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【三章】モブ令嬢の、幸せ推し活な学園生活 ~モブでしたが、女神として認められるよう皆と一緒にがんばります!~  作者: 廻り
第一章 『女神の再来』だと精霊に告げられましたが、それより推しに認知されたい
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 二人でバケットサンドを食べてひと休みした後、午後の授業を受けるために二人は時計塔を降りた。

 そして出口の扉の前で、ルカはぴたりと立ち止まった。


「ルカ様?」


 どうしたのだろうかと呼びかけると、振り返ったルカは少し照れた様子でモニカを見つめる。


「手を繋ぐぞ」

「ル……ルカ様とですか?」

「他に誰がいるんだよ」

「そうですが……」


(えっ。推しと手を繫ぐ? 私、夢でも見ているのかしら)


 さり気なく手の甲をつねってみたが、とても痛い。これは現実のようだ。


「モニカが途中で怖気づかないように、手を繋いでやるよ」


 モニカにとっては非常に心臓に悪い事態だが、どうやらこれは彼なりの気遣いのようだ。


「あの……。なぜそこまでしてくださるのですか? 廊下で手を繫いでいたら目立ちますよ……?」

「俺も早く、皆に紹介したいんだよ。モニカは大切な幼馴染だからな」


 さらに照れた様子が、心を締め付けられるほど可愛くて愛おしい。


「ルカ様ぁ……!」


 普段は冷たい態度が多い推しだが、意外と情に厚い性格なのもモニカが好きな理由の一つだ。

 それを自分にも向けてくれることが、この上なく嬉しい。思わず涙ぐむと、ルカに笑われる。


「これくらいで泣くなよ。ほら行くぞ」

「はいっ」


 初めて繫いだルカの手は大きくて、火属性なためかほかほかに温かい。推しの体温をダイレクトに感じられたのは、これが初めて。


(幸せすぎる……)


 ルカの熱を浴びて、今にも溶けてしまいそうな気分になりながら、モニカは時計塔から出た。


 ――お昼休みの雑踏で急に辺りは騒がしくなり、一気に現実へと引き戻されたような気分にさせられる。

 そしてルカの手は、まるでサテンのリボンが解けるように、するりとモニカの手から離れた。

 ルカはそのまま振り返ることもなく、モニカを忘れたまま一人で教室へと向かった。


 モニカの手のひらには、なぜか刺繍糸が残されていた。





 それからもルカは、どうにかしてモニカを教室へと連れて行こうと頑張っていたが、彼がモニカを認識できるのはやはり時計塔の中だけ。

 何度も手を繫いで時計塔を出てみたが、やはりルカはモニカを忘れてしまう。

 しかも彼にとっては、モニカが逃げたように感じているから厄介だ。

 挙句にルカは、自身のネクタイで二人の手首を結び付けてしまう暴挙にも出たが、それも虚しく徒労に終わった。


(ルカ様って、そういうご趣味もあったのね……)


 一瞬だけでも『推しに拘束される』という、ゲームのストーリーにすらなかったイベントの発生に、モニカは本来の目的を忘れてドキドキした。

 拘束されて嬉しいなどとは決して他人には言えないが、攻略対象に拘束されるとはすなわち、恋愛作品では独占欲の表れ。


 ルカにとってモニカとは幼馴染であり、存在感が薄いので面倒を見てやらねばならない相手なのだろう。

 そこに独占欲などないことは、モニカも承知している。けれど乙女ゲームのファンとしては、ルカの新たなキャラ属性を発見したような気になってしまう。心穏やかではいられない。


(それにしても、これからどうしましょう……)


 午後の授業中。モニカは、隣の席でつまらなそうにしているルカを見つめながら、ため息をついた。

 彼はモニカが教室へ来ることを願って、午後の授業にも出るようになった。

 けれど、それだけ。

 学園へ入学して以来、ルカが真剣に授業を受けている場面は一度も見ていない。


 サボらないだけ、他人からの印象は少しでも良くなったはず。けれど直にやってくる中間テストの成績が悪ければ、やはり公爵家で信頼を得ることは難しい。

 あの『騎士団長襲撃事件』でルカが孤立しないためには、少しでも成績を上げて父親からの信頼を得る必要がある。


(公爵様ももっと、ルカ様の良い面に気がついてくだされば良いのに……)


 モニカはハンカチを取り出して、その中に包んであった刺繍糸を取り出した。ここ最近、ルカは毎日のように刺繍糸をくれる。

 理由はさまざまだし理由もなくくれることもあるが、きっとバケットサンドのお礼だとモニカは理解している。


(毎日お礼のプレゼントを用意してくれるなんて、律義すぎるわ。まるでログインボーナスのよう…………。えっ。もしかして……!)


 あの時計塔が、ログボ画面の場所であることを踏まえれば、そこでもらえるプレゼントがログボという可能性は大いに高い。

 モニカは改めて、ここ数日でもらった刺繍糸の色を思い出す。


(金と銀、赤に黒……。フエゴ公爵家の紋章の色と同じだわ!)


 ログインボーナスでは、イメージアップアイテムの材料をもらえることもある。もらえるアイテムは基本的にランダムなので、毎日、地道に集めなければならない。

 そうして苦労して作ったイメージアップアイテムは、ゲーム内アイテムの中では効果が比較的高かったりする。それでも課金アイテムには劣るが。


(なんて幸運なのかしら。四日で紋章の材料が揃うなんて)


 後は、刺繍を縫い付けるためのハンカチさえもらえたら、イメージアップアイテム『刺繍したハンカチ(フエゴ公爵家)』が完成する。


 この『刺繍したハンカチ(フエゴ公爵家)』は、好感度を上げることができるアイテムだ。もしそれをルカに渡すことができれば、時計塔以外でも認識してもらえるかもしれない。

 そうなれば授業中に勉強を教えることだってできるし、一緒に宿題することも可能だ。


(ヒロインの恋愛対象は王太子みたいだし、少しくらい好感度を上げても大丈夫よね……?)


 守護者になるために必要なのは、信頼度。モニカがハンカチをルカにプレゼントして、好感度を少しだけ上げたとしても、ヒロインのストーリーの邪魔にはならないはず。


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◆人物紹介◆

モニカ・レナセール
伯爵令嬢。乙女ゲームのモブ

カリスト・ビエント
教師・男爵家の養子。乙女ゲームの攻略対象(初心者用)

ルカ・フエゴ
公爵令息・騎士。乙女ゲームの攻略対象

リアナ
聖女・平民。乙女ゲームのヒロイン

ブラウリオ・ アグア・プロテヘル
王太子。乙女ゲームの攻略対象

ロベルト・スエロ
侯爵令息・宰相の息子。乙女ゲームの攻略対象

ミランダ・セーロス
公爵令嬢。乙女ゲームのルカの婚約者

ビアンカ・ソルダー
辺境伯令嬢。乙女ゲームのロベルトの婚約者

イサーク・リアマ
男爵・ルカの従兄。乙女ゲームの悪役

ルー
火属性の精霊

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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


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