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真っ暗な空間を漂っている。ここは、どこだ?

――――、―――――!

誰かが呼んでいる。

目を開けようとするが、瞼が石のように重たい。

身体が熱く、全身がおもうように動かない。

少しでも動かそうとすると、激痛の波がやってくる。

ヴッ・・・ッ!

―――さん、――――――い。

口に柔らかい何かが触れたかと思うと、液体が流れ込んできた。

これは・・・水か?

喉を通り、火照る身体にしみこんでいく。

トキヤさん

この声・・・どこかで聞いたことが。

手を伸ばすと、そっと包み込むように誰かが握ってくれた。

あぁ、温かい・・・。

だんだん意識が浮上していく。

「・・・ッ」

「トキヤさん!?」

ゆるりと目を開けると、ラピスが心配そうに覗き込んでいる。

「・・・ラ、ピス?」

ゴツゴツした壁をほんのりと照らす焚き火が時々揺らめいてはパチッ、パチッとはぜている。

「こ、こは?」

「洞穴の中です。さっき、近くで見つけたんです。」

肩と脇腹に白い布が巻いてあり、額にはひんやりとした何かが乗せてある。

熱もあるのか身体が怠くてじっとりと汗ばんでいる。

「ラピスが・・・手当てを?」

「はい、アイテムバッグに包帯の残りがあったので。ちょうど足りて良かったです。」

「そう、か・・・」

起き上がろうとすると、激痛がはしり思わず蹲った。

「ぐッ!・・・ヴァッ!!」

「トキヤさんッ!?まだ動いたら――」

「ハァッ・・・ウッ・・・ッ」

どうにか痛みをやりすごそうと傷を押さえて呻く。

・・・やっと落ち着いたか。

ゆっくり息を吐きながら身体の力を緩めたその時、妙な物が視界に入った。

「・・・これは?」

「『モイストマッシュルーム』の傘です。この洞穴にたくさんあったんですよ。」

転がり落ちたスライムのようなそれをラピスが再び額にのせてくれた。

周りを見渡すと、半透明の水色の茸があちこちに生えている。

「地下水を吸収して貯めるので、ほとんどが水分でできているんです。茎は搾ると水が出るのでさっきトキヤさんに・・・」

言いかけると、ラピスは顔を真っ赤にして俯いている。

「・・・ラピス?」

「な、な、なんでもないです!そっ、それからですね!この茸には浄化作用もあって、闇属性の魔法にかかった時の薬にもなるんですよ。」

慌てて説明するラピスの後ろに薬用鍋があり、中で何かが煮えている。

「あれは・・・?」

倦怠感に微睡みながら呟くと、ラピスが俺の視線の先のそれに気づいた。

「さっきのサベジグリズリーの肝です。これで、魔力・体力を回復する薬が作れるんです。少し時間がかかりますが『マキシヒール』も使えるまでに回復できますので、完成したらすぐに飲んで治療しますね!」

「あぁ、ッ・・・頼んだ、ぜ・・・ッ」

熱が上がってきたようで、呼吸も荒くなっている。

「ハァ・・ハッ・・・少し、眠って・・・いいか?」

「ええ、ゆっくり休んでください。」

首元を伝う汗を拭いながら、ラピスは囁いた。

「絶対に―――――から、絶対に・・・」

最後の言葉がよく聞こえなかった。

何て言ったんだろう。

気になるが、今は眠すぎる・・・休むしかない、か。

重くなってきた瞼を閉じ、意識を手放した。


洞穴に差し込む朝日の眩しさに思わず目を開けた。


意識がはっきりとしてくると、昨日の出来事をありありと思い出した。

「ああ、そうか。俺、重傷だったんだっけか。サベジグリズリーに噛まれて、それから・・・」

起き上がって肩に触れてみると傷は跡形もなく、あの辛かった痛みが嘘のように消えていた。

熱も下がり、身体が昨日よりもずっと軽い。

「ラピスは・・・!?」

ふと見下ろすと、ラピスがすぐ横で穏やかな寝息をたてていた。

わぉ!近い、近い、近ーい!!

無防備すぎですよ、ラピスさん。

寝込みの時にこうすると女性は嬉しいとかイケメンなりの何かがあるだろうが、敢えてしない。

ラピスに変態扱いされて詰むのは避けたい。

本音は、そもそもどうしたら良いのか分からんだけだが・・・俺もまだまだだな。

傍には包帯の残りや空の薬用鍋などの調合用の道具が転がっている。

あの後、治してくれたのか。

「ありがとうな、ラピス。」

呟くと、身動いだラピスの銀色の髪がサラリと揺れた。

「うーん、トキヤさん・・・それを食べたら、甘党になっちゃいますぅ・・・」

おいおい、どんな夢を見てるんだよ。

夢の内容も気になるが、まずは自分のステータスを見てみますか。

おお!レベルが10に上がっている!!

