35 ご褒美の計画1
モニカたちが五人で遊びに行く計画を立てている姿は、多くの学生の目に留まった。
その中には、ルカの婚約者候補である公爵令嬢ミランダ・セーロスの姿も。
――その日の夜。イサークの執務室を、なんの前触れもなく訪れる者がいた。
「……セーロス令嬢。こちらへは来ないでいただきたいと、申し上げたはずです」
イサークの執務室へ無遠慮に入室してきた彼女を、イサークはため息交じりに迎えた。
ルカの婚約者候補が、他の未婚男性の部屋へ出入りしていることが知られたら、あらぬ噂を立てられるかもしれないというのに。
「うるさいわね! ルカ様と私の婚約はいつになったら決まるのよ!」
フエゴ公爵が考えているルカの婚約者候補の中では、ミランダが最も有力だと噂されている。
それというのもイサークが熱心に、ミランダを推していたからだ。
フエゴ公爵家とセーロス公爵家は同じ派閥に属している。その両家門が婚姻によって絆を深めれば、派閥はより強固なものとなる。それが表向きの理由だった。
イサークの思惑としては、ルカの全てを奪うつもりなので、自分の伴侶に相応しい地位の者を選んだまでだった。
「その件ですか」
「あんたが呑気にしている間に、ルカ様の周りに女が二人も付きまとっているわ!」
けれど、この人選は失敗だったと、イサークは若干の後悔を抱いていた。
ミランダを手懐けるため、ルカとの仲を取り持つと称して、彼女が十歳の頃から接触を計ってきた。けれど未だに、その目的は果たせていない。
いくら優しく接し、ルカの欠点を囁いたところで、彼女のルカへの好意に変化はないし、イサークを慕う気配もない。
こんなところでルカに負けるのが悔しくて、最近は婚約を進める手助けもおろそかになっていた。
「ルカは女性に興味がありませんから、ご心配には及びませんよ」
「なにが心配ないのよ、その一人は聖女なのよ! ルカ様が守護者になったらどうしてくれるの!」
「聖女……様?」
先日、王宮でルカたちに会った時のことを、イサークは思い出した。確か
ブラウリオの後ろに女性が二人いた気がする。その一人が、聖女だったような……。
あの時のイサークは、いつもは誰も気にしない印象操作を、ブラウリオに咎められて気が立っていた。そのため、あのメンバーが何を意味しているのかまで、深く考える余裕がなかったが……。
名誉ある聖女の守護者になることは、王太子にとっては義務みたいなもの。宰相の家門もまた代々、守護者を輩出してきた名家。
そのような者たちと一緒にいたルカが、聖女に気に入られているのは一目瞭然だったはずなのに……。
イサークは最近、心が焦るばかりで周りを冷静に見られなくなっている。重大な事実を見過ごしていたことに、いら立ちを覚えた。
「……こちらも、手を打つ必要がありますね」
その日の夜。モニカはわくわくしながら、雑誌のページをめくっていた。これは今日の放課後に、リアナとルカの三人で書店に行って選んできた雑誌だ。王都から日帰りで行けるレジャースポットが紹介されている。
一位のご褒美は結局、五人で遊びに行くことになったので、モニカが行き先を決めるということで話がついた。
(せっかくだから、ルカ様とリアナちゃんの関係が深まる場所が良いわよね)
ゲームでは、聖女のお勤めで得たお金を消費することで、攻略対象を小旅行に誘うことができる。結構な金額を要求されるので何人も誘うのは厳しいが、そのかわり信頼度を大幅に稼ぐことができた。
(こんな時こそ、貴族令嬢に転生できて良かったわ。お金の心配をしなくて良いから、リアナちゃんにとっておきの場所へ連れて行ってあげられるもの)
ページをめくったモニカは、「あったわ!」と笑みを浮かべる。そのページで紹介されていたのは、ルカの信頼を最も稼げる小旅行スポット『ラバ山ハイキング』だ。
小旅行では、攻略対象の属性に合った場所を選ぶことで、信頼度を大幅に上げられる。ルカは火属性なので、火山へのハイキングや花火大会など、火に関わる場所がお勧めだ。
(このラバ山には湖もあるから、水属性なブラウリオ殿下の信頼度も上げられて、一石二鳥なのよね)
ルカが守護者になることも大切だが、リアナの恋も応援したい。ラバ山はその両方が叶う、素晴らしい目的地だ。
「そうだわっ、先生も誘ったらどうかしら」
モニカは名案を閃いて、ぽんっと両手を合わせた。
リアナは今のところ、風属性の攻略は進めていないようなので、カリストが入り込む余地はあるように思える。
遊びをとおして二人を引き合わせたら、良い結果が得られるかもしれない。
カリストは聖女の守護者になるつもりはないようだが、彼はまだ知らないのだ。聖女の浄化魔法によって目が見えるようになることを。
(……でも、どうして治癒魔法ではなく、浄化魔法で治るのかしら?)
攻略対象については、守護者になるだけでは半分くらいしかストーリーを知ることができない。あとの半分は、恋愛対象として攻略したプレイヤーだけが知れる特権となっている。
もしかしたらその辺りの事情が、恋愛対象としてのストーリーで語られているのかもしれない。もちろんモニカは、恋愛対象としての攻略はルカしかしたことがないので、カリストについては詳しく知るよしもない。
モニカは翌日の放課後に早速、カリストの元を訪れた。
研究室の扉をノックした直後に扉が開く。カリストはいつも反応が早い。ノックをする前に、精霊を通して気が付いているようだ。
「先生、ごきげんよう。お忙しいですか?」
「いいや。入るか?」
「はいっ。お邪魔します」
カリストに勧められて、モニカは研究室へと入った。しばらくは勉強が忙しかったので、ここへ来るのは久しぶりだ。
カリストは手早く、お茶を用意してくれた。





