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俺はじっと見つめて呟いた。

「・・・ゴブリンでなくて良かった。」

「へ?」

目が点になっている彼女をソッと降ろすと、クルッと後ろを向いて星がまたたきだした空にガッツポーズをした。

こ、れ、は・・・キターーーッ!!

やっと、やっと、異世界でヒロインに会えた!道中が道中だったからな。

ありがとう異世界!!

と、心の中で感動して震えている俺に彼女が後ろからおそるおそる声をかける。

「あ、あのどうかしたんですか?」

「いっ、いやいや!なんともないから、だいじょうぶ。そ、そうだ!君の名前は?」

「私、ラピス。ラピス・アストレア。」

「俺は、獅々田迅矢。シシダ・トキヤ。」

「えっと、それじゃ、トキヤって呼んでいい?」

「おッ、おう。・・・いいぜ。」

くぁッ!

見上げながらの名前呼びはヤバいだろ!!

今まで夢みていたことが現実になっている。

胸を押さえてうずくまった俺にラピスが心配そうに近づいてきた。

「!?」

「だ、だいじょうぶですか!?やっぱりケガして・・・あっ!さっき私が暴れちゃったから。どこかにアザが。」

「な、ないない!全っ然ちゃらへっちゃらだし!!」

さっきグーパンが頬にクリーンヒットしたが、そこまで痛くはなかった。

ゴブリンにされるよりはまだ良いか。

って、何言っているんだ。俺は!

焦って前にブンブン振る手をラピスは両手でギュッと握ってきた。

そそそ、そ・れ・はあかんですよ!?

見知らぬ男に積極的すぎますって!

「ちょ、ちょ!何して――」

『ヒール』

手がホワッと温かくなり、身体全体を目に見えない何かがじんわりと優しく包み込む。

「これは?」

「少しですが、回復魔法をかけました。」

そういえば、疲れがとれたような気がする。

走りっぱなしでズキズキしていた足の痛みもだいぶひいてきた。

「うん、楽になった。ありがとな。ラピスはすごいな。」

礼を言うと、

「いえいえ、そんなことないです!私なんて・・・」

顔を真っ赤にしながら、今度はラピスが顔の前で手を振っている。

うん・・・かわいすぎる!


かくして、俺たちはここで野宿をすることにした。

暖をとるのと夜のモンスター避けのために、俺が集めた枯れ葉や枝にラピスが火魔法『ファイ』をつけてくれた。

こういう時の魔法はありがたい。

異世界といったらこれだろこれ!

二人で火を囲んで座りながら、ラピスが持っていた木の実とパンを食べる。

めっちゃ、美味い!!

空腹だったからか、こんなに美味しい食べ物があるのかと思った。

現在世界では、コンビニの惣菜ばかり食べていて味もよく分からなかった。

キャンプ飯が美味いという話にその時はピンとこなかったが、今なら分かる気がする。

明日は森の中でモンスターを狩りながら食べ物を探すことになりそうだ、なんとかしないとな。

ふと、ラピスの横顔を見る。

あの額のタトゥーはなんだろう?

俺の視線にきづいたからか、ラピスは慌てて前髪でサッと隠した。

あ、これは聞かない方が良いな。

余程の訳があるのだろう。

ラピスが教えてくれるまで待つとして、まずは。

「そういえば、ラピスはどこから来たんだ?」

「えっと、それは・・・。」

ラピスは両手でギュッと足を抱え込んで縮こまる。

火をじっと見つめる眼に戸惑いが揺らめいて見える。

「話しにくいなら、無理しなくても――」

俺が言いかけた時、決心したのかラピスは顔をあげ少しずつ話し始めた。

「実は、私・・・村を追い出されたんです。」

「追い出された?」

「はい。私は魔導調合士の村出身で、魔法の開発や薬の調合をしながら秘術や秘薬のレシピを先祖代々受け継いできたんです。」

「秘術や秘薬というからには、外部には――」

「漏らしたり、外から来た者に使ったりしてはいけないと言われていました。厳しい掟のもと暮らしていたある日、冒険者たちが偶然にも村にやってきたのです。」

「冒険者たちが?」

「複数でパーティーを組んでいて、モンスター討伐をしている途中で迷ったと。ひどいケガをしている人もいたので、治療のために回復魔法を使いました。その場を長たちに見つかってしまって転移魔法であの場所に・・・あの方たちもきっと――」

