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【三章】モブ令嬢の、幸せ推し活な学園生活 ~モブでしたが、女神として認められるよう皆と一緒にがんばります!~  作者: 廻り
第一章 『女神の再来』だと精霊に告げられましたが、それより推しに認知されたい
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10 モブと推し2


 ルカはしばし悩んでいたが、閃いたように「ああ」と呟いた。


「弁当が美味い」




 昼休み。モニカはぷんすか怒りながら、廊下を歩いていた。

 ルカに少しだけ思い出してもらえたのは嬉しいが、よりによってモニカ本人ではなくバケットサンドのほう。

 所詮ルカとの関係は、このバケットサンドがあってこそ。これがなければ知り合いにすらなれていなかった。


「はぁ……」


 時計塔でのルカが、しっかりとモニカを認識してくれるだけに、この落差が辛すぎる。

 立ち止まったモニカは、改めてバスケットを見つめた。


 モブという立場が、このお弁当よりも低いなんてあんまりではないか。

 確かにこれは、イメージアップアイテムというゲーム内では存在感のあるものだが、効果は非常に低く、あってないようなもの。

 それよりも低いのが、悲しすぎる。


 せめてこのアイテムが、もう少し効果の高いものだったら良かったのに。と悔しく思っていると、向かい側から歩いてきた学生が思い切りモニカにぶつかってきた。


「きゃっ!」


 思わず手から離れてしまったバスケット。

 このまま床に落ちてしまえば、中身のバケットサンドが床にばら撒かれてしまい、ルカに渡せなくなる。

 ただのお弁当係なのは悲しいが、やはりルカには好きなものを食べて喜んでもらいたい。


 自分自身も倒れ込みながらモニカは、必死に離れたバスケットに手を伸ばす。

 すると突然、身体の周りに風がまとわりつき、ふわっと体勢が元に戻る。そして同じく風の力によって落下を免れたバスケットは、ふよふよと空中を移動してモニカの手へと戻ってきた。


 ぽかんとしながらバスケットを見つめていると、「大丈夫か?」と声が聞こえてきた。


「先生……!」


 駆け寄ってきたのはカリストだった。

 彼はモニカにぶつかってきた学生に向けて「おーい二年生。人にぶつかったら謝れよ」と声をかける。振り返った学生は、「あ……すみません」と腑に落ちない様子でカリストに向けて頭を下げた。


「ったく。あいつ、悪いと思っていないな」


 困った学生を見る雰囲気で呆れているカリストだが、あの学生にはモニカは見えていないはず。仕方のない態度だ。


「私は存在感が薄いので……。必ず私を見つけてくださる先生のほうが珍しいですよ」

「そうか? 俺の感覚では、モニカは誰よりも目立つが」


 不思議そうにモニカを見つめる彼のグレーの瞳は、思わず魅入ってしまうほど綺麗だ。


(先生の瞳には精霊が宿っているから、きっと昨日の精霊たちと同じ感覚で私を見ているのよね)


