36 ご褒美の計画2
カリストに勧められて、モニカは研究室へと入った。しばらくは勉強が忙しかったので、ここへ来るのは久しぶりだ。
カリストは手早く、お茶を用意してくれた。
「わあ、ありがとうございます。先生が淹れてくださるお茶がじつは、楽しみなんです」
「そうか? 配合は適当だけどな」
カリストはいつも、魔法薬に使う薬草を使ってハーブティーを淹れてくれる。本人は適当らしいが、これがまた絶妙に美味しいのだ。
にこにこしながらモニカがお茶を味わっていると、カリストが「そういえば」とカップから口を離した。
「掲示板、見たよ。学年一位とは驚いた。おめでとう」
「ふふ。ありがとうございます」
「あいつの成績も良かったじゃないか。作戦はうまくいったのか?」
「はい。ブラウリオ殿下が勉強会を提案してくださいまして、ルカ様も楽しく勉強してくれました」
「そうか。目的が果たせて良かったな」
カリストはわずかに微笑みながら、再びお茶に口をつけた。しばらくは勉強が忙しくて授業以外で会えなかったが、気にかけてくれていたようだ。
「それでじつは、先生にお願いがありまして」
「今度はなんだ?」
そう言ってカップをテーブルに置いたカリストは、苦笑気味にモニカを見つめる。
(なんだか私、先生に頼ってばかりの子だと思われている気がするわ……)
実際、困ってカリストを頼ったことも何度かあるが、今回はそんなカリストのためになる提案だ。将来的に、彼の目が見えるようになるための大切な提案。
「一位になったご褒美で、ラバ山ハイキングへ行こうと思いまして。よろしければ先生もご一緒に、行きませんか?」
(リアナちゃんがいることは、伏せたほうが良いわよね)
前回、聖女の話をした時に微妙な感じになってしまったので、警戒されないためにも「たまたまメンバーにいました」くらいの距離感のほうが良さそうだ。
そう思いながらの提案に対して、カリストは申し訳なさそうな顔をする。
「……悪いな。学生と個人的な交流は、しないことにしているんだ」
「そんなぁ……。私と先生はすでに、結構な交流をしていると思いますよ?」
「学園の外での交流は違うだろう?」
(うぅ……。ゲームの先生は攻略が簡単なのに……)
初心者向けキャラであるカリストは、ヒロインには非常に甘くてひたすら好きなようにさせてくれるが。この塩対応は、モニカがヒロインではないからだろうか。かといって、この世界のカリストは聖女に興味を持っていない様子。
ここは刺繍の時のように、交換条件でもなければカリストは動いてくれそうにない。
「絶対に、先生と一緒に行きたいんですっ! バケットサンドも作りますから。景色の良い場所でバケットサンドを食べたら、きっと気分が良いと思いませんか?」
ねっ? と愛嬌を振りまいて見せたが、カリストの表情が明るくなることは無く。
(他に先生が好きなものって何かしら? プロフィールをちゃんと読んでおけば良かったわ……)
推しにしか興味がなかったのが悔まれる。
あまり強引に誘っても、リアナへのイメージを悪くさせてしまうかもしれない。そろそろ引き際かと思ったところで、カリストが大きくため息をついた。
「毎回、バケットサンドで俺を釣れると思うなよ。……今回が最後だからな」
「えっ……。それでは……」
「俺からの、一位になったお祝いだ」
「わあ! ありがとうございます先生!」
そうして、大急ぎで準備を整えた週末。
今日はハイキング当日。早朝にモニカの家へ、リアナが訪問した。
「モニカちゃんおはよう! 神殿まで馬車を送ってくれてありがとう!」
「おはようございます、リアナちゃん。朝早くにお呼び立てして申し訳ございません」
「ううん。私も楽しみにしていたの!」
神殿では早朝からお勤めがあるリアナは、眠気などない様子で元気いっぱいのようだ。モニカは早速、リアナを厨房へと案内した。
「こちらがバケットサンドの材料ですわ」
「わあ、美味しそう!」
作業台の上に用意してある材料を見せると、リアナは目を丸くして歓声をあげる。
(ふふ。これくらいで喜んでくれるなんて。今日は料理長が腕によりをかけた朝食もご馳走しちゃうわ)
モニカはそう企みながら、リアナにバケットサンドの作り方を教え始めた。
こうして二人でバケットサンドを作ることになったのには、理由がある。
当初モニカは、カリストとルカの二人分を用意するつもりだったが、このバケットサンドは一応はイメージアップアイテム。モニカが作ったものは効果は得られないが、もしかしたらリアナが作れば効果があるかもしれないと思ったのだ。
その実験も兼ねてリアナに、一緒にお弁当を作らないかと誘ったところ、喜んで受けてくれた。
「みんな、喜んでくれると良いね」
ソースをかき混ぜながらリアナは、期待と不安が入り混じったような表情を見せる。
「殿下にお料理を差し入れたことはございませんの?」
「うん……。私が作れるのは平民の料理だけだから。ソースだって、こんなに手の込んだものは初めてだもん」
「殿下ならきっと、リアナちゃんが作ったものならなんでも喜んでくれると思いますわ」
あの執着ぶりなら、例え黒焦げのクッキーを渡しても喜びそうだ。モニカはそう思っていると、リアナも自覚があるのか照れたように微笑む。
「じつは私もそんな気がするんだけど、それでも勇気がなくて……。今日はモニカちゃんに誘ってもらえて、すごくうれしい」
まさに恋する乙女な表情が、とても可愛い。モニカも思わず、リアナに恋してしまいそうなほど可愛い。
「皆様によろこんでいただけるように、心を込めて作りましょう」
「うんっ!」





