8話 呪術師北西へ
これまでに見たことがない規模の化け物同士の血で血を洗う抗争。
振り返ってみればもはや戦争だったとアムスは思った。
そして頼れる超能力者の仲間達はもういないのだ。
カトー、シンディ。この時代で唯一の生き残りの人類。
共に連絡がとれないままだ。
ビルの地下にある吹き抜けのバルコニーのような場所に歩道から飛び降りる。
地下1階のテラスのようになっている空間を見つけた呪術師は
そこに結界を張り身を隠す。
聖域化は出来なくとも一時的なもので良かった。
歩道から柵を飛び越えただけで落ちて来てしまうような場所だ。
間違って魔物が落ちてきてしまったら出ていく前にフロアで暴れまわる可能性がある。
只それでもここを選んだ理由は一つはえり好みしていられないと言う事。
もう一つは一時的な拠点は目立たない場所が望ましいと言う事。
特にこの地下は結界が貼りやすそうな形。要はガスがたまりやすそうな感じの場所。
開けていなそうな場所がアムス好みであった。
アムスはこのような場所を見つけては潜伏結界を張り
移動していくつもりだった。
聖域化は一定期間留まり続けないといけない縛りがあり、もどかしく。
必要期間は数日から1週間程、それ漸く聖域の下地が出来る。
その後は聖域の成長を促し、発展させていく過程に入る。
と言ってもまだその段階の経験は少ない。
結界は聖域ほど強力でなく。仲間の助けも期待出来ずという状況。
今まで以上に難易度の高いサバイバルになるかもしれない。
逆に今までが運が良すぎたのだろう。アムスの頭に居なくなった仲間の影がちらつく。
シンディは大丈夫だろうか… 心配だ。
カトーは…
あれは大丈夫だろう。アイツはこの世界で十分生きていけそうだ。
ビルの地下テラスの吹き抜けからパルクールのような動きで
隣のビルの非常階段によじ登って移動。次の潜伏結界を張る準備を始める。
能力者として覚醒してから向上した身体能力は大いに重宝していた。
このビルをとりあえずの拠点にすることにしよう。
アムスはそう思った。
弓でエイリアンを狩るのと結界を張るのに適していそうなのも決め手だった。
結界を張るまで半日ほどかかる。がその程度のことは全然構わなかった。
そのくらい今のこの男にとっては立地が重要。
あの戦争があった場所からここは10キロ以上離れている。
その後の結果は不明。
あの後河馬型とヒト型でどちらが勝つか、まず河馬だと思ったが
鰐型のようなのも川のほうから出てきていたのを見た。
最後は見たことない植物系ヒト型エイリアン。
ヒト型エイリアンの頭部がキノコだらけになっていたり
そのほかには花が咲いてるような個体なども遠目からだったが見えた。
その新しいヒト型たちは他のヒト型の仲間ではなさそうで。
胞子のようなものを周囲にまき散らしていた。
アムスが逃げ出してた時には他のチンプやイヌ型などはほぼ全滅していたし
胞子だの瘴気だの、毒だのがそこらじゅうを覆っていて混沌を極めていた。
あの時見た光景は自身の記憶の通りなのか疑いたくなるほど
アムスにとっては現実離れしていた。
頭を振って脳内のイメージを消しさる。
あれこれ考えていても仕方ない…
今やるべき事をやっていくしか無いのだから。
非常階段から屋上へ登り弓で狩りをする。
攻撃すれば潜伏結界の効果が弱まるわけでは無いが見つかる確率は上がる。
注意を引きにくくする程度の結界だ。これは仕方ない。
そしてだからこそ慎重にじっくりやっていくのだ。
と呪術師は’思った。
狩りに没頭していると…
成長した感覚が来た!
