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【三章】モブ令嬢の、幸せ推し活な学園生活 ~モブでしたが、女神として認められるよう皆と一緒にがんばります!~  作者: 廻り
第一章 『女神の再来』だと精霊に告げられましたが、それより推しに認知されたい
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01 与えられた役1


 貴族学園の多目的ホールでは、新入生を歓迎するパーティーが開かれていた。

 入学式の夜に歓迎パーティーをおこなうのが、この学園の伝統行事。

 きらびやかなドレスやタキシードに身を包んだ貴族令嬢や令息たちは、三年間の学園生活に期待を膨らませながら、友人作りに勤しんでいる。

 十五歳という若さも相まって、会場は賑やかな雰囲気だ。


 そんな晴れやかなパーティー会場で伯爵令嬢モニカ ・レナセールは、人生最大の注目を浴びて……は、いなかった。


「お前との婚約を破棄する!」


 これ見よがしに、浮気相手の腰を抱き寄せたモニカの婚約者は、会場に響き渡るような大声を上げた。


 しかし、その断罪劇に興味を示す者はこの会場にはいない。変わらず、楽し気な雰囲気が漂っている。


「……理由をお聞かせ願えませんか。えっと……」


(彼の名前はなんだったかしら……?)


 モニカは、ぼやっとしか思い出せないこの婚約者の名を、必死に思い出そうとする。

 けれど考えれば考えるほど思い出せないし、目の前にいるのに顔すら曖昧にしか認識できない。

 確か、伯爵家の嫡男だったような気はするが……。


 やはり思い出せない。

 そもそも彼とモニカは、婚約した際の一度しか会っていないのだから仕方ない。


「理由ならあるぞ! お前のような地味な娘が婚約者では、これからの学園生活を満喫できない! 俺は、華やかな彼女とラブラブな青春を送るんだ!」


 婚約者の隣で、浮気相手がうんうんとうなずく。


「そういうことですのよ。モ………………あなたは、おとなしく引き下がってくださいまし」


 浮気相手はモニカの名前を呼ぼうとしたが、どうやら思い出せなかったようだ。

 それはモニカも同じである。クラスメイトであるはずの彼女のことを、まったく思い出せない。


(入学したばかりだもの。仕方ない……わよね)


「だからお前との婚約は……あれ? 俺って、誰かと婚約していたか?」


 モニカの婚約者は途中で、婚約していたことすら忘れたようだ。浮気相手はぷっくりと頬を膨らませる。


「しているはずがございませんわ。私を浮気相手にするおつもり?」

「まさか……! 俺が愛しているのは君だけだよハニー。早く帰って両親へ報告しようじゃないか」

「あの……待ってくださいませ!」


 ほぼ赤の他人と言っても差し支えない相手に、見下されたにも関わらず、引き留めなければならないのは、モニカとしても悔しい。

 けれど、親同士が決めた婚約を勝手に破棄などできない。


「この件に関しましては後日、両家で改めて話し合いを……」


 そう提案しようとしたが、二人の目にはもはやモニカは映っていないようだ。それどころか存在すら忘れたかのように、モニカを無視してその場を離れてしまった。


(どうしましょう。婚約破棄はこれで、三度目(・・・)よ。さすがにお父様が、お怒りになるわ……)


 今までにも二度ほど、同じような理由で婚約破棄を経験している。

 一度目は幼い頃だったので、「こんな地味な子は嫌だ」と相手の男の子に泣かれ。

 二度目は、親同士が婚約の契約書を作成し忘れたために、相手はモニカを忘れ、知らぬ間に新しい婚約者を作っていた。

 さすがに三度目ともなると、父の面目が立たないではないか。


 モニカの父は優しいので大抵のことは許容してくれるが、父は騎士団長補佐官という立派な役職。娘がこれでは申し訳なさすぎる。


 モニカが途方に暮れようとしたその時。ひときわ輝くオーラを放つ者が、モニカの前に現れた。


「待ってくれないか」


 その声はさほど大きくもなかったのに、会場にいる皆が彼に注目する。モニカの婚約者と浮気相手も、同様に振り返った。


 輝く金髪とエメラルドグリーンの瞳を持つ彼は、ここプロテヘル王国の王太子、ブラウリオ・ アグア・プロテヘル。

 人当たりが良く穏やかな性格で、王太子という地位がなくとも、皆が彼を好きになってしまうような魅力がある人だ。

 

 一方的に婚約破棄を告げられたモニカを、憐れんだのだろうか。


 モニカは一瞬だけそう思ったが、単なる勘違いであることにすぐ気がつく。

 ブラウリオは、モニカなど目に入っていない。彼の視線はモニカの少し後ろに向けられていた。


 釣られてモニカも、その視線の方向へと振り返ってみる。そこには、この会場でもっとも愛らしいオーラを放っている女性が立っていた。

 アメジストのような紫の瞳が神秘的であり、ピンクの髪はふわりと肩の下あたりまで伸びている。


 彼女は聖女リアナ。

 平民の生まれだが、聖女としての能力を買われ貴族学園への入学を許されたと聞く。


「リアナ嬢。よければ、俺と初めのダンスを踊ってくれないかな」

「お誘いくださりありがとうございます、ブラウリオ殿下。ですが私は平民ですし……」


 彼女は、周りの視線を気にするようにうつむいた。

 聖女になったばかりの彼女は、貴族社会に慣れていないようだ。


「殿下。彼女が困っていますよ。職権乱用はいけません」

「俺はそんなつもりでは……」


 ブラウリオとリアナの会話に割って入ってきたのは、宰相の息子であるロベルト・スエロ。

 銀髪に青い瞳。眼鏡をかけた彼はぱっと見は地味だが、その存在感は王太子に勝るとも劣らない。


 彼は二人の元へと向かう途中で、勢いよくモニカの肩にぶつかった。モニカは「きゃっ!」と悲鳴を上げながらその場に倒れてしまう。


「おっと。失礼いたし……? 気のせいか」


 ロベルトはモニカに謝ろうとしたが、モニカの存在に気づけなかったようだ。


(いくら私が地味でも、ひどすぎるわ……)


