エルフの少女・2
「毎度あり!」
「こちらこそありがとうございます」」
宿から一番近い店でたくさん食料を買いながら、いろいろと話をしていく
「多分今後も来ると思うんでよろしくお願いします」
「おう、よろしくな!」
気前のいい店主に別れを告げ、つぎの目的地に向かう
「雑貨屋は・・・」
先ほどの食料品の店員に教えてもらった地図を頼りに雑貨屋に向かう
大まかな寝具や机などは準備できたのだが、まだ小物、日用品や調理器具などがそろっていないのでそれらも買いに行かなければならない
「一応、書き出したけど、これで足りるかな?」
自分が必要だと思うものを買うつもりだが人によって必要なものは違うので足りないとは思う
「ん?」
ふと、馬車の音が聞こえてきたので、そちらの方を見る
「・・・・素通り・・・貴族では・・・ない」
馬車が街に入ってくる際、普通のものなら貴族の馬車以外なら守衛が検問をするはずなのだが、いかにも普通の馬車であるのにもかかわらず検問を素通りしていた
「なら、賄賂だな」
そのことから導き出した答えは、守衛に賄賂を渡して検問なしで入れるようにしている、ということ
「荷台は・・・・檻、ということは奴隷商か違法商人だろうな」
荷台をちらっと見たが中身は大きな檻だった、その場合、中身は奴隷として捕まった人か、隠して運ばないといけない生き物を運んでいるか、それとも亜人を入れているか
「どれにしても、アウトだ」
この国では、前二つは犯罪として扱っているが、亜人に関しては犯罪にならない、が、自分的にはそんなの関係ない
「気づいた以上、どうにかするか」
まだ確定したわけではないが、犯罪を行っている可能性がある以上、見て見ぬふりをするわけにはいかない
「まずは、中身の確認」
もし檻の中身が奴隷なら逃がす、その他危険な生き物の場合衛兵に報告、亜人なら保護といった方向になる
「・・・・匂い的に動物系じゃない」
馬車とすれ違う際、動物ならだったらそれ特有のにおいがするはずだが、それがしない以上、奴隷か亜人の方が可能性は高くなる
「確信を持てたら、鍵を外して・・・」
もう一度確かめて、中身が奴隷化亜人なら蝋の鍵を外す、それに加え、もし亜人ならば助けるといった風に動く
「止まってくれたら見やすいんだが」
動いている最中は中身は見づらい、もし止まってくれたら確実に中をのぞけるが
「この道を行くんなら、先回りして」
馬車で移動するのなら大通りしか移動できない、なので、先回りしてなるべく近づける道で中を確認する
「来た」
前方から先ほどの馬車が来るのを確認し、それに向かって歩き出す
「・・・・・・」
そして、ぎりぎりのところを歩いて
「・・・・【開錠】」
中の確認を終えて、それと同時に魔法を唱えて檻の鍵を開ける
「あとは出てきたところを保護」
案の定檻の中は奴隷であった、それに加え中に入っていた奴隷はエルフだった
エルフは亜人の一種、すなわち差別の対象、逃げても誰も助けてくれないから、どうせすぐにつかまってしまう
だからこそ、助けて保護しなければならない
いったん馬車の近くを離れて、エルフが檻から出てくるのを待つ
「よし、出たな」
エルフが檻から逃げたのを確認して、その逃げた方向に自分も向かう
「多すぎだろ」
エルフが逃げると同時に、数人がエルフを追っていったが、時間が過ぎるにつれて人数が多くなっていく
「それほど逃がしたくないのか? いや・・・・」
おそらく、エルフ自身を逃がしたいのではなくて、エルフを街に持ち込んだのをばれたくないのだろう
「エルフの方も、早いな」
エルフ自身も小柄であるし、種族的に森の中を動き回っているので細い道などの移動は慣れているのだろう
なのでなかなか見つけても追いつくことができない
「この辺りのはず!」
数分走り続けて、ようやくいそうな場所にたどり着く
「まずいな」
だが、周りに追手の数も多くなっており、おそらく追い込まれてきたのだろう
「【隠遁者】」
すぐさま身を隠すための魔法を使いその発動までの時間差でエルフと接触する
「ここにいたのか」
