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アラタとミツル  作者: 長峰永地
1/1

ミツル・1

ミツル


稽古上がりにいつもの居酒屋に行くと、すでに他の人たちは出来上がっていた。

ボクを呼ぶ声に招かれて、席に着いたと同時に中ジョッキが席に届く。乾杯。

この居酒屋でする話はいつもと同じ。

いい年をした大人たちがちょっと古びた芝居論を語り、いつか売れてやると息を巻く。

本当はみんな、もう自分らが売れることがないこと、そして才能がないことを知っている上で現実から目を背けているのだ。


いつもの通り、主宰の顔はない。

仕方がない、ヤツはボクらの中で唯一「売れた」人間だったからだ。

少しだけ違うのはヤツは脚本家として売れて、ボクらは役者にしがみついている。ただそれだけの差。


他の3人は寄ってくるとヤツの悪口を言い続ける。

ボクは正直、この時間が嫌いだった。


小劇場のシステムはブラックだ。

前もって役者がチケットを何十枚と買い取って手売りする。

そのルールがメジャーだ。

そのことに文句を言う人間は居ない。

なぜなら、売り切れば問題ないのもあるけれど、その渡されたチケットすら満足にさばけないからだ。

みんな、自分の力量なんてわかってる。それでも芝居を辞められない、才能の無い人が吹き溜まっているのが小劇場なのだ。


対してヤツはボクらのグループから早々に抜け出た。

そう、吹き溜まりの小劇場から光当たるメディアへと。


その立ち位置が役者ではなく、脚本家だった時には驚いたし、小劇場で芝居をやるって言われた時にはもっと驚いたけど。


ヤツはなんでボクを誘ったのだろう。

ここに居るメンツはボクとヤツの公演を見て参加させろと言ってきたメンツだった。

ドラマの脚本を書いているヤツに乗っかれば自分らも、そんな思惑を隠しもしないままに。

ヤツがそんな下心を見抜けなかったわけもないんだけど、素直に了承した。

だけど当然のように誰一人として光満ちる世界に羽化なんかできなかった。


所詮ボクたちは光になれずに周りを飛んでいるだけなのだ。


酒をあおるいつものメンツ。

その中にヤツは一度も居たことはない。

理由を聞いたことがある。

「オレが居ると他のヤツらはうまい酒飲めないだろ」と言っていた、何も写っていない目。


ここでの話題は専らヤツの悪口だ。

そこまで人間を見ることのできるヤツが、役者をやっていないこと。


その時点でボクには絶望しかないんだけど。

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