7話
ヒト型エイリアンの大きく開いた口から筒のような器官が顔を出す。
鈍い音と共に陸竜の身体がびりと硬直した。
至近距離で陸竜の頭部に撃ち込まれた弾丸は
並みの拳銃とは全く比較になりそうもなく。ヒグマも一撃で仕留められそうな
威力だった。
しかし、陸竜を仕留めるには足りない。
鱗に覆われた巨体は一瞬硬直したもののすぐさま反撃に動いた。
人間サイズの前腕が高速で振るわれ、眼前の敵を捉える。
ヒト型が地面に叩きつけられゴム毬のようにバウンドした。
勢いのままに竜はもう一発、と前足をヒト型に叩きつける。
前足をたたいた反動で前腕を戻した直後、
陸竜が恐ろしい速度で首を伸ばしヒト型に噛みついた。
牙は思いのほか小さくやはりコモドドラゴンにそこは少し似ていた。
何度も噛みつきなおしている。
ヒト型は竜に咥えられながらぐったりとして動かなくなっていた。
化け物同士の一騎打ち。
軍配は陸竜に。凄まじい戦いだったが
それよりもどうやって逃げようか。
思案していると。
交差点の向こう。霧に包まれていて見えない場所に意識が向いた。
何か来る’……
!
なんだ? 霧のカーテンから
強烈な霊気の気配。
霧の向こう側に目を凝らしていると、鈍い音ともに
陸竜の方へ何かが放たれた。
複数のヒト型。数は7。
霧の中から現れ口筒から射撃。
陸竜がヒト型に顔を向け吠えた。
低音でGURURURURUというような鳴き声だった。
ライオンや鰐の鳴き声に近い。
高ぶっているのか霊気が歪んでいるように見える。
ディストーションをかけたような歪で力強い咆哮が
空気を力強く揺らした。
陸竜が口にくわえていたヒト型を放り投げ、
7体のヒト型に再度咆哮を浴びせる。耳がビリビリする。
放り投げられたヒト型の体は俺の隣の建物屋上に落ちた。
チャンスかもしれなかった。
霊気をもらいたい。行くなら今行ったほうがいい。
感づかれないように慎重に。気配を消しつつ視界にも入らないように注意して
隣の建物に飛び移る。ヒト型の亡骸を見つけた。
霊気が体から抜け出ていくように立ち昇っていた。
首に手を当てて霊気を吸い始める。
霊気を吸収してみると
やはりヒト型は俺よりも強かったのがハッキリと理解できた。
気配を殺しつつじっくりと霊気を吸うことに集中。
頭がジンジンするが、お構いなしに吸い続けた。
段々頭がグワングワンしてくる。
霊気酔い。
そのまま少し余韻に浸る。
力がみなぎっていることに気づく。それはまるで
一瞬前までの自分にもう共感することは敵わないというような気分だった。
大きな成長の感覚。
イメージが浮かんでくる
===
人間 → 仙人
固有技 8つの世界
===
? 何か聞こえた…
いや、見えた? わからない。
無理やり言語化しようとするならば自身が進化したような感覚。
===
仙人
技能 1 取得可能
===
頭にイメージが浮かびあがって来る。
===
・忍び歩き?
・呼吸法?
・手品師の指?
のようなイメージ
===
なんだ、これは…
どれか選べる? 技能…
手品師のイメージが気になる、忍び歩きのイメージも無視できない。
こっちがいい気がするぞ。
でも無理だ。どうしても手品師の指が欲しい。
ていうか本当に取得なぞできるのか? あまりにも虫のいい話。
疑ってしまう。
-----手品師の指を取る
選択したイメージが浮かんできた。
==
固有? アビリティ「8つの世界」?から 祝福が送られます?
==
また妙なイメージ。
祝福なにそれという感じだが。
===
所有技、隠密モードに 7の世界?と8?の世界から祝福?
隠密モードは技「隠形」に進化。
所有技、霊気操作に1の世界?、3の世界、4の世界?、5の世界、8の世界、7の世界、6の世界からの祝福。
霊気操作は「仙人の呼吸」に発展。
所有技、手品師の指に1と8の世界から共に祝福が与。
また7の世界、3の世界、6の世界から1と8の世界の祝福に強化因子提供。
滑り込ませる。
スキル手品師の指は「傀儡子の左手」に変質。
===
大量のイメージが断片的に瞬時に脳裏を駆け抜けた。
おぉ、ちょっと待て! 全然ついていけない。
隠形…
それに他にもあるけど。
言葉がでてこない。
とりあえず瞑想しよう…
あ、ちょっと待ってこれ
いきなり完全に使いこなせる感じではないぞ。
いや当たり前か。
瞬間
脳内に電気がバチッと流れかのような感覚。
続けざまに交差点の方から
巨大な岩が地面に衝突したような重い音。
陸竜! そうだ、どうなっている?
屋上の縁から僅かに顔を出す。
陸竜がヒト型を前腕で叩きつけ、噛みつこうとするところだった。
その周りにはズタボロになったエイリアン達。
もう6体倒している。もう残り一体。
槍を持っている個体が残るのみ。しかし陸竜も相当弱っていた。
双方相当に疲弊している。最後のヒト型も陸竜も動きが鈍い。
ちょっと待て。新技「隠形」を使用する。
今までより更に気配が消失したのがわかった。
いやどちらかというと溶け込む感じか。
それは自身が世界と同化しているかのような感覚だった。
腕をみると光学迷彩?
