表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【三章】モブ令嬢の、幸せ推し活な学園生活 ~モブでしたが、女神として認められるよう皆と一緒にがんばります!~  作者: 廻り
第一章 『女神の再来』だと精霊に告げられましたが、それより推しに認知されたい
31/136

31 フエゴ公爵家の後継者1


「公爵の代理? 騎士団長の代理ではなくてですか?」


 その言葉にイサークは爽やかな顔をこわばらせた。


「あっ……はい。騎士団長の代理で報告に……参りました」

「やはり。騎士団の制服を着用されているので、そうだと思いました」


 ブラウリオはにこりと微笑んだ。

 同じルカの父親から受けた用事でも、公爵の代理と、騎士団長の代理では意味合いが大きく変わる。それについて即座に見抜いたブラウリオに、モニカは羨望の眼差しを向けた。


(殿下がルカ様を守ってくださるなんて! もうそこまでの友情が芽生えているのかしら)


 事実を見抜かれたイサークは、悔しそうな顔を隠すかのように、即座にブラウリオへ頭を下げた。


「誤解を招く発言をしてしまい、申し訳ございませんでした」

「誰でも、言い間違うことはあります。けれどここは王宮ですので、誤解を招くような言い回しには気をつけてください」

「はい……。ご指摘に感謝申し上げます」


 ブラウリオに許されて頭を上げたイサークは、それからまるで八つ当たりでもするかのように、ルカを睨みつけた。


「ルカ。最近は騎士団の訓練すら、サボるようになったじゃないか。遊びもほどほどにな」


 その態度が不自然に思えて、モニカは首をかしげる。

 彼は人当たりの良い性格を最大限に生かして、今までルカよりも優位に立ってきた。

 ゲームでの騎士団長襲撃事件も、彼にとっては追い詰められておこなった行為ではなく、ルカに決定打を与えるためのもの。


 イサークはずっと、ルカを手のひら上で転がすように楽しみながら、爵位を奪う準備をしてきたのだ。

 彼の化けの皮が剥がれたのは、襲撃事件の真犯人として捕らえられた時。それまで彼はずっと、人当たりの良さを維持してきたのに。


(人前でこんな態度を取るなんて、どうしたのかしら……)


「うっせーな。定期試験の勉強で忙しいんだよ……」


 ルカのその言葉に、イサークはさらに苛立たし気な顔になる。

 そこでモニカは気がついた。イサークは焦っているのだと。


 イサークがルカに対して、最も優位に立てることといえば知力。公爵家の後継者として最重要な部分だ。

 そこをルカに補われてしまうと、剣術では勝てないイサークは形勢が一気に不利になってしまう。

 だからあれほど、わかりやすい態度に出ているようだ。


「勉強会を開いているんです。後継者同士、将来的にも協力し合う仲なので」


 ロベルトは淡々と、そう説明する。

 彼にその気はないのだろうが、追い打ちをかけるような発言により、イサークは恥を掻いたように顔を赤くする。


(ロベルト様の発言って、的確すぎるのよね……)


 彼は合理的な性格なので、的確な発言が多い。その代わり、周りへの配慮に欠けるというか、空気が読めていないというか。

 これでは「イサークは後継者ではない」と言っているようなものだ。


 けれどイサークも、ここで癇癪(かんしゃく)を起こすほど馬鹿ではない。取り繕うように笑みを浮かべる。


「そうでしたか……。素敵な友情ですね。それでは失礼いたします」




 イサークが去った後。モニカはほっとしながらブラウリオとロベルトを交互に見つめた。


「お二人とも、ルカ様を守ってくださりありがとうございます!」


 モニカがお礼を言うのも変な話だが、大切な推しを守ってくれた英雄たちには称賛せずにいられない。


「別にルカのためではないよ。あのような者をのさばらせておくと、貴族の秩序が乱れるからね」

「僕は勉強会の説明をしただけです」


 二人らしい返答に、モニカは思わず笑みをこぼす。そうは言っても、ルカに興味がなければ口は挟まなかったはずだ。


「えっ? 今って、何が起きたの?」


 貴族社会の事情に疎いリアナは、今の状況を理解できていなかったようだ。ロベルトが説明する。


「つまりリアマ男爵はルカ卿を差し置いて、自らがフエゴ公爵に認められた後継者だと、印象操作しようとしていました。それを殿下が見破ったのです」

「なんてひどい人なの! ブラウリオ、ルカを守ってくれてありがとう!」

「これくらい、大したことではないよ」


 モニカの感謝は否定したブラウリオだが、リアナの感謝は素直に受け取るようだ。この落差も、ヒロインへの愛ゆえか。モニカはニヤニヤしながら二人を見つめる。


 それからリアナは、ルカへと視線を向けた。


「ルカも、あんな人の言うことを気にしちゃだめよ」


 ヒロインはしっかりと、ルカへの配慮も忘れていないようだ。


(ここは信頼度が上がる場面かもしれないわっ)


 弱っている時にヒロインから元気づけられたら、きっとルカは心を動かされるはず。


 けれどルカは、沈んだ様子で一人、歩き始めていた。





 帰りはルカが送ってくれることになっていたので、モニカは彼と一緒に馬車へと乗り込んだ。

 ルカは落ち込んだままのようで、車内はシンっと静まりかえっている。


(ルカ様、さっきのことがよほどショックだったのかしら……)


 先ほどはイサークの印象操作だったとはいえ、フエゴ公爵家では常にイサークのほうが後継者として期待されている。

 イサークの用事が騎士団長からのものだったとしても、ルカの父親がイサークを信頼していることに変わりはないからだ。


(ルカ様を慰めて差し上げたいけれど……)


 この問題は、今のルカにとっては人生で最大の悩みであり、簡単には解決できないもの。

 下手な気休めの言葉をかけたところで、ルカの心が楽になるとは思えない。


 このような時、乙女ゲームなら気の利いた選択肢を選べるけれど、モニカは脇役。都合よく良い言葉をひらめいたりはできないようだ。

 せめてゲームにこのシーンがあれば良かったのに。

 モニカが悩んでいると、ルカが思いつめた様子でモニカの顔を覗き込んできた。 


「……モニカ。甘えられんの好き?」


(……へ?)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◆人物紹介◆

モニカ・レナセール
伯爵令嬢。乙女ゲームのモブ

カリスト・ビエント
教師・男爵家の養子。乙女ゲームの攻略対象(初心者用)

ルカ・フエゴ
公爵令息・騎士。乙女ゲームの攻略対象

リアナ
聖女・平民。乙女ゲームのヒロイン

ブラウリオ・ アグア・プロテヘル
王太子。乙女ゲームの攻略対象

ロベルト・スエロ
侯爵令息・宰相の息子。乙女ゲームの攻略対象

ミランダ・セーロス
公爵令嬢。乙女ゲームのルカの婚約者

ビアンカ・ソルダー
辺境伯令嬢。乙女ゲームのロベルトの婚約者

イサーク・リアマ
男爵・ルカの従兄。乙女ゲームの悪役

ルー
火属性の精霊

gf76jcqof7u814ab9i3wsa06n_8ux_tv_166_st7a.jpg

◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