2話
「自己紹介の前に…… まずは解呪だな。」
背の高い褐色の男が言って塩のようなものが入った器を手に取った。
「解呪? 呪い解けるのか? 助かる!」
「ああ、丁度これが俺の専門だ。」
その言葉に安堵する。
男は俺の頭から肩に湿った塩のようなものをサッと振りかけた。
その瞬間、肩が一気に楽にそして軽くなった。
もう一度サッと振りかけられるとまたその感覚。
何か良くないものがその度に体から抜けていく。
中々乱暴で、どちらかと言えば振りかけるというより撒きちらすか
投げつけられると言ったほうが正確であったが。
そんなことは気にならないくらい心地良かった。
最後に腰のほうにかけ終わると
黒コートのポケットから小瓶を取り出し
中の液体を手の平につけ
手に再度塩のようなものを盛って
そのまま俺の肩を手で軽く叩いた。
今度は一度叩くたびに体に纏わりついていた瘴気が
霧散していくのが感じられた。
自身の霊気が清浄化されたような感覚。
男の手のひらには何かの紋章が彫られていた。
最後に軽く腰や腿、膝なども叩いて終了。
感謝の言葉を述べると
「気にしないでいい、それより休んだ方がいいぞ。
結構強力な呪いだった、こんな瘴気を付けられて疲れただろ。」
実際この男の言うとおりだった。
2人が建物内の休憩スペースに案内してくれた。
二人とも察してくれたようで
部屋にあるソファで横になるように促してくれた。
横になった途端疲れがどっと押し寄せてくる。
その後少しして起きて
軽くお互い自己紹介を済ませた。
男の名はアムス。30歳。
ジョブは「呪術師」だと名乗った。
まじないしとしては何の経験もないものの何故か
あの日から不思議な力に目覚めたとか。
女の子のほうはシンディ。
21歳。ジョブは「野良弟子」らしい。
どんなジョブだよ、それは。面白そうなジョブだな。
シンディはこちらに興味津々で目を輝かせながら質問してくる。
「エイリアンを仲間にできるの? 」
「仲間にすると言っていいのか、傀儡には出来るけど。2体以上からはきついかも。」
「傀儡って?」
等々。
結果的には2人といろいろ情報交換が出来て良かった。
ジョブってなんだろうな。あとハイヒューマン、超人とかのイメージも
謎だ。勝手に脳裏にイメージが浮かぶのも二人とも経験していたが
俺ほど頻繁ではないようだった。これは今は気にしないでおく。
このビル付近はアムスが自分たちの聖域化(縄張り)の儀式をしてあるから、
モンスターが近づいて来ないらしい。
ただし聖域はアムスが普段から拠点としている所にしか作れないし
作るのにも時間がかかる。
なかなか身動き出来ない所に俺が来たということらしい。
仲間になってくれるなら居たいだけいていい。
ということなので有難く休ませてもらう。
「いいのか? 助かる!」
「ああ、もちろん協力するよ。しない理由が無い。」
「それで二人はどれだけ戦えんだ?」
「笑。お前ほどは戦えないよ。
特にあのヒト型のエイリアンみたいな奴。俺達には手に負えるか大分怪しい…」
「確かにヒト型は強い。」
「お前は一人で何体も倒してたけどな。それに仲間にも出来る。」
アムスが笑いながら言った。
シンディは興味津々でヒト型エイリアンの傀儡に触ったりして。
「このエイリアン強いよね! こんなのが仲間にいたら心強いよ!」
まぁ、確かに。
そういえば二人もエイリアンって呼んでるのか。地球の生物じゃない感が強いしな。
とりあえず、せっかく居場所ができたので色々と整理しよう。
まず……
・傀儡師の左手は傀儡が増えるごとに操る難易度が上がっていくようだった。
あと傀儡はあまりにも俺から離れられない。
離れるほど操作制度が低くなっていく。
そして糸が切れる。糸が切れると激痛が走るという確信めいた感覚がある。
接続が切れた傀儡はお察しの通り動かなくなる。そして劣化が始まる。
出来る限り糸が切れないように気を付けたい。
もしかしたら操作難度もモンスターごとに違うかもしれない。
あ、そうだ。
あの河馬型エイリアン傀儡化すればよかった…
いや、そんな時間も余裕もなかったか。仕方ない…
かなり強力な傀儡になりそうだが。
ヒト型の傀儡は現在は2体が安パイ。
無理すれば3体同時操作もいけるかもしれないが。
