4話
窓の外を見ればまだ外は暗い。
今何時だろう。
腕時計を見て固まる。
午後6時過ぎ? 10時間以上寝ていた?
頭がパニックになる。
早く帰らないと…
誰かに嫌味を言われなければいいけど…
これだけ遅れて何やってたんだか! とかさ。
急いで支度を済ましスーパーマーケットに向かう。
小雨の森の道を走っていると、霧が濃くなってきた。
「……やばい、道間違えたかも。」
まずい、どうしよう。
もう勘を頼りに進むしかない。
ほんとに踏んだり蹴ったりだった…
気が沈む。
直感で進んで
全然知らない道に出てしまう。
完全に迷った。もう底なし沼にでも沈んで、
そのままどこかに消えてしまいたい気分だ。
「もう泣きたいよ……」
深呼吸する。
落ち着こう、遅れてもいい。
見覚えのある道につくまで別荘に向かって戻ろう。
雨足が強くなってきた、
辺りは暗く漂う濃い霧に覆われている。
視界は20mも無いのではないかというほど。
(全然見渡せない、これじゃ方向なんて分かりっこない……)
兎に角移動し続ける。
しかし道に出ても…
「ぜんぜん見覚えのある道に出ない!」
もっと方向がわからなくなっている!
落ち着こう、ほんとに落ち着こう。
大丈夫、そりゃ怒りたくなるよ。
普通だよ、こんなの。
心の中で自分を慰める。落ち込んでいる友人に
対するように言葉をかけた。
何がいい判断なんだろうか…
只々
疲れた…
「スーパーマーケット店内 」
---TONY SIDE
リーダーが帰ってこない……
魔女、ルネーが外に偵察にいって数時間経った。
まだ約束の時間。半日経ったわけでは無かったが、
何か嫌な予感がしていたのだ。
不安がり過ぎだろうか。
店の中は相変わらず空気が悪い。
皆憔悴しきっている。
子供は泣いている子もいた。
皆ストレスが限界を迎え始めている。
俺だって矢を作ってごまかしているだけだ。
これだけ長い間どこからも救助が来ないのは何故だ?
世界は本当にどうにかしてしまったのじゃないか。
アポカリプスが起こっているのか? 本当に?
流石にこの大陸だけだよな?
でもヘリや、飛行機すら見ないのは……
もしも救助が期待出来ないのなら… ここから出たほうがいいのか?
いや一体何処へ行くんだ?
ここから出てどうするのか。もっと安全な土地は何処だ。
ずっと先に学校があるが立てこもるには大きすぎる。
塀には囲まれているけどこの人数で守れるか怪しかった。
もっと大きなグループと合流できれば拠点や生活の選択肢も広がるだろうけど。
小鬼とも対抗できるだろうし畑だって作れるかもしれない。
まずは他のグループとの合流を目指すのがいいか。
もう40半ばだ、俺も。
家族とは離れて暮らしてるけど、どうしてるのだろう。
嫁とは離婚したし、子供もいないけれど。
親は他州に健在で兄弟は外国暮らしだった。
考えに耽りながら矢を作っていると
ここにいる女性のうちの一人が相談に来た。
男達のうち2人が彼女を性的な目で見だしてるらしい。
話を聞きながらも胃がキリキリと痛んだ。頭も少し痛い。
……前にも釘は刺しといたが。大丈夫だろうな。
ここに来て仲間割れだのなんだのに
発展するようなこと起こさないでくれよ…
最近は不安感が増すことばかりだと思った。
結局魔女は半日たっても帰ってこなかった。
彼女がいないとグループの空気が明らかに違う。
なんと言うか天使みたいなオーラで、カリスマもあった。
彼女がいる間は皆もう少ししっかり振舞っていた。
彼女が帰ってこないことの意味を考えるのも、話し合うのも
皆億劫なのか。沈黙が長く続いていた。
最近不満げな様子をおおぴらに見せだした男の一人が
ーどうなってるんだ! アイツは何故帰ってこないんだ!
と声を荒げた。
「知るわけないだろう!」
怒鳴り返しておく。何様なんだお前は!
子供みたいに!
男はチっと舌打ちをしてボソボソと
悪口か何かを呟いていた。
夕方前になりバリケードがノックされた。
皆が一斉に顔を上げた! ホッとしたような空気が店内に充満した。
が、それは我らがリーダーの帰還ではなかった。
「誰か! 誰かいないか!」
他の人間! がっかりしたのも束の間
近くの町の生き残りらしい。心の中に希望の火が灯る。
周囲にモンスターはいないと言ったので物を動かしてバリケードを少し開けた。
矢継ぎ早にこちらの情報を聞いて来る。
何人いるか何人の男が戦えるかとか…
何だ? 妙にまくし立てるように早口で……
何でそんなことを急いで聞くんだ?
