7話 WITCHERY結成
人型の中、射程が他のよりも長いのがいた。
多くのヒト型は口から筒を出して弾を放つことが出来るが
有効射程は15mほど。それ以上は一気に奴らの弾に込められた
魔素が四散し、攻撃力を失う。
少なくとも自分のような魔力を多く宿す存在に対しては。
身体の周囲に纏うマナと体内を血液の如く循環する2層の防護は
通常の拳銃の弾などでは痛いとすら感じない。
その人型の弾に肩を貫かれた。
射程が70m以上あるような個体がいたのだ。
魔物やエイリアンも個体ごとに違う
個性を持つことを失念していた。
肩から出血してる…
体内で魔素を練り上げ止血するように動かす。
ほんの少しだけマシになった。
こういう技術も練習しなくてはいけない。
速度を落とさないように進むと
市街地を抜けて緑道に出た。
木々に挟まれるようにしてアスファルトの道路が続く。
幻視===
チャネル 魔梟
===
目がチカッとして視界が切り替わる。物理的に目に映る視界と
少しずれて重なるように見える自分のものではない視界。
上空から自身を見ている、鳥の視点の映像。
ミネルヴァだ。相棒の使い魔と合流出来た。
これで回避や立ち回りが大幅に補われる。
ミネルヴァ自身は敵に索敵されないように注意。
一人称の自分の瞳と上空から俯瞰する梟の瞳。
互いに呼吸を合わせるように、同時に魔眼を発動。
4つの瞳が一体となり、先ほどまでの自分が
枷を付けていたのではないか、と思ってしまうほど。
索敵、隠密、精度、タイミング、判断、回避、先読み。
全てのパフォーマンスが別次元に引き上げられる。
上空から魔力をサーモグラフィのように可視化。
人型エイリアンゾンビが何匹か追ってきている。
先ほどと同じ個体が適当な方向へ何発か放った。
まぐれ弾が一つ。此方へ。
着弾直前まで引き付けて瞬間。身を僅かにひねって回避。
今の自分ならこんな芸当も出来る。造作も無く。
緑道の坂道を駆け上がり
ペア・グローブはずれの森に入る。
霧があちこちに漂っていた。
背後から急接近する巨大なマナをミネルヴァの目で捕捉。
凄まじい勢いであの巨人が突撃してきた。
回避。
ヤツが体勢を崩し転んだ、瞬間。
通り過ぎざまにネフィリムの耳元に杖を当て
マナを全力で破裂させる。
手応えはあった。
奴は上手く止まれずに盛大に転がって
その巨体で木々をへし折っていく。
すぐさま起き上がってきたが、足取りが怪しい。
効いているんだ。
森の中を駆け回りながら対応。
ネフィリムは以前より確実に突進の精度が狂っていた。
三半規管が破壊出来たかもしれない。
が、執拗に突進を止めず。
こちらに休む暇を与えてくれない。
こいつ持久力も化け物だ。
巨木を間挟むようにしても樹ごと破壊して突っ込んでくる。
木が木端微塵に。
回避している間に増援にオスカーが現れた。
ネフィリムにルーンフィールドを発動。
巨人の体重を軽くして前腕で殴りつけた。
そして巨人はまるで蹴飛ばされた
ボールのように吹っ飛んでいき濃霧の中に。
霧の中でネフィリムの不気味な声。
奴の息が早くなっているような声だった。
霧の奥から低くしゃがれた叫び声。
化け物のひと際大きな絶叫を最後まで聞く気はなかった。
急いで使い魔達とこの場から離れる。ペアグローブの
泊地の近くまで着くと霧がすこし漂い始めていた。
===幻視
霧払う 領主 領土 自領宣言
宣言? たまに見る無意識の映像。
自分の領土だって主張すれば霧が入り込みにくくなる?
どこからどこまでを自領宣言できるのか土地に線が見えた。
私が選択するの?
この町全体は領土化出来ない。
でも一部は切り取れはする。どうする?