ようやくちゃんと見つけることができて、すぐさま魔法で一緒に隠れるために触れに行く
(脅かしてしまったか)
エルフの子は自分が追手だと思ったのか、その場に崩れてしまった
(説明している暇はない)
ちゃんと誤解を解いて自分が追手ではないと説明したかったが、あと少しで本当の追手がここにきてしまう
「しー」
とりあえずエルフの肩に触れて魔法が発動するのを待つ
タイミングもしっかり見計らっていたのでエルフに触れた瞬間に魔法は発動する
「声を出さないで、あいつらに見つかる」
声を出しそうになったエルフの子の口を塞いで、追手が通り過ぎるのを待つ
「・・・もう少しまとう」
まだ周りから声が聞こえていたので、とりあえずどこかに行くまではこのままここで待機となる
「・・・よし、今なら大丈夫だ」
「・・あの・・」
「とりあえず、移動しよう」
「あ、は、はい」
いったん周りからは気配がなくなったので移動することにする
「でも、どこにですか?」
「大丈夫、この近くに僕の宿がある、そこに行こう」
もしかしたらおせっかいかもしれないと思いつつも、保護すると決めた以上自分の宿【黒猫の宿】へ連れていく
「・・・【黒猫の宿】?」
宿に到着するとエルフの子は不思議そうに看板を見つめる
「ここが僕の宿だ」
「・・・?」
どうやら状況を理解できていないようで、不思議そうな顔をしていた
「もしかしたら、泊るところはあった?」
「あ、え、いや、その」
まあ、こちらも説明をしていないから仕方がない
「ちゃんと説明するから、とりあえず中に入って」
外にいると誰かに見られてしまうかもしれないので、とりあえず宿の中へと入れる
「・・・・あなたも奴隷商人なんですか?」
「いいや、違うよ」
まあ、予想通りというか、何というか
普通の人からしたら、亜人などを連れて一旦保護するのは奴隷商人だけだというのは一般常識、だからこの子も自分が奴隷商人だと思っているのだろう
「とりあえず説明するよ」
そして、エルフの子を座らせて、この宿のことを説明する
「・・・すごいですね」
説明を聞いて、はじめの言葉がこの言葉だった
「すごい?」
「はい、私が旅を続けてから、何人かあなたと同じような思いの人はいました」
「そうなのか」
どうやら、この差別を不思議に思っているのは自分だけではないようだ
まあ、それはそうだろう、いくら差別が当たり前の世界でもそれを疑問に思う人が自分以外にいないわけがないのだ
「でも、実際に行動に移している人は、初めてです」
確かに、もし宿をやるのならそれ相応の準備やお金は必要だし、もしそんなお金を持っているのなら大体は貴族
だが貴族の場合そう簡単にそんなことはできない
下手したら全貴族から非難がくるから
「それは、僕の立場が特殊だからだろうね」
「特殊?」
自分は別に貴族ではないがお金がある、であるのでこんなことができるが、自分のような人は多分一人もいない
「そう、詳しくは教えられないけどね」
「はあ」
「それでなんだけど、もし泊るところがないのなら、泊ってほしいんだ」
「・・・・えっと、泊まりたいのはやまやまなんですけど、お金が・・・」
何かを考えた後、エルフの子がそういって、宿をでていこうとするが
「お金がないのなら、別にいい、その代わりに手伝ってほしいことがあるんだ」
「え、でも・・・」
お金をいらないといった瞬間に警戒したように身構える
「? ああ、べつに難しいことはやらせるつもりはないよ」
「ほ、本当ですか?」
エルフの警戒を解くために、自分が前々から考えていたことを話す
一番初めにこの宿に泊まる人が亜人なら、こっちがお金を払ってでもしてもらいたいことがあった
まず一つは、看板に関して
この辺りでは、人間の間で使われている言語と亜人の間で使われている言語の二種類がある
人間の間で使われている普通の言語は亜人含めて誰でも読めるが、亜人たちにのみ使われている言語がある
なので、その亜人語で看板を書いてほしいのだ
亜人の多くはそもそも人間の言語に対する識字率は低いので、読めるものはそれほど多くはないもで、亜人に対しては亜人語で書かなければならないのだ
