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【三章】モブ令嬢の、幸せ推し活な学園生活 ~モブでしたが、女神として認められるよう皆と一緒にがんばります!~  作者: 廻り
第一章 『女神の再来』だと精霊に告げられましたが、それより推しに認知されたい
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02 与えられた役2


 『聖女と四人の守護者』という名のその乙女ゲームは、聖女リアナが主人公。歓迎パーティーにて、王太子からダンスを誘われていたあの子だ。


 リアナは聖女の力が発現したことで、平民でありながらも貴族学園への入学を許された。

 そこで十数人はいるであろう攻略対象たちと出会い、自分の守護者となってくれる者を、四人ほど攻略することになる。


 守護者とは、精霊をその身に宿すことで、聖女を守り、彼女の浄化能力を高める役割。

 守護者を攻略し信頼度を得て、彼らが一人前の守護者となる過程を楽しむ学園ストーリー。それが『聖女と四人の守護者』だ。


 その乙女ゲームの中で、モニカに与えられた役。

 それはヒロインでも、脇役でもなく、『モブ』だ。


 モブとは、ゲームの中に存在するその他大勢の、取るに足らない外野たち。

 時には物語の都合に合わせて発言したりもするが、基本的にモブは物語に介入しない。

 物語の背景としてそこに存在するだけ。それがモブの役割。


 なぜモニカが、モブであると理解したかというと、背景としてばっちりと映りこんでいたからだ。


 それも歓迎パーティーで、ヒロインが王太子からダンスを誘われるシーン。

 二人を囲むようにして描かれていたモブたちの中に、モニカはいた。

 顔は描かれていなかったが、髪型とドレスがそっくりで。そのシーンが脳内を駆け巡った瞬間にモニカは、自分がモブであることを悟った。


 モニカにとってあの時は、雪崩の如くひどい目に遭いっぱなしだったが、それも一背景に過ぎなかったのだ。


 モブはモブらしく、周りに影響を与えることなく生きなければならない。それがモニカに与えられた役であり、忘れられがちな体質の原因のようだ。





 前世の情報量の多さと、物理的な衝撃により気を失っていたモニカは、それからしばらくして再び目覚めた。


 真っ先に目に飛び込んできたのは、見慣れない天井。それから、不可思議な香りだった。


「目覚めたか?」


 その次に聴覚として、男性の声が聞こえてきた。

 前世で聞き覚えのあるその声。


(確か、人気声優の……)


 まさかと思いながら顔を横に向けてみると、目に飛び込んできたのは教師の姿だった。


 彼は、カリスト・ビエント。

 歳は二十五歳。グレーの瞳に、若葉色の長い髪は後ろで束ねられている。肌は透き通るように白くて、どことなくエルフのような神秘的な雰囲気だ。

 そして彼は、この乙女ゲームの攻略対象でもある。


 画面越しで見た記憶しかないモニカは、不思議な気持ちでカリストを見つめた。


「こんなところで寝かせてしまって、悪いな。医務室の先生はもう帰ってしまったんだ。気分はどうだ?」


 ぼーっとしているモニカを気遣うように様子をうかがってから、カリスは「擦り傷とたんこぶ以外は問題ないな」と呟いた。

 モニカの頭や手足には、彼の治療による包帯が巻かれている。


 彼はこの貴族学園の教師であり、魔法師でもある。

 守護者たちを育てるために必修な『女神と精霊の授業』の担当だ。

 守護者たちが精霊魔法に失敗した時などに、治療するのも彼の役割。その彼が問題ないと判断しているので、ひどい怪我には至らなかったようだ。


 ほっと安心しながらモニカは、改めて室内に目を向けてみる。

 先ほどから漂っている不可思議な香りはどうやら、魔法に使う薬草のようだ。部屋のさまざまな場所に薬草やら、実験道具が置かれている。

 つまりここは、彼の研究室。このベッドは、彼の仮眠用だろうか。


「あの……。先生が助けてくださったのですか?」


 よく気づいてくれたものだ、と驚きながらモニカは尋ねる。

 なにせモニカは、自分がモブだと気づいたばかり。攻略対象がモブを気にかけることが、不思議でならない。


「精霊が騒いだからな」


 カリストは意味ありげに、自身の瞳を指さしながら答えた。


(あっ。先生は目が見えない設定だったわ)


