1話
JOHN・SMITH
___州都 都心
昼時。相変わらず無職だった俺は泣け無しの貯金で過ごしていたのだが、たまたま買った高額宝くじが当選していたことを知って狂喜乱舞した。
これでずっと無職でいられる……
といっても、瞑想の先生を遠い知り合い相手に始めてしまったので、完全なる無職ではないけれど。
今日も小金を稼ぐために新しい生徒さんに会ってきたのだが、都心に住んでいる人なのでここまで足を運んできたのだった。
仕事おわり、馴染みのあったカフェに入る。久しぶりに都心まで来たな。確かここらだと、この店が美味かったのだと記憶していた店に通りかかったので立ち寄っていくことにした。
何にしようか。
この店でよく美味しかったのは……
ビーフバーガーにタコス、クラブハウスサンドだけど。
結局タコスに決めた。ここのタコスはソフトシェルタコスにフライドチキンが包まれていて、その上にコールスローとチリ、ダイス状になったマンゴーが乗っている。
ソースはピリ辛マヨネーズみたいな感じ。横にあるライムウェッジを絞ってタコスにかけて食べる。さして腹が減っているわけでも無かったが、やっぱり美味い。
謎の力に目覚めたまま、日常に戻されたことによってしばらくは可笑しなテンションで暮らしていたが、漸く
生活も落ち着いてきた。宝くじにも当たったし。
普通というものはそれはそれで良いものだった。
宝くじにも当たったし。2000万ドル。何に使おうかな。車でも買い替えるか、あと不動産と…
テラス席でコーヒーを飲みながら空を見上げた。
快晴。青く広い空に大きな入道雲。
ボーっと眺めていると__
__怒声。
テラスのフェンス下の通りから叫び声。
席から段差下の通りに目をやるがフェンスが邪魔でよく見えない。兎に角目の前の歩道からではなさそうだ。キョロキョロと周りを見回しているとまた叫び声。
何処からだ?
お気に入りの店のタコスを半分も食べないうちにさらに外が騒がしくなった。視界にちらつく霊気の動きがおかしい……
一体何が起きているんだ。
!
大型車両のぶつかる音。人々の怒声、絶叫。泣き叫ぶ声。
阿鼻叫喚。
突如バスが目の前の通りに転がってきた。そのバスを無視するように平然とモンスターが通りを駆け抜けている。
魔物だ、魔物が現れた……
思わず息を飲む。またあの非日常がやって来たのか? おいおい、宝くじに当たったばかりなんだぞ!
火の手がそこかしこで上がり始め化け物がそこら中から這い出てきた。ネズミ型、犬型、小鬼のような物から大きな烏のようなもの。魔物同士でも争っていた。
何とか逃げ出そうとした人々に駆けてきた犬型のエイリアンが四肢に噛みつき引きずり回していた。小鬼が人に食らいついていた鳥の化け物に掴みかかり噛みついて。犬型に首元を噛まれ絶命していた。化け物達が見境なく互いを襲う。
通りにあったトラックが突如として横転する。
河馬のような体躯の化け物、エイリアンと同じ肌の色だ。禍々しい牙でこいつも目がない。悠々と人の世界を闊歩していた。アレがさっきのバスもやったのか。明らかに纏っている霊気が濃密。
あれは格が違う。瞬時に理解できた。
魔物たちはお互いだけではなく人を襲っている。人々が襲われている。日常が崩壊していく光景。
気がおかしくなった様子の老婆が天に向かって両手を広げ叫ぶ。
「世界が終わるよ! 世界の終わりだよ!!」
皆が逃げようと必死な中、老婆は叫び続ける。
「世界が終わるの! 新しい世界が来る! これで終わりじゃないよ!
始まりのための終わりだよ!」
変な人間たちが現れた、ヒト型エイリアンじゃない。死体が立ち上がり、ふらふらと彷徨い始める。
数は少ないが。
スマホを確認。
電話もネットも繋がってない…
思わずつばを飲む。ここから逃げなければいけない。そのことだけは理解できたが、どうやって? そして何処に逃げるのか。頭は真っ白になり何も浮かばない。
突然巨大なプラズマのような光球が数百m前方に見えた。閃光で視界が真っ白に。次に視界が回復して見えたのは半径数百mの建物が一瞬で破壊される光景。
空間が波打ったり、歪んで見えた。
逃げていた人間の波が一気に消失。何だアレは。あれに巻き込まれたらどうなるんだ?
