あるクラスメイトの登場によりヒロイン達は俺から離れていく。が、そのクラスメイトとクラスメイトの幼馴染みヒロインは俺と一緒にいてくれるようです。
初めて短編に挑戦してみました。
良ければ暇つぶし程度に読んでいただけると嬉しいです。
「あんたよりも彼のことを好きになったの」
それが元恋人の幼馴染、朱音 真美から告げられた嘘偽りのない答えだった。
俺はその言葉を聞いた時、ショックはもちろん受けたけどそれ以上に自然と納得してしまった。
俺と真美は小学生からの付き合いで何をするのにもいつも一緒だった。だから周りから「うわ、カップルだー」とか、登校してる時も「夫婦で仲良く登校ですかー」とかよくからかわれていた。
そんな周りの反応に表面上はお互い否定していたけど、内心ではカップルや夫婦という単語に頬を緩ませていた。
だから中学生になって付き合いだしたのはお互いにとって自然な流れだった。
初めのうちは緊張してまともに顔を合われられないこともあったけど、時間の流れとともに互いの距離がより近づいて、仲良しの幼馴染であった真美は俺にとってよりかけがえのない存在になった。
言葉にすると気恥ずかしいけど愛し合っていたんだ。
けど、そんな真美の反応が高校生になった辺りから妙によそよそしくなっていった。いつの間にか一緒に登校することも無くなり、会話もほとんどしなくなった。こっちが話しかけると、心底嫌そうな表情を浮かべ、ついには直接「学校でもそれ以外でも、あんまり話しかけないで」と言われてしまった。
そんな真美の反応に初めのうちは戸惑ったし、腹が立ったりもしたが、その原因には心当たりがあったというか確信があったから、彼女を責めることはしなかった。
その代わりに真美の言われるまま、彼女との交流は一切断ち切った。本当はそんなことしたくはなかったけど、真美にとって俺という存在が邪魔となってしまうのなら、これ以上嫌われないためにもそうせざるを得なかった。
だから、こうして別れを切り出されるのも当たり前のことで、思ったほどの悲しみはなかった。もしかしたら俺の中でも真美への愛はとっくに冷めていたのかも知れないな。
別れはあまりにもあっさりと告げられた。放課後に珍しく真美から呼び出されて、指定された場所に行ったら、「別れて」の一言が彼女の口から飛び出した。
俺がそのあまりにも短いその言葉を咀嚼している間、真美は常に不機嫌な顔を浮かべていた。俺は心の中で、そこまで俺のことが嫌いになったのかと少しだけ怒りが込み上げてきたけれど、ただそれだけだった。
真美の内心を知っても、特に言うことが思い浮かばなかった俺は、最後に俺の中の確信に対する答えを聞いてみた。
それが俺よりもあいつのことを好きになったという答え。その答えを最後に真美と言葉を交わすことはなくなった。
◇◆◇◆
「悪いけれどこれからは学校やそれ以外で話しかけたりしないでもらえるかしら」
ああ、またかと思いながらクラス委員の香住 葉月の言葉に耳を傾ける。
葉月とは中学2年のクラスで一緒だったことがきっかけで仲良くなった。最初はそっけない態度とキツい言葉遣いから近寄りがたい女子だったけど、友達の悪ふざけで勝手にクラス委員にされた俺は、同じクラス委員だった葉月に積極的に話しかけに言った。
そして約一ヶ月半の死闘の末、彼女の心を開くことに成功し、今では何でも気兼ねなく話すことが出来る友達になれたと思っていた。
「理由を聞いてもいいか?」
まあ、この流れ、そして日々の生活を見ていれば理由なんて聞かなくても分かるけどな。あーあ、さすがに傷つくな。
「そんなの聞かなくても分かるでしょ? 黎斗くんに近づくために貴方の存在は邪魔になってしまうもの。ただでさえライバルが多いのだからハンデとなる存在を切り捨てるのは当然のことじゃない?」
予想以上に辛辣なことを言われているなー。邪魔とかハンデだとか、そこまで言うかね? 今まで友達だったヤツにかける言葉では無いと思うんだがな。
女は男で変わると何かの番組で言っていた気がするが、ここまで変わられると今まで接してきた人間はたまったもんじゃない。
「俺たち友達だったよな? 友達だったヤツにそんな言い方ないんじゃないか?」
葉月の言いようにさすがにイラッとした俺はそう言って葉月の態度と言葉を指摘した。
「友達? 貴方を友達だと思ったことは一度もないわよ。それどころかいつも事あるごとに話しかけてくる鬱陶しい男とさえ思っているわ。いい機会だから言わせてもらうけど、私は貴方のことがずっと嫌いだったの」
まるで汚物でも見るかのようにこちらを睨む葉月。その言葉を聞いて、今までの葉月との思い出が音を立てて崩れていったのを感じた。
「ああ、そうか。悪かったな、今まで」
「ええ、金輪際話しかけないで」
俺は葉月に向かって頭を下げる。そして葉月からは変わらぬ冷たい言葉が向けられるが、何も感じなかった。何もかも崩れた葉月との関係はもう、心底どうでもよかった。
◇◆◇◆
「おーい、聞いてる?」
放課後の教室、時刻は既に4時を回り、大半の生徒は部活動や部活に所属していない生徒は帰宅していた。
「あ? 悪い、聞いてなかった」
「えー? ヒドいなー、結構真剣に話してたんだけど?」
そう言って笑って話を続けるクラスメイト、その笑顔は男の俺から見ても眩いくらい綺麗で、妬ましいほどにかっこ良かった。こいつとこうして言葉を交わす度にあの二人の気持ちが嫌でも分かってしまう。
こんなヤツに出会ってしまったら、そりゃあ好きになっちゃうよな。
「どうしたの? いつもと様子が違うけど、何かあった?」
ぼーっとしていた俺の様子を心配してくれる。こういうところもこいつの良い所で、一緒にいる度に気付かされる。
「いや、お前眺めてると改めて思ったわ。マジでかっこいいし、優しいし、俺がもし女だったら間違いなく惚れてるなってさ」
「ええ!? そ、そんなこと・・・いきなり言われても困るっていうか、その心の準備が・・・」
何だか分からんが何時になく動揺した様子を見せる。ただの冗談のつもりだったんだが、もしかして本気だと思われたか? こいつ美形だし、もしかして男からも告白されたりしてるのかも?
