13
なんやかんやで村に無事に入ることができた俺たちは、村人に案内されて村長に会うことになった。
さっきと同じように訳を話すと、優しそうな白髪頭の高齢の村長も頷きながら
「それはそれは大変だったでしょう。旅の疲れが癒えるまでは、こちらに泊まっていきなさい。さ、温かいうちに。」
「「ありがとうございます。」」
ラピスと一緒にお礼を言い、傍に控えていたメイドが淹れてくれた紅茶に口をつけた。
この村長の立ち居振舞いと性格からして、ここの村は大丈夫そうだ。
上の立場が良ければ、影響を受けて全体の雰囲気も自然と良くなるからな。
そういうのを現実世界で見てきたからなんとなく分かる。
話しやすい雰囲気になったところで、村長にそれとなく尋ねてみた。
「俺たちも鉱山で採掘したいのですが、さっき、村の人から召喚士がいると聞きまして――」
「今、本当に手をこまねいておるのです。奥の採掘場でモンスターをけしかけてくるもので、誰も鉱山に入れないんじゃ。」
俯きながら、暗い表情で額に手をあてて俯いている。
「鉱石をやたら食べるので、駆除しようと抗議に行く者もいたのですが・・・暗い中で素早く動いて攻撃してくる度に、怪我人が増えるばかりでどうしようもないのです。」
「近くの村のギルドに依頼は?」
「何回もしたのですが、人手が足りなくて他の重要案件もあって忙しいから無理だって断られました。鉱山で採掘して生計を立てている私たちからすれば早く解決して欲しいのに・・・困ったことですじゃ。」
服の裾を手繰り寄せ、古イスに深く座り直して溜め息をついた。
ギルド、何してんねん!
優先順位をつけて動かなければならないと、現実世界にいた時は学校や職場で耳にタコができるほど言い聞かせられてきた。
ギルド側でそういう事情があるなら仕方ないと思う。
ただ、村長や村人たちにとっては大事なことだ。
彼らの生活がかかっているからには何とかしてあげたい。
「・・・そうだったんですね。それなら――」
俺は村長の前にのり出した。
「代わりに俺たちが行きましょうか?」
「えぇッ!?」
「私たちなら、お役に立てると思います!トキヤさん、こう見えて強いんですよ!」
俺の隣にラピスが並んで村長の手をとった。
こう見えてって、どういうことだよ!
ラピスの言葉に俺はずっこけそうになった。
「そ、そんな・・・来たばかりの方に頼むのは――」
「大丈夫、大丈夫!ラピスは魔導調合士で防御魔法も得意だし、俺もそこそこ戦えるレベルになってきたからな!」
「で、ですが・・・」
「鉱山の調査をして、例のがすぐに見つかれば討伐するのを俺たちに依頼するってことでどうですか?」
心配そうにしている村長に俺が頼もしく言うことができるのも『鑑定』のスキルがあるからであり、鉱山のモンスターレベルを把握ぐらいはできる。
手強いのが出現すれば、慣れない場所での戦闘はさっさときりあげて近くの森でレベル上げなり村長の館で作戦をたてるなりすればいい。
それに、その間に素材も集めていけば一石二鳥だ。
これは、俺が今まで培ってきたオンラインゲームならでの攻略方法である。
「ここは、俺たちに任せてください。依頼料は宿泊分ってことで。」
「・・・それなら、お願いしていいのですか?」
「おう!今からでも行ってみるよ。下見も兼ねてな。ラピス、行こうぜ!」
「はい!村長さん、行ってきますね。私たちに任せてください!」
ラピスもやる気十分みたいだ。
依頼を受けて知名度が上がれば報酬をもらえる機会が増えてからの、安定の異世界主人公になれる!
