24 ルカの勉強1
その後。リアナたち三人を連れて、火属性のオーブがあった場所へと戻ったモニカとルカ。
再びルカが精霊を召喚すると、先ほどとは明らかに違う容姿をした精霊が召喚された。やはりあの精霊は、モニカを勧誘していた精霊だったようだ。
なににせよ逃げたということは、もうモニカを困らせるつもりはないのかもしれない。モニカは心置きなく、ミッションのクリア場面を見学することにした。
「ほらよ。リアナにも見せてやるよ」
今回のルカは、ミッションどおりにリアナへと精霊を渡した。彼女は大はしゃぎで精霊とたわむれ始めた。
「きゃぁ! 火属性の精霊さんも可愛い!」
「精霊よりもリアナのほうが可愛いと思うよ」
「精霊は引き立て役に過ぎませんね」
そんな彼女を褒めちぎるのは、ブラウリオとロベルト。攻略対象たちに囲まれている時のリアナは、やはりヒロインらしい華がある。
こんなに可愛い子を、誰が拒否できようものか。
「召喚おめでとうルカ。この子がいずれ、ルカと契約するかもしれないのよね。ルカが無事に契約できるように応援しているね!」
リアナに対して塩対応なルカも、この時ばかりは「おう」と、わずかに照れたような笑みを浮かべた。
(わあ……! ルカ様の信頼度が上がったのかしら?)
ミッションを通して、微妙に変化していく攻略対象の表情も、乙女ゲームの楽しみ要素だ。それを間近で見られる幸せ。
リアナがそれに気がついているかは不明だが、モニカとしては大満足の結果だ。
ハラハラさせられるミッションだったが、どうにかクリア判定となったようだ。
ルカの、守護者への一歩を踏み出した場面に、居合わせることができたモニカは、充実した気分でその後の授業を受けていた。
(ルカ様は、リアナちゃんに興味を持ち始めたと思うし、後はルカ様の定期試験の結果が良ければ、当分の心配はいらないわよね)
今朝は、ルカの意外な学力を見たばかり。やる気さえ出させれば、定期試験も難なく良い点数を得られそうだ。
そしてなぜか、彼は昨日からそのやる気が出ている様子。今も初めて、真剣に勉強する姿を目にしている。
この様子だと、モニカが手伝う必要はないのかもしれない。
「――では、この問題をフエゴ君、答えてください」
「はい」
先生に当てられたルカは、モニカに向けて自信があるような笑みを浮かべてから席を立った。
(わあ……。ルカ様、なんて頼もしいのかしら。こんな姿は、三年生にならなければ見られないはずなのに。すごいわ)
何がきっかけだったのか全くわからないが、推しが急激に良い方向へと進んでいる。とにかく喜ばしいことだ。
ルカは黒板の前に立つと、教科書を見ながら数学の問題をチョークで黒板に書き始める。
けれど、問題を書き終えたところで、ぴたりと手が止まった。
(どうしたのかしら?)
教科書とにらめっこしている時間が、あまりにも長い。モニカが心配している間にも、クラスメイトもざわつき始めた。
「ルカ様が答えに悩むなんてどうしたのかしら?」
「いつもは、すらすら解くのにな」
これは昨日の宿題にも出た方程式。解き方を理解していれば、迷う必要もない問題だ。宿題を完璧に解いたルカなら簡単なはず。
「……先生。この教科書、間違ってます」
「えっ……。どこかな……?」
優秀なルカに指摘された先生は、冷や汗を掻きながら教科書と睨めっこする。けれどいくら、探したところで間違いなど見つからない。
「フエゴ君……。申し訳ないが先生に教えてくれないか?」
「このページだけ、答えが書いてないんです」
「……は? 答えはいつも書いていないが?」
先生がぽかんとした顔でそう指摘すると、ルカは若干、イラついた様子に変わる。
「ちげーよ。前のページまでは、答えが書いてあんだよ」
(それってもしかして、私が教えていたメモでは……!)
今までルカの目には、そのように映っていたとは。モニカは一気に青ざめる。
どうにかしなければとモニカが立ち上がったと同時。
ルカが先生へ見せるために教科書をめくり、今までモニカが渡したメモが、ぱらぱらと床に落ちた。
――昼休みの時計塔。
「本当に申し訳ありません、ルカ様ぁ~!」
あの後、モニカは教壇へと飛び出した。
そして「ルカ様は教室へ入れない私のために、一緒に予習してくれていたんです。その時のメモなんです」と言い訳をして、なんとかその場をごまかすことはできた。
けれど、予習などしていないことを知っているルカは、先ほどからモニカに背を向けたままバケットサンドにかじりついている。
「悪気はなかったんです。少しでもルカ様のお手伝いができればと思って……」
「……怒ってねーよ」
必死に言い訳するモニカに対して、ルカはぼそっとそう答える。
「ではなぜ、背を向けているのですか……?」
「――しいだろ」
「え?」
「今までモニカに助けられていたことも知らねーで、数学が得意なふりして……、恥ずかしいだろっ」
そういえば今朝、宿題を見せてくれたルカは「数学は得意なほうだ」と話してモニカを驚かせていた。
「モニカにいいとこ見せたかったのに……、幻滅したか?」
振り返ったルカは、今にも泣きそうな顔をしている。
まるで、幼い頃の気弱だった彼のよう。手を差し伸べなければ、生垣の隅で泣いていたころのルカみたいだ。
(それは反則ですっ、ルカ様……!)
『庇護欲をそそる』とは、よくヒロインに使う言葉だが、これほど庇護欲をそそる攻略対象がいて良いのだろうか。
モニカは、抱きしめてよしよししたい欲求を必死でこらえつつ、ルカの手を握った。





