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ピピッ ピピピッ ピピッ
また鳴ってる。今日は休日だってのに。
いつもセットしているアラームが鳴っていると思って手を伸ばすが、ない。
そうか、スマホは向こうで充電していて・・・俺、異世界に来ているんだった。
目を開けると、半透明の緑葉の間から降り注ぐ朝日が眩しくてギュッと目を瞑ってしまった。
さっきアラームの音かと思ったのは、鳥の鳴き声か。
今も、周りの木々から賑やかに降り注いでいる。
あぁ、心地よくて二度寝してしまいそうだ。
ググッと両腕を伸ばすと、堅い木の幹にゴツッとあたった。
「痛てっ!」
眠っている間に俺も横になっていたのか。
そういえば・・・俺もって他に誰かいたか?
まだ眠気から覚めていない頭の中で、ぼんやりと思い出してきた。
現実世界からきて、オンラインゲームの忍者になってて、ゴブリンに追いかけられて、そしてラピスに会って―――
「ラピスッ!!」
ガバッと起き上がり、ラピスが寝ていた場所を見るとすでに火が消えて黒く焦げている跡があるだけだった。
あれは、夢だったのか?
「トキヤさん?」
声がする方を見ると、両手に色とりどりの木の実や茸を抱えたラピスが立っていた。
「お、おはよう。」
「おはようございます、トキヤさん!」
差し込む光の中で微笑む彼女は、ローブを脱いでいた。
フリルがついた襟と紺色の細めのリボンに白いブラウスと裾に黒いレースが施されたチョコレート色のチェック柄のワンピースを身に包んでいる。
俺は、サッと顔を右手で隠して立ち上がった。
「ちょっと顔洗ってくるわ。」
「向こうに湖がありましたよ。私、朝食の準備しますね!」
「・・・おう。」
早歩きで湖へと向かいながら、ラピスの衣装と笑顔を思い出す。
正直言って・・・眩しかった!
一瞬だったが、服も可愛かったな。
それに、さっきの会話は同棲しているカップルみたいで。
これが毎朝って嬉しすぎるだろ!
異世界のリア充たちはメンタルが最強すぎる。
果たして、俺はどこまでもつだろうか。
ザババッ
水音が聞こえたと同時に、急にひんやりとした感触が上ってきた。
「ん?」
見下ろすと、湖に膝上までがっつり浸っていた。
「帰ってきた時、すごい濡れていたのでビックリしました。」
「あ、あぁ・・・ついはしゃいでしまって。」
ラピスが用意してくれた朝食の木の実と枝に刺して焼いた茸を食べながら、切り株の上の草履をチラッと見た。
揃えて置いてあるそれに日の光が優しく降り注いでいる。
「まさか、あんなにでかい湖があったとはな。」
「テンション上がっちゃったんですね。」
「まぁ、そんな感じ。」
「フフッ、トキヤさんって面白いです。」
10代後半の現実世界でいう高校生くらいだろう彼女からすると、俺はこの見た目で20代前半ぐらいだから年上にみえるか。
ある意味で、はしゃいでいたからな。
こどもっぽくみえただろうが、いくつになっても男は永遠の少年だと誰かが言っていた。
うん、そういうことにしておこう。
朝食の後、レベリング前に俺とラピスはお互いのステータスをスキル『鑑定』で確認することにした。
「トキヤさんの職業は・・・忍者ですか?」
「ああ。使えるスキルは『斬撃』と『挑発』の2つ。『兼役』は・・・これが未だによく分からないんだ。後は、遠距離の攻撃ができないのが弱点だな。ラピスの職業の魔導調合士っていうのは?」
「魔法で戦う点は魔法使いと同じですが、魔力で色々な薬やアイテムも作ることが可能な後方支援の職業です。」
「アイテムっていうと、爆弾とか?」
「ええ、動植物や鉱物などの素材があれば可能です。あとは、幻覚を見せる香水とかホットドリンクのような飲食物も調合できます。」
「なるほど。」
魔法を自在に扱い、自然由来のアイテム生産もできる。
「ちなみに、レベルが上がりやすくなるポーション的なのは――」
「今の私では難しいですが、レベルが上がったら可能かと。」
アイテムや武器の生産に攻撃魔法や回復魔法も可能な魔導調合士。
一緒にパーティーを組むには、最高の職業じゃないか!
「サポート任せたぜ、ラピス!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!さっき森で見かけたんですけど、ニードルマウスやパラモスがこの辺りたくさんいるみたいですよ。」
「えっ、たくさん?」
ニードルマウスってもう、鋭い何かで攻撃してくる印象しかないな。
パラモスって、虫系か?ゲームで虫のモンスターといったら、毒や麻痺の攻撃をやたらしてくるイメージだが。
昨夜、結界を張ってくれていて良かったと心の底からラピスに感謝した。
「そ・・・れは、レベル2でも倒せるか?」
ラピスにおそるおそる聞いてみた。
「もちろんです!中には『毒』などの特殊なスキルを持つ個体もいるかもしれませんので、その前に解毒薬を多めに作りましょう。」
「作るって、ここで?」
「はい!調合用の道具はいつも常備しているので。」
アイテムバッグから文字が刻まれた中くらいの鉄鍋や透明無色のフラスコ、銀色のマドラーのようなもの、三本の足がついた赤褐色の台などを次々に取り出す。
「魔導調合士たる者、どこでも薬が作れないといけませんから。それと――」
最後に取り出したのは、シソに似た紫色の葉がたくさん入った大きめの瓶。
「湖の岸辺にドクケシツルの群生地があって良かったです。さっそくとりかかりますね!」
台の上に鍋を置いて準備をしているラピスを見ながら、俺はふと思いついた。
使う度に消耗してしまうかもしれないが、これからレベリングする時にもあった方が良い。
聞くだけ聞いてみよう。
「・・・ラピス。」
「どうしたんですか?トキヤさん。」
「解毒薬の後で構わないんだが、武器をいくつか作ることはできないか?素材は俺が今から集めてくる。こういう形で―――」
木の枝で地面に色々な形のそれらを描いていく。
ラピスは口元に指をあててしばらく考えた後、コクンと頷いた。
「できますよ!この辺りに落ちているサテツ石があれば。」
俺をまっすぐ見つめるラピスの瞳は、自信に満ち溢れて輝いていた。