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ダブルサイココライド ーSaga of Puppeteer ー   作者: KJK
4章 Witchery  魔女と湖畔の街と革命の鐘
37/53

8話


湖畔の町 ペアマウントシティ


明朝。

今は湖西ペアウエストと湖南アップルヘッズの間。

デッキに出て朝日を浴びて寝転がっている熊を抱きしめる。


オスカーを背もたれにして座る。

傷の治療を始める。


呼吸を一定に。

酸素が鼻梁から額を通って脳にいきわたる様に

イメージ。体内を流れるマナと呼吸が一致し始めるような感覚。

手の平を胸の前に持ち上げる、マナが少しずつ溢れて出す。

シャンパンの中の気泡のように立ち昇るエネルギーの粒が

水のように変質。びちゃびちゃと液体の形をとって動き出すと

ハンドウォッシュの泡のように変化。


水魔法の治癒の泡を肩に当てる。

通常の人間の回復速度を超えて細胞が修復作業をしているのがわかる。

焦っているわけでは無く、ただ人間離れしていっているのだ。

傷自体はもうほとんど直っている。夜には全快するだろう。


オスカーに寄りかかりながら目を瞑る。

最近は無理してばかりだった。


体を休ませてやりたいけど

何かしなければ、という

罪悪感や強迫観念に近い感情が湧く。


学生の頃、一番勉強してた時期は何もしないと

苛立ちのようなものを感じて

それが嫌で勉強している時があったけれど。

その時もこんな感じだったかもしれない。


結局いてもたってもいられず。いつの間にか

ウイッチクラフトでアイテム作りを始めていた。


魔女のモロトフ、狂気の煙爆弾、

魔女の薬草団子、魔女の毒リンゴも……


船をアップルヘッズに着いた所で

休もうとしていたはずなのに、全然休んでいないことに気づく。

船を降りて休憩所で反省。


良くない捉え方をしないほうが良いな。

適当でいい。もっと楽に。

やるべきことと、やってみてもいい簡単なことだけ書きだして

後は知らない。それでいいや。


濡れタオルを目の上にかけてソファで仰向けに寝て過ごす。



***


人が建物に入ってくる気配で目が覚めた。

何時の間にか寝ていたようだった。


気配がソファに向かって来ている。


顔に掛かっているタオルを取ると

イーヴィーだった。

試作した魔導ランチャーで試射会をしたいらしい。


弾薬は私のモロトフやボムを加工して作成。

弾薬を作るのも時間がかかる。私のアイテム以外にも材料がいる上、

弾薬自体も劣化するし、短期間しか保存できない。


制作者(イーヴィー)の予想では1週間も持たない。

なので領土から産出するマナで維持コストを

払って肩代わりするようにしたいらしい。


確かに領土から得られる魔素は使い道がありそうだった。

まだやり方は分からないけれど。出来るかも。


船で沖に出て試射。続いて街中でもゾンビが

少ないエリアを探して試し撃ちをした。


弾薬は火炎弾と発煙弾の2種類。

効果の方は両方とも「実用に耐えうる」を超えていた。

少数のゾンビを使って実際に

狂気の発煙弾を浴びせても効く事も確認できた。


魔導ランチャーは生き残った人間を

保護して働いてもらう際にも

役立つ。精神的に自分も楽になる。




==魔導ランチャー


射程 約100m~180m

効果範囲 着弾点から半径数m

威力   申し分ない程


予想以上の兵器。


特に射程距離。


私の魔法は射程がそこまで長くない。

他の能力者や敵にも言えることで……


威力も申し分無し。


これなら二人でも弾薬さえあれば

遠距離から魔物と戦える。弾の装填には3、4秒はかかりそうだし。

エイリアンなどは200mくらいの距離は

10秒もあれば距離を詰めて来る。

安易に2人を危険には晒してまで使う気は無い、なので

使える状況は限定的なものに留まるだろうけれど、それでも凄い。



「40mm WHEV・F」火炎弾と

「40mm WHEV・B」狂煙弾。

WHEVは魔女の、エヴァンジェリカの

という意味らしい。


途中で雨が降り始め試射会はお開きに。屋内に戻る途中。

施設入口にルーシーが魔導ランチャーを抱えて来た。


