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「サイン?」

ポカンとしている俺をラピスがキラキラした瞳で見つめている。

「お、おう。・・・いいぜ。」

「よろしくお願いします!」

俺は勢いよく差し出された魔導書とペンを受け取った。

び、びっっくりしたぁ。

何事かと思ったら、まさかサインがほしいとは・・・。

いや~、その発想はなかったわ!

ラピスにとって、異世界人は映画やドラマに出演している有名人と同じ類のようだ。


「言い伝えにより異世界人には近づいてはいけないと、物心ついた頃からずっと言われ続けていました。昔はそうだったかもしれないですけど、モンスターと戦ったり困っている人を助けたりして異世界を渡り歩く方たちもいます。そこがカッコいいじゃないですか!魔法でサポートしながら、異世界人と会って冒険をするのが憧れでした。今日がその日だなんて夢みたいです!」

魔導書のページをめくる俺の前で、ラピスが身振り手振りでそれはもう熱心に話している。

彼女の話によると、村人たちにとっては異世界人はどうやらモンスターと同じ扱いらしい。

ひと昔前に、とある異世界人が全ての秘術を手に入れるために村の長を拐って人質にしたことが主な原因であり、厳重な結界を張ってしばらくの間入れなくなったこともあったとかなかったとか。

最初、その村に転移しなくて良かったと思った。

レベル1の状態で現れたとたんに目の敵にされて追いかけられるってないわ!

ただ、ラピスは好感を持っていることが分かって安心した。

ここまで期待値が高いとは・・・。

これはめっちゃ頑張らないとな、レベリング。

あれ、ラピスは?

ふと横を見ると、興味津々でサインしているのを覗きこんでいる。

しかも、すぐ隣に座って。

きょ、距離が近い近いですって!

時々、ラピスの髪からフワッと香りがする度に、心臓がドキドキしっぱなしだ。

女性に耐性がない俺にとっては、これはもはや修行だ!

ゲリライベント、ヒロインが隣に座るというシチュエーションに耐えてみようってか。

俺のような童貞の中の童貞にはあまりにもハードすぎる。

ラピスの話を聞きながら、ペンを握る指先が震えている。

「そのペン書きづらくないですか?」

「!?」

顔を覗きこんできたラピスと目が合う。

身体の奥底でバチッと火花が弾けた。

その衝撃に耐えられずひっくり返り、地面が後頭部に思いきりクリーンヒットする。

「トキヤさん!?」

「イ"ッーーーーー!!!」

あまりの激痛に頭を抱えた。

「だっ、だいじょうぶですか!?」

ラピスが慌てて身体を激しく揺する。

思いきり頭打って目がチカチカしているところに、それはあかんて。

意識がとびそうになりながら、俺は一言。

「だ・・・だいじょばないかも。」

「トッ、トキヤさーーん!!」

かくして、涙目になっているラピスによる

本日二回目の『ヒール』で治療してもらうことになるのだった。


「書いたぞ、サイン。」

「ありがとうございます♪わ、珍しい文字ですね。」

『獅々田 迅矢』

後頭部を強打するというハプニング付きの修行中になんとか書ききった。

途中で、ぐにゃぐにゃっと曲線を書いてしまったが。

サインぽいから、これはこれで良いか。

「これは、漢字っていうんだ。」

「カンジ?」

「そ!これで『シシダ トキヤ』って読む。『獅々田』って字は俺の世界でもそんなにいないからな。」

「そうなんですね。トキヤさんの漢字も読み方も、カッコいいです!」

「そ、そうか?」

女性にましてやヒロインに名前について誉められるのは、こそばゆい。

「ラピスの名前も、その、良いと思うぜ?最高に輝いているって感じ。」

照れながら言うと、魔導書をソッと閉じペンを添えて渡した。

ラピスは、一瞬目を見開いた。

「私、輝いているのかな・・・そうね、そう思えたらいいのにね。」

悲しげに微笑むと、伏し目がちにポツリと呟く。

「ラピス?」

「あっ、そうだ!」

ラピスは何かを思い出したのか、アイテムバッグから小瓶を取り出した。

「これは?」

「ヒダマリ草とカイロの実から作ったホットドリンクです。飲むと身体が温まって効果が朝まで続くんですよ。飲んでみてください。」

手渡された小瓶には、乳白色の液体が入っていてボウッと淡く光っている。

「これ、俺が飲んで良いのか?」

「ええ、どうぞ。」

それじゃ、まずは一口。

「!」

甘酒のようなほんのりとした甘さが身体に染み渡る。

蜂蜜のようにトロッとしていて、それでいて飲みやすい。

残りを一気に飲み干すと、つま先からポカポカと温かくなってきた。

まるで、春の陽気の中にいるみたいだ。

「良かったのか?俺が全部飲んでしまって。ラピスは寒くないか?」

「私にはこのローブがありますから。トキヤさんの方が寒そうでしたので、ちょうど1本あって良かった。」

過酷な環境で見ず知らずの野郎にここまで・・・なんて優しいんだ。

今の状況で、ラピスと会えて本当に良かったと思う。

「よし、明日から頑張ろうな!」

「はい、頑張りましょう!さっき、夜行性のモンスター避けの結界も張りました。ゆっくり休んで下さいね。」

「ありがとうな、ラピス。おやすみ。」

「トキヤさん、おやすみなさい。」

あの時の独り言と一瞬見せた表情が気になるが、今日は色々ありすぎてさすがに・・・疲れた。

あくびをしながら傍の木の幹に深くもたれた。

ローブにくるまり横になったラピスが静かに寝息をたて始める。

焚き火に照らされたラピスの寝顔を見つめながら、ゆっくり目を閉じた。

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