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能力開花の兆し&謎の男の話

転移した先はブラックコスと呼ばれる国の中でも無法地帯に近いスラム街だ。


「この店だ」


その店はこじんまりとしており、その店目当てに歩かなければ気付くこともなさそうなくらい地味な外装をしている。


「この店が? 」


ようやく目が覚めたイルが店の看板を見るとそこにはシガーとかいてあった。


「ここ杖を扱ってるの?」


「葉巻を売ってるようにしか見えないのですが」


ビエーブとイルが不安そうな顔を浮かべ店のショーウィンドウを眺めながら言った。


「まぁ入ってみよう」


俺達はロンズデール(店の名前)に入った。



店に入ると、店内は煙が充満しており独特な匂いが漂っている。


鼻がいいリップはハンカチで鼻を覆った。


そして入ってすぐのカウンターで一人の男が新聞を眼前に広げ座っていた。そのためこっちからは顔が見えない。


「なんの御用で? 」


男が喋る。


その声は低く響き渡る。


「使える葉巻を買いに来た」


俺が合言葉を言うと男はゆっくりと新聞を降ろし顔を見せた。


白髪にでっぷりとした体格、口には葉巻を咥えたこいつこそ世にも珍しいメイクウィズのヒュミドールだ。


「いつ来るかと待ってたぞアレン」


ヒュミドールは少し微笑み久し振りの再会を喜んでいるようだった。


「お前が杖を潰す度にウチに来て治してやったのが昨日の事のようだ。でなんの用で来たんだ? 」


「俺と仲間の杖を作って欲しい」


俺は後ろのロゼッタのメンバーを指す。


するとヒュミドールはまじまじと見つめ返答した。


「無理だな」


俺とほかのメンバーも少し動揺する。


「どうしてだ? 」


「いや、アレン以外のヤツは作ってやれるがアレンはまだ無理だな。お前の魔力に耐えれる素材はそう手に入らないんだよ」


やっぱりか、ダメもとで聞いてみたが案の定であった。


「すぐに始めてくれるか? 」


「お前の頼みならやってやるさ」


ヒュミドールはそう言うとイルを手招きし


「嬢ちゃん見るからに貴族だね、ちょっと手を見せてご覧」


イルは不安そうに俺を見る。


俺は目で大丈夫だ行ってこいというように合図を送る。


イルが手を出すとヒュミドールはその手を至近距離で見つめ、匂いをかいだ。


イルは少し涙を浮かべこちらに目で助けを求めている。


気持ちは分かる、誰だって最初は驚くしキモイって思うだろう。


ユリカなんて引っぱたいたからな。


「嬢ちゃん貴族だけど、流れる魔力はとても少ないね家族ともあんまりいい関係を築けていない」


イルは驚く。


「なんでそこまで分かるの? 」


流石だな。


メイクウィズは魔力を道具に込めるスキルだから皆魔力に関してはスペシャリストだ。


その中でも杖を作るメイクウィズは人に流れる魔力を理解しなければ成り立たない仕事だ。


それ故に魔力=人の意思を読み取ることに最も長けている。


特にこいつはあのスキルがあるしな。


「嬢ちゃんの意思を読み取っただけさ。」


ヒュミドールはそれだけ言うとまた手をまじまじと見つめる。


1、2分が経過してやっと口を開いた。


「嬢ちゃんは魔法の才能がないね。」


キッパリとそう言われてしまった。


イルは何か言い返そうと口を開くが、すぐにつぐんでしまった。


きっと何度もその事実を思い知らされてきたのだろう。


イルが落ち込んでいるのをヒュミドールはニヤニヤしながら見ていた。


「何が面白いのよ!私だって自分に魔法の才能が無いことぐらい……努力したって無駄なことくらいわかってるわよ」


イルが諦めを口にした。


しかしヒュミドールはまだニヤニヤしていた。


「何がそんなに面白いんだ? 」


今度は俺が尋ねる。


「あ、いやすまん、別に努力が無駄だって言ってない。ただこんなに面白いことあるのかと思って」


ヒュミドールはイルを指さして言った。


「この嬢ちゃんオーラと内包魔力が違いすぎる」


オーラとはその人が持つ魔力が外に放出され生じる現象、内包魔力は外に放出されずに体内に秘めている魔力の事だ。


「どういうこと? 」


イルの問いかけに食い気味にヒュミドールは答える。


「人の持つ魔力を100とするとオーラと内包魔力は50対50あるいは60対40くらいな感じで別れる。だからオーラを見れば大体そいつの魔力がわかるってもんだ。だけど、嬢ちゃんはその割合が1対99くらいに別れちまってる。ギルドの水晶に触れて測るやり方では低魔力と言われても仕方ない」


「じゃあ魔法の才能がないってつまりはどういう事だ? 」


得意げに話すヒュミドールに問いかける。


「それは普通の魔術師みてぇーに魔法陣書いて外に魔力を放出するってのが絶望的に向いてないって意味だ」


なるほどつまりは


「体内で完結する魔法、肉体強化系の魔法なら…」


「化けるってこった」


しかしそこでイルから待ったがかかる。


「でも私拳闘士して肉体強化魔法を使って来たわよ。けど他の人より劣っていたわ」


ヒュミドールは答える。


「そりゃ多分外へ放出する魔法を同時併用してるからだろ。嬢ちゃんはオーラと内包魔力で扱える魔力の差がありすぎる。だから併用すると上手く魔力がコントロール出来ないんだ。ま、あとまだまだ杖の振り方が雑だし、魔術式の理解が浅いってのもあるけどな。独学の弊害だ」