「これで、あたしも役に立つから!」


真っすぐ目を見てそう言う。

うん、と頷くと自室へと戻っていった。


イーヴィーも仮眠を取りに行った。昨夜は中々

寝つけなかったらしい。

力に目覚めたばかりだし、興奮してたのだろう。


***


2人ともいなくなった。

窓の外を見るとぽつぽつと雨が降り始めていた。


寝ようかと思ったが、寝付けない。

スペルブックに魔法を込める作業をしておく。


途中でルーシーが魔導プログラムの練習にラウンジに

やって来たので魔法のコストを下げるような

コーディング出来ないか聞いてみる。


難しい顔が返ってきた。

そんなに簡単じゃないらしい。

魔法のコーディングはかなり練習しないと

使い物にならないかもとのこと。


慣れるまであまり期待しないでとルーシーに言われた。


一日30分を何回かに分けていこうと提案。

まぁ、時間がかかるものってある。

無駄に焦らせないほうが良いかも。


コーディングは成功しなくても

魔法を感じたり書き込むためにマナを消費するようで

確かに大変そうではあったが

何処かで慣れていないだけだろうと思っていた。


一度スペルブックの作業に戻り、キリの良いところで休憩。


まだ作業しているルーシーに目が行った。

コーディング中、彼女のマナが垂れ流しになっているように

消費されていたのを見ていて心配になる。

思った以上に無理させている気がする。


ーごめん、ちょっといい?


声をかける。

ルーシーと話し合ってその日の夜には

練習は一回につき10分までに変更。むしろ制限する。

本人も相当に疲れているようだった。


「ありがとう。ごめんね… なかなか思うように出来なくて…」

「いや、いいよ。少しづつやっていこう。」


「うん!」


2人の力の共通点は根気よく時間を使って

効果を発揮するタイプの力な気がする。

一歩ずつ前にさえ進んでいるかだけ

確認していこう。


さて領土を得れば霧が晴れるのはわかった。

仲間も出来た。力もつけて成長もしている。


次の目的をどうするか。

何が私たちの欲しいものなのか…

安全、生き残ること。生活レベルの向上、安心できる環境。

霧は晴らしたい、ゾンビはいなくなってほしい。

あの巨人も嫌い。


幻視で見た言葉、映像。

ちょっと前に脳裏に浮かんできたイメージを思い出した。


戦争、革命……

一帯を治めているあの巨人とゾンビの軍に対しての革命?

何で私が?

そもそも私は地元を確認するために

通りかかっただけなんだけど。


でももうWitcheryは結成した。


あのネフィリムを倒してここら一帯を私の領土にするか、

あの巨人に殺されるか。逃げるという選択肢も。

使い魔と2人を連れて……

州都はここより安全なのかな。どうだろう。

楽観的過ぎるような気もする。


あの死体の軍勢の積極的な攻撃性。

統率もとれている。

私と戦って平気で逃げることを選べる不気味な巨人。

放っておいたら、どうなる。

世界中の生き残りの人間がゾンビに?


今アイツらと戦って勝つか、

それとも世界中アイツの

ゾンビになってから戦って勝つか。


今、戦ってみるか。

今、勝ってみるか。


「よし! あのでっかいヤツ倒しちゃうぞ!」


二人に早速目的を伝えよう。


***


明朝。ペアマウント湖 船内にて



本格的に敵勢力に対し、

どう攻勢を仕掛けていくか会議を開いていた。


「何か案はある?」

「特に無し!」

「なるほど。」


「ルーシーは?」

「うーん、あまり思いつかないけどゾンビは無視してもいいのかな?」

「良くないと思います!」

前のめり気味に挙手してイーヴィーが言う。


「なんで?」

「なんとなく!」

どや顔で自信満々に言う。


「ふざけてますか? イーヴィーちゃん?」

「いいえ! でも次からちゃんとします!」

「ありがとう。」



とりあえずそこもだよね。ゾンビを無視したら? ボスだけ倒したら?

巨人に制御されなくなったゾンビは

勝手に増えていくのかどうか。

ネフィリムさえ倒せばいいのかは重要だった。


目をつぶって長い息をつく。

ネフィリムをもう一度探し出して叩くか。

それともゾンビを減らすか、領土を取るか。

領土を切り取れば奴も弱くなるのだろうか?