逃げよう。宝くじに当たったんだぞ! 死んでる場合じゃない!
テラスから飛び出し全力疾走する。速く、もっと速く走らないと! 2分ほど疾走したあたりで自分の周りに数百メーター四方にいくつもの巨大な光が出現。
先ほどのプラズマの光球だった。
近くのナイトクラブのある建物に逃げ込んで地下に向かう!
地下3階に逃げ込んで奥の部屋に。厚い扉を閉めて直ぐ、エネルギーの奔流が全身を飲み込んだ。
…
……
_____
目が覚めると真っ暗な場所にいた。
室内は暗く静かで音もない。時計を見れば壊れていた。
寝転がったまま霊気を手に込めるエネルギーがが右手を中心に全身に循環し広がっていく感覚。
瞑想する。
なかなか瞑想状態に入れない…
大丈夫落ち着いて、もっと時間がかかってもいい。思うようにいかなくても、いつも通りじゃなくてもいいんだ。
自分に言い聞かせて力を抜き瞑想を続ける。力が抜けなくても別にいい。矛盾するようだが逆に満遍なく少しだけ全身の筋肉を使う。少しでいい。姿勢を良くしたりとか。そんなものでもいい。エネルギーを無理に消費しないように、節約しようとするほうが疲労を招いたりもする。
しばらくするとだんだんと時が止まった部屋を眺めているような感覚になった。
幻視==
荒廃した世界 砂漠 瓦礫の山 破壊された都市 住宅地
人間が見当たらない
==
脳裏にいくつかの映像が浮かんできて消えた。
…世界が終わった?
人間文明が終わった?
いや、今までの世界が終わったのか。
瞑想を終える…
外を確認しにいく。
相変わらず晴天だった。
ただ……
今までの世界ではもう無くなっていた。
世界的にも名の知れた大都市であった場所は、これでもかというほど破壊されつくされていた。まるで人類文明の残骸。
残骸都市…
呆然としていると少し腹が減っていることに気づく。しかし嫌な感じじゃない。
朝起きたときに腹が減ってることよりも体が軽いことに心地よさを感じるときに似てると思った。そうか、さっき起きたばかりなんだ。そのまんまそういうことか。
まだ少し頭がぼーっとする。
まるで巨大な怪物が全てを破壊して去っていたような静けさ。
台風の後の晴天みたいな感じ。日差しは暖かく空気も穏やかだが周囲にモンスターがいるかもしれない。
集中して気配を消す術を使用。その場で千切れた鉄パイプを見つけて宝具作成で武器を作る。即席だが鉄の槍を作った。霊気の伝導率も悪くない。
ただしこの技、あまり良いものを作ろうとすると俺の霊気の総量が減っていくようだ。そして減った分が回復するまで日数がかかる。前にペンデュラムを作ったときにも違和感を感じたので気を付けておく。
気配を消し透明になりつつ周囲を探索し始めるとイヌ型エイリアンを2体見つけた。この数なら今の自分にならやれる。
一匹を不意打ちで倒す。
もう1匹はまだ気づいてない。すぐに気づくだろうがその前に背後から距離を詰め頭部を槍で突き始末した。犬型の亡骸から霊気の粒子が放出される。
掌から、口や鼻から炭酸の粒のような煙のようなエネルギーを吸う。全ての霊気を吸収できるわけではないようで、煙草を吸った時のように吸収されない霊気は吐き出される。
口から煙の粒子のように吐くことも出来るし、手や身体から吐くことも出来た。イヌ型の霊気を吸っている時。近くにモンスターの群れが来ているのを感じた。
醜悪な顔をしたチンパンジーのような魔物達。
一匹がこちらを薄気味悪い目で見てくる。前に見た餓鬼とは違う、あいつより明らかに猿そのもの。霊量も多い。
何体いる? 6、7、8。
ある程度まとまっていた。
そのまま1匹が飛びかかってきた、20mは距離があったが一瞬で詰めてきた。
すぐに槍で応戦。
脇腹を槍で突き、一瞬相手がひるんだ隙に顔面に槍を突き刺す。そのチンプに続いてきていたもう一匹が予想外という顔をして踵を返そうとするが。させない。背中を見せたチンプの腰を槍で突き、もんどりうったところに止めを刺した。
他のチンパンジーたちが大騒ぎしだす。
たった今殺したチンパンジー魔物の首をつかみ霊気を吸い上げ隠形を再発動する。
あれ? 隠形解いていたかな?