------アムス
呪術師 レベル2→3
技能: 潜伏結界 解呪 強制発作 回復不可 弱体化
聖域化 (一定期間同じ場所で祈祷すると聖域化)
呪術道具作成
------
技取得可能2
・呪術(暴走化)
・呪術(弱体化)
・呪術(回復不可)
呪術(回復不可)と呪術(弱体化)を取得。
@@
早速、回復不可の呪い矢を作成。
ビルの周辺にいた複数のイヌ型のうち一匹に狙いをつけ矢を放つ。
首元に矢が刺さり致命傷となった。
他の個体が周囲を警戒しだしたものの発見されることは無かった。
回復不可の矢に射抜かれたイヌ型が絶命。イヌ型の再生能力を邪魔したというよりは
出血と肉体から流れ出た魔力の量が通常よりも多くなったという感じだった。
他の個体が居なくなったのを確認してから近づいてマナを得る。
(エイリアン達は死んだ仲間からマナを得るということをしないな。俺だってしないが。
それをやろうとする魔獣も未だに見ない。)
「仲間? いや同種のマナは食わないほうがいいってことか?
俺も人間からは得られないと思ったほうがいいかな。
むしろ感謝したいくらいだね。人間同士で成長のために殺し合うなど…」
今しがたの戦闘について意識を戻したアムスは自身の能力について内省する。
「ふむ、俺の能力。技能…【呪い】は他の魔物に囲まれたり、切羽詰まった状況に追いやられなければ存外に強力かも知れん。」
付近にいたネズミ型エイリアンを弱体化の呪い矢で射抜く。
矢が50センチサイズのネズミ型に命中。数秒転げまわった後、明確に弱体化。
衰弱し、転げまわる事すらしなくなった。
(強いな。弱体化の矢。魔力の循環を阻害しているように見えた。
大型の化け物にも効くのだろうか。)
正直な所【呪い】は効率の良い力では無いとアムスは思っていた。
呪いの矢も1日に何本ほどしか作れない上、結界もぽんぽんとは張れない。
とにかく時間がかかる力。ゆっくりとコツコツ時間をかけて力を発揮する。
そんな力だった。
それが彼に発現した力であり、この時アムスは自身特有の【呪い】という力について
評価を上げ始めたのであった。
________________夜
ビルの屋上から星空を眺めているとき、遠くに灯りが見えた。
それは目をこれでもかと細めてもハッキリとは見えない程度の微かな灯りだった。
がしかしアムスに胸を騒がせるには十分な灯りでもあった。
生き残った人間のグループがいるんじゃ… 合流したい!
生き残りの人間達と会いたい! そのような感情が強く呪術師の中に灯る。
場所は、控えめに言っても遠かった。
とてもでは無いが一気には行けない。そのくらいの距離。
エイリアンどもに発見されずにあそこまでいくのは難しい。
普通に歩けば多分2時間かからないくらいだろうか。
すぐにアムスはどうにかして灯りの場所まで行く方法を考え始める。
索敵し隠れながら行くのは3倍以上かかるだろう。多分6,7時間。
大丈夫だろうか。正直自信がない。
2日、いや3日に分けて行けば… どうしてもあそこまで行って確認したい。
もし、人間じゃなかったら? 何故人間じゃないものが灯りなどつけるんだ!
小鬼とか…… …わからん。でも行ってみよう。行って確認したいんだ。
食料なども調達していくか…
それ以外の時間は呪術アイテム作成に使おう。
今のところ作成できたアイテムは…
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弱体化の呪い矢
回復不可の呪い矢
呪い毒の矢
呪い毒の餌
弱体化の餌
回復不可の餌
回復不可のマチェット
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餌はより大型のエイリアンに確実に呪いを掛けるときに効果的。
ただし食べてくれればだ。矢のほうは速攻で効く。
必ず効果が出るとは限らない上に効果は餌よりも低い。
効力はざっと3倍以上は確実に違うと思う。
呪い毒は死ぬ可能性は低いが解毒が難しい。
解呪するか、時間経過を待つしかない毒。
(我ながら嫌な能力だよな。こんなもの絶対喰らいたくない。
呪いの強さはかけた時間や素材などで増減したりする。
素晴らしいことに毒耐性がある敵にも効く。ここに関しては小躍りしたくなるね。)
呪い毒は精一杯のものを作ってもは強力な敵はまず死なない。
ヒト型エイリアンは死なない程度に苦しむ。
イヌ型や、チンプは全然いける。数分ほど苦しんで死ぬのが確認できた。
絶対死ぬわけではないが…
回復不可は文字通りこの呪いを受けた後は回復が困難になる。
出血なども止まりにくくなる。
_______翌朝。
次の拠点に潜伏結界を張るために歩き出す。
途中でイヌ型に見つかったが何とか追い払う。
今日の拠点は壊れた橋の近くの建物にした。
潜伏結界を張ることに成功して一息つく。
この橋を迂回してるとちょっと遠回りになる。
でもあの鰐型のエイリアンがいないか不安になった。
呪いの道具を作成しながら川のほうを眺めていた。
そこで傷ついた河馬型エイリアンの姿が見えた。
傷だらけで、一匹だけでいる。
河馬型…
超大物の化け物…
(どうする? いや、やめとけって!
