22 火属性のオーブ1
野外授業がおこなわれる森へと向かう途中。ブラウリオはじっと、彼の前を歩いているリアナとモニカを見つめていた。
ブラウリオと一緒にいる時よりも、心なしかリアナは楽しそうだ。今朝はリアナからラブレターをもらったばかりなのに、彼女の隣をあの女に取られてしまうかもしれない。
不安でいっぱいのブラウリオは、眠そうに歩いているルカを睨みつけた。
「君の幼馴染がリアナに付きまとっていて、迷惑なんだけど?」
「はあ? どう見ても逆じゃねーか。リアナがしつこくて、モニカが迷惑してんだろ」
「俺のリアナを侮辱するのは――」
そう怒りかけたブラウリオは、ふと『モニカ』という名に聞き覚えがあることを思い出す。
確か昨日、洗面所でルカが熱心に見つめていたハンカチ。その送り主の名前が確かモニカだった気がする。
やっとハンカチの送り主と、ルカの幼馴染が同一人物であることに気がついたブラウリオは、小さく笑みを浮かべる。
「ルカは、あの子がお気に入りなんだろ? 俺たち、協力できると思わないか?」
「あ?」
モニカは、これからおこなわれる授業に期待をしていた。今日の女神と精霊の授業は、前回、前々回に引き続き、森の中で属性のオーブを探すというもの。
この授業は、ゲームのミッションでもあり、攻略対象と一緒に属性にあったオーブを探すことで信頼度を得られる。
リアナたちは、前回は土属性、前々回は水属性のオーブを見つけ出していた。今日は火属性か風属性のはず。
ぜひともリアナには火属性を探してもらい、ルカの信頼度を上げてもらわなければ。
「それでは、授業を始める。今回もこれまで同様に、属性のオーブを探すこと。グループ内に目当ての属性を持った者がいない場合は、ほかのグループと融通しあってくれ。風属性なら、先生が手伝うぞ」
カリストがそう説明を終えるとリアナは早速、これまでの活動内容をモニカに話して聞かせた。
「――それで残りは、火属性と風属性なんだけど。モニカちゃんは初参加だからもう一度、水属性と土属性のオーブを見に行くのもアリよね。どうしよっか?」
「火属性が良いと思いますわっ」
間髪入れずにモニカはそう答える。ついでにリアナに目配せすることも忘れない。
リアナは、モニカの意を得たように少し照れながらうなずいた。
(これでさりげなく、リアナちゃんとルカ様が仲良くなれるようにお手伝いできるわね)
「それじゃ、火属性のオーブを探しに――」
リアナがそう言いかけたが、ルカが「待て」と遮る。そしてなぜかモニカの手を引いて歩き出すではないか。
「ル……ルカ様?」
「モニカは初めてなんだから、先にこっちだろ」
そう言われて連れていかれたのは、属性を調べるオーブの前。
(そうよね……。皆は知らないからそうなるわよね……。でも……)
モニカはすでに、属性の有無は調べ終わっている。
そうとは知らないルカは、オーブの前に立っていたカリストに向けて声をかけた。
「先生ー、モニカが初めての授業なんで、属性を調べさせてください」
そう言われたカリストは、意味がわからない様子できょとんっとモニカを見つめた。
(そうよね……。先生は、私が初めてではないと知っているもの。先生と一緒に属性も調べたし)
この場をどう説明して乗り切ろうか。ルカとカリストの双方が納得できる説明をできるとは到底思えない。
カリストには少しだけモニカの体質を話してあるが、それでこの状況に気が付いてくれるだろうか。
藁にも縋る思いでカリストを見つめると、彼はわずかに微笑んだ。
「そうか。モニカ・レナセールだな」
「はっはい……」
「オーブに触れてくれ。属性があれば、属性にあった色に変化する」
カリストは初めの授業と同じように、丁寧にモニカに説明を始める。彼は、不自然にならないように協力してくれるようだ。
(先生ぇ~! この御恩はバケットサンドで必ず!)
心の中で感謝したモニカは、ルカに催促されるままにオーブへと触れてみた。
(そういえば精霊さんが、私は『無属性』だと言っていたわよね)
無属性なら属性に関係なく精霊と契約できると話していたが、そんなにすごい能力ならばオーブが反応しても良いのでは?
少し期待してオーブを見つめてみたが、やはり何の反応もなかった。
「モニカ・レナセールは属性無しだな」
カリストが律義に、すでにチェックしてある名簿へ再びチェックした。
(二度も試しても何も反応がないなんて。精霊さんにからかわれたのかしら?)
あれほど熱心に勧誘していた精霊たちだが、あの後はぱたりと姿を見せない。『無属性』という言葉も彼らの造語のようだし、やはり真面目に考えるだけ無駄だったのかもしれない。
「モニカは属性無しか……。あんま気を落とすなよ。いつか俺が精霊を宿したら、一番にモニカに見せるからよ」
「私も属性無しなの。私が守護者を得たら、一緒に精霊さんと仲良くしようね」
ルカとリアナは、モニカよりもがっかりしている様子。親身になってくれるこの二人と友達になれて、本当に良かった。
残念なことがあっても、友達がいれば心が温かくなれるなれるようだ。
「ルカ様、リアナちゃん。ありがとうございます。楽しみにしていますね」
「それじゃ、今度こそオーブ探しを始めましょう!」
リアナは仕切り直して、モニカと一緒に歩き出そうとしたが、それを遮ったのはブラウリオだった。
「少し時間がかかってしまったから、手分けして探したほうが早いんじゃないかな」
「そーだな。モニカ行くぞ」
それに賛同したルカが、モニカの手を引いてさっさと歩き出してしまう。
(あれ……。ルカ様とリアナちゃんを仲良くさせよう作戦は?)
これはリアナが、ルカと一緒に進めるべきミッション。手分けしたら、意味がないではないか。
動揺しながら振り返ると、ブラウリオと目が合う。彼は心なしか、勝ち誇った様子でリアナを抱き寄せた。