カンストを目指しながら、俺とラピスの生活が今よりも充実できていれば最高じゃないか。
色々想像しながら、館を出て進んで行く俺に後ろからラピスが声をかける。
「待って!トキヤさん、トキヤさーん!」
おっとと、つい早歩きになってしまった。
「ごめんな、ラピス急ぎすぎて――」
後方を振り返って言いかけたその時、
「トキヤさーん!前、前ー!!」
ジグの慌てる声も聞こえてきた。
えっ、前?
パッと見ると、目の前が真っ白になり身体が柔らかくて大きい何かにめり込んだ。
「フガッ!!」
口と鼻に綿のようなものが入ってきた。
慌てて手足を動かそうとするが、どんどん絡まっていく。
あ、これはやばいわ。
「ムー!、ムー!!」
助けてくれと言いたいが、口に詰まっていて言葉にならない。
「ト、トキヤさん!?あ、あの・・・すみません!これって、どうすればいいんでしょうか。」
「ありゃりゃ、毛刈りバサミで切らないと。納屋からとってくるよ!」
ラピスが声をかけてくれたのか、近くにいた村人の駆けていく足音が聞こえた。
毛を刈るって、これは動物なのか?
「すぐに助けてくれるって、トキヤさんもう少し待ってて下さいね!」
「メェェー!」
分かった、この鳴き声は―――。
「ふぅ、持ってきたぞ!あとはこの部分を刈り取りしていけば・・・」
「トキヤさん、しっかり!あと少しですから!!」
村人が懸命に毛刈りバサミを動かしているのか、ジョキジョキ切る音が遠くから聞こえてきた。
あ、やべ。息がもう・・・
巨大な羊の毛に埋もれながら、俺は意識をとばした。
「・・・さん、トキヤさん!」
誰かが呼びかけながら、身体を揺さぶっている。
ゆっくり目を開けると、ラピスとジグが心配そうに見下ろしていた。
「・・・ラ、ピス?」
「良かった!トキヤさん、きづいて本当に・・・」
「いやー、良かった良かった。目が覚めないからヒヤヒヤしたよ。」
安心して泣きそうになっているラピスの横で、村人は汗を拭きながら木を切る時に使う大きな刈込ハサミのようなものを片手にもちホッと息をついていた。
「・・・助かったよ、ありがとな。」
あと少しで、羊にめり込んで詰むところだった。
本当にマジで助かった。
毛が口にまだ少し入っていたので指をつっこんで取ろうとするが、腕が動かない。
あれ、何でだ?
頭を持ち上げて全身を確認すると、真っ白な綿のような毛で覆われていた。
なんじゃ、こりゃ。
「トキヤさんが窒息しかけていたので、顔のところだけ急きょ刈り取ったんです。まだ身体に巻きついている状態で。」
なるほど、今はキャンプで使う寝袋に入っている状態のようになっているってことか。
「あの動物は何だ?」
「あれは『ジャイアントシープ』っていう家畜だそうです。トキヤさんの前を横切ろうとしていて、それで・・・」
俺は再び寝転がって雲が浮かんでいる空を見上げながら、ポツリと言った。
「羊の毛で溺れたのは、初めてだ。」
「・・・本当に任せて大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですよ!決める時は決める人ですもんねっ、トキヤさんは!」
不安そうに毛を刈り取る村人の横で、ラピスが慌ててフォローしてくれている。
最初からけつまずいてどうすんねん、自分。
この依頼、完璧にこなしてやんよ!
黒いローブをまとった男2人が木の陰からトキヤたちの様子を伺っている。
「まさか、鉱山に行くつもりか?」
「あの場所には、俺たちの従魔がいる。奥のアレには近づけまい。」
「それもそうだな。先回りして待ち伏せするか?」
「俺は後をついていくからお前だけ先に行け。
挟み撃ちにして始末しようじゃないか。あいつらのステータスを見たが、たいしたことはないようだしな。」
「そうみたいだな、あの鉱山の秘密を守るためだ。こちらで口封じをしてしまおう。」
怪しい2人組は頷き合うと、藪の向こうに姿を消した。