「亜人語はかける?」
「えっと、一応は」
「なら、ぜひ看板を書いてくれないか?」
「それぐらいなら、助けてくれたのでいくらでもやります」
「助かる、そういうわけで、そのお礼だと思ってここに泊ってくれていい」
「でも、そんなことで・・」
エルフの子は、そんな簡単なことでは泊るわけにはいかないと言ってくるが
「そんなことじゃない、これは売り上げに直結するんだ」
この宿の客は主に亜人になるとは思う、なので、その看板ができることで客も来るということ、つまりは売上に直結する
というのは建前の理由、実際お金を稼ぐ気はないし、もしお金がなくてもこっちの手伝いをしてもらえばそれでいいという風にするつもりだ
なぜ無賞にしないのかというと、それだけで警戒されるから
普通の人間でさえ無料という言葉で何かをもらおうとすると警戒はするだろう
それなのに亜人に対して人間がそんなことをしたら、どんな裏があるのか疑ってしまうものだ
「もしそれでも、まだ申し訳ないというなら、今後ほかの客が来た時の手伝いをしてほしい」
「つまり君をここで雇うということだ、それなら何も不思議なことはないだろ?」
この宿で雇う以上、住み込みで働いてもらいたい、なのでここの一室を貸しても何も不思議ではない
「それなら、お願いします」
そこで、やっとエルフの子はこの宿に泊まってくれることを了承してくれた
(こんなに苦労するんだな)
もっと簡単に事が運ぶと思っていたが、それもそうだ、一般人ならここまで警戒はしないが、相手は今までろくな扱いを受けてこなかった人たち、それならここまで警戒するのもうなずける
「とりあえず、一旦君の部屋に案内する」
エルフの子を連れて二階の部屋へと連れていく
「そういえば、荷物は?」
「あー、つかまったときに取られました、でも大切なものはないので、大丈夫です」
確かに、カバンも何も身に着けていなかった
「・・・取り戻せるけど、どうする?」
相手は奴隷商とわかっているので時間はかかるが、確実に取り戻せる方法はある
「いえ、大丈夫です、本当に何も入っていないと言ってもいいぐらいなので」
「そうか、それならいいが」
こちらに気を使ってそういっているのかもしれないが、この子がこう言っているのにやってしまったらありがた迷惑になるだろう
「とりあえず、この部屋で住んでほしいんだが」
案内した部屋にはまだベッドだけしか置いていない
「ほかに必要なものってある?」
自分が住んでいた家では自分の部屋というものはなかったので、個室に何がいるのかがわからない
「えっと・・・」
「遠慮なく言ってほしい、むしろ今後のためにどんどん言っていってほしいんだ」
「・・・それなら」
今後のためといったので、自分のためというより、ほかの客のためにこの子は考えてくれる
「机といすは欲しいかもです」
確かに、この部屋で何か作業をするのなら机などは必要になる
「あとは、あったらうれしいものは・・・」
とりあえず大きなもので追加で必要なものは机といすだけ、あとは小物を数点
「わかった、これから必要なものは買ってくるから、今は休んでてくれ」
そう言い残して、部屋を後にする
(疲れているだろうから、今は休ませた方がいいだろう)
エルフの子をよく見ていると、目元には隈もできているし、歩くときも少しふらふらしていた
栄養失調であるのも分かるし、今は休ませるのが先決
「とりあえず、エルフが食べられるものを作っておこう」
エルフは基本的に肉は食べないのでそれ以外のもので料理をする
「多分当分は起きないだろうから、先に小物を買いに行くか」
追加で必要なものを聞いたので、それを買いに出かける
「一応メモを残しておくか」
もしかしたらすぐに起きてくる可能性もあるので、少し出ることを紙に書いておいておく
「看板は読めたし、この字も読めるだろう」
この宿に到着したとき、ここの看板を読めていたので人間の文字はよめるはず
「よし、行くか」
まずは机と椅子を部屋の数だけ買いに出かける