要練習だろうと思った。イヌ型は6体とか何ならもっと操れそうだ。
その日はじっくり休んで寝た。調子を確認していると
アムスが解呪してくれたおかげか、隠形がまた機能するようになった。
外に出て自身がもうルアーになっていない事。
どれだけ感知されずに行動できるか確認。試していくと
隠形がどれだけ凄まじい力なのか身に染みて理解出来た。
聖域の周囲にいたモンスターたちを一方的に仕留めていける。
ただ、あのチンプは見破ってきたのだ。
この技を看破する力をもっている魔物はいる……
隠形を見破れる奴も、それを仲間に見せたり伝えられる技を持つものがいる。
気を付けないと。この技があるからと言って楽観的にはなれない。
振り返ってみれば貴重な学びでもあった。
ビル周辺からあまり遠くまではいかないようにしつつ適当に魔物を仕留めた後。
二人のために家具屋にいってベッドや家具を見繕って持って帰ったらすごく喜んでいた。
お役に立てて何よりだった。
また道中で何匹かモンスターを狩って霊気を吸収した。
ビルの近くでも魔物を傀儡と一緒に狩っていたら
散弾型のほうが成長した。
===
ヒト型エイリアン 散弾吐き
Lv2
―スキル及びアビリティ取得可能
・散弾強化
・リーダー個体化
・体躯強化
===
リーダー個体化・これを選んでみる。
==
班員 組み込み 可
==
ヒト型槍配下個体を散弾吐きの班員に出来そうだった。
おぉ! 左手の指先の感覚が変わった。
散弾吐きと繋がっている糸が多少重くなり
槍持ちと繋がっている傀儡糸が軽くなった。
動かしてみる。
散弾吐きを動かすとそれに応じて槍持ちも連動して動く。
なるほど。
リーダー傀儡が他の傀儡を配下に置くと
俺の負担をリーダー傀儡個体がある程度受けてくれるようだ。
ただし俺からの細かい操作は逆に少し難しくなる。
それから数日経った。
ビル付近を徘徊する魔物が増えてきていた。
このビルの周囲は霧が漂い、囲まれている。
霧の向こうはしばらく進むと晴れたりしてるが。慎重に行きたい。
霧の中はあまり入ろうとしないほうがいい気がした。
嫌な予感がした。霊気の様子がオカシイのが気になる。
それに霧の中からは不吉な気配も感じていた。
合流した2人のうち
アムスはあまり戦闘向きじゃなかったが呪術でビルの周りに結界を張ったり、
道具を作ったり敵に呪いをかけたりできた。この呪術師様のおかげで
拠点が安全になっている。
シンディはアムスに弟子入りしていて
呪術と似たようなことが少し出来るようだった。
俺にも弟子入りしてきて俺は隠形と宝具作成を教えることに。
隠形は習得できなかったが。「気配消失」と「マジックアイテムDIY」を覚えた。
……教えながら思ったがこの能力。
というかジョブ凄くないか? ラーニング系だろ。
シンディにもしかしてすっごい強くなれるんじゃないか? と聞くと
「師匠殺しの弟子みたいになるの心配してる? それなら大丈夫!
私が得することは無いから安心してくれたまえよ? 師匠その2のカトー?」
などといって笑っていた。
弟子は師匠と敵対しないほうがいいらしい。
そんな心配してなかったけど。それなら良かった。
シンディとアムスは俺とヒト型槍持ち傀儡とともに簡単な戦闘訓練もするように。
シンディと俺は槍術に適性があるようで槍がどんどん手に馴染んでいく。
アムスは筋は悪くなさそうだったが、コレジャナイ感を感じると本人が言っていた。
また1日たってチンパンジーが数匹偵察に来ているのを確認。
アムスに例のチンプボスが近くに来ているかもしれないと話した。
呪い師は難しい顔をした。
「そいつが強力な呪いを掛けられるのは確かだからな。
カトー、チンプ達が近くにいそうな時は外に出たり遠出しないほうがいい。」
「まぁ、そうかもしれない。
アイツは隠形を見破ってきたし。このビルを見通すとかできる可能性は?」
「無いわけじゃないが、うーん…
一応俺の結界がそういうものに反応してないから大丈夫だと思うが。正直わからん。」
話は変わって呪術師のアムスと野良弟子のシンディと
アイテム作成について話していた所。
一緒に何か作れるかもしれないという話に。
それぞれ素材を持ち寄ってあーだこーだとアイデアを出し合う。
素材
ヒト型異界獣のコア
そして色んな所からとって来た…
