8話
…
……
目覚めると、自分が既に目を開けていることに気づいた。
頭の芯がジンジンとしている。心地良い睡眠の余韻を感じつつ
トイレの扉をボーっと眺めていた。
今何時だろう。
「23時14分」
腕時計を見て時刻を確認してから
大きく伸びをする。よく寝た。深夜になるまで熟睡していたらしい。
まだ疲れが残ってるのに調子がいいという矛盾。
そのまま用を足して扉を開け手を洗う。
個室の扉を開けると
暗いトイレの手洗い場に人影。
当たり前のように傀儡がいた。思わず一瞬たじろぐ。
傀儡は酷く損傷していた。
夢ではなかった。
あの日。夕方公園で見た怪物。
その後のショッピングモールも。霧の中から現れた陸竜や
ヒト型エイリアン。
それを俺が傀儡にしたんだ……
俺の傀儡…
先ほど手を洗った蛇口を改めて捻る。
ちゃんと水は通っていた。
そうだ、街はどうなってるんだ。
トイレの換気窓の外側からクラクションが聞こえた。
外から。つまりバーの中のTVなどからではなく。
聞こえて来た車の音に意表を突かれた。トイレを出て壁際に急ぐ。
窓から外を見ると夜の通りをライトをつけたセダンが走っていた。
なんだそれは。車どころか
交差点周りの店はほとんど閉まっていたものの、歩行者までいる。
戦闘後の破壊されたショーウィンドウや車も何もない。
まるで悪い夢でも見ていたかのように忽然とすべて消えてしまっていた。
いや、首を横に向け
もう一度ヒト型エイリアン傀儡を見る。本物だった。作り物なんかじゃない。
傀儡のボディに触れてみる。確かな感触。
エイリアン感がやっぱりある。エイリアン感が何かは知らないが。
のっぺらぼうで口はあるけど目が無く、歯は人間より明らかに鋭い。
銀にも見える灰色の肌で毛が無くて無駄な脂肪は無く瘦せていて猫背。
筋肉質でもある。
力は人間とは比べ物にならないことは身をもって知っていた。
左手に意識を持っていき動かすと
エイリアンの銀灰色の左手も連動するように動いた。
次に口に意識を向けて指先を動かす。エイリアンのゆっくりと口が開けられ
より鋭利な歯がむき出しになった。これを自由自在に動かせるのか。
俺が…? 凄い。それはあまりに現実離れしていた。
圧倒される。
ちょっと待て、この店は何故人がいないのだろう。
月曜と火曜は休業日か。入口の近くにあったポスターに書いてあった。
今日は月曜だよな。
普通の世界に帰ってきた?
じゃああの世界は? 異世界? 傀儡もついてきたのか?
返した方がいいか? どうやってだよ。
とりあえず瞑想する。
適当な椅子に腰かけ、両手の指先と指先を合わせる。
とにかく親指と小指同士さえ合わさっていればいい。
目の焦点、呼吸、額と頭頂部の肌、耳、音、脳の感覚に意識を移してゆく。
少し落ち着いてきた。
よし… 問題に少し向き合おう。
さて、まずこの傀儡。
こんな化物連れて歩けるわけがなかった。
大騒ぎになるに決まっていた。
傀儡を見ていると、一瞬脳裏に映像が浮かんだ。
幻視===
傀儡 分解
===
見たイメージは映像でもあり、文字のようでもあって。
見ているのか感じているのか
それすらも判別がつかないような物。
人の心が温かくなっているのをオーラというか雰囲気で感じることがあるが
それも似たようなもので見ているのか感じているのかはたまた
両方なのか良くわからない。その感覚と似ていた。
人によってはそういうもの感じないみたいだが。
身体の電磁力フィールドに敏感な個人とかっているんだろうか。
目の前の傀儡に分解と命じてみる。
傀儡がそのまま崩れて床に散らばった。
バラバラになった部位はそのまま灰になって
その中に結晶残されていた。小指の爪ほどの大きさの結晶。淡い緑色。
あのヒト型の核だということが何故だか理解できた。
持っていこう。出る前に
店内を見回していると監視カメラを発見。
こんな光景記録に残して大丈夫なのだろうか。
何も盗らなければ確認しないと思うが。
窓から出ていって家に帰るか、ここの鍵なんて持っていない。