「冗談だよ、冗談。そんなうろたえるなよ、こっちが恥ずかしくなるだろ」
「え・・・? あっと、冗談? ああ、冗談かー。・・・・・そっか」
自分が恥ずかしくなったのか、急にトーンが落ちたな。ははっ、分かりやすいヤツだ。
「もう!!変な冗談は止めてよ!! 本気で驚いちゃったじゃん!!」
気持ちを落ち着けると、今度は頬を膨らませながら怒ってくる。ああ、これ長くなるやつだな。普段は全く怒ったりしないヤツだが、こうしてたまに怒るとしばらくの間説教タイムが始まってしまう。これに付き合うのはだるいな、話題を変えるか。
「ああ、そう言えば最初お前何話してたんだ?」
こいつの説教タイムが始まってしまう前に、聞いていなかった最初の話題に話を持っていく。
「え? いや、今はそんなことよりも」
「あー、最初の話聞きたいな-」
話題を逸らさせないようにするが、そこはこちらも想定内。こういうときの対処法はとっくに心得ている。
「な?いいだろ?」
「いや、でも・・・」
「俺今それが気になって他の話、頭入ってこないんだよ」
「うーん」
「頼む!!この通りー!!」
「ぐぬぬぬー・・・・・はぁ、仕方ないか」
上手くいったな。こいつはすごく押しに弱いから、こっちがゴリ押せば大抵は折れてくれるということは分かっていた。
「そう、それで最初の話だったよね? まあ、話って言うよりは相談なんだけど、ヒロくんと仲良い朱音さんと香住さんのことで相談があって・・・」
あ、話題こっちに振ったの失敗だったかも。今思い出したくない人、1番と2番の名前が飛び出し、自然と心が揺さぶられてしまう。
落ち着け。動揺を顔に出したら、こいつに気付かれてしまう。いつも通り、いつも通りと心の中で念じながら平静を取り戻していく。
「ああ、あの二人ね。何だ?どっちと付き合えばいいか困っているとかか?」
いつも通り冗談を含めた口調で言葉を返す。そうすると、なぜか怪訝そうな顔を向けられた。
「何言ってるの? 朱音さんはヒロくんの彼女さんでしょ?」
何を言っているんだこいつは?という顔を向けられて俺も気付く。そう言えばこいつはまだ付き合っていると思っているのか。恋人らしいことを高校に入ってからはまるでしていなかったから周りには俺と真美が付き合っていると知っているヤツは少ない。知っているのは中学から一緒だったヤツか、こいつのように親しい友達だけだ。
「それなのに彼女、あまり悪口は言いたくないけど他の男に色目を使ってるっていうか、接触も多い気がするし、それに香住さんもそうだけどヒロくんの悪口ばかり言ってくるんだ。僕が止めてって言っても止める様子がなくてさ、だからヒロくんに注意して欲しいと思って」
彼氏がいるにも拘らず他の男、多分こいつだけだと思うけど、に色目を使い、さらには俺の知らないところで俺の悪口を二人が言っているらしい。目の前にいるこいつの様子を見るに、今に始まったことではないのだろう。言い出したくても俺に気を遣って言えなかったって所だろうか。
「悪口言われてる本人に止めろって注意するのか?」
少し意地悪で言ってみると、かなり辛そうな表情を浮かべる。それだけでもこいつの中でこの問題が大きくのしかかっていることが分かる。そして俺の中で申し訳ない気持ちがあふれてくる。
「悪いけど、この件に俺から何か言うことは出来ない」
しかし、罪悪感があるからといって何か出来るわけでもない。というよりも多分この問題は何もする必要はないのだ。
「え・・・? 何で?」
もしかしたらこのことを聞いて俺がもっと取り乱すと思っていたのかも知れない。予想に反して俺が落ち着いたトーンで話し始めたことで虚を突かれた様子を見せる。
「まあ、そうだな。一言で言うと、もう二人と俺は何も関係のないただのクラスメイト、もしかしたらそれ以下になったからだ」
俺は黎斗に関わることは伝えないまま、こいつに俺たちのことを話し始める。俺と真美が別れたこと、葉月とは友達ではなくなったこと、そしてこれから関わることはないであろうこと、そうなった過程は話さずに出来るだけの真実をこいつに伝えた。
「っと、まあこんな所だ。だから俺から何か言うことはできない」
