14 アイテム作成2
(ヒロインは鉄板ルートを進んでいるかと思っていたけれど、風属性は先生以外のキャラを攻略しているのかしら?)
「あの……。先生なら、守護者として頼りになりそうだと思いまして」
「聖女も年頃の娘だ。好き好んで盲目のオヤジは選ばないんじゃないか?」
そんなことか、とカリストはどうでもいいことのように、モニカの作品を壁に飾りながら答えた。
そんなはずがない。
モニカは彼のストーリーを知っている。カリストが守護者に選ばれたら、最終的に聖女の力によって、精霊に頼らずとも目が見えるようになる。
そのシーンは、彼を推してはいなかったモニカでも感動するものだった。
そんなカリストが、守護者についてどうでもいいと思っているはずがない。
「そんなっ! 先生は素敵な男性ですよ!」
ゲームでのキャラとは少し雰囲気が異なる部分もあるが、根底にある彼の良さはそのままだ。
「私のこんなお願いにも付き合ってくれるくらい優しいですし、授業もわかりやすいと学生に人気ですっ。それにそれに――」
いくらヒロインの動向が気になるとはいえ、なぜこんな無神経な質問をしてしまったのだろう。
カリストは初心者向けのキャラなので初めは選ばれやすいが、保護者的な存在であるために恋愛要素が乏しく、ガイドが不要な者は選ばない傾向にある。
このゲームを知っている者の間では常識であり、それが普通だった。
けれどこの世界のカリストは、都合のよい便利なキャラではない。
一度だけの人生でカリストが守護者に選ばれなければ彼は一生、自分の目で世界を見ることが叶わない。
そんな重大なことに関わる話を、気軽に聞くべきではなかった。
「わかったから。落ち着け」
罪悪感でパニック気味になっているモニカを、カリストはなだめるように彼女の両肩を掴んだ。
「でも……!」
「モニカの気持ちは嬉しいが……」
カリストは真剣な表情で、モニカを見つめる。その、何も映していないようで、全てを見透かしているようなグレーの瞳が綺麗で、モニカはどきりとして我に返った。
「二股は良くないぞ」
(ん?)
そして、冷静さを取り戻したモニカは首をかしげる。
(あら……? 私、先生のことが好きみたいに思われてる?)
「ちっ違いますっ!」
「違うのか。残念」
残念とは思っていないような笑みを浮かべたカリストは、モニカの頭を楽しそうになでまわした。
またも、からかわれてしまったが、大人のカリストに上手くはぐらかされた。そんな気分にさせられたモニカだった。
「お帰りなさいませ、坊ちゃま。近頃、ご気分がよろしいようですね」
帰宅したカリストを迎えたのは、彼の乳母。ここは乳母夫婦であるビエント男爵家の邸宅で、カリストは未成年のころからこの家で世話になっている。表向きは、ビエント家の養子だ。
「そう見えるか? 楽しい新入生が入ってきたんだ」
「まあ! もしかして、聖女様のことですか?」
「聖女と個人的な交流を図るつもりはない」
「ですが、坊ちゃまの目を浄化できるのは、聖女様しか……」
「それについては何度も話したはずだ。聖女に負担をかけるつもりはない」
「そうでしたね……」
カリストの事情を誰よりも知っている乳母は、落胆した様子で彼のコートを受け取り、この場を去って行った。
その様子を見ながらカリストは、先ほどのモニカを思い出す。
彼女はまるで、カリストの事情を知っているかのように必死な様子だった。
カリストの目は単に、機能が失われているわけではない。先祖代々受け継がれている『呪い』だ。
この事実は、家門に関わるごく一部の者しか知らないはず。それなのに彼女の動揺ぶりは、度を越していた。
まるで、カリストの目が一生をかけても見えないことに悲観している乳母のように。
「お前と話ができたらな……」
カリストは自身の目に手を当てながら、ぼそりと呟いた。カリストの精霊は彼に宿って以来、感覚でものを伝えてくるが、一度も会話ができていない。
モニカが特別であることは感覚で理解できたが、実際になにが特別なのかまではわからなかった。
モニカともっと交流を深めれば、『特別』の意味を理解できるのだろうか。
そして一か月の特訓の末。ついに『刺繍したハンカチ(フエゴ公爵家)』は完成した。
最速で材料が揃ったにも関わらず、結局はゲームでかかっていた期間とさほど変わらなかったのは、気にしてはならない。完成したという事実が重要だ。