一瞬頭がこんがらがった……
亡骸を捨て近くのビルの陰に飛び込み隠れる。身を隠しながら一匹ずつ確実に減らしていこう。
チンプの群れがさわぎながらこちらに向かってくる。
俺を探してるみたいだ。が、チンプたちは俺を素通りしていく。大丈夫隠形は正常に機能している。此方もやり過ごしてから移動しようか。
群れの後方にいたボス個体らしきチンプが俺のそばまで来た。
コイツが群れのリーダーのような気がする。そのまま通り過ぎていくのを見送って、背後から殺すか。
そう思った時。
幻視===
チンプの目 陳腐な目 CHEAP EYE
===
!?
突如ボス個体が横目で見てきた、すばやく顔をこちらに向けて蒸気のような息を吐いてきた!
ゴォォ、という風が唸るような音と共に突風のようにそれを全身に浴びた。
即後方に飛びのいて距離を取る。ボスチンプはいやらしい笑みをこちらに向けている。気味の悪い目をする。腐った魚のような目。愉悦の混じりの眼。
なんだこいつは……
まさか見えているのか俺の姿が。コイツ、俺の様に何かしらの能力を持っている。
もしかして魔物にも技持ちがいる?
俺が隠形などの技を持つように…… 全身の霊気に違和感。自身の体に煙のような瘴気が微かに纏わりついていた。何か臭いがついている気がする!
幻視===
呪い 匂い ルアー 陳腐な息 CHEAP BREATH
===
呪い?
わっとチンパンジー達が歓喜の雄たけびを集団であげた。
数も20体ほどに増えている。追ってこないし近づいてこない。
ということは…
どこからか現れたイヌ型が疾走してきてこちらに噛みつこうとしてきた!
躱して反転し突き殺す。俺を中心にして何かを巻き込んでいくような霊気の動き。周辺の魔物の憎悪を俺が一身に受けている!イヌ型の群れがこちらへと向かってくる。ネズミやカラスもだ!
逃走する!
ここで全部受けてたら死ぬ。
数十匹の魔物やらエイリアンから逃げている最中に河馬のようなエイリアンまで現れて恐ろしい速度でこちらを追走。
まずい、まず過ぎる。特に河馬のエイリアン。あいつはヤバそうだぞ! 全力で建物を障害物にしながら逃げるしかない。塀や壁を簡単にぶち壊しながら追いかけてくる河馬型。
追いつかれそうだ。この体躯で時速何キロ出るんだよ、こいつは!
上から何かが急降下。襲ってくる! カラスなどの鳥系の魔物まで!足を止めず、やみくもに躱す。
小鬼たちもも俺に反応して当たらないが、物を投げつけてきていた。
そしてダメ押しとばかりにもう一体、河馬型がきた! 執拗に追いかけてくる。戦車以上の化け物が2体に。
倒壊して斜めになっているビルに逃げ込む!
河馬2匹も続けざまに入ってくる。急旋回、振り向きざまにカバの目を片方突きやぶる。カバが心臓が飛び出るような迫力の咆哮をだした!大気がビリビリと震える。それだけで一瞬気を失うかと思うほどの迫力。
上階に向かってビルの天井に空いた穴と階段を使い駆け上がる。ビルの一部が揺れる。河馬型はなかなか諦めてはくれない。
「ここ崩れないだろうな!」
ビルの壊れた窓からもう一つのビルに飛び移る!
もう1匹のカバが壁事破壊して猛追してくる! 広いオフィスの中。微妙に挟み撃ちになる形の状況になってしまう。窓から外に飛び出す。恐らく6階くらいか。飛びだしてから何階層にいたのか漸く把握した。
ちなみに何処にも飛び移れる場所はない。
俺を追って一匹がそのまま飛び出してくる! 空中で傀儡師の左手から糸をだす。ビルの外壁に引っ掛けて器用にビルの間を飛び越えて移動していく。
河馬エイリアンは6階から勢いよく落下。かなり落下ダメージが入ったようで朦朧としている。すごい衝撃だっただろう。着地もまともに出来ていなかった。
もう一匹が来る前に頭上から全力の霊気を込めた槍とともに落下。頭蓋骨を穿ちぬく! 手応えは恐ろしく堅いものの確かだった。こいつが警戒してたら多分頭蓋骨を貫通させられなかった。
やっぱりこいつは格上だ。まともに相手などしてられない。
少し息を整えてから霊気を一気に吸収。まごうことなき大物。霊気がずいぶん濃い。頭がクラクラする。あの陸竜に余裕で匹敵する。これ以上のペースで吸うとまずい。ここで気を失ったら終わりだぞ。自身に言い聞かせた。
まだ少し吸えそうだが、リスキーすぎる上もう留まってられない。都市の中心地から離れるように走り出す。イヌ型に感知されて8匹くらいに吠えたてられ追いかけられる。
何匹か槍で手傷を負わせながら走り、街を縦断するように流れている大きな川に堤防から降りていき飛び込む。
頭がズキズキと痛くなってきた。
とにかく川で
煙が洗い流せるかもしれない!
