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俺とラピスは木や岩の間をくぐり抜けながら懸命に逃げるが、どこまでも追いかけてくる。

逃げる途中で、残りの爆弾手裏剣も使いきってしまった。

マジでやばいな。

疼く脇腹の傷も気になるが、さっきから身体中がピリピリして動かしにくい。

そういえば、あいつ《サベジグリズリー》のスキルに『毒』もあったな。

血の匂いを辿りながら、遅延性の毒で弱ったところを狙いにきたってことか。

ますますやばくなってきた。

「くそっ!こうなったら・・・」

「トキヤさん!?」

「ラピス、先に行くんだ!」

走りながら、後ろからついてきているラピスに声をかけた。

「で、でも。」

「早く!」

ラピスは迷っていたが、頷くと追い越して藪の向こうに姿を消した。

俺は、サベジグリズリーの方を向いて構えた。

「いちかばちかだ・・・。このスキル使ってみるか!」

ステータスの画面を開き『兼役』を押したその時、身体がボワンッと白い煙に包まれた。

「うわっ!?」

思わず目を瞑った。

身体が急に縮んだかと思うと、宙に浮いていた。

・・・あれ?

背中に羽がはえている?

動かす度に、粉のようなものが周りにパラパラと舞う。

見上げているサベジグリズリーの瞳に映る俺の姿は、なんとあの『パラモス』だった。

「なんじゃこりゃあ!?」

グルァッ!?

いきなりのことでお互いに驚いている。

そうか!

『兼役』って、変身するスキルだったのか。

「今だ!」

顔めがけて急降下、からの・・・いけ、『パラモス』!たいあたりだ!

って、『パラモス』は俺だけど。

グガアァッ

不意をつかれたサベジグリズリー

ひっくり返り、ズズゥンと地響きが鳴り渡った。

効果ばつぐんだ!

「やったぜ!」

グルグル飛び回っていると、さっきの白い煙に包まれた。

「あ、あれ?」

『パラモス』から元の姿に戻ってしまった。

ちょっと待てよ、戻るの早くね?

改めてステータスを見ると、『兼役』の横に『獣変化』1個体につき1日1回 持続時間 1分

種類

『スライム』MP2

『ニードルマウス』MP5

『パラモス』MP10


『獣変化』は、倒したモンスターに化けられるってことか。

なるほどな・・・って、1分は短すぎだろ!

これからレベルを上げていけば、もっと長い時間で変身を維持できるかもしれない。

MPは1しか残っていない。

『パラモス』に変身したことによりMPを10消費したということだな。

レベリングで、MPもこれから増やしていくしかないか。

「トキヤさーん!」

ラピスが向こうから駆け寄ってくる。

「だいじょうぶでしたか?」

「おう!」

「気絶しているみたいですね。でも、なんで麻痺状態に?」

「そ、それは・・・。まぁ、なんやかんやでこうなった。」

まさか、パラモスになって倒したなんて言ったら驚くだろうな。

後で、ラピスに詳しく説明しよう。

腑に落ちないと言いたげに首を傾げている。

「なんやかんやって、どういうことですか?」

「詳しくはあとで話すよ。ほら、あいつが起きるかもしれないだろ?今のうちに逃げようぜ!」

その時。

グルルルル・・・

「!!」

俺たちがバッと後ろを振り返ると、サベジグリズリーがむくりと起き上がっていた。

おいおい、このタイミングで!?

しれっと『麻痺耐性』も習得しているとか、モンスターに優しいのか?この異世界は。

サベジグリズリーは杖を握りしめたまま今にも足がすくみそうになっているラピスに向かって、口を開けておそいかかった。

「避けろラピス!」

くそっ、間に合わない!