ラピスは悲しそうに俯いている。

ラピスがしたことは正しいと俺は思う。

だが、村ではそれを間違っていると指を指される。

村の掟があるがために。彼らもただでは済まなかっただろう。

こういう時は、どんな言葉をかければ良いのか分からない。

「ラピス・・・」

「でっ、でも!」

ラピスがパッと顔をあげた。

「外の世界に出たかったのもあるし、これで良かったんです。それに、私にはこれがありますから!」

ローブと同じ色の使い古された小さな袋を取り出して手をつっこんだ。

すると、ラピスの身長ほどある杖がニュッと出てきた。

ゴツゴツした木でできていて、先端にいくつか嵌め込まれた赤や黒などのさまざまな色の石が火に照らされて鈍く光っている。

「うわっ!杖が出てきた!」

「え?これ、アイテムバッグっていうんです。色々種類があるのですが、私が持っているのは昔の型で。見たことないですか?」

驚いた俺を不思議そうにラピスが見ている。

そうか、ゲームでいうアイテムボックスみたいなものでここではこの袋に入れて持ち運びするのか。

これは便利だ。

この森を脱出して街に着いたら、売っている店を探してみるか。

「その杖は?」

「幼い頃、魔法が使えるようにと長から貰いました。これがあれば、魔力を最大限ひきだすことができるんです。」

「それは、すごいな。」

「回復魔法しか使えなかった私は、ずっとこれで攻撃魔法や補助魔法を練習していました。なので――」

ラピスは、スクッと立ち上がって吸い込まれそうな闇が覆う森の奥に向かって杖を掲げた。

「明日から実践です!ワクワクしますね!」

「めっちゃはりきってるな。」

「ずっと村にいたので、外の世界を見たくて冒険者に憧れていました。マンティコアと異世界人の昔話を長から聞いていて――」

「異世界人?」

「ええ、他の世界から前触れもなく来て勇者になったり魔術師になったりして珍しいスキルを駆使する人達のことです。トキヤさんは会ったことないですか?」

異世界人って、それ俺じゃね?

「実は、その異世界人かも。」

「えっ?・・・本当ですか?」

「ああ。」

「冗談ではなく?」

「そ、本物の。」

うなずくと、ラピスは固まってジッとこちらを見つめる。

・・・ん?

俺やばいこと言った?

「私・・・手、握っちゃった。」

呟くと、両手で杖を握りウロウロし始めた。

「ラピス、どうした?」

尋ねても、返事がかえってこない。

すると、ラピスは急に俺の前に立ち止まった。

え?えぇっ!?

まさかの異世界人は目の敵にされてて、狩られる側でした?

レベル2でどうしろっての。

向こうは魔法使えるんですよ!?

昔から練習してましたって言ってたし無理ゲーすぎるでしょうが!!

あまりの緊張に心臓がバクバクしてきた。

「トキヤさん。」

「は、はいッ!」

ラピスに呼ばれて俺はビクッとなった。

心なしか、声が震えているようだ。


「さ、さ、さ、」

「さ?」

最上級魔法『サラマンダー』とかか?

そんなのぶちかまされたら、避けきれないぞ。てか、そんな魔法があるのか知らん。

今、適当につくってみた。

身構えてラピスの出方をうかがっていると、アイテムバッグに杖をしまった。

ん?攻撃しないのか?

首を傾げている俺に、魔導書らしき本と羽付きの幾重にも紙を巻いたペンを取り出し両手に持ってグッとつき出した。


「サインください!」


「・・・はい?」


遠くでフクロウがホーと一声鳴いた。

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