6
今日は、ネズミと蛾の皆さんに便利な戦闘用
アイテムの作り方を説明しますね!
ここに、拾ってきたサテツ石が両手いっぱいにあります。
それらを鍋に入れて『ファイ』でよく熱します。
赤くなってきたところでラピス先生の魔力を注ぎ込むと、あら不思議!
手裏剣とクナイの完成です。
使用後は消滅してしまいますので、くれぐれも無駄に消費しないようにしましょう。
お好みでコッパの実とハジケ草とヒヨビ石を加えてモンスターに刺さると爆発するようにアレンジもできますよ。
ぜひ、皆さんで作ってみてくださいね!
「・・・って、聞いていないか。」
と、隠れていた岩の上から見下ろしながら呟いた。
昼前によく流れていたなんとかクッキングみたいに脳内解説してみたが、追いかけてきたモンスターの群れからは何の反応もない。
なぜかって?
ラピス特製の爆弾手裏剣で木っ端微塵になっていたからだ。
「トキヤさんすごいです!」
後ろでラピスが驚きながら、手をたたいている。
「いやいや、ラピスのおかげだよ。レベルも上がって、スキル『手裏剣術』も獲得できた。」
『ニードルマウス』レベル2~4 主に『刺撃』
全身と長い尾にトゲがある茶色のネズミで獰猛であり、隙あらばトゲをとばして攻撃してくる。
『パラモス』レベル2~4 主に『麻痺』
赤・黄・白色の斑模様の蛾で普段は木に止まってじっとしているが、音に反応して麻痺作用がある鱗粉を振り撒く習性がある。
この情報をラピスから教えてもらい、戦闘がより有利になった。
魔導調合師のスキル『武器生産』で爆弾手裏剣とクナイも作ってくれたおかげで、スキルも増えてさらにレベル5になれた。
さすが、ラピス。
ラピスどの、お見事でござる!
なーんて、忍者っぽい台詞に変換してみた。
初めて奴ら《ニードルマウス・パラモス》に遭遇した時は、予想以上の大きさに驚いた。
しかも、いきなり木の後ろからとびだしてくるとか、心臓に良くないだろ!
特に苦手なパターンだ。
思わずラピスにしがみつきそうになったが、クルッと身体を捻って仰け反りながらもクナイでなんとか仕留めた。
その後、派手に転んでしまいラピスに引っ張り起こしてもらうことになったのだが。
「モンスターに詳しくてアイテムも色々作れるし、ラピスはすごいよ。」
「いやいや、そんなことないです。アイテムは、消耗するのしか作ることができないですし。」
「そんなことあるって!さっきの魔法も凄かったよ。火を飛ばしたり、風で斬ったりできるしさ。」
「あ、あれは杖があってこそのですから。」
ラピスは謙遜しているが、俺と同じぐらいのレベルであるにも関わらず攻撃魔法はそれはもう威力がある。
『ファイショット』や『ウィンドスラッシュ』を一度に複数発動でき、サポートは完璧にしてくれる。
幼い頃から練習してきただけあって納得する強さだ。
ただ、ラピスが杖で魔法を使う度に顔に疲れの色がでているのが気になった。
モンスターを倒した後に、俺と目が合うと
「だ、だいじょうぶです!ちょっと歩き疲れただけですから・・・。」
心配させまいとラピスなりに気を遣っているのか、息切れしながら笑顔で平気なふりをしている。
俺も最初はそうだったが、森でのモンスターとの戦闘はラピスにとってまだ慣れていないのかもしれない。
無理しすぎているなんてことないよな。
いやいや、まさか・・・な。
この後、胸中で渦巻いていた嫌な予感は的中することになる。
ガサ、ガササッ
「ん?」
グルアアアッ
咆哮が聞こえたかと思ったその時、藪の向こうから熊みたいなモンスターがとびだしてきた。数メートルの巨体のあちこちに傷があり、目を血走らせてうなり声をあげている。
こいつは今までのと違う。
『鑑定』すると、
サベジグリズリー レベル7 『爪撃』『毒』
これはヤバい。
まだ倒しきれる相手じゃない。
不意をついて逃げようと、クナイを数本取り出し両目を狙って投げた。
が、あの速さで投げたそれ《クナイ》を片手でバシッと後方に弾き返し、長い爪を振りかざし攻撃してきた。
グルアアアッ
「おっと!」
右横に飛んで避けようとしたが、『爪撃』が脇腹を掠めた。裂けた服から血が飛び散る。
「・・・くっ!」
なんて速さだ。
まともにくらっていたら、バラバラにされていたな。
あの巨体でこのスピードってありかよ!
