124 モニカの守護者17
(先生、ルカ様のこと敵視しすぎよ)
今にして思うとカリストは初めから、ルカに対して対抗意識を燃やしていた。あの頃はモニカをからかうのが目的に見えたが。今ではすっかりライバルと見なされている。
すでにモニカを諦めているルカが巻き込まれてしまい、申し訳ない。
「おし?」
首をかしげるルカは無視して、カリストはモニカへと向き直る。
「それに、これくらいの試練を乗り越えるくらいでなければ、女神様の伴侶のエピソードとしてはつまらないだろう?」
「先生といると、良い意味で気が抜けます」
おかげで、すこし気が楽になる。
カリストはモニカよりもずっと勇者に詳しい。その彼が、恨むことなくそばにいることを望んでいる事実が、何よりも心強い。
相変わらず呪いの煙のせいでカリストの目は見えないが、いつもの雰囲気で微笑むので、モニカも安心しながらうなずき返した。
そして辺りをもう一度、見回してみる。皆もこの場に集まったので、準備は整った。
未だに女神オーラもMAXの状態で、法廷全体がモニカたちに注目している。今こそ打ち明けるチャンスだ。
最後に到着したブラウリオがリアナを伴い、モニカの前へと恭しくひざまずいた。
これは事前に打ち合わせしていた段取りだ。王太子と聖女が丁重に扱う相手なら、皆も興味を持つだろうと。
けれどそこまでの演出は必要なかったかもしれない。この状況に驚く者は、もはやこの場にはいない。誰もがモニカに特別な何かを感じているからだ。
けれど、その特別ななにかに危機感を抱いた国王だけが、信じられない様子で立ち上がった。
「王太子。なにを……。今すぐ立ちなさい。聖女様に失礼だろう……」
「国王陛下。まだお気づきになりませんか? 目の前におられる方がどなたか。――皆にも改めてご紹介しましょう。こちらにおわすモニカ・レナセール嬢は、かつてこの地を救った女神様の生まれ変わりです」
皆が納得した様子の中、国王だけが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
国王自身も、モニカが尊い存在であることはひしひしと感じている。しかしそれを認めてしまえばブラウリオとリアナはどうなるのか。
指輪によってカリストの本来の姿を見せてしまったので、王族だと知られるのも時間の問題。
そのような状況でカリストとモニカが結婚すれば、どちらが王位に相応しいかなど論ずる必要すらなくなるだろう。
そうなれば、妻の心が完全に壊れてしまう。
「しっ……証拠はあるのか。神聖力が聖女より強いからというだけでは、証拠にならん。その呪いが操っているだけかもしれないだろう!」
この言葉の直後に、法廷に響き渡るほどの笑い声が聞こえてきた。声の主はカリストの頭上にいる魔獣王だ。
「勇者の子孫ともあろう者がこのようでは、女神の死も浮かばれんな」
(私の死……?)
モニカはどきりとしながら魔獣王を見た。
女神だったモニカが転生を繰り返して、今世はモブとして生まれた。そうなるためには女神としての人生を終えなければいけなかったが、それも勇者と関係があるのだろうか。
その辺りの記憶は思い出せない。魔獣王によって制限されている気がして、モヤモヤする。
「勇者ってなんだ?」
「女神様はお亡くなりになられたのか?」
「それじゃ、私たちが今までお祈りしてきた女神様はなんなのよ!」
「いもしない女神を崇拝してきたのか?」
魔獣王のせいで法廷は三度、混乱に陥る。魔獣王としての力は失っても、人を惑わす才能だけは失っていないようだ。
早く皆を守護者にして、呪いを完全に消し去らなければ。さらなる混乱を招きそうだ。
その時。ルカの父親であるフエゴ公爵が、大きな音を立てながら槍の柄を床に叩きつけたせいで、法廷は静まりかえる。
そしてロベルトの父親である宰相が立ち上がり、横にいる国王を見下ろした。
「国王陛下。どうやら国民には伏せられた歴史がおありのようですね。国民を代表して、隠蔽された歴史の開示を要求します」
「宰相……公爵……。国を裏切るつもりか……!」
「国も大切ですが、息子の未来も大切ですからね」
にやりと笑みを浮かべる宰相に賛同するように、フエゴ公爵もうなずく。
そのやり取りを目にしたモニカは、首をかしげる。
(お二人が、私たちの味方をしてくださっているの?)
宰相と騎士団長は国を運営する側だ。当然のように国王をかばい、モニカたちを問い詰めると思っていたが。
ルカとロベルトへと視線を向けると、ルカが「悪いモニカ」と謝る。
「騎士団にこの場を掌握させるには、親父の協力が必要だったからさ。先に話しておいたんだよ」
「陛下に対して毅然とした態度で迫れるのは、うちの父くらいですから。僕も必要性を感じたので事前に打ち明けさせていただきました」
「お二人とも、信じてくださったのですか……?」
証拠を見せていない状況で、息子からそのような打ち明け話をされても、判断に困っただろうに。
「当たり前だろ? モニカがいなけりゃ俺は荒れ放題だったんだから、うちでは前から、モニカを女神様扱いしてたぜ?」
「当家でも同じです。父は、息子と息子嫁を幸せにしてくれるモニカ嬢を、女神様のように思っておりました」
モニカは思わず笑い出す。
それは完全なる比喩表現であり、それだけで本当の女神だと信じてくれるはずがない。二人は気づいていないようだがそれは、息子に対して絶対的な信頼があるからだ。
二人とも父親との関係が悪かったのに、いつの間にかそこまでの信頼関係を築けた。そのことがとても嬉しい。
そのような信頼関係を、カリストと国王の間に築かれる日は来るのだろうか。せめて、このエピソードが終わった頃には、国王の考えが少しでも変わっていたら良いが。
モニカはそう願いながら、国王を見た。
「国王陛下。私が女神の生まれ変わりである証拠が必要とおっしゃいましたね。今から皆様に、証拠をお見せいたしますわ。こちらに集まっている友人たちには、私の守護者になっていただきます」





