29 勉強会1
そうして放課後に、五人で勉強会をする日々が始まった。場所は休憩室を使うこともあれば、誰かの邸宅へお邪魔したり、図書館へ行ったりと。ブラウリオは、皆が飽きないようにいろいろと配慮してくれていた。
けれど、勉強会を開いてみて気がついたことだが、学力に問題があるのはルカだけではなかったのだ。
モニカ、ブラウリオ、ロベルトの三人は、貴族としてそれなりのレベルの学力を持っていたが、リアナは違う。彼女は平民だったので、そもそも貴族が学ぶような勉強をする機会がなかった様子。
ゲームでは、攻略対象に勉強を教えてもらうイチャイチャシーンがあったけれど、ヒロインの学力については描写されていなかった。
モニカの計画では、リアナと一緒にルカの勉強を見ながら、さりげなく二人を仲良くさせるつもりだったが、それはお預け状態となっている。
今は、リアナの勉強をブラウリオが付きっ切りで教え、ルカはわからない問題があるとロベルトにばかり質問していた。
「あーわかんねー! ロベルト教えてくれ」
「またですか? この前までの優秀さは、どこへ消えてしまったのですか」
「知らねーよ。いいから教えてくれよ。なー」
ルカに肩を組まれて、ロベルトは迷惑そうだ。
(ふふ。ルカ様もだいぶこのメンバーに、気を許すようになってきたみたい)
最近ではルカの塩対応も、少し緩和されてきたようだ。それだけ、このメンバーに居心地の良さを感じているのかもしれない。
推しが居場所を作れたようで、モニカはとても嬉しい。勉強に関してはまったくモニカを頼ってくれないルカだが、こうして成長を見られるだけでもメンバーに入れてもらえて幸せだ。
(こうしていると、私はモブに戻ったみたいに感じるわ)
勉強会を開いている間は、モニカは誰にも必要とされていない。ただ黙々と勉強して、夕方になったら帰るだけ。
もしかしたら、モニカが役を与えられた理由は、ルカをこのメンバーの中に溶け込ませるためだったのかもしれない。
それが完了したので、徐々に存在感が薄れている。
そうして完全にルカから必要とされなくなったら、またモブに戻るのかもしれない。
(それが本来の、あるべき姿よね……)
寂しくもあるが、脇役は目的を果たしたら速やかに去るものだ。
(冷静に考えると、今での私は少し浮かれていたみたい。推しに可愛がられて、ヒロインに友達扱いされて。そんな状況、モブの私に起こるはずがないのに……)
勉強会終了後。それぞれ帰宅しようとしていたところへ、ブラウリオがルカを呼び止めた。
「ルカ、少しいい?」
「なんだよ?」
「ルカって、モニカ嬢を気に入っているんだよね?」
「それがどーしたんだ」
「それならもっと、彼女を気にしてあげなよ。勉強会の間、ずっと彼女は寂しそうに君を見つめているよ」
ここ数日、ブラウリオはそれがずっと気になっていた。
ブラウリオがリアナの勉強を見ることで、モニカからリアナを引き離すことには成功している。
カリストとの約束は果たしているし、リアナを独占することさえできれば、他の者がどうしようと構わないと思っていた。
けれど、モニカを視界に入れるたびに彼女のことが、なぜか気になる。
リアナに向けるような感情があるわけではないが、ただ単に気になって仕方ない。
そしてどういうわけか、手を差し伸べずにはいられなくなる。
モニカは不思議な魅力がある娘だ。もしかしたらカリストも、このような気持ちなのかもしれない。
敬愛する教師と同じ気持ちを共有できているようで、ブラウリオとしては悪い気はしない。
だからこんなお節介を焼くのも、カリストに近づくためだと納得していた。
「んなこと言っても、モニカに教えてもらうのは恥だろ」
ルカは、意中の子に教えを乞うのは、男としてのプライドが許さないようだ。
自己中心的な振る舞いが多い彼には、相手の気持ちに立って考えるという発想が乏しいのだろう。
そして、相手の気持ちを汲み取りつつ、自分に振り向かせる方法も。
「もっと状況を有効活用しなよ。女の子はね、甘えられるのも意外と好きなんだよ」
「ほぅ……」
翌日の放課後。王宮での勉強会。
モニカはあり得ない光景に、完全に硬直していた。
別に、王宮が豪華すぎて驚いているわけではない。王宮へは何度も来たことがあるので、すでに慣れている。
あり得ない光景というのは、ルカの話だ。
今日の彼は珍しく、ロベルトではなくモニカの隣に座っている。
そして教科書をモニカの横へ差し出すと、ちょっと照れた感じでモニカの顔を覗き込んできたのだ。
「モニカ、ここ教えて?」
急に、推しがデレている。
昨日まではモニカがモブに戻りそうな勢いで、ロベルトにばかり絡んでいたのに。
ロベルトは嫌そうにしつつも、いつも丁寧にルカへ勉強を教えていた。二人の関係に問題が生じたわけではないはずなのに、なぜ……。
(ルカ様……、『男のプライド』どうしたんですか!)





