28 ブラウリオの提案2
「やっと席も決まったようだし、本題に入ろうか」
ルカ、モニカ、リアナが座っている向かいで、三人掛けのソファーに一人で腰かけているブラウリオは、もの言いたげな視線をモニカに向けながらそう切り出した。
(ああ……。せっかく、殿下の警戒心を解いたのに……)
これでは振り出しに戻ったも同然。今度はどのような邪魔をされるのだろうか。モニカは身構えながら、ブラウリオの言葉を待つ。
「ここに集まってもらったメンバーは、女神と精霊の授業でのグループメンバーだ。三年間の学園生活で、野外授業以外でも何かと協力し合う関係になると思う」
この『女神と精霊の授業のグループ』は行事などさまざまな場面で、クラス内のグループ分けが必要な際に流用されている。
「そこで、皆と少しでも仲良くなれたらと思って、これを渡しておくよ」
ブラウリオは一人一人に、金の鍵を手渡した。モニカは手渡された鍵を見て目を丸くして驚く。
(これって……!)
「これは、この休憩室の鍵だ。ここにいるメンバーはいつでも好きな時に、利用してかまわないよ」
ブラウリオの説明に、いち早く反応したのはルカだ。
「ここで寝てもいいのか?」
「使い方は自由にして。ただ、ほかのメンバーの迷惑になるような行為は遠慮してね」
「っしゃぁ! 静かに寝てればいいんだな!」
「サボリはほどほどにね」
ブラウリオが苦笑いで対応する。
モニカの隣ではリアナも嬉しそうに、鍵を握りしめた。
「ブラウリオありがとう! ほんと言うと、お嬢様やお坊ちゃまに囲まれていると、気が抜けなくて。息抜きできる場所があればなぁって、思っていたの」
「リアナにはもっと早く渡したかったんだけど、二人きりも緊張させてしまうかと思ってね」
「そんなことないよっ。ブラウリオと一緒にいると安心できるもん……。そっ、それよりモニカちゃん、良かったらここで――」
テーブル越しのいちゃいちゃが恥ずかしかったのか、リアナはモニカに話を振った。けれど、モニカには全く聞こえていなかった。
(こんなに早く、鍵を渡すなんて……)
この鍵は、ブラウリオが守護者となり、ヒロインとの関係に一定の安心感を得てから渡されるものだ。
しかも鍵がもらえるのは、ヒロインとその守護者だけ。この中でリアナの守護者になった者はまだいないし、モニカに至っては属性すらない脇役。
昨日はブラウリオに、リアナとの友達関係を認められたとはいえ、この段階で鍵が出てくるは不思議だ。
「……モニカちゃん、どうしたの?」
リアナに顔を覗き込まれて、モニカはハッと我に返った。
「あっ、ううん。大丈夫です。――あの……ブラウリオ殿下、私にまでありがとうございます」
「モニカ嬢もグループメンバーなんだから、当たり前だよ」
ブラウリオはモニカに対して、優しい笑みを浮かべる。先ほどまで不満そうだった割に、予想外の反応。
(振り出しに戻ったわけではないのかしら……?)
けれどそれも一瞬のこと。ブラウリオはすぐに表情を戻して、皆を見回した。
「それと、皆にもう一つ提案があるんだ。俺たちの喫緊の課題は、もうすぐおこなわれる定期試験だろう? リアナは聖女だし、他の皆もそれぞれ、家の後継者だ。それなりに良い成績を納める必要があると思うんだ」
彼は、モニカが一人娘であることもすでに知っているようだ。ブラウリオに認識されてまだ四日目だというのに、王子の情報力は恐ろしい。
「そこで勉強会を開いて、皆で乗り切ったらどうかなと思うんだけど、どうかな?」
(わぁ……。私が今日、皆様にお願いしようと思っていたことだわ)
まさか先に、ブラウリオから提案されるとは。
リアナを独占したい彼としては、勉強会なんて発想は出てこない気がするが。鍵といい、勉強会といい、どういった心境の変化なのだろうか。
とにかくこれなら、ルカも参加しやすいはず。
「僕は構いませんよ」
「賛成! モニカちゃん一緒にがんばろうね!」
「はいっ。私もぜひ参加させてください」
ロベルトとリアナも乗り気のよう。モニカは期待を込めてルカに視線を向ける。
けれどルカは、嫌いな食べ物を口いっぱいに詰め込まれたかのように、顔を歪ませている。
「めんどくせー」
「ルカらしいな。けれど、ただつき合わせるわけではないよ。ご褒美も用意するつもりだ」
「褒美?」
「定期試験で一番成績が良かった者が、この中の誰かを、一日独占する権利を得る。なんて、どう?」
ブラウリオの提案に、皆が興味を示したように空気が変わる。ルカは真顔になり、ロベルトは読んでいた教科書から顔を上げた。
「それって、同性同士でも良いの?」
そしてリアナの質問に、ブラウリオは貼りつけたような笑みを浮かべる。
「もちろん」
「わあ! 私がもし一位になれたら、モニカちゃんデートしてね!」
再びブラウリオが、もの言いたげな視線をモニカに向けてくる。しかも、先ほどよりもその視線が痛い。モニカは反射的に、視線をそらした。
この手の展開では、ヒロインを巡って攻略対象たちが争うのがお約束。そして好感度が一番高い者が、ヒロインとのデートをゲットするのがセオリー。
彼もきっと、その予定だったのだろう。ルカとロベルトよりも、リアナに愛されていると知らしめるための、策略だったに違いない。
「嬉しいです……けれど、私でよろしいのですか?」
「ブラウリオとロベルトとはデートしたことあるから、モニカちゃんがいいの!」
(リアナちゃ~ん。私、攻略対象ではないですよ……?)
ここは本命のブラウリオか、攻略が足りていないルカを選ぶところ。それなのにリアナは、乙女ゲームそっちのけで友情を深めたいようだ。
モニカとしては、初めてできた同性の友達にそこまで想ってもらえるのは嬉しくもある。けれどルカを守護者にするためには、イベントを無駄にはしたくない。
このままで大丈夫なのかと、不安がよぎる。
「リアナには悪いけど、今回は俺も本気で行かせてもらうよ」
ブラウリオは、ごもっともな宣言をする。ヒロインが自分を指名してくれないと知ってしまったのだから、自分から一位を取りに行くしかない。
「僕は褒美がなくとも、初めから全力で挑むつもりでした」
真面目なロベルトは言葉どおりのようだが、心なしか嬉しそうな雰囲気を漂わせている。
「おもしろそーじゃん。俺もやる」
そしてルカは、どの辺りに面白みを感じたのかわからないが、モニカの願いどおり、勉強会にきてくれるようだ。
勉強会で、ヒロインとルカの関係が進展するかは怪しいけれど、本来の目的である『公爵家でのルカのイメージアップ』には繋がりそうだ。





