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「ハァッ・・・ハァ・・・」
「トキヤさん、大丈夫ですか?」
疲れて座り込んだ俺のもとにラピスが駆け寄ってきた。
「あぁ・・・なんとか、な。」
周りには、さっき倒したネギカモがゴロゴロ転がっている。
ある個体は血まみれだったり焼け焦げていたりしている。
『羽攻撃』を避けながら戦うのは大変だったが、ラピスの防御魔法『ライトガード』のサポートのおかげで怪我も最小限で済んだ。
「トキヤさん、切り傷が!」
「ん?」
戦っている最中に気づかなかったが、『羽攻撃』により身体中が細かい切り傷だらけになっていた。
避けたり『ライトガード』で防いだりしていたのに、ダメージが通っているとは。
今頃になってピリピリと痛くなってきた。
「あの羽は風圧でも切れるみたいだな。」
「ええ、トオチカモの『羽攻撃』はやっかいですから。」
ラピスの『ヒール』で治してもらいながら、俺はステータスを確認した。
レベル12
『兼役』 『ネギカモ』残 10/20
「・・・え?」
この表示は始めて見た。
どういうことなん?
まさかの、あと10羽倒さないと変化できないってオチかよ!
あのネギカモを相手にもう1回戦うとなると、より効率良く倒したい。
「あっ!そういえば、ラピスは防御魔法使ってたよな。」
「実は、さっき見たらスキルに追加されていたんです。あの時、トキヤさんを守りたいと強く願って手をかざしたら発動してて。」
ラピスのステータスも確認すると、
レベル20
回復魔法 『リトヒール』 MP10
『ヒール』MP20
『マキシヒール』MP50
防御魔法 『ライトガード』MP15
「本当だ。やっぱり、すごいよラピスは。」
「いやいや、そんな。自分でもまさかと思ってびっくりしました。」
どうやら、ラピスは回復・防御系統の魔法が得意なようだ。
近くに散らばっている羽を1枚手にとってみる。
両手で抱えられるくらいでかい羽自体は軽いが、鉄のように硬い。
飛んできた羽をクナイで弾いた時の感触を思い出す。
めっちゃ頑丈だなとは思ったけども!
羽柄は硬く先端が鋭く尖っていて、羽軸からびっしり隙間なく並ぶ羽弁は薄くて1本1本が細い針のようだ。
そのうちの数本をクナイで切り取っていると、ラピスが不思議そうに見ている。
「トキヤさん、何しているんですか?」
「これを使って何かできればと。ラピス、『ファイ』を発動できるか?」
「えっ!はい、できますけど・・・。それをどうするんですか?」
「燃やすというよりは、熱する方が良いな。上手くいくかは分からないが・・・試してみようと思って。」
ラピスが発動した『ファイ』にそれらを軽くかざしてみる。
徐々に赤くなり、全体が真っ赤になったと思うとすぐにボッと燃えて黒墨になってしまった。
「燃えちゃいましたね。」
「・・・羽だからな、それはそうか。」
単体でいけると思った羽弁は、針ほどは耐久性がないようだ。
毒を塗って毒針にしようと考えていたけど・・・無理か。
アレも作れたら、方角が分かって便利だと思ったのにな。
いやいや、ここで諦めたら試合終了してしまう。
何か良い方法は・・・そうだ!