その時、爆発と共に閃光が視界の端に見えた。距離は十分ある。
建物の一部が崩壊。霧の中から脱出して来たであろうあの巨人だった。
傷だらけの巨人、ネフィリムは此方を一瞬見て正反対の方へ走り去った。
ミネルヴァが上空から確認するも街はずれ
から出ていった所で見失う。
警戒は解かずに泊地へ帰還。
疲れたな…
肩も撃たれたし、体も打ち身だらけ。
今はただ休みたかった。
あんな化け物がいるのなら、この町にいるかぎり気が休まらない。
小鬼だらけの街のほうが遥かに安全。
泊地の休憩施設に入るとボロボロの
私を見て出迎えた二人が固まる。
一通り起きたことを説明、続けて領土の話も。
「じゃあ、領土を宣言して得られれば霧に対抗できるってこと?」
ルーシーが反応する。
「ううん。まだ、ハッキリとはわかんない……」
「やってみようよ!」
ルーシーが意気込む。
「いやいや、ちょっと待って! 何も考えずに宣言して大丈夫なの?」
イーヴィーは慎重になったほうがいいと言った。
リスクがないなら練習がてらやるのはいいけどあるなら話は別になる。
問題はリスクがわからないということだ。
領土をゾンビに責められて失ったら強制的に領主も死ぬ、とかならすっごく問題。
いやそれは考えすぎか。極端すぎる。流石にないだろう。
ゲームじゃないんだから、生きてる限りゲームオーバーにはならない。
そして何となくわかった。
恐らくあの巨人、ネフィリムも領主なんだ。
ネフィリムが行方をくらましたのは…
このペアマウント湖の周辺地域がヤツの領土だとして
領土をとられるリスクより自分の安全を優先した。
チェスで言うならばキングは領主で領土は盤面。
大丈夫だ。それでいい気がする。
最悪、ネフィリムみたいにこっちも逃げてもいいんだ。
そっか。あれだけ執拗だったのに、あそこで
逃げたってことは……
霧の中の存在にやられて相当弱っていたのか。
ネフィリムは霧の奴には勝てない。
重傷を負い、命からがら逃げだした。
逃げられそうなら逃げて仕切り直したかった。
思った以上に私は奴を追い詰めていたんだ。
その線で良さそうだ。OK。
領土宣言をする。何処がいいだろう。
ルーとイーヴィーに相談。
「場所に関してはわかんないけど。船を使うならマリーナとか湖とか?」
「はい、提案! あの中州の辺りは? もしくは湖自体とか面白いかもです!」
イーヴィーが湖自体と言った。湖を領土化できるの?
目で見てみるとどうやら出来そうだ。湖のほとんどは領土化可能。
橋が架かっているキャンプ場がある中州も組み込めそうだし。
ただ広範囲過ぎて最初から全部は切り取れない。
ミネルヴァに湖周辺をひととおり見てきてもらい
湖北西と南西にかけて領土化することに決める。
それとイーヴィーから嬉しい知らせ。
「そっちが悪いニュースばかりだから、
このイーヴィーちゃんが良いニュースをあげようかなー。」
「良いニュース?」
「そう! あたしのスーパーな能力が目覚めました!」
特大のプレゼントを持ってきた
使いの者のような誇らしげな表情で言った。
【魔導機械職人】
素材を集め変化、加工して魔導機械を制作。
それが彼女の力らしい。
マリーナ周辺のボートや車を素材に戻し
様々な金属板やインゴットのようなものを作って見せてくれる。
「このコードとか鉄板とか歯車みたいなのは?」
「組み立てるんだよ!」
「え、これ? 何を組み立てるの? どの位時間がかかるの?」
「さぁ、それは物によるだろうね!」
ーでもでも! もう一つは組み立てておいたからね!
とドヤ顔で言って親指を立てヨットを指さした。
あれ? 今までのヨットじゃなくなってる。
泊地に来てからずっと施設で領土やネフィリムの問題を話していて
私たちのヨットがこんなに改造されていたのに目がいかなかった。
魔法に耐性がある防御装甲が付いたらしい。
なるほど。あとは預けておいた魔女のモロトフや
狂気の爆弾などを弾薬化して
それを飛ばせるランチャーも作れるとか。凄い!
「弾薬はもうできたけど、ランチャーはあとちょっとだね。
今日中には出来ちゃうよ!?」
それすごい!
「これで2人も戦えるじゃん!」
「でしょ!? でもあたしは作るの専門だから出来るだけ戦わせないでね?」
戦いはプリティじゃない野蛮人がした方がいいんだから、ほんと頼むよ?
と不安そうに呟く。
ルーシーは気合が入ってるようで。
「やってやる!」と意気込んでいた。
早速船に乗り込み、アップルヘッズの中州のほうまで行く。
「OK、じゃあ領土宣言するよ!
勢力名はWitchery。」
体中の細胞が活性化する、こそばゆいような感覚。
世界がより鮮明に。
全身のマナが脈打ち始め、うっすらと額に汗が浮かぶ。
自身の変化に土地のマナが共鳴していくのが分かる。
湖の土地が自身と繋がる。
辺りに見えていた霧が、どんどん晴れていく!
何処からともなく鐘の音が聞こえ始めた
と同時に湖の下で巨大なマナが渦を形成。
湖の水面から短剣を握った白い手。高純度の魔素で出来ている手だった。
女性の手が短剣を握って真っ白な腕だけを水面から突き出していた。
アーサー王みたいだ。この腕はこの土地が形をとったもの?
