128 モニカの守護者21
「私もリアナちゃんのこと大好きですよ。だから、しもべだなんて言わないでください」
「どうして……」
「リアナちゃんは、女神としての私の代理人であり、親友でもあります。それだけ私にとってリアナちゃんは、大切な存在なんです」
ついで言うと、彼女はこの乙女ゲームのヒロイン。かつてはモニカがプレイしていたキャラであり、自分の分身とまではいかないが表現しがたい繋がりを感じる。
それはきっと、女神と聖女という関係のせいもあるのだろうが、モニカにとってリアナはやはりヒロインなのだ。
「大切な、親友――」
体にしみこませるようにそう呟いたリアナは、それからじわじわと笑みを浮かべてから、急にルカへと振り返る。
リアナに満面の笑みを浮かべられたルカは、「うぜー」と顔を歪めた。
モニカを巡る、リアナとルカの戦いはまだ健在のようだ。ルカは、リアナからもカリストからも敵視されて大変そう。
モニカは苦笑しながらリアナに声をかける。
「リアナちゃん始めましょう。刻印はどちらにお望みですか?」
そう尋ねると、リアナは勢いよく前髪をかき上げて、おでこをモニカへと向ける。
「おでこにお願い!」
皆の時と同じように、リアナが誓の言葉を述べてから、モニカは魔法陣を出現させ彼女の額へと口づけした。
リアナの額に刻印が施されたことを確認したモニカは、リアナも守護者扱いにすることができてほっとする。
これは昨日、皆で考えた案だった。
国王がモニカを偽聖女扱いする以上、明確に女神と聖女の差を見せつけなければならない。そのために、リアナにも刻印が必要だと。
ようは、モニカが当初、リアナの守護者になろうとしていたことの、逆パターン。
聖女も、女神を守護者にすることは可能だが、国王や貴族がそんなことを知るはずもない。
「聖女様も、女神様の守護者になられたぞ!」
「レナセール嬢は紛れもなく、女神様なのね!」
法廷内にはもはや、モニカを疑う者はいないようだ。国王一人を除いて。
国王は、くしゃりと顔を歪めながら立ち上がった。
「女神が再降臨だと……? そんなことができるなら、もっと早くに……。なぜもっと早く、助けてくれなかったんだ……!」
(陛下……)
国王に残っている気持ちはもはや、ブラウリオの未来を守ることでも、カリストにすべての責任を負わせることでもなく、王家が呪いに苦しめられてきたことへの嘆きだけの様子。
「……私も、ずっと記憶を維持したまま転生を繰り返したわけではありません。前世でこの世界のことを知り、今世でこの世界の事情を少しだけ思い出しました。かつてこの地を救った頃の記憶は、先ほど少しだけ思い出したばかりなのです。――そうなのですよね?」
モニカは魔獣王に向けて確認する。
この世界を苦しめた相手に確認しなければいけないのが残念だが、この場で一番詳しそうなのが彼なのだからしょうがない。
「全知全能の神もむごいことをする。嫉妬心で、慈愛の女神の記憶を消し、魂だけを人間界へ放り出したのだからな」
(また、その話……)
自分の知らない自分の話を、得意げにされるのは良い気分ではない。だが、魔獣王はこれ以上、モニカに教えるつもりはない様子でにやにや笑みを浮かべている。
「本当に、女神だと言うのなら、その忌々しい呪いを消してみよ! あと数代はかかると言われている呪いだ。一度に消せたなら女神だと認めようではないか!」
そう叫んだ国王は、モニカを試すというよりは、心から悲痛な願いのように思える。カリストを苦しめてきたのは王家だが、王家自体もこれまで相当に苦しんできたのだろう。
「わかりました」とモニカは国王にうなずいてから、皆へと振り返った。
「皆様。私はこれまで、先生の呪いを解きたくて、女神としての力を養ってきました。けれど、先生の呪いを解くにはどうしても四属性の精霊の力が必要なんです。どうか力を貸してください。お願いします!」
カリストの呪いについては、王家の秘密でもあるので皆には言えないままでいた。皆に女神であることを打ち明けたのは、リアナをハッピーエンドへ導くための手段であり、その先にある女神としての人生の目標は、カリストの呪いを解くことだった。
大切な部分を言えずにいたことへの罪悪感を抱きながら、頭を下げると、「なんでモニカが頭を下げるんだよ」とルカの明るい声が聞こえてきた。
「え?」
「俺たちはもう、モニカの守護者になったんだぜ。モニカが何を望もうと、俺たちは必ず従う。それが守護者ってもんだろ。なあ皆?」
ルカが皆に視線を向けると、皆もそれぞれに同意の表情を浮かべる。
「皆様……ありがとうございます」
モニカに言えない事情があろうとも、いつも受け入れてくれる皆が守護者となってくれた。これほど心強いことはない。
「モニカ嬢。ご命令ください。僕たちは何をすればよろしいですか」
ロベルトの問に、モニカはうなずく。
「これより、先生にかけられている魔獣王の呪いを解きます! 皆様は私に精霊の力を注いでください」
「はい!」
全員そろって返事すると、ルカ、ミランダ、ロベルト、ビアンカはモニカへと手のひらを向け、リアナはモニカに向けて祈りを捧げる。そしてブラウリオはそのリアナに力を注ぐためにリアナへと手のひらを向けた。
ルカ達四人からは四属性それぞれの色の光が、そしてリアナからは聖なる光が、モニカへと流れ込み始めた。