いやゾンビが弱くなるのかも。


ネフィリム、あの巨人ともう一度戦うのは気が引けた。

しかし手負いの今がチャンスでもある。

何が正解なのかは分からない。

けれど何もせずに回復の時間を与えるはない。


ヤツがどのくらいで回復するのか、

もしくは致命傷を負ってて本調子には

もう戻らないのか。予想がつかない。


ただゾンビとずっと相対してきてハッキリと分かってきた事がある。

ゾンビは回復しない。

そう、生き物のように回復したりしないのだ。


当たり前のようだけど。

昨日も意図的にゾンビの足を落としてきた、

移動が困難になっても変化無し。工夫も何の対策も無い。

ゾンビ同士で協力することも無い。


しかもゾンビは少しづつだけど腐っていっていた。

中には体が明らかに脆い個体もいる。


あとはエネルギー総量があるっていうこと。魔眼で見えるのだ。

ゾンビは何か食べてても僅かしか自身のエネルギーに変えられていない。

動きが殆どない個体も、そうなっていく個体も確認。


やはりゾンビは使い捨てでかつ消費期限がある兵士だ。


この動く死体の軍勢は…

生き物を襲うことに積極的だけど理由があるんだ。

ゾンビは常に他の動物や敵を感染させて拡大させていかないと

時間経過でどんどん弱くなってしまう。


ネフィリムからすると私たちは懐に入り込んだ忌々しいネズミ。


そうだよね。

もしこの仮説が正しいなら。

この軍勢は一定のスピードで感染拡大、

領土拡大しなきゃいけない縛りがある。

それが出来なければ弱体化、タイムオーバーまであるかも。


内に向けて時間を使っていられない軍勢なのだけど。

今も私たちは相当数の軍勢を外に向けるのを邪魔している。

出来る限り早く排除したいはず。


チェスで言えば、敵の駒を自軍に加えられるが

数ターンで駒が消えていく軍勢。

しかも獲った駒だけじゃない。

王以外の自軍の全ての駒が消えていくんだ。

私たちは盤外からやって来て駒を倒しては逃げる厄介すぎる敵駒。


ネフィリムからすれば私たちは少人数で

一晩のうちに大量のゾンビを奴らの領土内で

倒したあげく逃げおおせた侵入者。


アイツは早急にこのネズミの問題を解決したかった。

だから急遽大軍を編成して差し向けた。だが逃げられた。


それが今度は自分の隠れ家の地下室にいきなりやってきて

モロトフを何発も投げ込んできた挙句、ならばここで始末しようと

自ら追いかけようとした結果。

奴は霧の中に突っ込んでしまって

霧の中の存在から深刻なダメージを喰らわせられた。


こんな奴らが領土内にある湖の西側を領有したってこと、

放っておけるはずがない、私ならどうする?

私ならできれば時間をかけずに倒したい。


ん? ふと何か引っかかるものを感じた。

指を唇に当てながら考える。

領土、弱くなる……


ん? もしかしてイーヴィーが領土から産出されたマナで

弾薬の保管や維持をしたいと言っていたように奴らも?

何かを維持している? まさかゾンビを? 


いや違う。ゾンビは実際に劣化している。身体自体じゃない。

ということはゾンビ化した軍団を動かすエネルギーなどだろうか。

身体は維持できない、もしくは保存期間の

延長位は出来るのかもしれないけれど。

餌代わりにマナを上げているのかも。


奴らの領土の大きさ全体はまだ掴めていないが

無制限にに生き物をゾンビ化して動かしてられるほどの

エネルギーが産出出来るとはとても思えない。


それで良さそうだ。

領土を切り取っても、時間を掛けても奴らは弱くなるはず。





ネフィリム軍 領土面積 58㎢

Witchery 領土面積 6㎢


幸運なことに、アイツらから見たら

最悪なことをもう私たちは既に出来てる。


ただ今は。


……秋なんだよね。

冬はネフィリムにとって追い風かもしれない。

ここの冬はそんなに過酷ではないし、

夏よりゾンビにとっては良いだろう。

あちらからすれば弱体化までの時間稼ぎにはちょうどいい。


今いるゾンビたちはどのくらいで

腐りきって使い物にならなくなるのか。

2、3か月以上? 下手したら4、5か月? 

