第5話 中小企業の資金調達
ある日の美琴・真琴の部屋にて…
「お・ね・え・ちゃん!!」
「何よ美琴!気持ち悪いわね…」
「今日って、お姉、給料日だったよね!?」
「…確かにそうだけど…」
「お願いっ!少しだけお金貸してほしいんだ!」
「…大学生になってアルバイトするようになって、私からの借入金を綺麗サッパリ返済した美琴にしては珍しいわね…」
「もうすぐ、先輩の誕生日なんだけど…」
「あぁ!プレゼントに使うお金が足りないってこと!?」
「そうなんだぁ…普段、アルバイトは大学の講義や先輩とのデートに支障が出ない程度にしかやっていなかったから、先輩へのプレゼントに充てるお金まで、アルバイト代から回らなくて…」
「父さんや母さんにお願いするのも、美琴からは難しいわね…」
「パパとママには、私の大学のお金を出してもらっているから、ちょっとね…」
「分かったわ」
”ガサゴソ…ゴソガサ…”
「これで足りるわよね!?」
「1…2…3………お姉、こんなにいいの!?」
「他ならぬ先輩と美琴のためだもの。返すのも、美琴が正社員として働くようになってからでも構わないわよ」
「お姉!ありがとう!!やっぱりこれから運転士になろうとしている車掌さんは違うね!」
「今月はボーナスも出たから、お金に余裕があるだけよ」
「やっぱり頼れるものは家族だよねぇ!会社がお金足りないって時は、そういう訳にはいかないし」
「そうね。私が勤めている鉄道会社も銀行から借入金があったり、取引先との電子記録債務があったりするわね」
「それって、大手の鉄道会社だから、周囲からも信用されているってことだよね!?」
「ええ。金融機関からの 企業評価 も高いはずよ。これが中小企業の場合は、簡単にほいほい金融機関がお金を貸してくれるとは限らないわね」
「その話、大学の経営学の授業でやったんだぁ…お姉が勤めている会社みたいに、有名で信用されている会社って、銀行は、信用保証協会の保証なしで融資が受けられる、 プロパー融資 をしているってことだよね!?」
「ええ。通常、金融機関は融資をする時に、独自の審査に加えて、信用補完の手段として担保の提供や代表者ないし第三者の個人保証を求めた上に、更に信用保証協会の保証を要求してくるわ。 保証協会付き融資 って言われるわね」
「信用保証協会から保証を受ける時って、当然手数料もかかるんでしょ!?」
「そうね。例えば、1,200万円を、信用保証料率1.15%、2年で満期一括返済の場合、
12,000,000×1.15%×24÷12 で、276,000円の保証料を払う必要があるみたいね」(※1)
「1,200万円って言ったら、私たちからすると大金だけど、企業からすると日々の運転資金程度の金額だよね…」
「ええ。借り入れる度に信用保証協会に多額の保証料を支払う必要が出てくるから、大企業ならともかく、中小企業にとっては、大きな出費になるわね」
「でも、中小企業にとっては、金融機関からの借入、つまり 間接金融 が重要な訳でしょ!?」
「中小企業が資金調達する場合、金銭消費貸借契約書による 証書借入 、手形振り出しによる 手形借入 、 手形や電子記録債権の割引 、 当座借越 などが主だったものになるわ。故に、中小企業は信用保証協会の保証なしで融資が受けられる、 プロパー融資 目指すべきと言えるわね」
「資金調達の方法って、全部簿記で勉強する内容なんだね!」
「そうね。これ以外にも、ファイナンスリースや社債・株式の発行による調達も考えられるけど、社債や株の発行による資金調達は、中小企業では難しいわね」
「そして、金融機関が融資を行う際は、 企業格付 を行うのが一般的で、それによってプロパー融資になるのか、保証協会付き融資になるのかが決まるわね。企業格付は、今までは過去の財務情報が中心だったのだけど、最近は企業独自の魅力を発掘して融資を行う 事業性評価に基づく融資 が金融機関に求められるようになってきたわね」
「今までの業績に胡坐をかいているだけじゃ、金融機関は融資してもらえなくなってきている、ってことだね。そうなると、企業は金融機関に何を示せば、融資の判定に有利になるんだろう?」
「その手段の一つに、経済産業省が紹介する ローカルベンチマーク があるわ。企業を6つの財務情報 (売上高増加率・営業利益率・労働生産性・有利子負債倍率・営業運転資本回転期間・自己資本比率)と4つの非財務情報 (経営者・関係者・事業・内部管理体制)の観点から自己分析できるようになっていて、自社の現状と課題を明らかにして、金融機関との対話に役立てることができるわけ」
「そういえば、大学の講義で、2013年に公表された 経営者保証に関するガイドライン でも、中小企業の融資について示されているって言ってたなぁ…」
「そうね。金融機関が通常求める、担保や個人保証に過度に依存しない融資が、そのガイドラインでは推奨されているわね。ただ、会社のお金が経営者のお金になっていないこと (法人と経営者の資産・経理が明確に分離されている・資金のやりとりが適切である)、会社のお金や収益だけで借入返済ができること、適した時に適切な方法で財務情報を開示していること、が必要になるわ」
「でもそれって、金融機関に対して企業が積極的に情報を開示している必要があるってことだよね!」
「ええ。実際、金融機関が企業の情報を知らないが故に、円滑な融資が行われないケースも多くあるわ。だから、企業側は 信用性のある財務情報 (決算書) や 達成可能な利益 (事業・経営)計画 を積極的に情報開示していく必要があるわね」
「背伸びしないで、身の丈にあった計画で、金融機関と良い関係を築いていくことが大切なんだね…」
“ガサゴソ…ゴソガサ…”
「お姉………これ、やっぱり返すね」
「私が貸したお金………本当にいいの!?」
「本当は、夜景が綺麗に見えるレストランに行って、先輩に似合う高級ブランドの財布とかをプレゼントしようと思ったんだけど………それはお姉みたいに社会人になってからでも、遅くはないかな…って」
「身の丈にあった付き合い方…ってことね。多分、先輩もそれを望んでいると思うわよ」
「うん!!私、手作りで何かプレゼントできないか、考えてみることにする!」
「それがいいと思うわよ!美琴の手作りなら、絶対、先輩喜んでくれるから!!」
第6話 に続く
※1 東京信用保証協会ホームページ 信用保証料の計算例 より抜粋
☆検定問題にチャレンジ!!☆
次の1~4の、中小企業の資金調達について述べた文章について、不適切と思われるものを1つ選びなさい(剣世炸作成 オリジナル問題)
1.金融機関が信用を補完する手段として、信用保証協会の保証を要求してくることがある。
2.中小企業側は、信頼性ある財務情報や達成可能な利益・事業・経営計画を積極的にディスクロージャーする必要がある。
3.金融機関との関係を良好にする手段の一つとして、企業を6つの財務情報と4つの非財務情報の観点から自己分析できるローカルベンチマークがある。
4.資金調達を行うのに際し最も重要なのは、社債や株式を発行することによって行われる直接金融である。
不適切な選択肢は…
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4.資金調達を行うのに際し最も重要なのは、社債や株式を発行することによって行われる直接金融である。
☆ 解 説 ☆
中小企業の資金調達に際し最も重要なのは、金融機関からの借入に代表される間接金融です。直接金融が最も大切という訳ではないため、不適当ということになります。