 精霊たちと出会ったことを、カリストに相談してみようか。

 彼自身も、モニカを聖女のような存在だと確信している。双方の考えを合わせれば、新しい発見があるかもしれない。


 けれど、モニカには前世の記憶があり、自分がゲームの中のモブであることもまた事実。

 それを覆すような発見があるとも思えなかった。


「それより先生。助けてくださりありがとうございました。お弁当が無事で良かったです」

「美味そうなものが入っているな」


 カリストはじっとバスケットを見つめている。精霊を通せば、中身が食べ物だということすらわかるようだ。


「助けていただいたお礼に、おひとついかがですか?」

「いいのか? それじゃ遠慮なく」


 モニカがバスケットの蓋を開けると、カリストはお腹が空いていたのか、嬉しそうにバケットサンドを取り出し口へと運ぶ。


「これは美味いな。モニカが作ったのか?」

「はい。切って挟んだだけですけどね」


 モニカが作ったと言える部分はソースくらいで、バケットを作ったのもハムを作ったのも料理長だ。


「いや。バケットの厚さと、具材のバランスが絶妙に良い。ソースのかかり具合も非常に俺好みだ」

「バケットサンドでこれほど褒められたのは初めてです」


 ルカが「美味い、美味い」と食べてくれるのも嬉しいが、カリストの感想はまるでコンテストの評価のようだ。

 実際、モニカはこのバケットサンドをこだわって作っている。


 バケットは縦長にカットすると、食べ応えはあるが途中で飽きてくるので、輪切りにして好きなだけ食べられるようにしている。

 挟める具材も、どこから食べても均一に味わえるよう大きさに気を遣っているし、ソースも全体にかかりつつも、噛んだ際にこぼれてしまわないよう細心の注意を払っている。

 このこだわりに気づいてくれたことが、とても嬉しい。


「そうか? なんならもっと食べてやろうか」


 カリストは食べ足りない様子。

 褒められたのは嬉しいが、これはルカに作ったもの。モニカは彼からの視線を遮るようにバスケットを抱きしめた。


「こちらはルカ様への差し入れなので、先生は一つだけですっ」

「それは残念」


 さほど残念そうに思えない声色を奏でつつ、カリストは最後の一口を口へと放り込んだ。


(また、からかわれたのかしら?)


 ルカのことで必死になっているモニカを見て、楽しんでいるようにしか見えない。これ以上からかわれる前に、さっさと退散したほうがよさそうだ。


「それでは失礼いたしますわ。助けてくださりありがとうございました」


 再度お礼を述べてから時計塔へと向かい始めると、後ろからカリストが呼び止めた。


「モニカ」

「はい?」

「俺も、顔には少々自信がある。差し入れならいつでも待っているぞ」


 からかっていたのかと思えば、どうやら本当にバケットサンドが気に入ったようだ。

 ルカに対抗してまで食べたいという熱意が、嬉しくも、おかしくて仕方ない。


「ふふ。考えておきますね」





 カリストに会ったおかげか気分も晴れたモニカは、いそいそと時計塔を登った。


「モニカ。会いたかったぞ」


 けれど、迎えてくれたルカの態度はログボ画面とは若干、異なるものだった。

 言葉こそログボ画面のそのままだが、腕を組んで不機嫌そうにモニカを見下ろしている彼は、どうみてもモニカに怒っている様子。

 怒っていたのはむしろモニカのほうだが、一体どうしたのだろうか。


「あの……。ルカ様、怒っていらっしゃいますか?」

「当たり前だ。お前、昨日は何て言った?」

「え……?」


 そう言われて昨日の会話を思い出したモニカは、一気に青ざめる。

 昨日は、一緒に授業を受けてほしいとモニカからお願いして、約束どおりルカは午後の授業にも出てくれた。

 モニカとしてはそれで満足のいく結果となったが、彼女を認識できないルカにとっては、モニカに裏切られた形となってしまったようだ。


「ごめんなさいっルカ様っ! 教室へは行ったのですが、その……」


 なんと説明したら納得してもらえるだろうか。モニカが困っていると、ルカは急に表情を緩める。


「なんだ。一応は努力したんだな」

「え? あ……はい……」

「怒って悪かった。今日の午後は、俺が一緒に教室へ入ってやるよ」


 良くできた、と言わんばかりにルカは、モニカの頭をぽんとなでる。


(ルカ様と一緒に教室へ?)


 もしそれが叶うなら、教室でもルカに覚えていてもらえるかもしれない。


「わあ! 嬉しいです」 


 モニカは期待を込めてうなずいた。




 二人でバケットサンドを食べてひと休みした後、午後の授業を受けるために二人は時計塔を降りた。

 そして出口の扉の前で、ルカはぴたりと立ち止まった。


「ルカ様?」


 どうしたのだろうかと呼びかけると、振り返ったルカは少し照れた様子でモニカを見つめる。


「手を繋ぐぞ」


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◆人物紹介◆

モニカ・レナセール
伯爵令嬢。乙女ゲームのモブ

カリスト・ビエント
教師・男爵家の養子。乙女ゲームの攻略対象(初心者用)

ルカ・フエゴ
公爵令息・騎士。乙女ゲームの攻略対象

リアナ
聖女・平民。乙女ゲームのヒロイン

ブラウリオ・ アグア・プロテヘル
王太子。乙女ゲームの攻略対象

ロベルト・スエロ
侯爵令息・宰相の息子。乙女ゲームの攻略対象

ミランダ・セーロス
公爵令嬢。乙女ゲームのルカの婚約者

ビアンカ・ソルダー
辺境伯令嬢。乙女ゲームのロベルトの婚約者

イサーク・リアマ
男爵・ルカの従兄。乙女ゲームの悪役

ルー
火属性の精霊

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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


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