開けっ放しで出たら確認されるかもしれない。どうするべきか。
そうだ、だから窓から出るんだった。
ていうか俺の車どこだ? ショッピングモールか。
窓から出る前に手に持った結晶を観察。
幻視===
異界獣 ヒト型 核
===
用途が良くわからない。
用途…
左手に意識が向く。
「傀儡師の左手」
傀儡師の左手は対象を傀儡化できる。
傀儡化できるのは死んだ生き物か意識がほとんどない状態のもの。
もしくは自ら同意した場合と精神的に俺に降参したもの。
まだ生きてる存在も傀儡化した時点で「傀儡」という存在になる。
「傀儡」は俺が操作する。俺が操作できる数には限界がある。
「傀儡」は成長する。
「傀儡」は生きている場合もしくは霊魂があれば、自立した意識や自我を保てる。
操作が楽になる、ただし傀儡化しにくい。魂の同意が必要。
「傀儡」は死んでいる場合、霊魂が無い場合。操作の負担が多くかかる。
「傀儡師の糸」は操作距離の限界がある。糸が切れると傀儡は放置される。
放置された傀儡は時間経過で霊気が抜けていってしまう。傀儡が損傷、弱体化し始める。
糸が切れるときは強烈な痛みを伴う。
大体こんな感じだろうか。
真夜中に交差点のバーから
ショッピングモールに向かう。
隠形を使い姿を消して走っていく。
隠形の習熟度があがり、
今では実際に気配だけじゃなく見た目も透明人間かというほど周囲に紛れられた。
音もなく時速80キロ以上出しながら走っているのにも関わず
まるで疲れなかった。10分以上過ぎても。
ほどなくしてショッピングモール駐車場に到着して車を確認する。
やはりあった。ショッピングモールの入り口はやはり無傷。
なんの破壊の形跡もない。
勿論あの巨大蜘蛛もイヌ型も餓鬼も。車は
もう駐車場が閉まっているから出せないけど、明日取りにこよう。
家に帰り、2日ぶりにシャワーを浴びた。
とりあえず生き延びたんだ。それだけで充分かも知れなかった。
寝る準備をしつつ改めて自分の部屋を眺める。
帰って来れたんだな、本当に。放心状態。
よかった… 意識が落ちる前にそう思った。
朝起きて瞑想をした。
冷たいシャワーを浴びてPCでニュースを確認するが何もない。
ただしあの公園で死体が見つかったこと。
行方不明者および大型野生動物に襲われたと思われる死体が
今月だけで10件以上も
見つかったというニュースはあった。
一体どうなってるんだ…
世界がおかしくなっていってるような感覚。
ふと鏡をみると
体つきが以前よりたくましくなってる。
全身の細胞がくまなく筋肉に行きわたっている感覚。
無駄な贅肉は削ぎ落され、分厚い筋肉が身体を覆っていた。
もともとジムでトレーニングはしてはいたけど。
ここまでではなかった。たった数日での
体つきの変化もこの異常な身体能力の説明には全くならないけれど。
風呂場で軽くシャドーボクシングをする。
恐ろしい速度で拳が繰り出される。
矢を放たれても問題なく掴めてしまいそうなほどだった。
……通常の人類の動きではない。
腕立て伏せ。
片手、指一本でも全く負荷を感じない。指も痛くない。
背筋力で足を浮かせて指だけで、逆立ちでなく、床と平行に。
空中腕立て伏せが出来た。4本の指で地面を押すと体がふわっと浮いた。
鏡の前で隠形を使う。
身体が透明に。気配も恐ろしく希薄。
カメラを持ってきて撮ってみる…
写真でも見るのが困難なほど溶け込んでいた。
動画でもだ。これは完全に人間離れしていた。
改めて自分が麻痺していたことに気づく。
ちょっと待て。
普通の世界に戻ってきてるけれど、色々凄まじい能力を体に宿している…
梅昆布茶を一杯飲んで自分を落ち着かせるしかなかった。
はぁ、やっぱこれだわ…
考えるのを止め
湯呑を洗って外へ出る。
ショッピングモールに車を取りに行く。
また隠形を使って走っていくとすぐについた。
車をまじまじと見るが、やはりあの蜘蛛にやられた形跡は何もない。
あの世界でのダメージは反映されない?
