37 出発1
「皆様によろこんでいただけるように、心を込めて作りましょう」
「うんっ!」
なるべくリアナに作業してもらったほうがアイテム効果が得られると考えたモニカは、具材をカットするところまではほとんどリアナにお願いした。
リアナは家でも料理をしていたのか、テキパキと作業を進めて行く。
「あのっ……。それと、もしよければ、ルカ様とも今日は交流を深めてくださると嬉しいです」
具材が揃ったら組み立ては二人でおこなう。モニカは挟む順番をリアナに教えながら、そうお願いしてみた。
リアナとは、ルカが守護者になれるように協力関係を結んだはずなのに、それが一向に進んでいない。リアナが忘れていないか、モニカは心配していた。
「あっ……うん。そうよねっ」
リアナは思い出したように、慌て出す。
(やっぱり、忘れていたんですか……!)
「あのねっ、モニカちゃん。忘れていたんじゃないのよっ。ただ、モニカちゃんを前にすると、ルカには負けたくないって気持ちのほうが強くなっちゃって、つい……ね」
友達としては非常に嬉しいが、ルカが守護者になることは、モニカの学園生活人生を賭けた最も優先したいもの。
「リアナちゃん……」
「モニカちゃん! そんなに悲しまないで! 今日は必ずルカとも仲良くしてみるから!」
「本当ですか……?」
「うん絶対に! モニカちゃんに嫌われたくないもの!」
リアナは必死な様子でモニカの手を取ると、そのままキスでもされそうなくらい真剣な眼差しで、モニカに顔を近づけてくる。
この真剣さは、ルカを守護者にするためなのか。それとも、モニカに好かれたいためなのか。最近のリアナを見ていると、おのずと答えは想像できる。
モニカはふと、不安がよぎった。
(この乙女ゲーム。百合ルートは無いはずよね……?)
そんな不安を抱えながら、なんとか完成したお弁当。今日は量が多いので、一人ずつ箱に詰めている。全部で七箱。ルカが二箱、食べる予定だ。
ちなみに、バケットサンドは二人で手分けして組み立てたので、リアナのバケットサンドが均等に行き渡るように、しっかりと全ての箱に分けてある。
「お昼が楽しみだねモニカちゃん!」
「はいっ。――予定より時間がかかってしまったので、急いで朝食を食べて、お着替えしましょう」
「お着替え?」
疑問を抱えたまま朝食を終えたリアナを、モニカは自室へと連れて行った。そこにあったものを見たリアナは、瞳をキラキラ輝かせる。さすがはヒロイン。期待を裏切らない反応でモニカも嬉しくなる。
「わあ……、可愛い! これどうしたのモニカちゃん?」
「ふふ。リアナちゃんがデートに誘ってくださったのが嬉しかったので、そのお礼です」
モニカの部屋にあったのは、ハイキングにぴったりなカジュアルで可愛いデザインの、お揃いのドレス。
二人きりのデートとはならなかったが、リアナが喜んでくれたらと思い用意したものだ。
「嬉しい! モニカちゃん大好きっ!」
「私も大好きです、リアナちゃん」
ぎゅっと抱きしめられて、モニカはつい顔が赤くなる。百合ルートも案外ありかもしれない。ブラウリオが怖そうだけれど。
二人が着替えを整えた後に、ちょうどよく攻略対象たちが迎えにきた。今日は六人が一緒の馬車に乗れるようにと、ブラウリオが大きな馬車を用意してくれた。
馬車から降りて女性たちを待っていた攻略対象たちは、リアナの登場に分かりやすく表情を変えた。
愛おしさが溢れている様子のブラウリオ。
言葉も忘れて見惚れている様子のロベルト。
素直に笑顔を向けてくるルカ。
モニカは確かな手ごたえに、よしっと小さく握りこぶしを作った。
今日、モニカがお揃いのドレスを用意したのには、もう一つ理由がある。それはリアナをより魅力的に見せるためだ。
そしてリアナがいかに美しいかを知らしめるためには、比較対象が必要。つまりモニカは、自ら引き立て役になるため、わざわざリアナとお揃いのドレスを着たのだ。
(モブ出身の私にかかれば、リアナちゃんが引き立つこと間違いなしよっ)
「二人とも、とても可愛いよ」
「お二方ともよくお似合いです」
ブラウリオとロベルトには好評のようだ。二人を褒めつつもリアナに目がい向いている。
(ふふ。この作戦は大成功ね。あとはルカ様も、リアナちゃんに見惚れてくれたら――)
そう思いながらルカに目を向けた瞬間。彼はいつものように、モニカへ肩を組んでくる。
「モニカ、いつものドレスより可愛いな!」
「あっ……ありがとうございます」
「いつもこんなやつを、着ればいいんじゃねーの?」
ルカはこのドレスが気に入ったのか、じっくり観察している。
(そういえば、私のいつものドレスより可愛いわよね……)
モニカの衣装室にあるドレスといえば、モブらしく飾り気がなく地味で、背景と同化しそうなモブ色のドレスばかり。最近は両親がこぞって、可愛いデザインドレスを仕立ててくれるが、ルカにはまだそれを見せていなかった。
(うっ。いつもと違いすぎて、ルカ様の興味がこちらへ向いてしまったのね……)
これは軌道修正を計らねば。
モニカはリアナを褒めようとしたが、しかし本人にそれを越されてしまう。
「そうでしょう! モニカちゃんとっても可愛いの! この首周りのデザイン見てよ。モニカちゃんの癒し顔を引き立たせるような、愛らしいデザインだと思わない?」
「おう。俺もそこが一番可愛いと思った。あと、袖のフリルも可愛いよな」
「そうなの! モニカちゃんの白くて華奢な腕を優しく包み込んでいて、まるで真綿に包れた赤ちゃんみたいに可愛いの!」
(二人とも……、なんで私でそんなに盛り上がっているの……?)
「リアナ、お前……。俺が感じていることを言語化する天才か?」
「ルカこそ、目の付け所が、共感しか呼ばないわっ」
「俺たち、もっと語り合う時間が必要みたいだな」
「そうね。後日、二人きりで語らう時間を設けましょう」
リアナは目的を果たしたかのように、モニカに向けてウインクする。
(えっ……。もしかして、ルカ様と仲良くなるミッションをクリアしたと言いたいのかしら?)
モニカが望んでいたのは、お互いのことをよく知りあって仲良くなること。決して、モニカを称賛する会を開いてほしかったわけではない。
(けれど……、好みが同じって、仲良くなるきっかけにはなるわよね……)
そのまま意気投合して、守護者への道が開けてくれたら良いけれど。
次話は金曜日の更新となります