身体が透明になっている…
「仙人の呼吸」自然に特殊な呼吸法になる。
霊気の動きが今までよりずっと鮮明に見える。
すごい今までとは全然違う。
ソフトウェアどころかハードウェアごと変わったんじゃないかというくらいの違い。
陸竜の霊気の動きヒト型のもだ。今なら手に取るように解る。
そして「傀儡子の左手」…
何も考えず、それを自然と実行していた。
指先から細い金色とも銀色とも判別しずらい糸。
左手指先と指の腹の間あたりから出した煌めく細い傀儡糸を
そのままヒト型の頭部のほうへ飛ばす。
糸が接触するやいなやそのままヒト型を傀儡化する。
―――ヒト型傀儡化成功
ヒト型の意識の抵抗がほんの少しあったが殆ど気にならなかった。
残りのヒト型の体力などが自然と理解できる。
左手の指と傀儡が連動。
なるほどな。
これは傀儡を操作している間左手は他のことにはあまり使えない。
もしくは要練習。
ヒト型を「傀儡子の左手」で操作し陸竜と戦闘を再開。
陸竜の攻撃をひらりと無駄のない動きでかわしていく。
さっきよりも明らかに動きがいいヒト型に陸竜が苛立つ。
低音の鳴き吼える。
このヒト型個体の槍。これを差し込みたい。
まず相手の噛みつき攻撃の前の挙動を覚えた。
もう一度噛みついて来るまで待つ。
噛みついて…来なかった、逆に陸竜は予想してなかった挙動を一瞬見せる。
このタイミングで尻尾で払おうとしてきた。攻めたかったが我慢。
そのまま何度か攻撃を避け続ける。
そして…
来た。
同じように避けるが今度は槍が目に届く距離になるように避けて槍で目を抉る。
陸竜の左目がつぶれた。
怒りとともにさらに激しい動きを見せながらも
すぐにもう一度同じような動き。
回避して目が有った箇所を今度は更に深く突いた。
巨大生物が激しくのたうち回った。
巻き込まれないように回避しようとするが
尾が当たった。衝撃でヒト型が吹っ飛ぶ。
傀儡の体力は残り少ない。
近くにあったヒト型の仲間の亡骸をあちこちの建物に放り投げさせる。
屋上から屋上へと飛び移る。
一つに近づき霊気を吸った。
途端視界が波のようにぐにゃりとうねった。
頭がクラクラする。傀儡操作しながら霊気を吸うのはマルチタスクすぎる。
焦らずに、焦らずにやろう。
一度攻めは諦めて一定の距離を保ちながら守りに専念した。
じっくりやればいい。
最後の骸を傀儡化したヒト型に吸わせる。
抵抗がすこしあるけど問題ない。このヒト型は俺にもう降伏している。
主だと認めている。
「ヒト型。完全に屈服しろ。そのほうがやりやすい。」
一気に操作感が上がった。OKが出たんだ。
傀儡の霊気の吸収も良くなった上、
俺がこのヒト型の骸から得られる霊気の質まで良くなっている!
そうこうしてるうちに陸竜の攻勢を激しさを増していく。
これ以上傀儡に吸わせてられない。
あまり回復できなかったが仕方ない。
俺が持っている蜘蛛の槍に仙人の呼吸で練り上げた俺の霊気をまとわせる。
陸竜がヒト型をとらえようと集中している所。傀儡に攻撃を躱させることだけに集中。
竜が攻撃の前に残った右目で傀儡を睨みつけながら今まで以上に大きな咆哮を放った。
ヒト型を陸竜の顎が捉える寸前。
その瞬間。
建物屋上から陸竜の頭上まで跳躍した。
蜘蛛の槍を竜の左目の傷から脳にまで届くよう全力で突き入れ
仙人の呼吸で槍の先にまとわせた霊気を爆発させた。
生々しい破壊音。自身の下にある巨大生物の呼吸が止まった。
大量の霊気が放出される。緊張の糸が切れ、膝から落ちた。
ぼうっとする意識の中
陸竜の腹を背に座りこみ瞑想しながら霊気を吸った。
まただ。強列な霊気酔い、今度は頭痛も伴っている。
脳内で地震でも起っているかのようだ。
疲れたな。
顔を少し上にあげると
無事だったヒト型傀儡が自分を守るように立っていた。
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仙人 ----- 成長
技取得可能
・壁歩き
・怪力
・占い
・道具作り
===
またイメージが浮かんでくる。
この中から2つ選べそうだった…
正直迷う、それに忍び歩きとかはどこへいった?
呼吸法もない、似たようなスキルあるから必要ないってことなのか?
それとも一度逃したらもう無理?
前者であることを祈りたい。というか疲れた。
どうしよう、直観的には占いと道具制作が気になる。
というかこんな世界で生きていかなくちゃならないのなら、
道具作りは喉から手が出るほど欲しい。
壁歩きは正直気になるけど、怪力も。
直観で決めよう。
占いと道具制作だ。
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占い取得
道具制作取得
固有アビリティ8つの世界から祝福
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まただ…
毎回良くしてくれるのか?
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占い 1の世界と8の世界から祝福。6の世界協力。
占い 技「幻視」に変化。
道具作りに5の世界と6の世界が祝福。
道具作り「宝具作成」に。
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はぁ…
どうおもっていいものか。
なにがなんやら理解が追い付かない。
強くなっている。幸い。
それよりも本当に疲れた。こんなイメージ相手にしている場合じゃない。
いや相手にしている場合かも知れないけど。報酬…は、欲しい…
あ…、まずい。
強烈な眠気…
一生分のイベントを一日で経験したような
精神的な疲れと襲ってくる眠気が気が合うじゃないかとタッグを組み
恐ろしいチームワークを発揮しているようだった。
目の前のバーによろよろと入りそのままトイレのほうに入り便座に腰掛ける。
傀儡をトイレの前に立たせた所で意識が落ちた。