12
ラピスには、毒針の他にも普通の針を合成してもらった。
普通の針を作ってもらったのは、方位磁針など他の用途にも使用する時のためだ。
それらは、ラピスのアイテムバッグに保管してもらうことにした。
ネギカモを倒しに行く前に、普通の針を使って洞穴の近くに生えている木を的にして試した。
手裏剣の時とは感覚が違うだろうから・・・。
持ち方を変えて、指で挟んで手首と肩と肘が垂直線上に揃うように構えて投げてみた。
針は真っ直ぐに飛んでいき、ストッと軽く刺さりぐらついたかと思うとカランと乾いた音を立てて地面に落ちた。
なるほど、ダーツみたいな感じか。
学生の時はこれでもかってぐらい友人と一緒に遊んでいたから投げ方は割と知っている。
2本目の針をさっきよりも勢いをつけて投げてみると、カッと幹の真ん中に深く刺さることができた。
よっしゃ!
命中率は現実世界にいた頃と変わっていなくて良かった。
今から、ネギカモ狩り再始動だぜ。
鉱山に行く準備を終えたラピスが洞穴から出てきた。
「・・・針はどうでしたか?」
おそるおそる尋ねるラピスの方を振り向いて
ニッと笑った。
「これならいけるよ、ラピス!」
ラピスが合成してくれた毒針は、想像以上だった。
針の内部に毒が仕込んであり、刺さると同時に毒が針の先端から出てくるという仕組みになっているので毒のダメージを受けずに投げられる優れものだ。
軽くて投げるだけで風圧で少しだが、切り傷程度のダメージも与えることもできる。
羽攻撃をしようと構えるタイミングでネギカモの首元を狙って投げては刺していき、20羽をあっという間に倒した。
ラピスの『ライトガード』のおかげもあり、HPもそこまで消費しなかった。
『ネギカモ』 MP20
やっと追加できた!
「よっしゃ!これで、鉱山を探せるぜ!!」
俺は空に向かってガッツポーズをした。
レベル15になってから変化の持続時間も20分に長くなった。
新しいスキル『毒針』も獲得できて、なかなか良い感じだ。
そして、変身も自分で解除できるようになった。
まさに一石二鳥、鳥なだけに。
「トキヤさん、お疲れ様です!」
「ラピスもな!あの針使いやすかったよ。」
「トキヤさんはすごいです。あの針を短時間で使いこなすことができて。」
「あ、ああ。あれは、ダーツみたいな感じで投げたら命中率がぐんと上がったよ。」
「ダーツ?」
ラピスが首を傾げる。
「指で持つことができるサイズの矢を的に当てる遊びで、俺がいた世界で流行っていたんだ。」
「そのダーツって遊び、アトゥラトに似ていますね。」
「アトゥラトって?」
「アトゥラトは、石ころなどを物を動かす魔法『フロト』で浮かせてこう!」
ラピスは物を浮かせる仕草をして両手を上げる。
「遠くの魔法の円盤に当てるんです。」
すると、ラピスのワンピースがフワッと持ち上がり捲れた。
「キャッ!」
「ワッ!」
ラピスが慌てて裾をバッと押さえると同時に、俺は目を瞑り勢いよくそっぽを向いた。
『フロト』どこに作用してんの!?
漫画やアニメでよく見てたあの状況になってんじゃん!
「ト、トキヤさん!見てないですよね!?」
ラピスが顔を真っ赤にしながら、スカートの前を掴みながら尋ねる。
「み、見てない!全然見えなかった!」
俺は耳を赤くしながら、ラピスに向かって手をブンブン振っている。
すまん・・・ラピス。
実は、ちょっとだけ見えた。
ネギカモに変身した俺は、ラピスを背に乗せ助走をつけて勢いよく飛び立った。
水面スレスレでバタバタと羽を動かし、なんとか身体を浮かせようとする。
飛び立つのにこんなにエネルギーを使うとは、鳥も大変だ。
「フゥッ、フッ、飛べない鳥はただの鳥」
「トキヤさん、頑張って!」
汗だくになっている俺の背後からラピスの声援が聞こえる。
ここで頑張らないと、男が廃るぜ!
「どりゃあッ!!」
翼を持ち上げては勢いよくおろすのを繰り返す。
羽を動かしできた風に身体がフワッと浮いていく。
そして、俺たちは飛んだ。
風に乗って前に進んでいくのが楽しくてたまらない。鳥になって初めての感覚だ。
飛ぶって気持ち良い!
