エルフの少女・7
「ちょっと! はなして!」
店の前でエリカを待っていたら、急にフードをかぶった人に手を引っ張られて連れ去られてしまう
「大丈夫、助けてあげるから!」
「はあ? どういう意味?」
声と見た目からしておそらく少年だろうが、こちらの言葉に答えずにただひたすらルアンの手を引いて走る
「はあ、はあ、ちょっと!」
「ごめんね、でもこの辺りなら大丈夫」
「大丈夫って、なに?」
やっと相手は手を放してくれたが、結構元居た場所から離れてしまった
「戻らなくちゃ」
エリカに何も伝えれていないので心配させてしまうだろうから急いで戻ろうとするが
「もう戻らなくても大丈夫」
「は?何がですか?」
先ほどから大丈夫、大丈夫といっているが、何が大丈夫なのかがわからない
「君、エルフだよね?」
「!? え、何で?」
変装のための帽子もかぶったままなので、ばれるはずがないのだが
「僕にはそれ効かないから」
そういいながらルアンがかぶっている帽子を指さす
「どうするつもりですか?」
「だから助けてあげるんだって」
「?何からですか?」
「あの人間から」
「エリカさんから?」
この少年はエリカさんのことを何か知っているのだろうか
「スランピアっていう国に連れて行ってあげるよ、あそこは比較的差別の少ない国だから」
「なんでですか?」
先ほどからどうにも少年の言っている意味が理解ができない
いきなり連れ去られたと思えば違う国に連れて行ってあげると言われたりと
「あ、もしかして、私があの人に無理やり連れられてると思ってますか?」
「? そうだろう? 無理やり荷物も持たされて」
どうやら私がエルフであり、尚且つたくさんの荷物を持っていたことを見て奴隷か何かだと勘違いしてここまで連れてきたのだろうが
「違います! 馬車を借りてくるのを待ってただけです! それにあの荷物は全部私に買ってくれたものなんです!」
「はあ、かわいそうに、大丈夫、気配的に誰にも聞かれていないから、嘘をつかなくても大丈夫」
「・・・・」
全く話が通じない目の前の相手にだんだんとイライラしてくる
「とりあえず、戻ります」
話が通じないので、無視して戻ろうとするが
「行かせるわけにはいかない」
腕をつかまれて止められる
「やめてください! あなたには関係ないですよね!」
仮に本当にルアンが奴隷だったとして、目の前にいる人には何も関係がないだろう
「関係なくはない、元をたどれば、関係がなくはないんだ」
「・・・どういうことですか?」
「話すべきだね、でも、ここじゃあゆっくり話ができないし、僕の隠れ家に行こう」
「・・・・」
相手の話は気になる、だが、まずはエリカに無事なことを伝えなければいけない
「いったん帰らせてください」
「なんで?」
「心配されます」
「・・・なら、これをもっていって」
そういわれ、少年が自分の首につけていたペンダントを外してルアンに差し出す
「これを付けていたら安全だから」
「ありがとうございます、それで、どこへ向かえばいいんですか?」
「そうだね、ここに来てくれたら、迎えに行くよ」
「わかりました、時間はどうするんですか?」
「来てくれたら分かるから、何時でも」
「なるべく早く行きます」
そして、少年と別れて、エリカの元へと戻る
「エリカさん!」
「ルアン! どこに行ってたんですの!?」
エリカの所に戻ると、心配そうに駆け寄られ体の様子を確認される
「・・・けがは、ここ青くなってますわね、顔は覚えていますか?」
エリカがルアンの腕についた後を見て、ルアンが誰かにつれさられていたのだと確信し、その相手の顔を覚えているか確認する
「えっと、大丈夫です、あとで話しますので一旦帰りましょう」
だが、大した傷でもないので、一旦起こったことについて話すのは後回しにする
「まあ、そうですわね」
エリカは何か聞きたそうな顔をしたが、ルアンがそういうなら無理には聞かないことにする
「さてと、荷物渡すので受け取ってもらってもよろしくて?」
「はい!」
結構な荷物で、重いものもあるので、ルアンには馬車の上から受け取ってもらう側に回ってもらいエリカが次々と荷物を上げていく
(どこを見て、あの人は無理やりやらされてるって思ったんだろ?)
