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ダブルサイココライド ーSaga of Puppeteer ー   作者: KJK
4章 Witchery  魔女と湖畔の街と革命の鐘
34/53

5話 人は迷うもの


増援を呼ばれる。


思わず走る速度が落ちた。


「ねぇ! ねぇ! おいってば!」


私の肩越しにイーヴィーが何か言っている。


「なに!? 」

「だから停泊所にい行って!」


肩に担がれながらイーヴィーが声を大きくする。


「なんで!」

「あたし船を運転できると思うから! 徒歩で逃げるよりいいよ!」

「それ早く言ってよ!」

「いや、わかんないから! 免許ないし!」

「じゃあ運転できないの?!」

「おじさんのヨットとかなら運転させてもらったことあるの!」


「OK!」

 

ヨットハーバーのほうへ向かう。

路地と障害物を利用しながらゾンビが少なくかつこちらを追いかけづらいルート

を使う。ミネルヴァと共に調べていたのが少し役立った。


実際にゾンビとの戦闘を必要最小限に抑えながら

無事停泊所に到着できた。


「このモーターボートの上におろすからね!」

「多分モーターヨットだよ!」

「そんなの知らない!」



イーヴィーとルーを船の上に降ろして周囲を警戒しながら索敵。

近くに潜んでいたゾンビをミネルヴァがカギづめで始末した。


船の方ではイーヴィーが手間取っている様だった。

ルーシーが青ざめた顔で何かぶつぶつと呟いている。


私はゾンビたちがいつここに集まって来るか気が気ではなかった。

船から少し離れた位置で敵を迎え撃った方がいいかもしれない。

早くしてくれ! と内心声を上げながら空にミネルヴァを飛ばす。


「エンジンはかかんないの!?」

「ちょっと待って!」


上空からの映像。

大通りからも路地からもゾンビが集まって来ていた。

何でよりによって、こちらへほとんどのゾンビが来ているんだ!

時間がない! 


「無理言ってるのは分かるけど早くして!」


もうすぐ奴らが来るよ! というと二人とも緊張が走ったように

びくっとした。


思ったより大きな船、外洋とかも航行出来そうな船。

ただ古そうだし大丈夫だろうか。

ルーはイーヴィーと運転室に。


ゾンビが水を避けるのなら

停泊所から少し離れたところまで押し出せれば

時間も稼げるかもしれないし、状況もマシになるか。

最悪動かなかった場合のことを考え始めていた。


額にぽつぽつと水の粒が当たった。


雨が降り始めた。

動く死体達が姿を見せ始める。

もう停泊所の外周は囲まれている。船から離れた場所に位置を取る。


「イーヴィー!」


船に向かって叫ぶ。


―まだ! もうちょっと待って!


遠くから声が聞こえてきた。


戦闘を開始。

停泊所に入り込んできた個体を始末するために

狭い泊地を駆け回る。オスカーとも連携。


ゾンビは増え続ける。

対処しきれない数に囲まれるまで後どのくらいだろう。

兎に角二人が乗っている船に近づけさせてはいけない。


動く死体を始末し移動するたびに障害物を道に設置。

戦場を少しでもマシな状態にしたい。


イーヴィーに「まだ!?」 と声をかけると「まだだよ!」

と返って来る。かくれんぼを連想した。

もう私はゾンビには見つかってしまっているけれど。


頭を振って現在に意識を戻す。

目の前のゾンビ2体を倒した時、先ほど倒したと思った死体がいきなり動いた!


直ぐに反応して再度頭部を破壊。びっくりした……

絶対噛まれないようにしなきゃいけない相手。確実に仕留めて行かないと。

この数を相手に? 頭にそんな言葉が浮かんできた。 

自信がなくても、やるしかない。


雨はぽつぽつ降っていたのからザアザア雨に変わっていた。

服はずぶ濡れでへばりつくシャツが不快だった。

 

倒しても倒しても敵の数は増えていくばかり。

一体多数との戦闘は小鬼たちでもう慣れた。

ゾンビとの戦闘もある程度コツはつかめてきてる、

でもペースに気を付けなきゃ。


使い魔のオスカーとの連携も慣れて来た。もっと指示を出さないと…

暴れる場所を指定する為に小さな霊気の花火を信号代わりに飛ばす。

足場とか障害物も使って…


数分で20体以上のゾンビを葬る、が

停泊所近くに3百以上のゾンビの群れが到着。


泊地に入ってくる前に

ミネルヴァに燃える水と魔女のモロトフを渡して投下させる。

前ほどうまくいかない。ゾンビが以前よりも散らばっているし

雨も強くなってきていた…


予想以上に倒せてない……


「コブラ! こっちのほうを足止めして! そっちはいいから!」

もうオスカーじゃなくてコブラ呼びするほど

あわただしい状況に。



その時。エンジンがかかった音がした。

ようやくだ!