箒に乗って腕に近づきそれを受け取る。白金色の短剣。
短剣のガードが長く十字のようなデザインになっていて、
柄には鎖が巻かれており小さな鐘がついていた。
鐘つき十字短剣……
手は湖に沈んでいきマナも気配も消失。
短剣に意識を戻すと、振動し
私の手を離れ一人でに動き
胸を突き刺すように体の中に。
びっくりするが危険はないことも理解出来た。
この短剣が私を傷つけることはない。
短剣を思うと右手に自然と出現する。
--------------
勢力 Witchery 領土面積(6㎢)
領主 ルネー
構成員 2人+2匹
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短剣が輝きだす。
―ペアマウント湖西側エリア及び周辺領有
成長
===ルネー
魔女 レベル7→8
領主 レベル1
使い魔:魔眼梟 月の怪物
固有技能:???
技:魔眼
チャネル 魔女の呼吸 ウィッチクラフト
隠密行動 水魔法 箒乗り 魔女の呪文書
―skillとアビリティが取得できます。
以下の中から選んでください。
・空中機動変化
・滅びの矢
・使い魔3
滅びの矢。これをとる。
ネフィリムみたいな敵と戦うなら火力が要る。
幻視===
領土 因子 カラー 選択
===
十字短剣から領土への影響を与える因子を選べというメッセージが
伝わって来る。
自分の色を勢力につけるってこと?
どうやって?
「???」は?
だめみたい…
えーとじゃあ、使い魔は?
OKだった。それ以外にも一気に
いろんな情報が頭に流れ込んで来た。
頭がフラフラになる。
ーー小規模勢力Witcheryに使い魔使役の因子が植えられました。
使い魔スロット増加。
人間を使徒化可能。
領土が減ると使それとミネルヴァも成長。
===ミネルヴァ
魔眼梟 レベル3→4
技 魔眼 感知する魔梟の耳 チャネル
回避の心得 暗殺鳥 透明化new!
透明化を取得。
ミネルヴァには私のサポートに徹してもらいたい。
徒と使い魔は恩恵が一定量失われます。
領土が増えれば逆に使徒も使い魔も恩恵が得られます。
簡易使い魔使役 使用可能
明確に格下の生物と簡易契約。
対価はLMP=ランドマナパワー
***
なんか色々あった。
溜息をつく。気が抜けて湖の中に落ちる。
ずぶ濡れになって、何とか箒で船まで戻る。
やばい、疲れた。……めっちゃ疲れた!
着替えて休もう。
船内で少し休んだ後
2人に領土のことや使徒化のことを説明。
2人とも使徒化してもらっていいみたいだ。
使徒化:魔女と繋がりが出来る。技能の協力などに補正。
魔女、使徒、勢力の成長次第で更なる成長の可能性も。
===使徒 エヴァンジェリカ
魔導機械職人 レベル1→2
技 「魔導機械作成」
使徒化の恩恵:素材加工速度UP 組み立て速度UP
・魔導機械の青写真取得
イーヴィーは更に青写真を獲得。
===使徒 ルーシー
魔導プログラマー レベル1
魔導プログラミング
***
ルーシーも使徒化と同時に力に目覚めた。
魔導プログラミングは面白そうなアビリティで魔法に干渉できる。
ただ干渉できるといってもその場で自由自在に出来るものではなく
時間がかかる。
その代わりコーディングした魔法は自分で意識的に
操作しなくてもプログラムした通りの動きをする。
コード自体は呪文のように印が羅列されたもの。
魔法言語とでもいえばいいのか、分からないけれど。
言葉はもちろんPCを使うのではなくルーシーの魔力を流した素材で
書かれる。早速明日からルーシーの素材探しも始める。
この能力を使用すれば
例えば、私の水球→ウォーターカッターという魔術の連携を
ルーシーがプログラム出来た場合
水球の後信号を送ったら→ウォーターカッターが自動で発動する
というようにわざわざ自分で操作しなくていいようになる。
はず…多分。
改良出来れば魔法のコスト節約が可能になる。はず、多分。
柔軟性とその場その場での操作性は犠牲になる。
魔導ランチャーの弾薬と組み合わせることに成功すれば
力に目覚めていない人間が魔物たちに
対抗するための武器が完成するかもしれない。
ルーシーは魔法が使えないので
私の魔法が込められた弾薬の改良から始めることになるだろう。
何にせよ湖の西側の霧が払われた。
これで水上からペアウエスト周辺を自由に行き来できるようになった。
制限が少なくなるのは気持ちがいい。
ようやく少し安心できる。
すごく眠くなってきた… 本当に。本当に今日は疲れた…
興奮して能力の話を夢中でしている二人にお休みを言って
船の寝室で眠りについた。
WITCHERY:魔法のような、魔術、魅了、魅力、魔法の技
当主:ルネー
構成員:イーヴィー、ルーシー
使い魔:ミネルヴァ、オスカー
滅びの矢:
要詠唱時間。連続使用は術者に負担がかかる為リーサル推奨。
大威力魔法。