普通の人体よりも全然維持できる可能性はある……

観察した限りだと結構ムラがあって推測しにくい。


あ、それに人間の体とエイリアンとかじゃ期間も違うかもしれない。



慎重に出来ることをやっていこう。



まずは使い魔候補だ。******************


候補が2匹。

サラマンダーと魚。

種類は不明。


前に見たサラマンダーを見つけた場所へ向かう。

小さな滝がある林。滝つぼ近くの岩で発見できた。


契約成功。


魚は失敗、暴れられた。

良いなと思ってた人に避けられたような気分になる。

まぁ、仕方ない。


使い魔となったサラマンダーはステイシーと名付けた。



ーーステイシーが使い魔になりました。

ステイシーの位階上昇可能。


やります。


>>>サラマンダー ステイシーは魔獣に進化。

固有アビリティ「???」が発動、進化に干渉。


>>念動魔獣ステイシーに変異。



==

ステイシー

念動魔獣 レベル1

技:念動力



ステイシーは私のまえでふわりと浮遊しリラックスしている。

彼女は念動力で自身や物体を浮かせたり、動かしたり出来るみたい。


滝つぼにある岩などを浮かせるように頼むと難しそうだった。

拳大の岩なら出来た。投擲も出来る。

速度は80キロくらいか。物体を掴める射程は10mほど。

投げれば3、40m位はマナを込めた石を飛ばせるか。


ミネルヴァやオスカーと比べて戦力としては期待できないけど

使い勝手の良い力かも。


ステイシーを連れアジトへ戻る。


2人はオスカーとミネルヴァと共に

中州のキャンプ場。そろそろ夕食の準備を始めているはず。

着くころには日が落ち始めていた。


新たな使い魔を紹介し、

イーヴィーが釣ってくれた魚をみんなで串焼きにして食べた。


昔両親が釣りにつれていってくれて

そこで釣った魚をこうやって食べたりしたんだ。とイーヴィーが言って

ルーシーが私もと言った。


私はそんな思い出はなかったからいいなぁと思った。




____翌日


船内。


夜明けを待たずに準備を始める。

扇動個体の位置や数をチェックして置きたい。

それに扇動個体を減らし続けたらどうなるのかが知りたい。

補充されるのかな? どうやって?



ペアマウント湖の周辺は小さな町のようなエリアがある。


南に「アップルヘッズ」

東に「ペアグローブ」

北に「キングス・クリフ」

ここら一帯は全て巨人の領土と見て間違いない。霧が晴れているからだ。

ペアマウントシティの外には霧が相変わらず漂っている。

キングスクリフの北には霧は見えなかった。

という事は北にまだ領土がある。


地図で確認すると北には

ペアマウントシティと近い規模の都市がある。


ちなみに西のほうをずっーと行けば州都。

世界的にも名の知られていた大都市、私の地元。


***



空が白々と明るくなってきた。


中州から橋を渡り、キングスクリフへ。

扇動個体を見つけ出して狩る。

扇動個体が狩られても付近のゾンビは反応無し。

意外と大雑把にしか把握できてない? 使い捨ての兵士達のなかで

誰がやられただとか、詳細に把握しないか。


扇動個体を4体ほどキングスクリフで狩っていく。

ここで街全体のゾンビの群れに変化があった。


散らばっていたゾンビが群れを成して街を練り歩きはじめるように。

イヌ型エイリアンゾンビなども出てきた。

鼠探しを始めている。

扇動個体がどんどん減るとさすがに気づくようになってるのか。


一度船に帰還。


午後にはキングスクリフの町に戻って観察。


2百ほどのゾンビの群れがキングスクリフ湖畔にたむろしていた。

集団が大きくなっている。

それぞれ群れていたゾンビの集団が合わさった感じ。


ミネルヴァに上空から見てもらう。

そこまでゾンビの数は増えていないが、午前中と数が合わない。

外から100体以上追加されている。


どのようなルートで徘徊しているのかも確認。


その後はモップに乗って空から「アップルヘッズ」の南へ。

学校の屋上に降り立ち、改めて町を眺める。


あの日以来だ。

あれからアップルヘッズの南側へは来ていなかった。


学校校舎。

イーヴィーやルーシー、オスカーに出会った場所。

亡者の群れから逃げ出した場所でもあった。



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