左手で傷を庇いながら、後ろに飛び退いて体勢を立て直す。
とっさにクナイを投げたが、爆弾手裏剣の方が良かったか。
いや、数がもう残り少ないし使っても弾かれるだろうな。
最高にやばい状況だ。
押さえている傷口が疼き、背中を冷や汗が伝う。
「ラピス、いったんひくぞ!」
振り向くと、ラピスは攻撃魔法を唱えようと杖を上に掲げていた。
「待て!こいつは俺たちでは――」
「トキヤさん、下がっていてください!」
彼女の『ファイショット』が俺を横切り、奴に直撃した。
グアァッ!? グウゥゥアアァッ!!
パニックになり、両手と首を激しくふって火を振り払おうとしている。
「よし、今のうちに逃げるぞ、ラピス。」
後ろにいるラピスに呼び掛けたが、返事がない。
「・・・ラピス?」
振り返った俺の視界に飛び込んできたのは、フラフラしながら杖で身体を支えているラピスだった。
汗びっしょりになり苦しそうで、ヒューヒューと過呼吸になっている。
「ト、トキヤ、さん・・・は、やく、に、げて・・・」
途切れ途切れに話しながら、ガクッと膝をつき地面に倒れていく。
まるで、スローモーションの動画を見ているかのようだった。
何が起こったのか分からなくて茫然としていた俺は我に返ると、ラピスのもとに慌てて駆け寄る。
「ラピス、ラピスッ!しっかりしろ!!」
肩を揺さぶるが、意識がない。
杖を握り、いつもより白い顔でグッタリしている。
ラピスを抱き抱えると爪先に力を込め、全速力で逃げた。
拠点に戻ると、柔らかい草の上にラピスをソッと横たえた。
さっきよりも顔色が良くなってきていて、呼吸も安定している。
ホッとして座り込み、額の汗を拭いた。
奴から巻くこともできたから、ひとまずはなんとか生き延びた。
あの杖を使い始めてからラピスに異変がでてきたのは確かだ。
調べてみた方が良いな。
杖を『鑑定』すると、詳細が目の前に現れた。
「これは・・・?」
『魔力強化の杖』HP・MPを消耗することで、
使用する術者の魔力をひきだす。
術者以外が触れるとHP・MPを吸収するため、
取り扱いに注意。
特殊アイテム『後追い石』付き。
使用する者の居場所を特定可能。
『後追い石』って、なんだよこれ。
昨日の会話を思い出していく。
村の厳しい掟。
ラピスが村を追放された理由と転移場所。
長がラピスのためにと渡した杖。
そして、この杖の効果。
魔法が使えなければ村にいる存在理由は否定され、できなければ強制的に魔力をひきだす。
村の同胞であったとしても外部の者と少しでも干渉すれば容赦なく消し、もし生き延びていた時は『後追い石』を辿って始末される。
まさか・・・そういうことなのか?
ただの憶測だが、仮にそうだったならあまりに酷すぎる。
いや、そんなわけがあるか!
頭を振り、自身を落ち着かせようと深呼吸をした。
ラピスが目覚めたら尋ねてみよう。
杖とラピス自身について。
それから、勝手に杖を『鑑定』してしまったことも謝らないとな。
腕を組み空を見上げると、思い出したかのようにさっきの傷がヂリヂリと痛みだした。