルトはたびたび会話に入りつつも読書を楽しんでいる姿が見受けられた。
そうして一時間ほどの馬車の旅を終えてたどり着いた、ラバ山。形は綺麗な三角というよりは、台形の上にさらに小さな三角が乗っているような形をしている。
頂上近くは山肌が見えており、活火山ゆえに微かに煙が上がっている。
目的地である山の中腹には、木々に囲まれた湖などもあり自然を楽しむことができるようだ。
(わあ! ゲームの画面より素敵な場所だわ)
馬車から降りたモニカは、ゲームでは何度も訪れていた場所が思いのほか雄大なので、山を見ながら圧倒される。
「モニカちゃんが選んだ場所、すごく素敵ね!」
「はいっ。ハイキングが楽しみですね」
「早速、行きましょう!」
リアナに連れられて、モニカは山道へと向かう。ここは初心者にお勧めの山なので、山道は緩やかな坂道で歩きやすそうだ。
入り口を通過する際に騎士たちに「お楽しみくださいませ」と敬礼される。言わずもがな、ブラウリオが一般人の入山を規制しているのだろう。
(山って貸し切れるのね……)
ゲーム内でも小旅行先ではモブが映りこむことはなかったが、このような裏事情があったとは。
「モニカちゃん、見て見て! リスちゃん可愛いでしょ」
「わあ……! 本当です……ね。可愛い……!」
ハイキングを始めてからリアナの周りには、小動物がちらほら集まり出した。さすがは聖女。動物に好かれる能力が備わっているようだ。
先ほどから小動物を抱きかかえては、モニカに見せてくれる。モニカはそれを、息を切らせながら楽しんでいた。
(っというか皆、体力ありすぎよ……)
ハイキングを始めてすぐに、モニカは悲しい現実を直視することになった。
貴族男性は、どの家門でも剣術訓練が必修みたいなものなので、騎士団長を目指しているルカや、王太子であるブラウリオを始め、インドア派に見えるロベルトやカリストまでも、涼しい顔で登山を楽しんでいる。
それに加えてリアナは、モニカに小動物を見せるために最も動き回っているが、まったく疲れていない様子。モニカ一人だけが、開始早々にバテていた。
モニカも毎日、ルカと昼食を食べるために時計塔を登っているが、それだけでは体力は養われていなかったようだ。
「モニカちゃん大丈夫? 少し休む?」