「イーヴィー! よくやった!」


2人が乗っている船があるほうへと駆けていくと……

船が発進し始めている。


まずオスカーを乗せてって!


……え?


岸から離れすぎている!


「おい! 何やってる!」


そこにはルーがイーヴィーの首にナイフを当てて船の中からあたしを見ていた…

ルーの口が動く。何か言っていた。


「死んでよ、人殺し」


他にも何か言ってるけど聞こえない…


「殺さないでっていったのに! 強いし全然余裕そうだったのに!」


とかそんな感じか。

お父さんをあたしが殺したからか。


知らないけどね。アンタの気持ちなんて。

人殺しはアンタだけどね。自己投影しないでよね!

心の弱いヤツ! 最低なやつ!

 

もし私が生き残ったらお前殺してやるから。

お前みたいなやつに優しくなんてしなきゃよかった。

人に優しくして後悔させないでよ!!


「ルーシィィィー!! 」

憤怒とともに声を荒げる。


自分の目から光が消えていくのを感じる、久しぶりの感覚。

でも。諦めないし、投げやりにもならない。

絶望もしない。あいつは後で絶対殺す。


切り替える。


足手まといが居なくなってよかったじゃん。

私はまだ大丈夫。今からでもオスカーを

置いてけぼりにすれば箒に乗って逃げられるけど。


あたしは見捨てない。


よし!

もう土砂降りだし、ほんとにさ。

泣いててもどうせこんな雨だし別にいい。


「気合い入れるぞ!」


両手で頬を打つ。

オスカーを逃がせるルートを梟に探してもらいながら敵から逃げ始める。

泣きながら。


「あんなやつ、助けなきゃよかった… 」


生き残った人間同士だからとか、こっちのほうが強いからとか。

そんなことで責任感感じて!

もう二度とこんな間抜けな目に合わないぞ。

もう自分をこんな目に合わせないぞ!


もう敵に意識を向けよう。やたら強いゾンビがいる。

ヒト型エイリアンのゾンビ。数は少ないけど

他のゾンビとは比べ物にならないほどに強い。


こいつらに囲まれたらオスカーは危うい。人間やゴブリンだけじゃないんだ。

ゾンビが人間という先入観でオスカーを

突っ込ませてたらヒト型にやられてたかも。



@@@



疲れた。もうどのくらい倒しただろう。

どのくらい経っただろう…

まだ自分が泣いているのに気が付いた。


その時エンジンの音が聞こえてきた。


あのヨットがこちらに近づいてきて

ルーシーが何か大声で言ってる……

泣いていて、謝っているように見えた。


ああもう!

オスカーを何とか抱きかかえてほうきに乗る。重い!

上空10メーターにもいかない。

あのヒト型エイリアンの射線に入らないようにして

魔熊に防御を任せる。


その毛皮で盾役をやって!

自分より少し大きな熊を抱えたまま

スペルブックを左手に出して飛行スピードを上げる。


ミネルヴァはヨットに羽ばたいて行って

ルーシーの首を足で掴み、地面に押さえつけている。

私も岸の近くに来たヨットにオスカーを降ろして、自分も降りる。


ぐしょぐしょの上着を脱ぎ捨てながら

ミネルヴァにルーシーを解放するように言う。


ルーシーが地面に押さえつけられながら。


「私が間違ってた! ごめん、どうかしてた! 目が覚めた! そしてありが」


胸倉をつかみ引きずり起こして渾身の右ストレートをルーシーの顔面に叩きこむ。

吹っ飛びそうだが掴んだ胸倉を引っ張り、引き寄せなおしてもう一発殴りつけた!

そしてもう一発!