最後の言葉がイルにはグサッと刺さったようだった。


まぁつまりは勉強不足ってことだな。


魔法ははそれに最低限それに見合う魔力と魔術式を暗記しておけば発動はする。


しかしその魔法の本来の力を引き出したいならやはり魔術式の理解が深ければ深い程いい。


独学では本の中に書いてあることしか得られないからな。


俺もっと頑張ろう。



そこからリップとビエーブあと一応シオンも見てもらった。


その間ヒュミドールはずっと笑いっぱなしだ。


「ガハハハハハ!おいおいそんなのありかよ。アレンお前がレックスとユリカ裏切られたと知った時、人の運が悪ぃやつだと思ったけどよ、どうやら俺の勘違いだったみてぇだわ」


「どういうことだよ? 」


「まずそこの美人エルフさんは盲目で魔力感知できる数が少ないって言ってるけど、本来魔力感知ってのは魔力を持つ生物の位置が分かるってもんなんだ。このエルフさんは感知出来る生物の数は少ねぇがその生物の様子までわかってる。これはただの魔力感知じゃねぇ、適した杖で魔力をコントロールすれば目が見えているやつより色んなことが分かるようになるだろうよ。そしてそこの獣人の可愛子ちゃん」


ヒュミドールはリップを指さす。


「可愛子ちゃんは獣人でありながら聴力が無いとのことだが、その子は誰よりも状況を理解しようとしている。それが近いうちにその子にスキルとして発言するだろう。その兆しはあるはずだ」


そう言われてみればリップは紙に書いて伝えてないのに現状を理解しているような行動をとることが度々ある。


それがいつかスキルになるってのか。


ここに皆を連れてきて正解だった。


正直、魔力効率化をあと2ヶ月でどこまで習得できるか不安だった。


だからみんなにはもうひとつ何か磨いていける武器を持って欲しかったところなのだ。


しかし相変わらずこいつのスキル《(はかり)の目》は凄いな。


勇者やってたころメイクウィズには沢山会ったが俺よりも人の力を見抜く力を持っているのはこいつだけだった。


「よし。それじゃあ早速やるかぁ」


ヒュミドールはそう言うと新しい葉巻に火をつける。


杖を作り始めるらしい。


「葉巻1本待ってくれや」








1時間ちょっと経った位だろうか、ヒュミドールが杖を作り終わったようだ。


イル、ビエーブ、リップそれぞれに新しい杖が渡される。


「貴族の嬢ちゃんはカカラクとケファ、エルフさんはウジャト、可愛子ちゃんはアルダン、ベラー、チャルダン、ネドラ、マラを使って巻いているよ。」


みんな新しい玩具を買ってもらった子供のようにはしゃいでいた。


「なんかいい匂いする!」


イルが言った。


「そりゃそうだ杖ってのは五感で感じるものだからな」


けれどイル達の喜ぶ顔はすぐに違和感を覚えた表情になった。


「おじさん、杖に魔力を込めてみても通じてる感じしないんだけど大丈夫なの? 」


「そりゃお前まだ舐めてないだろ? 」


「舐める? 」


「そうだ杖ってのは体の1部だろ、出来たてはまだそうなりきれてない。舐めて体の一部と認めるんだ。」


その発言に空気が凍る。


杖を舐めるなんてそれはなんか背徳的な画になり得るぞ…


「なーんてな!本当は口付けするだけで十分だ。」


とヒュミドールは言ったがその時にビエーブはもう舌を出して舐めようとしていた。


そしてそれを聞いたビエーブはすぐに舌を引っ込め顔を真っ赤にして震えていた。


「あのですね。いきなりそんなこと言われたら信じちゃいますよね? 」


「あ、ご、ごめ…」


パチーンというヒュミドールがビンタされる快音が店内に響いた。






金はいい借りをくれというヒュミドールの決まり文句に甘えて俺達は無償で新しい杖を手に入れた。


「アレンちょっといいか? 」


店を出ようとした時俺だけヒュミドールは呼び止めた。


「まずひとつこれは後で説明してやって欲しいんだが貴族ちゃん、エルフさん、可愛子ちゃんはα型、β型、θ型だ。そして2つめ」


ひとつの杖をこっちに投げてきた。


「さすがに杖無しじゃ教えるのも難しいだろ?30回くらいお前の魔法に耐えれるように作ってやったから使いな」


「ありがとう助かるよ」


「で、最後にひとつ。あの魔力のねぇ姉ちゃんいたろ? 」


「シオンのことか? 」


「あの子を見た時やはり魔力は感じなかった。だけど、誰よりも真っ直ぐで純粋なやつってのは伝わったよ。そこでだ…」


ヒュミドールが両肘を机の上に立て両手を組んで言った。


「お前が唯一扱えなかったあの魔剣を託してみたらどうだ? 」


なるほど、そうかシオンならもしかして数百の剣を使いこなしてきた俺が唯一扱えなかったあの剣を使えるかもしれない。


「そうだな、あいつなら。」


いろいろありがとうとお礼を言って俺は店を出た。


さぁこれで本格的に訓練開始だ。


アレンの転移魔法でロゼッタは帰路に着いた。





同時刻、アレン達が店を出て転移魔法を使っている様子を影から見つめる男がいた。


「ほう、なかなか興味深い。あの方にお伝えしておきましょう」


アレンは店を出る時顔を隠すのを忘れていた。

次回は明日の13時と20時の予定です!

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