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【三章】モブ令嬢の、幸せ推し活な学園生活 ~モブでしたが、女神として認められるよう皆と一緒にがんばります!~  作者: 廻り
第一章 『女神の再来』だと精霊に告げられましたが、それより推しに認知されたい
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15 好感度アイテムの効果1


 そして一か月の特訓の末。ついに『刺繍したハンカチ(フエゴ公爵家)』は完成した。

 最速で材料が揃ったにも関わらず、結局はゲームでかかっていた期間とさほど変わらなかったのは、気にしてはならない。完成したという事実が重要だ。


「意外と、なんとかなったな」

「先生のおかげです。本当にありがとうございます」

「いや、モニカの努力の賜だ。よく頑張ったな」


 カリストは、モニカの頭をなでまわした。

 なんだかんだ言いつつも、カリストは意外と甘い。最後までやり遂げれば、猫でも可愛がるように褒めてくれる。

 彼が目指すレベルには到底、追いついてはいないが、しっかりと上達を認めてくれる優しさがある人だ。


 モニカの両親も成果を見せればいつも褒めてくれるが、過程を見守ってくれるわけでも、努力している姿を覚えているわけでもない。ただ、結果を見て喜ぶだけ。

 誰かに努力の過程を見てもらえたのは、今回が初めてだ。その成果を褒めてもらえるのは、とても嬉しいし、達成感がある。


「あいつも喜ぶんじゃないか」

「そうだと良いのですが」


 ゲームでは、攻略対象にアイテムを渡せば必ず喜んでもらえたが、現実のルカがどう反応するかは未知数だ。

 仮に反応が微妙だとしても、モニカとしてはすでに達成感を得ているので満足だ。


 ハンカチを胸に抱くと、ほんわか温かい気持ちになれる。

 この気持ちごとルカに贈りたいなどと、重いことは言わない。ルカへ渡すのはあくまで、勉強を手伝うための好感度上げ。

 心を込めて作った過程の気持ちは、自分だけの宝物として残しておく。


「……ともかく、俺の役目は終わったようだな。もう遅いし、さっさと帰れよ」


 カリストはモニカの頭をなでる動作を急に止めると、自分の机へと戻り書類仕事を始めた。

 いつもなら玄関まで見送ってくれるのに、一瞬でモニカへの興味を失ったかのよう。


(先生の時間をかなり邪魔してしまったものね……)


「お世話になりました先生。失礼します」




 仕事の邪魔にならないよう、モニカが静かに研究室の扉を閉めた後。カリストは、大きくため息をついた。


 彼女がルカを想ってハンカチを抱いた瞬間、何とも言えない心のモヤモヤを感じた。そのモヤモヤの理由がわからず、彼女を突き放すような態度を取ってしまった。


 精霊が彼女を特別視しているせいで、カリスト自身も彼女が気になって仕方ない。


「早く『特別』の意味を理解しなければな。感情のやり場に困る……」





 

 翌日のお昼休み。

 モニカとルカはいつものごとく、時計塔の最上階で昼食のバケットサンドを食べていた。


「――で、野外授業でブラウリオが」


 最近のルカは、授業中のクラスの様子をよく話してくれるようになった。授業中はあれほどつまらなそうにしているのに、彼は意外と周りをよく見ているようだ。

 そして、その時の様子をさも楽しかったかのように話すのは、モニカが授業を受けることを願ってのことなのだろう。

 推しにかなり気を遣わせてしまっているようで、モニカとしては申し訳ない。


(けれど、それも今日で終わるかもしれないわ。ルカ様、もう少しのご辛抱ですっ)


 そわそわしながらチャンスをうかがっていたモニカは、バケットサンドにかぶりついたルカを見逃さなかった。


(今よっ!)


「ルカ様、お口にソースがついてますわ。こちらのハンカチを差し上げます(・・・・・・)ので、どうぞお使いくださいませ」


 さりげなく差し出した、真っ白なハンカチ。刺繍した部分は下に向けてある。


「……おう。悪いな」


 いつもはこのようなやり取りなどしないので、ルカは戸惑っている様子だが、一応は素直に受け取る。モニカは、よしっ! と小さく握りこぶしを作った。


 ルカへの渡し方については、ずっと悩んでいた。なにせ、物が手縫い刺繍だ。下手な渡し方をしてしまえば、受け取ってもらえないかもしれないし、受け取ったとしてもルカの負担になるかもしれない。

 さり気なく、どうでもよいものとして受け取ってもらうには、これしかない。と、考えたのがこの方法だった。


(ふぅ。目的は無事に果たせたわ。後は効果がどのくらいでるか……って、えっ!)


 一安心したのも束の間、ルカは口を拭く直前で目ざとく、刺繍した面を見つけてしまったのだ。


「うちの紋章じゃねーか」

「……そうですね」


 モニカがフエゴ公爵家の紋章が入ったハンカチを持っているのは、普通に考えればおかしなことだ。

 気まずく思いながらも返事をすると、ルカも疑問を感じたのかじっくりと刺繍を観察し始めた。


(きゃーやめて! そんなにじっくり見ないでください……)


 モニカの腕前では、そのような至近距離で見られると粗が目立つではないか。


「これ……、モニカが刺繍したのか?」

「はい……そうです……」


 完全に渡し方を失敗してしまった。こんな見つかり方をするなら、「下手ですが」と初めから話して渡したほうが、まだマシだったかもしれない。


 ルカはおもむろに自分のポケットからハンカチを取り出すと、雑に口についたソースをふき取る。

 どうやら、モニカが刺繍したハンカチは、公爵令息様のお口を拭う価値もなかったようだ。

 ルカの反応が微妙でも満足だ、と完成した時のモニカはそう思っていた。けれど実際に拒否されるのはやっぱりキツい。


 改めてモニカのハンカチを見つめた彼は、ぼそっと呟いた。


「……これ、くれるって言ったよな?」

「はいっ。ですが、ご不要でしたらすぐにでも廃棄――」


 今すぐそれを回収して、この場から消え去りたい。

 モニカが手を伸ばしかけた時――、ルカは極上の笑みを称えながら、ハンカチを胸に抱いた。


「俺、この紋章が好きなんだ。あんがとな!」


 それは、モニカにとっては既視感のある光景だった。

 ゲーム内で作成したアイテムを、初めて攻略対象に渡した時に見られる、スチル(一枚絵)だ。


 ゲーム内で時々出現するスチルを集めるのも、乙女ゲームの楽しみのひとつ。モニカはそれらを、とっかえひっかえスマホのホーム画面の画像に設定しては推しを愛でていた。


 そのスチルが、目の前でリアルに再現されている。画面で見るよりも何倍も、何十倍も、何百倍も、素敵だ。


(はあ……。推しの笑顔が眩しすぎて溶けそう……)


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◆人物紹介◆

モニカ・レナセール
伯爵令嬢。乙女ゲームのモブ

カリスト・ビエント
教師・男爵家の養子。乙女ゲームの攻略対象(初心者用)

ルカ・フエゴ
公爵令息・騎士。乙女ゲームの攻略対象

リアナ
聖女・平民。乙女ゲームのヒロイン

ブラウリオ・ アグア・プロテヘル
王太子。乙女ゲームの攻略対象

ロベルト・スエロ
侯爵令息・宰相の息子。乙女ゲームの攻略対象

ミランダ・セーロス
公爵令嬢。乙女ゲームのルカの婚約者

ビアンカ・ソルダー
辺境伯令嬢。乙女ゲームのロベルトの婚約者

イサーク・リアマ
男爵・ルカの従兄。乙女ゲームの悪役

ルー
火属性の精霊

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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


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