135 モニカの新しい生活5
「それで? 俺たちを呼んだ理由は?」
「ご存じのとおり、こちらの神殿を含め、全国各地に点在している神殿のすべては、女神様を崇拝するために建てられたものでございます。そのため聖女様と同様に、女神様のお世話をする幸福も我らにお与えいただきたく、お招きした次第でございます」
「モニカを神殿に住まわせるということか?」
「そちらが望ましいですが、お恥ずかしながら女神様が再降臨なさるとは予想しておりませんでしたもので、神殿には女神様のためのお住まいがございません。ですから、これからお住まいを建設するご許可をいただきたく」
「どうするモニカ?」
ルカに問われ、モニカは考え込んだ。
神殿ならそう提案してくるだろうとは予想はしていたけれど、そこまで大規模な提案だとは考えていなかった。
「新しい住まいが完成したら、永住をご希望ですか? 今の私は人間なので、結婚も出産もすると思いますが」
「強制はいたしませんので、歴代の聖女と同じとお考えくださいませ」
歴代の聖女は、神殿に永住する者もいれば、滞在場所のひとつとしてや、仕事場として利用していた者もいる。
ミランダたちが守護者のことを調べた際に、世間で知られている情報よりもより柔軟に聖女の生活は守られてきたことがわかった。
それも踏まえると、無理にモニカを神殿に縛り付けるつもりはなさそうだ。
「セキュリティ的にも神殿は安心して暮らせる場所だと思うよ。むしろ今が、モニカ嬢に必要そうだけれどね」
ブラウリオに指摘されて、モニカは苦笑する。
それを不思議に思った様子の教皇が小首をかしげる。
「何かお困りごとでございますか?」
「じつは信者が邸宅に押し寄せてまして、今はフエゴ騎士団に警備してもらっているんです」
「さようでございましたか。そういうことでしたら、ご不便をおかけいたしますが先代聖女様のお住まいをお譲りいただきましょうか」
(たしか先代聖女様は、神殿に永住することを選んだのよね。だから、ロベルト様のお祖父様は、あまり神殿から家へ帰らなかった)
聖女が伴侶と住まいを設けるならば、ほかの守護者はプライベートにまでは踏みこまないが、神殿に住むなら話は別だ。
神官や聖騎士に聖女を守らせるよりも、守護者が自ら聖女のそばに仕えていたいものだから。
(私が神殿に住めば、皆の生活にも影響が出そうね……)
今はまだ学生の身なので、皆にはあまり負担をかけたくない。それに昨夜は両親が、モニカの女神オーラに当てられることなく娘として接するつもりであることを確認できた。そんな両親とはまだ一緒にいたい。
「そのうち収まると思いますので、今は家族との時間を大切にしたいです」
「ご両親もそれを望んでおられることでしょう。状況が変わりましたらいつでもご連絡くださいませ」
「ありがとうございます教皇」
そのあとも、モニカの扱いについての話し合いをし、ほぼモニカの希望どおりに方針が決まった。
教皇としては物足りない結果に終わったようで申し訳なかったが、モニカとしても譲れない一線はある。
特に大勢の前で「私が女神よ! 崇拝しなさい!」みたいな態度は絶対にしたくないので、教皇がおとなしく折れてくれてほっとしたところだ。
話し合いが終了したあと皆で、聖女の守護者が使用する執務室を見学にいくことに。
リアナには守護者がブラウリオしかいないので当面は、守護者用の施設はモニカの守護者たちに貸し出すということで、話がついた。
「こちらが守護者代表様の執務室でございます」
神官に案内されて入室した部屋は、モニカにとっては見慣れた風景だった。ゲームではこの部屋でのシーンも結構あるのだ。
「俺が使っていたんだけど、ルカに譲るよ。俺の仕事量はかなり減りそうだしね」
ブラウリオが執務用椅子を引くと、ルカが満足げに座り込んだ。
「悪いなブラウリオ。これからは俺が、華麗に仕事してやるからよ」
勉強が得意となったルカにとっては大したことではない様子だが、勉強が割と苦手なビアンカは、机の上に積みあがっている紙の束を目にして「すごい書類の数だな……」と嫌そうにつぶやいている。
きれいに積みあがっているのでルカは気に留めていなかったようだが、これらはすべてブラウリオがしていた仕事で、これからはルカが引き継ぐ仕事。
神殿に関わる全ての書類は女神の代理人である聖女承諾が必要であり、その実務を担ってきたのが聖女の守護者代表。
そして現在は女神本人がいるので、その実務も女神の守護者代表に引き継がれるというわけだ。ブラウリオは晴れやかに笑みを浮かべている。
「いやあ。本当に助かるよルカ」
「おいちょっと待てブラウリオ。俺たち代表者同士、仲良く仕事しようぜ」
「やり方くらいは引継ぎで教えるけれど、俺には公務もあるから」
「 王家は先生が増えたんだから、役目が減るはずだろう? 親友を見捨てる気かよ」
「ルカが俺を親友だと思っていたなんて初耳だな」
二人の押し付け合いに呆れたロベルトが「だから僕が初めの守護者になると立候補したんです」 とため息をつく。
(ふふ。ルカ様かわいい)
ゲームのルカはほかに頼る者がいなかったので、このようなシーンはなかったが、本当は誰かに押し付けたいほど嫌だったようだ。
それでもゲームのルカは深夜まで熱心に執務をするほど、責任をもって役目を果たしていたので、この世界のルカもきっと頑張ってくれるはずだ。
「まったく……。少しくらいならお手伝いして差し上げますわ」
ミランダもルカを手伝うつもりのようだ。モニカはふと、よい考えが思い浮かぶ。
「ミランダ嬢。もし遅い時間までルカ様がお仕事しているようでしたら、たまごスープを差し入れしてください。必ず二人きりの時に差し入れてくださいね」
「わかりましたけれど……、ルカ様の好物はバケットサンドでは?」
どのような時でもルカはバケットサンドを食べたがるということを、ミランダもすでに熟知しているので不思議そうに首をかしげる。
「ふふ。深夜の執務はたまごスープに限るんです」
これはルカが執務をしているときにだけ渡せるアイテムだ。
ピクニックの時にリアナが、ルカにバケットサンドを作った際は食べてもらえなかったが、ミランダが作ったものなら食べないわけにはいかないはず。
食べ物アイテムにはさほど強力な効果はなさそうだけれど、もしかしたらあのイベントが発生するかもしれない。
淡い期待を抱きながら、モニカは神殿を後にした。
結局。ロベルトも不安だからと残ったので、帰りはビアンカが送ってくれることに。
最近のビアンカはロベルトにべったりなので、二人きりになるのはロベルトの誕生日パーティーの準備以来だろうか。
久しぶりに二人でおしゃべりを楽しんでいると、ふとビアンカが気づかわし気にモニカを見つめてきた。
「ところで……。モニカは先生となにかあったのか?」





