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「ん・・・?私・・・」

「起きたか、ラピス。」

「トキヤさん・・・!?」

ゆっくり瞼を開けたラピスは勢いよく身体を起こすと、辺りをキョロキョロ見回している。

「急に倒れたからびっくりしたぜ。」

「そうだったんですね・・・もしかして、トキヤさんがここまで運んでくれたんですね。ごめんなさい・・・足手まといになっちゃって。」

「いやいや、そんなことないよ。ラピスがあの時魔法ファイショットで不意をついていなかったら、逃げられなかった。」

「サベジグリズリーにすぐ攻撃できたら良かったのですが・・・トキヤさん!?その傷。」

「あ、あぁ。これか?血も止まっているし、たいしたことないよ。」

「ダメです!すぐ治しますから。」

「いいって。かすり傷だぜ?」

傷を見るために服に触れようとするラピスを制した。

「でっ、でも。」

「その前に、ラピス。」

「?」

夕暮れに染まる葉の間をサァッと風が吹き抜け、ラピスの髪が揺れた。

「見せてくれないか、その・・・確認したいことがあって。」

「えっ、私は別にどこも・・・」

「レベリング中、気になっていたんだ。」

「・・・トキヤさん、なんで分かったんですか?」

ラピスが驚いて目を見開いている。

「見ていたら、俺でも分かる。」

「それは、私ひとりで何とか――」

「ラピス、無理しなくてもいいんだぜ?俺に何かできることがあれば言ってほしいんだ。」

「トキヤさん・・・」

俺は立ち上がり、戸惑うラピスをじっと見つめる。

「わ、分かりました。お願いしていいんですか?」

「おう、いいぜ。」

ん?

お願いって?

俺が首を傾げている間に、ラピスがクルッと後ろを向いてゴソゴソしていたかと思うと服がずれて柔らかな肌の白い両肩があらわになった。

「ちょ!?まっ、待て待て待て!ストップ!!」

「トキヤさん?」

慌てる俺を不思議そうに見つめるラピス。

「なぜ、服を脱ごうと。」

「えっ?」

「は?」

お互いにキョトンとしている。

「実は、背中が痒くてずっと気になっていたんです。カサカサ音がするので、葉っぱか何かが服の中に入ったかも。歩きながらなんとかしてとろうとしたのですが、上手くできなくて。」

「そ、そうだったのか・・・」

そっちかよ!!

顔に手をあて空を仰ぐ。

「トキヤさんがとってくれるって、ことじゃなくてですか?」

「それは・・・ラピス、自分でとってくれ。」


「とれました!やっぱり、葉っぱでした。」

「それは良かった。」

ラピスが服を着直すまで、俺は目を瞑りながら後ろを向いていた。

あと少しでとんだ変態になるところだった。

瞼の裏にさっきのラピスの肩が映し出される。俺は勢いよく首をふりかき消した。

落ち着け、落ち着けー!!

今夜、ラピスの隣で眠れるか心配になってきた。

顔の火照りも冷めたところで、ゆっくり振り向いた。

「ラピス」

「どうしたんですか?」

「・・・実は、ラピスが寝ている間に杖を調べた。勝手に『鑑定』してしまってすまない。」

「えっ!なんで・・・」

服を着直したラピスの顔色がサッと変わる。

「本当にすまない。ラピスが魔法を使う度に

きつそうだったから。」

「それは・・・」

「あの杖、やばいんじゃないか?村長に唆されてラピスが今まで無理してきたんじゃ――」

「そんなこと!」

ラピスが勢いよく近づいてくる。

口調からも怒っているのが伝わる。

「そんなこと・・・ないです!」

「ないわけないだろ!術者のHPとMPを消耗する杖なんて、持っていても意味がないじゃないか!」

俺もラピスを見据えて、同じ口調になる。

「魔導調合師なのに、回復以外の魔法が使えないなんてありえないと村長も言っていました。こうでもしないと、ずっと役立たずなんです!

この杖を授けると言われた時に、こんな私でもまだまだ期待されていると実感しました。お前はダメだと言いながらも、魔法を教えてくれた長から。私のことを信じて認めてくれているって・・・それだけで嬉しかったし、今まで頑張ってこれたんです。」

「本当にそうだったら、あの場所に転移なんてしないだろう?それに、あんな監視するような石を杖に仕込んだりは――」

「あれは、私が迷った時に居場所が分かるようにするためだと長が言っていました。追放されたから、もう意味なんて・・・」

ワンピースの裾を握り、今にも泣きそうになりながら俺をじっと見つめている。

師匠として慕っていた村長に期待されながら村のためにと頑張ってきたのに、自身が良かれと思ってしたことが仇になり追放された。

ラピスの中で矛盾はあるだろうが、自身が生まれ育った村への思いは強く残っている。

これ以上傷つけてはいけない。

俺はラピスから視線をそらして俯いた。

「だから、この杖は私にとってなくてはならないんです。私が私でいられるなら、きつくても構わないんです・・・これからもずっと。」

「ラピス、俺は――」

顔を上げて俺が言いかけたその時、薄暗い木々の間から赤く光る2つの点がパキパキと木の枝を踏みしめながらゆっくり近づいてくる。

「さっきのか。」

「あ、あれって・・・」

目の前に現れたのは、《ファイショット》で巻いたはずのサベジグリズリーだった。

両目をさっきより血走らさせ、牙をガチガチ鳴らしながら低く唸っている。

まさか、俺の血の匂いを辿ってここまできたのか?

おいおい、いくらなんでも執念深すぎだろ!

「ラピス、逃げるぞ!」

「は、はいっ!」

俺とラピスは、夕暮れの闇に包まれつつある森の奥に向かって走り出した。

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