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ダブルサイココライド ーSaga of Puppeteer ー   作者: KJK
5章 放浪の弟子と誰もいない世界
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2話



背後に気配。

振り返ると廊下側から人が顔を出していた。


「あ、よかったぁ! 人がいる!

私、人がいなくなったんじゃないかって

不安になって誰かいないか探してたの。」


矢継ぎ早に話しかけてくる。


浅黒い肌の鷲鼻の女。矢継ぎ早に話しかけてくる。

ぼさぼさの黒髪を適当にまとめていて、鼻にかかったような

品があるように見せかけようとする声の出し方の奥に獰猛な何かを感じた。


獲物を物色しているかのような

目つきでこちらと周囲をギョロギョロと見る。

この倒れている女性について話を触れもしない。


「この女性が倒れてたんです、救急車呼べますか?」

「あー。可哀そうに。私もさっきスマホを見たのよね。

でも呼べないの、ネットも電話も繋がらなくてぇ…」


女は芝居がかった調子で言った。

あまり見た目のいい女ではない。


声の出し方や話し方がやたらと気取っている。

その割には格好はまるで図書館に来るような人種には見えない。

汚いTシャツにホットパンツ。趣味の悪いタトゥーがあちこちから見えている。

喋り方と振る舞い、目つきに意識の向き先。全てがチグハグだった。


こいつ何かオカシイ。


「あたしはこの人を背負って外で誰か助けを呼びに行きます。」

「あ、そうなのね。いい判断だと思うわ。

私はここでちょっと用があるから手伝えないけどごめんなさいね。」

「うん、じゃあ行きます。」


女性を担ぎ図書館出口へ歩き出す。

話は終わったのに。用があるからといったのに。

コソコソと後ろからついて来る。


出入り口にあるカウンターに差し掛かった時。

背後でマナが騒いだような感じがした。

振り向くと三下の悪魔に憑りつかれたかのような醜悪な表情を浮かべた

あの女がハンマーを振りかぶって飛びかかってきた。


ハンマーを避けながらカウンターで右ストレートを女の耳の下のあたりに叩きこむ。

女が地面にもんどりうって倒れる。

足で女の悪魔の顔のようなタトゥーが彫られている腿の下

膝小僧を踏み砕く。膝が壊れたであろう手応えと共に叫び声。

司書の女性を脇に置く。


女は痛みから、ガッ! とタンを吐く前にだすような汚い音をだし、即座に

獣のようになりふり構わない感じで掴みかかろうとしてきた。

キシャァ! などと動物じみた声を上げている。

顎を蹴り上げ、仰向けに倒れた女の右手を掴みひねり上げながら肩を脱臼させる。


そのまま再度引っ張りあげて、一本背負いで

図書館受付カウンターのほうへと殺人鬼(仮)を投げ飛ばす。

頭部を掴んで殺人鬼の顔を4、5度と、

カウンターの角に叩きつけた。


女は白目で泡を吹いていた。

血まみれの顔面でわかりにくかったが気を失ったようだった。

髪を掴んで図書館外へ引きずっていく。


司書の人を連れていくか、迷ったけれど。

念のため一度外の安全を確認してからの方が良いかも知れない。


図書館の外に出ると

あたりは黄金一色で包まれている。

水上公園がある閑静な住宅街。


見渡すが人も車もない。恐ろしく静かだ。

ハチとエリザベスも見当たらない。

外で待っていたはずなのに。

何で? また世界を移動してしまった?


