応える、答える、こたえる…
僕はむかーし、空に浮かんでいた。
青―い空に、ぷかぷか浮いて、人間たちをのんびり見ていた。
小さな人間たちは、ずいぶん忙しないなあ、そんなことを思いながら、ぷかぷか浮いていたんだ。
・・・ある日。
「だーれーかー!生まれたいとは、思いませんかー!」
地上から、声が聞こえてきた。
女性の、叫び声?
僕は、ちょっとだけ、興味がわいて…首を、突っ込んでみた。
ああ、この人は。
・・・子どもが、欲しくて、たまらないんだね。
僕は、女性の声に、応えることにしたんだ。
「ねえ、リュウちゃんは、生まれる前の事、覚えてる?」
僕が三歳になった頃。
お母さんがニコニコしながら聞いてきた。
「ぷかぷか、してた。」
僕がそう、いうと。
「え、すごい!前世の記憶?!なんの記憶だろう!おなかの中って事かな!!ねえ、ねえ、パパ―!!ちょっと来て!!!」
ちょっと答えただけで、お母さんは大喜びして、はしゃぎまわっちゃって。
「どこにいたか覚えてる?どんなところ?!どうしてここに来たの!!」
「ママが、よんだから、はいった。」
僕が、答えると、お母さんが、変な顔に、なった。
僕、言ったらいけないことを、言ってしまったかも?
「…呼んだから?…ねえ、ママの声、聞いたの?」
「ママが頑張ったから、隆太が応えてくれたんだよ、きっと。」
お父さんが、お母さんの肩を抱いている。
ぷかぷか浮いていた頃は、よく、こうしていたのを、見た。
お母さんのがんばっている姿を、たくさん見た。
お母さんの泣いてる姿を、たくさん見た。
お母さんがお願いしている姿を、たくさん見た。
お母さんの、叫び声に、応えたいと、思ったんだ。
いつもがんばって笑っていたのを見ていたよ?
いつもがんばって前を向いていたのを見ていたよ?
いつもがんばって涙をこらえていたのを見ていたよ?
僕は、頑張っているその姿が、大好きになったから。
「ママ、がんばってたから・・・だいすき。」
抱きしめてもらいたいと思って、地上に降りてきたんだよ。
僕がお母さんに向かって、手を伸ばすと。
「…ありがと、ありがとね、生まれてくれて、うう…。」
お母さんは、泣きながら、僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
・・・ちょっと、痛いや。
大好きなお母さんの、涙が・・・僕にぽたぽたと、落ちてくる。
大好きなお母さんには、いつも笑っていて、欲しいな。
大好きなお母さんに、笑ってもらいたいなって思ったから、ここに来たんだけどな。
大好きなお母さんの涙は、・・・こたえるな。
僕が・・・泣かせて、しまったんだな。
僕は、もう、お母さんを泣かせたく、ないな。
・・・そう、おもったんだ、ぼくは。
ぼく、よけいなこと、わすれたいな。
ぼく・・・わすれる。
ぼく、ママ、だいすき。
「ママ、だいすき!!」