「馬鹿か! お前は!」


ルーシーは答えようとするが、何か言う前にひっぱたく。

私は運転席のソファに腰を下ろす。

ルーシーも座ろうとするが蹴り上げて床に座らせる。


イーヴィーはおっかなびっくりしながら


「ひぃ! だ、だ、だからやめろ! っていったんだよ!」


とルーシーに言った。


雨が酷い。沖まで行ってゾンビが追ってこれないのを確認。

ヨットを止めて話し合いを始める。


エンジンがかかって動き出せそうになった時に

ルーシーがナイフで脅したらしい。

まぁそこはなんとなくわかってた。


理由はお父さんの仇。


びっくりするような理不尽な理由だが

それ以外だったらもっと驚く。

こいつ本当にどうしよう。こんなやつ。

信用したとしても信頼できない。


単刀直入に言う

「お前のこと殺してやりたい、あと仮にそうしなかったとして

お前のこともう守りたくない。仲間として信頼できない。わかるよね?」


「うん。殺しちゃっていいよ。」


こいつ…


「私は人を殺したくない。お前のせいでこうなったのに

さらに私がやりたくもない嫌なことしなきゃいけないの?」


「うん、じゃぁどうすればいい?」

「お前が考えてよ。」

「ごめん、思いつかない。」


即答して考える気が無いような態度を取ったのが怒りに火をつけた。

徹底的に自分のお尻を拭かない感じだ?


頭が沸騰しそうになり、

どうしていいのか分からずに黙り込む。


もう一発ぶん殴る。


「で、で、でも、でも! 一応すぐに間違ってたって!

反省して引き返してきたから。…そこだけ、こ、考慮してもいいかなと提案する!」


イーヴィーがどもりながら主張した。

そうだけど私はこいつの裏切りのせいで

死んでもおかしくない状況だったんだ。

最初っから嫌な予感がしてたんだ。


こいつは自分の気持ちばっかであたしの負担だって微塵も興味なさそうにしてた。

お荷物の上に自分の気持ちしか興味なくて

そのうえ恩をあだで返してきた裏切り者をどうすればいいわけ?


このまま帰ってこなければ見つけ次第裏切り者として殺してやったのに!

私だって人殺しなんてしたくないけどさ!

本当にこの糞。懐に入り込んできて。

私がこいつを虐めてるような状況になってるのがしんどい。


そしてまた私がこの子の負担を背負うの?

イーヴィーだけ保護してこいつはここに置き去りにしようか。

それが一番いいような気がしてきた。


もういやだ。

爪を無意識に噛みだしてしまう。

貧乏ゆすりも。


冷静になろう、落ち着こう。

長いため息がでる。

冷静にならなきゃ…


いや! ならなくていい!




「ルーシー!許す!あたしが許したいから!」

「え、うん! ありがとう!」


ルーシーは大きな声で言った。反省しているようではある。


「でもこれから先こんなことは許さないからね。」

「うん。」

「それとあたしに絶対の忠誠を誓って。絶対に裏切らないこと。

お前一生あたしの子分ね。逆らうなよ、一生ね。」

「うん、わかった…」

「もう一つ自分を成長させること。お前は心を強くしろ! 変われ!」

「うん…ごめん。がんばる!」

「がんばるじゃない! 変わるんだよ! こんな事繰り返すな! 変われ!

あとはチームワークが何よりも大事! わかった?!」


「はい!」


いい根性してるじゃないの。

ルーシーの顔面を最後にもう一発ぶん殴る。

ゴッと音がして歯が折れた。


「このバカ、このくらい当然だからね。」

「はい!」


何でか知らないけど雰囲気がはるかにマシになった。

ルーシーは何故か一番スッキリした顔に。


だが殴られたのがすごく痛いみたいで泣き出した。

ごめんね、ルーシー… 

可哀そうだけど体感では全然かわいそうとは思ってない自分もいる。


殴るのが正解かもわからないけど本当に怒ってるんだって

理解させないとと思った。

それ以上にぶん殴ってやりたかったからやったけど。

こんな雷のように起こったのは人生初めてのことだった。


疲れた。

そうだ。主張するか。

私の気持ちや考え感じてること何にも二人にはいってなかったな。

コミュニケーションをもっととろう。


皆に確認する。

2人とも確かにあまり理解してないようだった。


「そっか、これからは出来たらもっと私も伝えようとしてみるね。」

了解!と帰ってきた。


最後にイーヴィーが声を震わせながら


「あ、あの!! ぜ、絶対逆らわないから!! 

だからあたしのプリティフェイスだけは殴らないでね?」


心配そうに言ってきた。


大丈夫だから! もう!


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