12 ログインボーナス2
翌日。今日は休日だというのに、モニカは貴族学園を訪れていた。というのも、昨夜にもう一度ログボについて考えたモニカは、ある結果にたどり着いていた。
ルカから一日でも早くハンカチを受け取り、イメージアップアイテムを完成させるには、ログボを毎日しっかりといただく必要がある。
そしてログボの特徴として、重大な事を思い出した。
ログインボーナスとは毎日、地道にもらい続けるのがセオリー。
ゲームによって仕様はさまざまだが、毎日ログインし続けると節目で良い物がもらえたりする。
けれど逆に、一度でも貰う日を途切れさせてしまえば、振り出しに戻ってしまったり、節目で良い物がもらえなくなるのだ。
ちなみにこの乙女ゲームは三十日間、休むことなくログインし続けるといつもより珍しい物がもらえる。
ログボを切らしてはいけない。
別に、ルカから高価なものを貰いたいわけではないが、これはオタクだった前世の性のようなもの。
ログボを切らしてはいけない。
ログボでしか入手できないレアアイテムが手に入らなかったら、悔しいではないか。それが推しの限定アイテムだったりしたら、一生後悔する。
ログボを切らしてはいけない。
前世の思考回路がしきりに、そう諭すのだ。
少しだけ本来の目的とズレてしまったモニカだが、毎日ログボをもらい続けることで、ハンカチを受け取れる確率は格段に上がる。
そう思いつつ時計塔の扉を開けたモニカだが――
(でも考えてみたら、ルカ様が休日にいるはずないわよね……)
勉強嫌いで隙あらばサボろうとする彼が、休日まで学園に来るとは思えない。
(ううん。ログインしたという事実が大切なのよ。きっと時計塔に登れば、記録として残るはずよ)
都合の良い解釈でまとめたモニカは、せっせと時計塔に登り始めた。
毎日登っているがこれが結構、足腰に負担がかかるのだ。三年間を終える頃にはきっと、ムキムキな太ももを得られるに違いない。
今のモニカは、連日の筋肉痛と戦っている最中だが。
それでもいつもなら貴族令嬢としての心持を忘れずに、それなりの姿勢を保っているが、今日は誰も見ている者はいない。
最上階まで登ったモニカは疲れのあまり、ぱたりと床に寝ころんだ。
「はぁ~疲れたぁ~」
「モニカ、会いたかった」
「へえっ!?」
いるはずがないと思っていたルカが、いつもどおりにモニカの顔を覗き込むではないか。
モニカは、だらけた態度と、変な声を出してしまった二重の恥ずかしさで、顔が真っ赤に茹で上がる。
「モニカ……熱でもあるのか?」
そう勘違いしたルカは、心配そうな顔でモニカの額に触れてきた。
(ひゃっ。ルカ様の手が……!)
息を切らしながら上ってきたので、額が汗でべたべたしているに違いない。
恥ずかしさの限界値に達したモニカは、逃げるようにして飛びあがり、彼との距離を開けて正座した。
「ル……ルカ様も、いらしていたのですね。自主学習ですか?」
「俺がそんな面倒なこと、すると思うか?」
「いえ。まったく。……では、どうして?」
モニカが小首を傾げると、ルカは少し照れたように彼女から視線を逸らした。
「モニカに会えるのは、ここだけだから。バケットサンドも食いたいし……」
(えっ……。そのために、わざわざここへ来たの?)
食いしん坊な推しが、可愛いすぎる。お弁当係万歳!
モニカは、可愛い推しを摂取し頬がとろけ落ちそうな思いで、バスケットを彼に差し出した。
「どうぞ。たくさん作って来たのでお召し上がりください」
「ありがとう。これ、お礼にやるよ」
そう言って彼が渡してきたのは、白いハンカチだった。
伯爵家へと戻ったモニカは自室にて、最速で揃った『刺繍したハンカチ(フエゴ公爵家)』の材料を見て、にまにましていた。
「ふふ。モブの私がこんなに強運で良いのかしら」
ログボの性質上、本来ならこれほど簡単に集められるものではない。モニカの経験上では、一か月で揃えば良いほうだった。
それが五日で揃ったのだから、強運にも程がある。
「あとは、こちらを合成するだけね」
ゲーム内ではアイテム作成ウインドウに、これらの材料を放り込めば一瞬で完成した。
しかし、モブの視界にはそのような便利画面など存在していない。モニカはぴくりと顔をこわばらせる。
「もしかして、自分で縫わなきゃいけない…………の?」
「……で。なぜ俺に頼む?」
翌日の放課後。モニカはいそいそと、カリストの研究室を訪れていた。
ルカに刺繍したハンカチをプレゼントしたいが、刺繍の仕方がわからない。基礎から教えてほしい、とカリストに頼んだところ、ものすごく面倒そうな視線を向けられた。
なぜ彼に頼んでいるかというと、ゲームのプロフィールにカリストの趣味は『刺繍』だと書いてあるからだ。
精霊と契約して目の不自由さがなくなったカリストは、今までは叶わなかった細かな作業をしてみたくて、乳母に刺繍を習ったというエピソードつき。刺繍は手で触れても凹凸で形がわかるので、彼は刺繍が気に入ったのだとか。
「先生しか教えてくれそうな方がいないんです。お願いします!」