ウィスキー
ブランデー
ワイン
あとは煙草とか
ライター
革製品、ジャケットや財布、靴
包丁、斧。宝石に時計。
アムスとシンディは結構あるな! と喜んでいた。
「俺の宝具作成はあまり気軽に使えないから期待しないで欲しい…」
一応釘をさす。
あっちは俺ほど自由に動き回れてなくて素材には困っていたらしい。
アムスは呪術アイテムが作れる、シンディは魔道具。
俺は宝具。そしてその違いは何なのかという話になった。
同じ素材でアイテムを作ってみる。
ウィスキーのみ
・宝具作成
出来たのは「霊酒」
霊気を多少回復したり、霊気自体を酒にして保管できるみたいだが、エネルギー効率があまりよくない。それに俺の霊気消費が大きい。正直コスパは微妙。
・呪術道具作成
出来たのは「呪いの蒸留酒」
簡単な呪いを飲んだものに与える。
アムスができるのは
・霊気循環阻害 単純に弱くなる。
・仲間に嫌悪、恐怖される呪い
・悪酔い効果。かなりきつい酔い方をする、
まともな判断ができなくなる。強烈な二日酔い、次の日も地獄は続く。
・マジックアイテムDIY
「マジカル・ウイスキー」
美味いけど甘い。飲むとほろ酔い、良い気分になるがアルコールの毒性が殆ど無い。
寝酒にもぴったり。それ以外の効果は特に無し。
他にもいくつか試したが傾向は似ていた。
面白い違いだった。
呪術は明らかに相手に対してのデバフをかける系がほとんど。
マジックアイテムは自分に些細なバフを掛けるようなものが多いようだったが要検証。
宝具はDIYに比べて強力だが俺の霊気を一定期間代償に捧げて作らなければならない。
消耗品や、あまり使わない道具を作るのには躊躇する。
素材を使ってもう少し宝具を作ってみることにした。
せっかく聖域にいるんだったら今のうちに
作るのもアリだろう。
アムスの結界を作ったりするのに使っているチョークやシンディが作った素材など。
それを素材としてにしてみる。
==素材
呪術師のチョーク、魔水晶、縄張りの蝋燭。
==
出来たのは
「蜃気楼の家のガーゴイル像」
アムスが早速試しだす。
大きめの水筒ほどの大きさの
ガーゴイルの像をビルの中心に置く。
ビルの中の空気が変わった。結界が強まった気がする。
アムスを見るとほくほく顔だ。
どう変わったのか聞いてみる。
今までの結界は魔物が結界に近づくほど霊気に干渉して弱体化させる効果。
それと魔物が嫌がる霊気を発生させるというものだったらしい。
それが強化された上に結界に近づいた魔物は強い倦怠感に襲われる。
物理的に結界内から発生する霊気に近づくとひどい頭痛にも襲われるという代物。
「人間が山でガスが噴き出ている洞穴をみたら近づかないし入ろうとは思わないだろ?」
そのくらいモンスターたちは避けるとのこと。
次はシンディのために何を作るか。
シンディは槍が欲しいみたいなので
それぞれで刃物やいろんなものを作っていく。
ガーゴイルで少し霊気を代償にしてしまったのでここからは出来るだけ
少ししか霊気を使わない。
「新入りの槍」ができた
いい感じの槍。おれの蜘蛛の槍並みだろう。
そういや蜘蛛の槍。家に置いてきていた。
そのうち取りに行きたい。
さらに宝具作成で弓を作成。
小さめの弓が完成。
殆ど霊気を捧げていないから、何の能力も無いけれど別にいい。
これから弓も練習したい。
それに弓ができたということは。
ビルの屋上。遠距離から魔物を狩ることが選択肢に入って来た。
早速二人にも伝えて皆で弓を作って練習する。
その日のうちに周辺の魔物狩りを初めて
魔物は俺が隠形で拾って持ち帰り。
皆で霊気を吸収することに成功。
これが続けられるならかなりオイシイ。
戦闘中、ヒト型槍持ち傀儡が重傷を負ってしまったので
ビルに戻ってから分解。槍型のコアが残された。
霊量は前のやつよりは多少多い。結構気に入っていた傀儡だった…
少し感傷的になって宝具作成で残されたコアを使いたいと思った。
==宝具作成
鉄の槍×槍持ちのコア×ヒト型のコア
結果---槍 「弐本号」
宝具アビリティ「技連携」
==
霊気の通りが良い。しっくりくる。
明らかに今までの槍より強い。
蜘蛛の槍を軽く超えている。
屋上から遠くに見えたイヌ型エイリアンに槍を投擲。
ビュゥゥーン!!