こいつら雰囲気もおかしい
胡散臭い、若者たち。
頭が悪そうなうえに高をくくってるような感じの悪さ。
何かを開き直っているのを隠さないような態度。
嫌な予感。頭の中で警報機が鳴っているようだった。
入口から酷く舐めた態度の
チリチリ頭の金髪のリーダー格が気持ち悪い視線で奥にいる女を見た。
後ろに控えてる奴らも女を見てほかの男と目くばせをした。
とにかく中に入れてくれ合流しようとかいってきたが。
リーダー格に弓矢を構えた。
「だめだ、全然信用できないな。」
チッ、と大きく舌打ちしてきた
のらりくらりと説得しようとしてくるがこっちの質問に答えるのに積極的じゃない。
やはり、こいつら悪意を持っている。
何かする切っ掛けを探しているんだ。
金髪のチリチリ頭の男は
じれたのかいきなり俺の後ろにいたいつも不満面してたアイツ。
マリオに話しかけ始めた。
「おい、アンタこの人の仲間だろ? 何とかしてくれよ。
モンスターが来ちまったらどうすんだよ。まじでよー。」
マリオは
「たまたまここで一緒に生き残っただけだ。」
とぶっきらぼうに言った。
途端やつらがにやけた。
「なぁ、あんたこのおっさん裏切れって。」
「オイオイ、ついに本性現したな、何が目的だ?」
「うるせーよ、もう町は壊滅してんだよ。」
「みーんな好き勝手やってんだ。ここで生真面目なおっさんにしたがって息苦しくくらして最後はバケモンにくわれる? ぜーったいに、ごめんだねーギャハハ。」
「そこの女も子供も好きにやっちゃえばいいじゃん?
このおっさんがそういうの許してくれない感じだ?」
「オレらの仲間になってこのオッサンを裏切ったら好き勝手出来るぜ。
ちなみに、俺らに付かなかったやつらは凄惨なやり方で殺してやるからな?」
どうするか決めろとマリオやその後ろに控えてる奴らに揺さぶりをかけてくる。
こっちの男は12名いるこいつらは7名。
こいつらから簡単に攻撃はしてこないことを祈りたいが。
下品な揺さぶりをかけてきやがる。
たしかに成り行きでただ一緒にいる集団なのも事実。
背後で音がした、視界の端。横目で見ると
マリオがルネーがアイテムを置いて行った箱に近づいていく所だった。
心臓が跳ね上がった。自身の鼓動が聞こえた。
耳の横に心臓があるんじゃないかと思うほど大きく。
こいつ!
「おい!」
「うるせーよ。裏切んねーよ…」
俺はリーダー格に矢を向け目を離さないようにする。
このチリチリ頭は油断ならない。目を離してはいけない気がするのだ。
マリオ! ……頼むぞ! 信じるぞ!
マリオはアイテムが入ってる箱からなにか取り出して
その瞬間取り出した何かを、
招かれざる来訪者たちに投げつけた!
相手のグループの誰かに当たった! 魔女特製の毒の水晶球。
ガラスの様に砕け、破片が連中に突き刺さる!
即チリチリ頭に矢を放つ。
反応して素早く避けようとしたが
俺の矢は奴の肩に当たった。
毒の水晶球の破片が刺さった敵が痙攣して倒れていく。
また背後で音がした。
振り返るとマリオともう一人の仲間が
俺の近くの仲間の男をナイフで刺している所だった。
「何をやってる!」
怒鳴りつけると。
「あとで話す!」
二人はとだけ言った。
「ええい!
もうわけがわからん!」
チンピラが二人がかりでに襲いかかろうとしてきたが、
俺が次の矢で一人の首に矢を放ち倒した。
もう片方は他の男たちに簡易的な槍で腕を突かれ。
リーダーと共に逃げ始める。
7人から半分に減らせた!
しかも敵リーダーともう一人は負傷している。
悪くない状況か。
いや全然悪くない状況だ!
マリオがもう一発という具合に毒水晶を投げるが惜しくも外れた。
駐車場の奥からチリチリ頭が火炎瓶を取り出して、火をつけた。
こちらにお返しとばかりに投げつけて来た!
一発目はスーパー手前で落ちて被害は軽微だったが、
火炎瓶の威力が予想以上だった。どんな液体が入っているんだ!
さらにもう3つほど投げつけてくる。
いったい何処でそんなものを!
複数の火炎瓶がスーパーの中に投げ込まれて火が燃え上がる。
引火し始めた。どんどん広がっている。
まずいぞ…
奴らはこちらを確認もせずに一目散に逃げていった。
頭が真っ白になる。みんなで消火しなければ…
速く鎮火しないと…
今…
ここに小鬼の群れが来たら、俺たちは終わる…