変な魚が噛みついてきた!
クソ! 悪態をつきながら
川から飛び出る。正体不明の生き物がいる水中に居続けるのは怖い。仙人の呼吸で足に霊気をまとわせて霊気を性質を変化させる。水上を地面のように走り始めた。ここ数日風呂場で霊気を変質させて遊んでたのが幸いした。川をそのまま慣れない水上走りでなんとか横断。
そしてまた! 化け物の群れ! モンスター!
今度はヒト型異星獣の群れ、そればかりか見慣れない個体まで!ヒト型にすぐに見つかり6体ほどがこちらに攻撃を始める。口から弾丸を撃って来る個体もいた。いつまで躱していられるか……
頭が痛い、目がかすむ。
最悪だ、この呪い! あの糞チンプ!
ヒト型から逃げながらなんとか撒こうと必要な時に限り応戦。
一匹いいダメージを与えた。
傀儡化… 成功。
左手でヒト型の傀儡を操りながら逃げ、先頭のヒト型を連携しながら片付けていく。
もう一体も傀儡化… 成功。二匹同時に操りだした途端に操作が難しくなった。けれどやれる。行くぞ、傀儡達。それに俺も、諦めるな。
体力も集中力も限界だが、拮抗していたバランスが崩れた。みるみるうちに、こちらに形勢が傾いていく。残り4匹。都市部と郊外に近くなり始めたとこにあるビルの入り口あたりで障害物を使いながら応戦。
俺の傀儡化した2体のヒト型。1匹は手に槍のような刺突武器を出す。もう一匹は二足歩行と4足歩行を織り交ぜながら口から散弾を放つタイプ。見た目は似ているが微妙に違いがある。敵のヒト型のリーダー個体は両手に斧を持っている。ほかのヒト型より一回り大きい。
しかもこいつ斧を投げてくる、斧は引き寄せられるようにやつの手元に戻っていく。叩き落としても磁石のように奴の手元に戻る。便利そうで羨ましい。傀儡糸を一本使って一匹を転ばせる、槍型が止めを刺してショットガン型が残りの三匹をけん制。残るは斧持ち1体と通常型2体。
頭がぼうっとする中視界にチカチカと光が入って来ていた。
(何だ?)
向こうのビルからチラチラと光が見える。誰かが鏡かなにかでサインを送っている? モールス信号か? モールス信号なら俺にはよくわからない。送ってこられても無駄だ。
また立ち回りの中で多少突出しすぎ、一瞬他のヒト型と距離が開いた一匹を仕留める。残り二匹となって一気にこっちに形勢が傾いた。リーダー格に散弾が命中してひるんだ瞬間に距離を詰め自ら渾身の突きを繰り出して心臓を一突きに。敵は崩れ落ちてそのまま2匹の傀儡がもう一匹を仕留めて戦闘が終わった。
霊気を吸収。
2匹の傀儡にも吸い上げた霊気を分ける。先ほどの光がちらついていたのビルを見ると5階の割れた窓のところから男が身を乗り出して
「おぉーい!」
手を振っていた。
友好的な雰囲気。そしれに人間だ!緊張が解けると同時に力も抜けてよろよろとビルに足を踏み入れる。ビルの中にはさっきの男。褐色の肌、黒人の男で上背は高く190くらい手足が長くスラッとしている。落ち着いた雰囲気で目から理性が伺えるかんじの男。短髪で黒いコートを着ている。
それといっしょに少し背の低い155センチくらいのブロンドの娘。20歳くらい。白ワイシャツに黒いパンツ。顔立ちは整っていて少し頬が朱くなっていて愛らしい。ショートカット。フレンドリーで感じのよさそうな女の子だった。
「ありがとう、助かった。」
とだけ何とか言うと
二人が
「やったー!」
と同時に言って迎え入れてくれた。