でも、こいつを倒せたら多分レベルアップする!
危険すぎる! どうする俺!?)
判断を保留にして外の様子を伺う。どうやら河馬型は
ここらをねぐらにするつもりらしく体を休ませ始めた。
この個体はあそこからやってきた個体か? あの激戦の場所。
ゆっくりと息を吐く。
じっくりやろう。時間をかけるんだ。
奴は気付いてないが、まず50mくらい離れた場所に矢を打ったらどうなる?
普通ほかのエイリアンは俺に気づかないはず。
心臓がバクバクする。うるさいくらいに。
一発でばれたら? 浮かんできた思考を無視して矢を放つ。
特に反応はない。しばらく何もしないで待つ。気は抜かない。
あの河馬がアカデミー賞受賞俳優並みのとんだ名演技をしている可能性もある。
今度は矢を空に向かって放ってカバの30M横に落とす。
普通に気づいた。周りを見渡している。
もう俺の結界の効果は再開されている。
奴の目がこちらを見た時、心臓が一瞬跳ね上がった。
ふむ… なるほどな。
しばらくするとカバがどこかに行った。
回復不可の餌を効果(小)を川辺に設置しておく。
2時間ほどしてカバが戻ってきた。場所を移した可能性も感じていたが。
河馬は団子の近くに行きそれを食べた。
やったぞ! 思わずガッツポーズする!
河馬型に特に変化は見られない。怪しんでなさそうだ。
その後もう一つ食べていた。
余りにも普通に食していたので本当に効いているのか不安になったが
その日はそれで終了。
____次の日
河馬型は昨日より疲れているように見えた。やはり効いているんだ!
回復にエネルギーを回してるはずなのに回復しないんだから
そりゃ疲れるだろう。
かわいそうだった。
「……ごめんな。俺も生き延びたいんだよ。」
動物は別に嫌いではない。むしろ好きなほうだ。いや、河馬型はエイリアンだが。
でも生き物は生き物か。戦って殺し力を得るならまだこのような感情にはならなかっただろう。
それでもやるしかない。
河馬はまた回復不可の餌を食べた。
夜になると俺が用意しておいた弱体化の団子も食べた。
次の日河馬は散歩からいつもよりすぐに戻ってきた。
食べ物はもう団子でいいらしく
弱体化と呪い毒をすべて平らげてしまった。
食べてから10分ほどして呪い毒の効果が表れた。
かなり苦しそうにしている。もうほとんど動けまい。
遠くから矢を射かける
何本か射っていると眠り始めた。
そして…
そのまま起き上がる気配がなくなった。
近くまでいき念のためマチェットで止めを刺して
時間をかけてじっくりマナを受け取る。
あまりにもマナが濃いので結界がある建物までカバ型の体を引きずっていった。
体重どのくらいあるのだろう。体感では乗用車くらいかなと思った。
1500kgくらいか。
あらためて自身の人間離れして来た身体能力に感謝した。
結界の中で休み休みじっくりマナを吸収。何時間でもかけるつもりで吸う。
―成長
______
アムス
呪術師 レベル3→4
技能
潜伏結界 解呪 強制発作 回復不可 弱体化
聖域化
呪術道具作成
------
―技取得可能。
・物理防御結界
・呪いの祈祷
・呪いのお香
迷うが防御結界で。
―防御結界--取得。
ふぅ… 精神的に疲れた。
明日にはあの場所へつけるといいんだが。
河馬の亡骸に背を預けながらその日は眠りについた。
アムス
呪術師 レベル4
アビリティ
結界術: 潜伏結界 防御結界new
呪い: 解呪 強制発作 回復不可new 弱体化new
聖域化
所有スキル
呪術道具作成




