表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

一輪の花

 君の命は長くって、ぼくの命は短いだろう。

 一緒にいられる時間はそう長くない。

 君にとってぼくとの時間は、ほんの一瞬に過ぎないのかもしれない。

 だけど、その一瞬でも、君と共に過ごすことが出来たのならぼくは幸せだ。



 ――ぼくはこの大きなせかいに生まれて、そして、君と出逢った。


 ぼくが生まれた場所は草木の少ない土地だった。辺りには人間が作ったであろう物がたくさん散らばっていた。でも、どれも少し汚く、新品とは言えなかった。

 変なところだったけど、嫌いではなかった。空を見上げれば、綺麗な青色と星たちがよく見えた。


 ぼくが生まれて少し経った頃、雨が降らない日が続いた。根もあまり伸びていないぼくは水分を補給できず喉が渇いていた。

 そんな時、ひとりのロボットが近づいて来た。でも暫くこちらを見つめるとどこかへ行ってしまった。よくあることだ、とぼくは特に気にしなかった。


 さっきまでと同じように、空を見上げる。白く長細い雲が空を横切っていた。見ているとそれは移動していき、ある鉄の塊に遮られた。せっかくおもしろかったのに見れなくなって、少し残念だった。しかし、その鉄塊を改めて見るとさっきのロボットだった。わざわざ水を汲んで来てくれたらしい。……優しいのだな。

 たくさんの水がぼくの体に降りそそぐ。久しぶりのそれは体の渇きを充分に癒してくれた。


 ――その日から、そのロボットはずっとぼくの隣にいてくれる。水を汲んでくる時以外は、ずっと。



 夜になると星がよく見える。

「今日も綺麗な星空だね」

 ロボットはよくぼくに話しかけてくれる。だけど、花は喋れない。歩けないし、歌えない。だから、いつも君を眺めるだけ。

「『すき』って言いたくても言えない」

 って、ひとは言うけど、たった一言「うん」と言うこともできないぼくは、そんなことを言うひとたちが羨ましい。

 だからせめて、綺麗な花を咲かせようと思う。どんな花にも負けないくらい綺麗な花を。


 ――そして暫く経ったある日から、ロボットがぼくの側を離れなくなった。それはぼくのことを心配しているからなのか、どこか調子が悪いからなのかは分からなかった。

 だけど、少し心配になった。例えずっと一緒にいられなくとも、長い君の人生で、ぼくという花を思い出のひとつにしてくれればいいと思っていた。それなのに、もし君の方が先にいなくなってしまったら……そうなった君の隣で、ぼくはどうすればいいのか。



 星空の下で、君を見つめる。

 風が冷たくても、大きな君の心が温めてくれる。

 ふとこっちを向いた君が言った。

「明日には、花、咲くかな」



 ――空の色が明るくなって、太陽が昇り始めた頃

「綺麗……」

 向かい合って君が言った。優しい笑顔が、朝日に照らされてきらきらと輝いている。

「キミに出逢えてよかった」

 そう言って、そっとぼくに触れるその手は、せかいで一番優しかった。




 ――もう動かなくなった優しいロボットの隣で、朝露で煌めく一輪の美しい花が咲いていた。

読んでいただきありがとうございます。

次回、ロボット視点で続きます。お楽しみに(´꒳`)

よければいいねやコメント、お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