それに、持続時間やMPも以前より増えていて『兼役』のスキルの項目に『サベジグリズリー』MP20も追加されていた。

そうだ、試しに使ってみるか!

昨日から何も食べていなかったからか、腹も空いている。

よし、食料を探しに行こう!

熟睡中のラピスを起こさないように、静かに立ち上がった。

外に出ると、オレンジ色の猪のようなモンスターが木の根元を太い牙で掘り返していた。

『ヒートボア』レベル6か、余裕で倒せるな。

土をいじっているところすまないが、今日の朝飯になってもらうぞ。

『サベジグリズリー』に変化すると、気づいたヒートボアがいきなり突進してきた。

先ずは普通に攻撃してみるか。

片手を振り上げて、横面に一撃を叩き込んだ。

ブゴオオオッ!?

ヒートボアが横に吹っ飛び、回転しながら木の幹に頭からめり込んだ。

ドシィッ バキバキバキッ メリィ・・・

「・・・あれ?」

まさか、これ程の威力とは。

『サベジグリズリー』自体がパワー系だから、力加減も覚えないといけないか。

「今の音は!?トキヤさん・・・」

慌てて飛び出してきたラピスと目が合った。

片手をスッとあげて挨拶する。

「・・・お、おはよう。」

お互いにしばらく固まっていたが、先にラピスが悲鳴をあげた。

「キャーッ!!」

「待て待て待て、俺だよ!ラピスッ!」

近づいて身振り手振りで伝えようとしたのが逆効果だったようで、ラピスは更にパニックになっている。

「イヤーッ!こっち来ないでーー!!」

「ラピス!俺だよ、トキヤだよ!!」

ラピスが拾い投げつける石を避けつつ、自分を指差しながらなんとか説得しようとする。

「この声、トキヤさん?」

「そ、俺です。」

石を掴んだまま、毛むくじゃらの俺を見上げてキョトンとしている。

「なんで、その姿なんですか?」

「もう少しで変身が解けるから、しばし待ってくれ。」


元の姿に戻った俺は、昨日のことも含めて『兼役』のスキルについてラピスに説明した。

「そうだったんですね!変身できる能力だったなんて・・・。それはそうと!トキヤさんが急にいなくなってびっくりしちゃいましたよ。外に出たら、あんなことになってるし。トキヤさんに何かあったんじゃないかって心配しましたよ、もう!」

「・・・すまん。」

腰に手を当ててプンプン怒っているラピスの前で、俺はぐうの音も出ない。

昨日の今日だったから、そりゃ気が気じゃないよな。

「本当にすまなかった。それに、大事な杖も折ってしまってごめん!ああするしかないと思って、俺・・・頭に血がのぼってしまって――」

「いいんです!それよりも、トキヤさんが元気になって良かった・・・ッ」

ラピスが俯いて肩を微かに震わせている。

心配になり、おそるおそる尋ねた。

「ど、どうした?どこか痛いのか?」

「私、本当は・・・怖かったんです。あの杖を手放したら、自分じゃいられなくなると思って。魔力消費をしていなければすぐに回復魔法が使えたはずなんです。それなのに、トキヤさんに無茶をさせてしまって・・・ごめんなさい。」

顔を覆う指の間からポタポタと涙がこぼれ落ちていく。

「それに、あんな風に言ってくれたのはトキヤさんが初めてでした。私、嬉しかった。生きてて良い、ここにいて良いんだって。だから、決めたんです。トキヤさんを絶対助けるって。」

(絶対助けますから。絶対に・・・)

ラピスは、そう言っていたのか。

俺は手を伸ばし、ラピスの頭を優しく撫でた。

「本当にありがとうな。俺さ、強くなるよ。今は多少の無茶はさせてくれ、そうでもしないとレベルも上がらないからな。これからもよろしくな、ラピス。」

「任せてください!私なりにできることを見つけてトキヤさんをサポートしますね。こちらこそ、よろしくお願いしますッ!」

パッと顔を上げたラピスは、背中に両腕を回してギュッと抱きしめた。

おわッ!?この柔らかいのは・・・。

上半身は包帯を巻いているだけだから、服を着ている時よりもラピスの胸の感触がより分かってしまう。

刺激が今までの中で最強だったのか、鼻の下から生温かい何かがツウッと一筋流れた。

「ラ、ラピス・・・」

「トキヤさん、どうしたんですか?」

鼻を片手で押さえて固まっている俺を不思議そうに見ている。

「すまん、鼻血が・・・出た。」

「ええっ!?な、何で・・・あっ!まさか、あの薬がトキヤさんに合わなかったんじゃ――」

「いや、そうじゃないかも。」

男、特に童貞なら誰でも分かる不可抗力だ。

「滋養強壮に良いアレも加えたからかも。できるだけ少量にしたのですが・・・」

ちょ、アレって何!?

めっちゃ気になるんですけど、ラピスさん!?

貧血でひっくり返りそうになる横で、ラピスが慌てて『ヒール』を発動した。

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