今日は軽く怒られたくらいで無理やり何かをさせられたということは一切ない、なのでどこを見てあんな風に言ったのかがわからない
(まあ、私がエルフってだけで行ってると思うんだけど)
向こうはルアンがエルフということがわかっていた、だからそれだけで無理やり連れられていると思ったのだろう
「とりあえず、帰っている間に確認と治療するので失礼しますわ」
エリカがカバンを手に取りながらルアンの隣に座る
「体の方は大丈夫です」
とりあえず何かをされたと言えば腕を引っ張られただけ
なのでとりあえず腕を出すが
「念のために全て見ますわ、気付いてないだけでけがをしているかもしれませんので、
確かに、今のところおかしなところや痛いところなどはないが、連れられているときにどこかにぶつけたかもしれない
「あ、でも外から見えますわね」
ルアンの体を見るために服を脱がそうとするが、外から見える状態なので今はやめておくことにした
「とりあえず腕だけ見ますわ」
エリカは青くなったルアンの腕を確認し、カバンから薬などを出し、的確に処置していく
「すごいですね、お医者さんみたいです」
「そうかしら?」
「はい、たまに自分でも傷の手当はするんですけど、こんなにきれいにできません」
「まあ、経験ですわね、弟と妹たちのけがの治療をよくしていたので慣れたのですわ」
「兄弟がいるんですね」
「結構いますわよ、ちなみにエイルお兄様が次男、私が次女になりますわね」
エリカはルアンと話しながらも慣れた手つきで治療が終わる
「さてと、終わりましたわ」
「ありがとうございます」
どうやら結構青くなっていたようで、冷やすための薬と包帯を巻かれている
「明日の朝、また様子を見ますわ、それまではつけておくのですわよ」
「わかりました」
「とりあえず、話しは帰ってからお兄様にするんですわね?」
「はい、そのつもりです」
「じゃあ、その時に私も聞きますわ」
馬車で帰っているときにエリカには話をしておこうとしたが、エイルに話す以上、二度手間になってしまうので、その時一緒に聞くと言われた
「つくまで少し時間がかかりそうですわね、ん? ふふっ、疲れているのね」
ちょうどいい揺れのせいで、治療されているときから少しうとうととしていたが、いよいよ限界が来てしまい、エリカの言葉を最後まで聞く前に眠りに入った
「さてと、この子を誘拐?したことに関しては・・・」
ルアンが肩にもたれかかってきたので、動けなくなった
なのでとりあえず起こさないようにしながらルアンに起こったことを考える
(ルアンが帰ってきたことから考えて誘拐じゃないわよね? でも、あの腕の跡から見て腕を引っ張られて連れていかれたのは確実)
ルアンの腕を見るに結構強い力でつかまれているようなので、ルアンが自分でついていったわけではないが、本当に誘拐なら、ルアンをこうして返すわけはない、ならばほかの目的があったのだと思うのだが
(まあ、あとで話は聞くし、そう考えなくてもいいですわね)
もともと、エリカは頭を使うことがあまり得意ではない、なので、今の状況でルアンに起こったことを推理するなんてできるわけはない
「あと、どれくらいかかるのかしら?」
宿から店への行き道は裏路地などを通って近道をしたのでそこまで時間はかからなかった
だが、今は馬車での移動となり、少し大回りになってしまっているので、結構時間がかかるそうだ
「ふぁ、わたくしも少し眠りますわ」
エリカも夜明けとともに起きてエイルの元に向かったのであまり眠れていない、なので少しだとは思うが到着するまで眠ることにする
そして数十分経ち
「お客様、到着いたしました」
「んん、ああ、ありがとございますわ」
馬車を運転していた御者に声をかけられ目を覚ます
そして、隣で寝ていたルアンも起こして荷物を下ろしていく
「とりあえず、お兄様を呼んできてください」
「わかりました」
荷物も量があるので、何度も階段を上り下りをすることになる、ルアンにはすこし辛い仕事だろうと思い、一旦作業を分担し、ルアンにはおそらく裏庭で作業しているエイルを呼んできてもらい