 悪意がないだけに尚更、モニカのショックは大きい。

 けれど、大半の人間はモニカに悪意などない。彼女が目立たな過ぎて、気づけないだけ。

 いつもなら忘れられても軽く受け流せるが、今は婚約破棄からの立て続けなので心が回復していない。


 そんなモニカに、影を落とす者がいた。

 反射的に見上げると、モニカにとってはこの場でもっとも親しい相手が、彼女を見下ろしている。


「ルカ様……」


 ルカ・フエゴ。

 騎士団長の息子で、モニカにとっては幼馴染。

 ワインレッドの髪は、左側だけいつも耳にかけており、露出している耳には、見慣れないピアスが垂れ下がっていた。

 金色の瞳は、昔はくりくりと丸くて可愛かったのに年々、鋭さが増している。

 その切れ長の瞳をさらに細めて、ルカはモニカを見つめていた。


 他人から見れば睨んでいるように映るが、幼馴染であるモニカにはわかる。

 この表情は――、モニカを思い出せずにいる顔だ。


(……ひどいです、ルカ様)


 彼は幼馴染でありながらも、たびたびモニカを忘れる薄情な性格。

 そのくせ、モニカが作ったお弁当はいつも食べたがるような、ちゃっかりした一面もあったりする。


 婚約者に捨てられ、空気のように扱われた挙句、幼馴染にまで忘れられてしまった。

 モニカは恥ずかしい気持ちと、悲しい気持ちが入り混じり、この場にいるのが辛くなる。


 逃げるようにしてパーティー会場を出たが、その姿に目を向ける者は、やはりいない。

 そのため、モニカが階段を踏み外し、倒れ込む場面を見た者はどこにもいなかった。


 けれど彼女にとってその事故は、今までの人生でなによりも衝撃的なものとなる。

 物理的にもかなりの衝撃だったが、そのせいか、今まで忘れていた記憶が走馬灯のように脳内を駆け巡った。


 『走馬灯』などという装置は、この世界にはおそらく存在しない。

 モニカが、脳内を駆け巡る記憶を走馬灯のようだと感じたのは、その記憶の中にあった世界に、存在していた物だったから。


 モニカが思い出したのは、前世の記憶。日本人として生まれて、十七年ほど生きた記憶だった。


 そしてその記憶によると、この世界は乙女ゲーム『聖女と四人の守護者』に酷似している。


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◆人物紹介◆

モニカ・レナセール
伯爵令嬢。乙女ゲームのモブ

カリスト・ビエント
教師・男爵家の養子。乙女ゲームの攻略対象(初心者用)

ルカ・フエゴ
公爵令息・騎士。乙女ゲームの攻略対象

リアナ
聖女・平民。乙女ゲームのヒロイン

ブラウリオ・ アグア・プロテヘル
王太子。乙女ゲームの攻略対象

ロベルト・スエロ
侯爵令息・宰相の息子。乙女ゲームの攻略対象

ミランダ・セーロス
公爵令嬢。乙女ゲームのルカの婚約者

ビアンカ・ソルダー
辺境伯令嬢。乙女ゲームのロベルトの婚約者

イサーク・リアマ
男爵・ルカの従兄。乙女ゲームの悪役

ルー
火属性の精霊

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◆作者ページ◆

~短編~

契約婚が終了するので、報酬をください旦那様(にっこり)

溺愛?何それ美味しいの?と婚約者に聞いたところ、食べに連れて行ってもらえることになりました

~長編~

【完結済】「運命の番」探し中の狼皇帝がなぜか、男装中の私をそばに置きたがります(約8万文字)

【完結済】悪役人生から逃れたいのに、ヒーローからの愛に阻まれています(約11万文字)

【完結済】脇役聖女の元に、推しの子供(卵)が降ってきました!? ~追放されましたが、推しにストーカーされているようです~(約10万文字)

【完結済】訳あって年下幼馴染くんと偽装婚約しましたが、リアルすぎて偽装に見えません!(約8万文字)

【完結済】火あぶり回避したい魔女ヒロインですが、事情を知った当て馬役の義兄が本気になったようで(約28万文字)

【完結済】私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい(約13万文字)

【完結済】婚約破棄されて精霊神に連れ去られましたが、元婚約者が諦めません(約22万文字)

【完結済】推しの妻に転生してしまったのですがお飾りの妻だったので、オタ活を継続したいと思います(13万文字)

【完結済】魔法学園のぼっち令嬢は、主人公王子に攻略されています?(約9万文字)

【完結済】身分差のせいで大好きな王子様とは結婚できそうにないので、せめて夢の中で彼と結ばれたいです(約8万文字)


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