あることを思いつき、ラピスの方に顔を向ける。
「ラピス、これをサテツ石と合成して針にできるか?」
「ネギカモの羽は、ニードルマウスの針よりも硬くてしっかりしているのでできますよ!針であのトオチカモを倒すんですか?」
「それもあるけどな・・・見た目と硬さが針みたいだったから、方位磁針にもできるんじゃないかと思ってさ。」
「方位磁針?」
ラピスが首を傾げる。そうか、この世界にはないのか。
「方角が分かる道具だよ。俺がいた世界で、針と磁石っていう石があれば簡単に作れる。針の先を磁石で擦って軽い物に刺して水面に浮かべると北が分かるんだ。」
「そんな便利な道具を作れるなんて・・・。異世界人ってすごいですね!」
ラピスが感心している。
昔、学校の理科の授業で見ていただけなんだけどな。
「この世界には、磁石・・・鉄がくっつく石もあるのか?」
「マグ石のことですね!鉱山にならあると思います。マグ石は、岩山が黒いところほどたくさん採れると言われているんですよ。」
鉱山、か。
この辺りは森が続いていてそれらしい山は見当たらない。
歩いて探しに行くよりも、『ネギカモ』に変身して空から探した方がすぐに見つかりそうだ。そこに行けば、クナイや手裏剣が作れたり武器のレパートリーも増やしたりできるかもしれない。
鉱山の近くに国もあれば一石二鳥だ。
「よし!『ネギカモ』を倒したら、鉱山を探しに行くか。」
俺は立ち上がると、遠くの群れの方をチラッと見た。
まだこちらにはきづいていないようだ。
「ラピス、1度戻ろう。毒針を作ってもらいたいんだ。」
「クナイと手裏剣もたくさんあった方が良いですよね。」
「そうだな!頼んだぜ、ラピス。」
「任せてください!」
ラピスと俺は目を合わせて頷いた。
「ところで、毒はどうしようか?俺が採ってくるよ。」
解毒薬の材料がドクケシツルなら、毒薬も茸や植物の類いで、簡単に採取できるだろう。
この時まで、俺はそう思っていた。
「湿った場所にいるんです。この近くになら・・・。」
ラピスが辺りをキョロキョロしている。
えっ、いる?
・・・というか、動くの?ソレ。
「い、いました!あれですッ!!」
「!?」
バッと振り向くと、石の上に手のひらサイズの紫と緑の斑模様の蛙がチョコンと座っていた。
「ありがとうございます。トキヤさんのおかげで毒針がたくさん作れます。ついでに、」
「それは良かったな。」
「トキヤさん・・・大丈夫ですか?」
「・・・もうカエルは見たくない。」
心配そうにラピスがネギカモの羽とサテツ石で針を合成する隣で、げんなりしている俺はクナイで刺しながらポイズンフロッグを薬用鍋に次々と入れている。
このポイズンフロッグという奴は倒すのが大変だった。
それはそれは素早く動き、顔に飛びかかって身体に纏う毒の粘液でダメージを与えるという捨て身の攻撃をしかけてきた。
ラピスがポイズンフロッグの全身の毒は最強だと教えてくれたので、倒す時は用心していたが目が合ったとたんにいきなり飛んでくるのは予想外だった。
ラピスが『ライトガード』で弾いてくれたところまでは良かったのだが、草藪の奥に勢いよく飛んでいってしまい探すのには一苦労だった。
毒持ちのモンスター相手に2人でよく頑張った方だと思う。
兼役に『ポイズンフロッグ』MP10
も追加されていた。
取り扱いに毒耐性がないモンスターに使うか。
「ありがとうございます!今から、針と一緒に合成しますね。念のために、トキヤさんもこれを飲んで下さい。合成時に液が飛び散る可能性もありますから。」
ラピスはそう言うと、アイテムバッグから解毒薬よりも濃い紫の液体が入った瓶を2つ取り出した。
「これは?」
「毒薬を合成する時に飲む長時間型の解毒薬です。ドクケシツルから合成した解毒薬をさらに煮るとできるんです。」
慣れた手つきで、ラピスはポイズンフロッグが入った薬用鍋に針を次々に入れていく。
「ラピスは、カエルは平気なのか?」
「最初は苦手でしたけど、調合しているうちに慣れてしまいました。」
カエルに慣れたとか、ラピスさんカッコよすぎるぜ。
俺は瓶のコルクをねじ開けながら、パーティーメンバーの魔導調合士のたくましさに感服した。