俺はラピスの前に出てクナイを構えた。

サベジグリズリーは片手でクナイを弾き飛ばし、右肩に噛みついた。

「ぐッ!」

噛まれた箇所がカッと熱くなったかと思うと、激痛が全身にはしった。

吹き出した血が地面にビシャッと跳ね、服をジワジワと真っ赤に染めていく。

鋭く尖った牙が傷をひろげながら深く潜り込み、肉を裂いていく痛みに耐えきれず絶叫した。

「ッ、ぐあああァッ!!」

「トキヤさんッ!?」

「ラ、ピス・・・逃げ、ろ・・・ッ」

「嫌です!」

「ウッ・・・もう魔力が、無いんだろ?」

「そんなこと、ないです!もう一撃分は――」

「やめとけ・・・俺はッ・・・今のラピスに、助けられたくは、ない・・・ッ」

サベジグリズリーから逃げている途中で、ラピスのステータスを『鑑定』してMPがほとんど残っていないことも気づいていた。

「こ、こは・・・ぐッ、俺がな、んとか・・・する。だからッ、早く・・・遠くに――」

「嫌です!このままトキヤさんを見捨てて行くなんて、私には――」

「ラピスッ!!」

俺が叫ぶと、ラピスがビクッとなった。

「自分を追い詰めてまで・・・しなくていい。ラピスが辛いと、ッ、俺も辛い。」

「でも・・・でも、私はこの杖でここまでできないと駄目なんです!私がいる意味がないんです!!」

「どれだけ何かができようができまいが・・・いなくていい奴なんていない。ラピスが・・・いるだけでッ、俺は、何度も助けられた。

生きていて良いんだよ、ラピスは。」

「!!」

「だから、ッ、もう無茶すんな。できることを・・・ラピスが見つけていけばいい。」

サベジグリズリーが顎に力を加え、メキャッと嫌な音が響いた。

「がアァぁッ!・・・カハッ、ァ・・・」

「トキヤさんッ!!」

あまりの激痛に意識が飛びそうになる。

やばい、これは折れたか。

それに、半分あったHPも残りわずかになっている。

「す、まない・・・ラピ、ス・・・」

目を閉じ膝からくずおれそうになったその時、

「いやよ・・・そんなのいやッ!駄目ェ!!」

ラピスは叫びながら、サベジグリズリーの額に両手で思いっきり杖を突き刺した。

グアアアアアアアッ

「!!?」

絶叫しながらサベジグリズリーが肩から口を外すと同時に、血がブシュッと宙に飛び散った。

「ヴアッ!!・・・ッ、ウッ」

ドクドクと疼く傷を押さえながら、俺は片膝をついて座り込んだ。

指の間から生温かい血が次々と溢れては腕をつたって流れ落ちていく。

「トキヤさん!」

ラピスが駆け寄り、ふらつく身体を支えてくれた。

刺さった杖の効果でサベジグリズリーのHPがみるみる減っていき、泡だった血をふきだしながら地響きをたてて倒れた。

「ハァッ・・・ッ、あいつ、は・・・ッ」

呼吸が乱れる度に疼痛が這い、身体を震わせる。

視線を向けた先に、地面に伏しながらもサベジグリズリーは牙を鳴らして目をギラギラとさせていた。

まだ息があるか。

「ラピス、ここでッ・・・待ってろ。」

俺はよろけながらも残っていた気力で立ち上がり、フラフラと近づいていく。

身体はもう限界だが・・・まだだ。

自身の血に染められた手で杖を掴み、硬い黒毛で覆われた額に深く押し込んだ。

グオァアアァッ

目をカッと見開き血を吐き飛ばしながらもがくと、それっきり動かなくなった。

今度こそ倒せたか。

「もう、ラピスを・・・解放してやってくれよ。」

俺は杖に呟くと、片手に力を込めて真っ二つに折った。


「トキヤさん、無茶しすぎです!」

サベジグリズリーの毒が回り、力が入らなくなってきた身体をラピスに支えてもらいながら、木の幹に寄りかかった。

「あの杖・・・ッ・・・意外に役に立ってくれた、な。」

「もう、そんなこと言ってる場合じゃ――」

「アハハ、ッ!・・・ヴッ!!」

「トキヤさん!?」

「ウッ・・・ハァ、少し、ひびいたッ、だけだ。」

ラピスが解毒薬をアイテムバッグから急いで取り出すと、少しずつ口に含ませてくれた。

生き残ったんだ、俺たち。

ふと空を見ると、かすかに瞬く星がいつもより強く輝いている。

「ラピス、ッ・・・怪我、は?」

掠れる声で尋ねると、ラピスは泣きそうになりながらブンブンと首を振る。

「それよりも、トキヤさんの方が・・・私、まだ魔力が回復してなくて。今すぐにでも、治療したいのにッ・・・ごめんなさィ・・・ッ」

夜空を思わせる濃紺の瞳を潤ませ、泥だらけになったワンピースの裾を握り項垂れている。

痛みに耐えながら震える手を伸ばし、ラピスの頭を撫でた。

「俺は、だい、じょうぶ、だッ・・・から・・・ッ」

周りの景色が二重に見えてきた。

怠い、血を流しすぎたか・・・。

それにあの杖にも触れてしまったのもあるか。鑑定したばかりだったのに、すっかり忘れてたな。

さっきよりも手足に力が入らなくなり、目の前がぼんやり霞んできた。

頭がガクンと前に傾く。

「ラ、ピス、」

「トキヤさん?」

「すまん、少しや、す・・・」

「トキヤさん!?トキヤさん、しっかり!!」

慌てて揺さぶるラピスの声が遠のいていく。

少し休むだけだ、心配するな。と言ったつもりだったが・・・上手く言えなかった、な。

俺は意識を手放した。

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