今までと全然違う。今までの槍とは全くの別物だ。
恐るべき速度で飛んでいった槍がイヌ型エイリアンの胴を貫く。
一撃で獲物は絶命。貫いただけでは飽き足らずアスファルトに
当たり跳ねた。
予想以上の出来だが、この投擲は何度も連続で使用できない。
霊力の消費が大きい。
あとさすがに戻ってこないから取りに行かないといけない。
槍を拾いにいって、ふと閃いた。
そうだ。左手から傀儡糸を槍につけて傀儡化。
本当に出来た…
傀儡師の左手から手応えが返って来る。
もう一度槍を投げて…
戻ってくるようにと左手を引くと、風切り音と共に戻ってきた。
バシッと掴み取るが結構な速度だ。
傀儡のコアをいれたから左手との連携が取れるようになったのだろうか。
この槍自体を傀儡のように操作できるようになった。
心強い武器が出来た。
ビルの屋上かた街を見ればもう
陽が沈み、夜の帳が降りる頃。
残骸都市がオレンジに染まる。
ーーーー翌日
ここにきて1週間。
既にアムスとシンディもレベルアップしていたし。
ついに自分とSGもレベルアップ。
==
「アムス」
呪術師 レベル2
技能・結界術(聖域化) ・潜伏結界 ・呪術道具作成・呪術師の呼吸
「シンディ」
野良弟子 レベル2
技能・弟子入り・スカウト・呪い・魔道具作り・気配消し
==
カトー こと
「ジョン・スミス」
仙人 レベル4
技能
・8つの世界・仙人の呼吸・幻視・傀儡師の左手
・隠形・宝具作成・傀儡改造
>>取得可能技能
・霊気吸収 速度微上昇
・傀儡修復術
・エラ呼吸
-----
なんだよ、エラ呼吸って…
便利なのかもしれないけれど。
上2つが両方欲しい。
……傀儡修復術で。
>>技「傀儡修復術」取得
8つの世界が発動しました。
1の世界、5と6の世界、そして8の世界から祝福が与えられます。
>>スキル、傀儡修復術→傀儡改造術に変化。
-----ヒト型エイリアン傀儡 ショットガン
レベル3
アビリティ「散弾」 「リーダー」
―取得可能技能
・純粋強化
・対物ライフル弾
・スタミナ増加
-----
対物ライフル弾取得。
対物ライフル弾:SGの体内で弾薬生成。大量生成は不可。
どの程度の体内で生成できるか、保存できるかは技能の持ち主に依存。
有効射程ー数百m:距離が遠くなるほど霊気が失われ霊的防護を貫く力も失う。
すぐに試し打ちさせてみる。
と長距離射撃ができる。
有効射程が200mくらいはありそうだ。
威力も申し分なさそうで同じヒト型エイリアンでも一撃死させられるだろう。
河馬は怪しい。近距離ならダメージは与えられるだろうが。
致命傷になるかは不明。
俺の新しいスキルは
傀儡改造。早速試してみる。
ショットガンで傀儡改造術を試みたのだが。
何も出来ず。あまりピンとこなかった。
何か素材がいるのか。
ペンデュラムをつけようとすると。
頭の中にぼんやりと青写真が浮かんできた。
ペンデュラムをショットガンに与え、傀儡を触っていると
と見た目が少し変わった。
額にペンデュラムの飾りがめり込み装着出来た。
===幻視
感知 上昇
反応 上昇
霊気 微上昇
===
感知能力などが上昇したらしい。
外に出て魔物を見つけて狩る。
持ち帰って改造の素材になるかやってみると
ほんの僅かだがショットガンを強化できた。
あと防御力と身体能力も上昇。
もう一匹やってみるとこれ以上は不可。
あとは口からショットガンの銃口が出てくるときの見た目などが変わった。
ますます興味深いと思った。もっと何か出来ると思うんだけどな。
今出来てることの殆どは僅かな強化などだし。
新技能傀儡改造に夢中になっていると
遠くから大きな咆哮が聞こえてきた。
カトー こと
JOHN・SMITH ジョン・スミス
ジョブ? 仙人 レベル4
技 ・8つの世界 ・仙人の呼吸 ・幻視 ・傀儡子の左手
・隠形 ・宝具作成 ・傀儡改造
ヒト型エイリアン傀儡
ショットガン
レベル3
技 ・散弾 ・リーダー ・対物ライフル弾
アムス
呪術師 レベル2
技
・結界術 ・呪術師の呼吸
・潜伏結界 ・呪術具作成
潜伏結界:半径5メーターの隠形の効果を持った結果を張る、
本人は結界から出れない。
シンディ
野良弟子 レベル2
技 ・弟子入り ・スカウト
・簡易呪術 ・気配消し ・マジックアイテムDIY
アムスの掌の紋章:六角形の盾の左に獅子。右に鷲。盾には黒いヤモリの絵。