「ふう、終わりましたわ」
ルアンの荷物をすべて運び終えて、下へ向かうとすでにエイルが席に座っていた
「お待たせしましたわ」
「いや、大丈夫、ありがとう」
「いえいえですわ」
「それで、話って?」
「まあ、一旦私から話しますわ」
とりあえず、エリカが知っているところ、ルアンがいなくなるまでのことを話していく
「それで、ルアン、そのあとはどうなったんですか?」
「えっと、まず腕を引っ張られて連れていかれて、あ、誘拐とかではなかったです」
ルアンも連れられた後のことを話していき、もらったペンダントを二人に見せる
「これをもらって、なんだかわかりますか?」
「んー、なんとなく触れない方が良さそうかな?」
「そうですわね、ルアン、一旦机においてくださいな」
エイルとエリカはただの勘だが、触れるのはよくないと思い、受け取らずに机の上に置いてもらいどういったものなのか観察する
「うーん、いまいちわからないな、なんかあるっぽいけど」
特定はできないが、何か魔法のようなものがかかっているのは確か
「ルアンが持ってても何も起きないのなら、特に問題はないかもしれないけど、念のため僕たちが触るのはやめておこうか」
「そうですわね」
もしかしたら特定の人以外が触れば発動する魔法があるのかもしれないので、念のため二人は触れないようにする
「それで、この後会いに行くんだね?」
「はい、何で私を連れて行ったのか、何で私がエルフだって分かったのかいろいろ聞こうと思います」
「わかった、多分ついていかない方がいいよね?」
「どうなんですかね、特に何も言われてないですけど・・・」
約束の場所に行くのに一人で来いとは言われていないが、エリカを見る態度からあまり連れて行かない方がいいかもしれない
「一人で行っても、いいですか?」
「危ないからダメ、と言いたいところだけど」
エイル的には、なるべく自由にしてほしいので、あまりルアンのやりたいといったことはやらせるつもりだ
「ルアンは、相手は危険じゃないって思った?」
「えーっと、はい、こっちに何かしてこようって雰囲気ではありませんでした」
「ならいいかな、まあ、一応保険は作っておくけど」
エイルは一度席を立って自分の部屋に戻っていく
そして数分経ってから一枚の小さな紙をもって戻ってきた
「はい、もし何か起こってルアンだけじゃどうしようもできない時、この紙を破って」
「破くんですか?」
「そう、破るとその場所を教えてくれる紙だからね」
具体的な製法はわからないが、確か何かの魔法で作った水に紙をつけて作るとからしく、昔師匠が作ったもので気軽に捨てることができず無理やり押し付けられた
この紙の本来の使い方は迷子になった時用に子供に持たせる物らしい
(これ、破ったら師匠の方にも伝わるんだよな)
今手元にあるのは試作品用で、一度魔力を流した人全員に破ったことが伝わるようになっている
(まあ、どのみち無視されるしいいか)
何度か自分で破ったことはあるが、ちゃんとむこうに伝わっているのに一度も何かしてくれたことはなく無視される
(確かちゃんと完成させてたはず)
ただ、数年前に完成させて破ったことが伝わる人を指定できたり、ほかの機能が追加されていたはず
(今度機会があればもらっておくか)
意外と役に立つものなので、もらっていて損はない、なので会ったときにでももらっておくことにする
「よし、それじゃあ行ってきても大丈夫だよ」
「はい、行ってきます」
ルアンは少年からもらったペンダントとエイルからもらった紙をもって約束の場所へ向かった
「とりあえず、あの言葉の意味も聞かないと」
ルアンが行って一番聞きたいのは「関係なくはない、元をたどれば、関係がなくはないんだ」といった意味
その言葉を言った時、すごく申し訳なさそうにしていたので大事な話なのだろう
「危なくはないはず」
ルアンはある程度相手の悪意は感じ取ることはできるので、あの少年が悪い人ではないことはわかっている
「えっと、確かあっちだよね」
ちゃんとエリカから借りている帽子を借りて、先ほど約束した場所へと向かっていく