でも人間の死体は?
どのくらいの死体があった? 3百くらいだろうか?
それが多いのか少ないのか俺にはよくわからなかった。
あの世界にいった人間の数は意外とそこまで多くなかったのかもしれない。
思考してる最中に何気なく、携帯をみると午前10時半だった。
あ! そうだ、ついでに携帯を新しくするか。
適当なものでいい、どうせたいして使わない。
携帯を新しくした後。
すこしショッピングモールで買い物してから
陸竜がいた例のジャンクションに車で足を運ぶことに。
アクセサリーや雑貨を扱ってる店に入り、宝具作成に使えそうな素材を買ってみる。
合計3百ドルほど。
店を出た時に人があのバーにカギを開けて入っていくのが見えた。
後を追って扉をノックする。
「はい?」
20代後半くらいの男が出てきた。
傀儡師の左手から糸を出して男の頭部に刺してみる。
「すいません、このバーについて聞きたいことがあるんですが、中で話してもよろしいですか?」
「ハイ、イイデスヨ」
中に入りこの店儲かってますか? あなたの名前は?
などと色々一時的に操作してこの店のオーナーだという男を質問攻めに。
ギリギリで傀儡化しないでもできると思ったがやはり操作できた。
霊力の差がかなりあると、こういうことも可能なのか?
バーの店長は
コバヤシというらしい。顔立ちは整っており雰囲気は柔らかい。
日本人で俺より少し年下。下戸で
趣味は節約。ペットにフェレットを飼っているらしい。どうでもいいけれど。
監視カメラのデータをコバヤシにに消してもらう。
これで一息つける。
傀儡糸をつかってコバヤシに色々ためしていく。
簡単な命令などは解除しても続くみたいだけど操作しているときの
記憶がぼんやりとあるようで
不自然すぎることには首をかしげていた。
用は済んだので自分の家に帰って買ってきたものを整理。
あとコバヤシに感謝のチップを少しだけ渡しておいた。
コバヤシは何度も首をかしげていたけど。
雑貨屋で買ってきた素材はクリスタルにチェーン、翡翠、
タイガーズアイ、鳩時計。水。小さな観葉植物。
タロットカード。
などなど。
こんなもので何ができるかわからないが。
早速傀儡師の左手以外に手に入れた技「宝具作成」を試す。
素材をみていると自然と手が動くクリスタルと翡翠を両手にもって合わせる。
と2つの素材が変形していく。
チェーンも合わせる。
翡翠とルチルクオーツが合わさって親指大の少しだけ陰陽を
彷彿とさせるデザインのものになった。
それにチェーンが合わさってペンデュラムとなった。
ペンデュラム…
振り子か。
宝具完成
翡翠とルチルクォーツのペンデュラム
脳裏にイメージが浮かんできた。
===
触 媒 占
===
このペンデュラムかっこいいけど。
触媒に占い…
どうやって使えばいいんだ。
チェーンをもって揺らさずに話しかける。
精霊よ、どういう風にこれをつかえばいい?
あ、YESかNOで聞かないとだめか。
「教えてくれスピリット、これは俺に何をしてくれる?」
ペンデュラムが不自然に動いた。すぅと滑るように。
一瞬視界がジャックされたような感覚。
白と深く暗い赤が混じったようなイメージが視界いっぱいに広がる。
幻視===
AN K H
===
?
アン ケ…
アンク? ああ、そうだ。
あのアンク何処へやったっけか。
たしかポケットに。
家に帰った時にシャワーを浴びて……
そうだパンツをそのまま脱ぎ捨ててそのままにしてた。
とりあえず、ankhを取りに行き机の引き出しの中にしまって服を洗濯。
@@
RENEE
週末。
住んでいる都市から車で2時間半ほどのところにある田舎に来ていた。
お伽話に出てくるような雰囲気の森の中。
知り合いが使わない別荘があるから、
もし掃除してくれるなら使っていいとのことで訪れた。
ちょうど休みたかったし。
私としては渡りに船だった。
もう、あの異常な世界からこの元の世界に戻れて1週間が過ぎたんだ。
何処かで一人休みたかった。