 彼は生まれつき目が見えないが、精霊を瞳に宿してからは精霊がその役目を果たしている。


「そうでしたのね。お二人とも、助けてくださりありがとうございます」


 モニカがお礼を述べると、カリストは若干つまらなそうな顔になる。


「なんだ。上級生からでも、俺の目が見えないと聞いていたのか?」


(あっ。今のは不思議に思う場面だったかしら……)


 曖昧に微笑むと、彼は「初めの授業で驚かす予定だから、秘密にしていてくれよ。聖女様」と笑みを浮かべる。


 その笑顔が美麗すぎて、モニカは思わず心臓を押さえた。

 彼は前世のモニカの推しではないが、攻略対象の魅力はやはり絶大だ。思わずドキドキしてしまうのは、仕方のないこと。目の保養、素晴らしい。


 モニカは良いものを見られたと思いながらも、ふと首をかしげる。


(あら? 今、私のことを「聖女様」と言わなかった?)


「先生。私は、聖女様ではございませんよ?」


 カリストは、驚いたように瞳を見開く。それから、考え込むように腕を組んだ。


「聖女とは、君みたいな雰囲気のはずだが……」


 カリストの言う『雰囲気』とは見た目の雰囲気ではなく、精霊から伝えられる、彼にしかわからない感覚のことを言っているのだろう。


「一度、詳しく調べてもらったらどうだ?」


 カリストは神妙な顔つきでそう提案したが、モニカは「お気遣いは無用ですわ」と即座に遠慮する。

 なにせモニカは、モブなのだ。

 ヒロインのリアナもこの世界にちゃんと存在しているし、急にヒロインが入れ変わるはずがない。


 それよりもモニカは、気になって仕方ないことがある。

 推しではない攻略対象がこれほど素敵に見えるのだから、(なま)の推しはどれほど魅惑的なのだろうか。

 先ほど歓迎パーティーで会ったばかりだが、改めて推しに会いたい。


「私、ルカ様のご尊顔を拝めるだけで幸せです。それ以上は望みませんわ」


 前世のモニカの推しは、ルカだ。彼とは現在、幼馴染という、とてつもなく美味しい関係にある。

 あまり気づいてもらえない悲しい状況ではあるが、これからはクラスメイトとして毎日、顔を合わせることになる。


(はぁ……。私、推しがいる世界に転生できたのね。なんて幸運なのかしら……)



 そう実感するたけで、心臓が壊れてしまいそうなほどドキドキしてしまう。

 モニカは嬉しさのあまり、静かに瞳を閉じた。


「おいっ……! 急にどうした、大丈夫か?」


 見た目は眠っただけに思えるモニカだが、精霊が伝えてくる感覚で生きているカリストにはわかる。

 彼女は今、嬉しすぎて気絶しているのだ。




 それからモニカが学園へ復学するまでに、二十日もの日数がかかる。


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◆人物紹介◆

モニカ・レナセール
伯爵令嬢。乙女ゲームのモブ

カリスト・ビエント
教師・男爵家の養子。乙女ゲームの攻略対象(初心者用)

ルカ・フエゴ
公爵令息・騎士。乙女ゲームの攻略対象

リアナ
聖女・平民。乙女ゲームのヒロイン

ブラウリオ・ アグア・プロテヘル
王太子。乙女ゲームの攻略対象

ロベルト・スエロ
侯爵令息・宰相の息子。乙女ゲームの攻略対象

ミランダ・セーロス
公爵令嬢。乙女ゲームのルカの婚約者

ビアンカ・ソルダー
辺境伯令嬢。乙女ゲームのロベルトの婚約者

イサーク・リアマ
男爵・ルカの従兄。乙女ゲームの悪役

ルー
火属性の精霊

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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


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