森と湖が真下にどんどん遠ざかっていく。
上から見ると、それらは結構な面積だったことが分かる。
歩いて移動していたら迷っていた。
ネギカモになって正解だったな。
「ラピス、怖くないか?」
「全然大丈夫です!」
「高度上げるから、しっかり羽を握ってろよ。」
翼をひろげて上へと昇る気流に乗ると、どんどん浮上していく。
正面に山脈が連なっていて、山頂に雪が降り積もっている。平地や草原があちこちにある。
お!村っぽいのもあるぞ。
ラピスの村みたいに閉鎖的なところもあるから、降り立つ時は慎重にしないとな。まずは、黒い山を探すか。
周りを見回していると、
「トキヤさん、あそこに黒い山が!」
「ラピス、どこに見えた?」
「あそこですッ!あの村の近くの!」
ラピスが指差す方向に、中くらいの黒い山が森に囲まれてポツンとあった。その近くの平地に村がある。
「さすが、ラピス!あの近くに降りるぞ。」
「はい!」
俺は、目的地に向かって高度を徐々に下げていった。
村人に騒がれないよう村から少し離れた森の中に降り立った。
ラピスを降ろし、変身を解除する。
「トキヤさん、お疲れ様でした。」
「ラピスは、空を飛んでどうだった?」
「気持ち良かったです!本当に鳥になったような気分でした。また、トキヤさんと一緒に飛びたいです!」
ラピスは目をキラキラさせている。
また、ラピスを乗せて飛ぼう。
その時はもっと長く飛べるようになろう。
森の中を進んでいくと、黒い山の近くにあった村が見えてきた。
「ん?何かあるな。」
俺はふと立ち止まった。
あちこち古くなっているが、村の伝言板のようなものがある。
見ると、村の催し物や会合の知らせなどについて書いてある紙が何枚か貼ってある。
異世界の文字が書いてあるが、余裕で読める。
こういう補正があるのはありがたい。
その中に、男の姿が描かれた紙が貼られていた。
あれ?下に何か書いてある。
急いで書いたからか、ごちゃごちゃしていて読みづらい。
「えーっと、何て書いてあるんだ?さ、さ・・・探して、いま・・・こ、こう・・・ざん、で・・・知らせ、て・・・?」
「もしかして、鉱山で迷ってしまった人を探しているのでしょうか?」
「多分そうかもしれないな。」
そうだ!
「よし、変身してみるか!」
「ええっ!?できるんですか?」
「モンスターに変身できるなら、人にもなれるんじゃないかと。」
絵をじっと見て、意識を集中させる。
ボワンと白い煙に包まれた俺は見事に黒いローブ姿の髭を生やした男の姿になった。
「わっ!すごいですね!」
「姿だけだけどな、これで村の人に接触してみるか。」
変身した俺とラピスが伝言板の前で話していると、畑の向こうから誰かがやってきた。
白いシャツに茶色い上着とズボンを身につけていて、よれた革製の黒い長靴を履いているひょろりとした茶髪の縮れ毛の若い男性だ。
片手にしょいかごを持っている。
「あれ?見かけない顔だな。どこから来たんだ?」
「あ、あの・・・私たちは――」
ラピスが説明しようとしたその時、村人らしき男は俺の顔を覗き込んだ。
「んん?・・・その顔、どっかで見たことあるぞ?」
変身した俺を見上げて、村人とラピスがキョトンとしている。
声を低くして片言でそれっぽく振る舞ってみる。
「どっかで・・・って、鉱山で迷っていた・・・覚えていないか?」
「ええと、誰だったか・・・。」
腕を組みながら考え込んでいた村人は、思い出したのかパッと顔を上げると俺を指さして叫んだ。
「ああっ!思い出した!!お前、鉱山に居座ってモンスターをけしかけてきた奴じゃないか!いつから出て来たんだ!?」
しまったぁーー!おたずね者の方だったか!
俺は頭を抱えて空を仰いだ。
ラピスが後ずさりながら、驚愕の表情を浮かべている。
「そ、そうだったんですか!?」
「違うって!いや、違わないけど・・・」
なんでそうなるの!
あの絵の男に変身したがために、話がややこしくなってきた。
「早く村長のところに知らせに行かないと。こりゃあ、大変だ!」
ヤバイ、まじでヤバイって!
焦りに焦った俺は変身を2人の前で解除した。
「な、なんだぁ?この兄さんは・・・」
ラピスの横で腰を抜かしそうになっている村人に頭を下げた。
「驚かしてすみません。実は新米の冒険者なんです、俺たち。さっきのは俺の特技で、まだ覚えたばかりで慣れないので1日に何回か練習しているんです。旅の道中でモンスターに遭遇しては逃げたり倒したりしているうちに、今この村にたどり着いたところでした。」
不審がる村人に謝りながら訳を話していく。
ラピスが村から追放されたことや俺が現実世界から来たことは伏せといて、最小限のことを伝える。
嘘は言っていないだろ?
根は優しいのか村人は強ばらせた表情を緩めて頷きながら話を聞いてくれている。
「そうだったのか。モンスターが増えているなかで大変だな、兄さんたちも。」
「もしお困りなら、その居座っている召喚士って奴に話をつけてきましょうか?」
「い、良いのか?それなら助かるが・・・村長のところに案内するよ。さぁ、こっちだ。」
「助かります!俺たちも鉱山に用があるので、村長に会おうと思っていたんです。」
た、助かった・・・!
下手したら、2人とも詰むところだった。
「早とちりしちゃいましたね。」
「あの紙を貼った奴、もっと字を読みやすく書いててほしかったな。」
そんなことを話しながら、ラピスと俺は村人の後ろをついていった。