一度図書館に戻り安全そうな2階の小部屋にテントを作成する。

そこになんとか応急処置を施した女の人を寝かせる。

あの犯人の女をまた掴んで部屋から出て図書館の外に出る。


もう少しまともな手当てしないと。

いや、この犯人の女じゃなくてね。


えーとガーゼとか、消毒液とか痛み止めとかでいいのかな。

そうだ! マジックアイテムDIYで何か作れるかも。

素材さえあれば…


どこか近くの病院……

ちょうど近くに町医者のクリニックがあるはずだ。

行ったことないところだけど見かけたことがある。

何処かの路地の2階まで階段が続いてる建物。2階に入口があって。

1階は薬局だっけ。


図書館から出て歩き出したときに


「ちょっと待って! ねぇ! ちょっと待って! どこへ行くの!?」

女が目を覚ました。


「うるさい、黙って。」


女は全力で抵抗して、体重をかけて私を引き倒そうとする。

見っともない綱引きみたいだった。

だがびくともしない、あたしの身体能力は常人の比じゃない。


あたしの力のほうがはるかに強いとわかるや否や。


「誰かぁー!! 助けてぇー! 誰かぁ! ギャァァー!」

大声を上げ始める。


女の首を締めあげて黙らせると、

まだ動かせるほうの左手でタップしながら降参したと見せかけて

すぐに左手をあたしの顔に伸ばして目潰しをしてきた。


こいつ、最低な奴だ。


手を受け止めて握りつぶす。

そのまま指をすべてへし折った。


ギャァヤヤー!!!! と絶叫を出して痛がる。


殺人鬼の喉をつぶして、殴りつける。

道路のガードレールを超えて民家の壁に当たるまで転がっていく。

そのまま殺人鬼はぐったりとした。


と道の向こう側から人が出てきた。

人と遭遇するとは思ってなかったのでびっくりする…


ステッキを持った背の高いコートの老紳士。ハットを被っている。

老人は此方を落ち着かせるような雰囲気を持っていた。

老人がこちらに歩いて来る時

世界がスローモーションになったように感じた。

まるで夢の中に居るみたいだと思った。


そのままこちらに歩いてきて…


ー図書館はこっちかな?


と聞かれる。


はい、と答える。

逆光で顔がよく見えない…

眩しい…


老人はありがとう、お礼にこれを…

と言ってポケットから何か取り出してあたしの手に置いた。


___人間の耳


心臓が跳ね上がり、叫び声をあげそうになった。

ギョッとして老人を見ると相変わらず顔が見えないが、優しい雰囲気で

よく見てごらんとでもいうように私の手の平に視線を落とした気がした。


もう一度手を見るとそこにはダイス。


黒に少しだけ赤が混じったような色の小石ほどの

大きさのダイスがあった。8面体のダイス。


再度びっくりしてお爺さんを見ると目の前から老人は消えていた…


左手に嫌な存在を感じてみるとさっきの女が足をガサガサ動かしていた。

苛立ちと嫌悪感が一気に沸き立つ。

こいつは野放しにしてはいけない。いやそれも正当化しようとしているのかも。

こいつを殺すことを。さっさと始末したい。


それより今あった出来事はなんなの。

あのお爺さんは一体…

夢じゃなかったよね。


手を開くと中には8面体のダイスがしっかりあった…


不思議な素材でできている。

重さや感触がすごく落ち着く、初めて触ったのに何故かしっくりくる。

趣味の道具をもっといいものに変えたときに

新しいのにしっくりくる感じ。


その後も住宅地を歩き回るが人気がない。八もエリザベスも。

クリニックと薬局を見つけて応急手当てに使えそうなものを

図書館に持ち帰る。


道中で自分が掴んでいるこの女に意識が向いた。

そろそろ本当に邪魔になってきた。どうするべきなの。


警察もいない。どうしよう。もう気がおかしくなりそうだ…

近くの民家に勝手に入る。やはり誰もいない。

私が殺すか、それとも逮捕するの?

こんな動物みたいな殺人鬼をどこに縛り付けておけばいいんだよ!

そんな余裕はない。


太陽が地平線の向こうへと沈もうとしていた。

霧が僅かに漂い始める。

民家の中にあるコードや業務用テープをガレージで見つけて殺人鬼と思われる女を

電柱に括り付けておく。霧に飲まれればいい。そう思った。


もう日が沈み始めている。

図書館に入って司書の人の様子を見にいく。

マジックアイテムDIYで作った包帯で応急措置。


トイレにいく。少し一人になりたかった。


「今度は世界から人がいなくなっちゃった…

八もエリザベスもいない。これからどうしよう…」


久しぶりに一人で泣いた。

意外なことに世界がおかしくなってから初めて泣いてることに気が付いた。

涙しながら壁に頭の側面をつけてぼーっとする。


もう何も考えたくなかった。

何も気にせずに眠りたい。

眠気がゆっくりと襲ってきてそのままトイレの床に崩れ落ちながら眠りにつく。


ダイスがポケットから落ちたことにも気づかず。

そのまま転がり、ダイスは1の目を天井に向けて止まった。



……



本当に深く眠れた時の脳の感覚を目が覚めて最初に感じた。


最初に良かったとおもって次には

ぐっすり眠れて嬉しい、気持ちいいと思った。

ようやく休めた。


トイレの床で自分が寝落ちしたことを思い出す。

あの女性のことを思い出してパッと

顔を上げるとそこは見覚えのない場所だった。


「暗い…どこ? 洞窟?」




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