「・・・・・ひどい」
「え?」
俺の話を聞きずっとうつむいていたが、何かを呟く。
「ひどいよ!! 私、ヒロくんと二人のことは高校からしか知らないけどそれでもヒロくんが二人のことを大切に思っていることは分かった。他人の私でも分かった。それなのに当人はそんな思いすら踏みにじってヒロくんにひどいことを言ったり、傷つくことばかりして・・・う゛う゛っ」
今まで聞いたことのないほどの声量で感情任せに叫ぶ。その頬には大粒の涙が流れていた。
俺はその様子を見て、ひどいことかも知れないけれど嬉しくなってしまった。離れていった大切な人がいる一方で、俺を想って泣いてくれる人がいることがどうしようもなく嬉しかった。
「ひっぐっ、ひっぐ・・・・・ふぇ?」
俺は特に意識することもなく、こいつの頭を撫でていた。始めは戸惑っていたが、次第に気持ちが落ち着いていき、呼吸も整っていく。
「落ち着いたか?」
「うん、ありがとう」
流していた涙は収まり呼吸も元の状態に戻る。そして感謝を述べながら笑みを浮かべる。
「ありがとうは俺の方だ。俺のために泣いてくれてありがとう」
心の奥で無意識に抑えていた感情があふれ出す。
「本当はさ、苦しかった。悲しかったし、悔しかった、怒りだって湧いていた。今まで一緒にいたのに、ずっと仲良くしてきたのにこんなにあっさり縁を切られて、正直何なんだよって思ったよ」
だけど多分憎んではいない。彼女たちも真剣なんだ。俺の目の前にいる男、俺のために大泣きしてくれる優しい心を持った、外見、内面ともに最高にイケメンの月宮 黎斗に振り向いてもらうために何もかも捨て去る覚悟を持っているんだ。
「今日、黎斗が俺のために泣いてくれて、一緒に怒ってくれて、悲しんで、悔しがって、苦しんでくれて、俺の中の曇りは晴れたよ。本当にありがとう」
「ヒロくん・・・ううん、私の方こそ気付いてあげられなくてごめんね。もっと早くに気付いていれば、ヒロくんもこんなに傷つかなかったかも知れないのに。ヒロくんはいつも一人でいる私に一番に気付いてくれて、いっぱい話しかけに来てくれて、みんなとの繋がりを作ってくれたのに」
「まあ、それはみんなお前とどう接したらいいか分からなかっただけで、俺はきっかけを作っただけだよ。その後、お前がクラスの中心になるまでみんなと仲良くなったのはお前が頑張ったからだ」
イケメンで成績優秀、運動神経抜群、さらには実家が伝統ある月宮家という超ハイスペックのくせにコミュニケーション能力は皆無だったからな。それが今やクラスの中心人物となっているのだから黎斗がいかに努力したのかが分かる。まあ、まだ1つ欠点はあるんだけど
「俺のことはもう大丈夫だ。もうお前が苦しむ必要もない。そしてわがままを言わせて貰えるならば、真美と葉月のことをちゃんと見ていてやって欲しい」
「え?・・・朱音さんと香住さんの事を何で私が?」
俺の発言に不思議そうな顔を浮かべる黎斗、相変わらず自分への好意には鈍感だな。
「好きな人に見て貰えないのは結構辛いからな、逆にちゃんと見て貰えるってだけで人って嬉しいものなんだぜ」
分かりやすく伝えたつもりだけど、黎斗はより分からなくなったと言わんばかりに首を傾げる。
まあ、こればっかりは恋をしないと分からないのかも知れないな。
「いや、分からないならいい。ただ見てやってくれないか」
「うん、分かった」
黎斗は分かったとすぐに頷く。本当に素直でいいヤツだなと思ってしまう。
あーあ、黎斗がもっと嫌なヤツだったら文句の一言ぐらい言ってやったのにな。こんなにいいヤツじゃあ、何も言えねーよ。
これから三人の関係がどうなっていくのか、それは俺には分からないし、関係のないことだ。
だけど、三人とも幸せになって欲しいと願わずにはいられなかった。
◇◆◇◆
「っと、結構遅くなっちゃったな」
黎斗を家まで送ってからスーパーで買い物を済ませると辺りがすっかり暗くなってしまっていることに気付く。
「とっとと帰って飯作らねーと」
俺は今、マンションで一人暮らしをしている。と言っても別に両親がいない訳ではない。ただ、父さんは仕事で海外で暮らしていて、母さんは売れっ子の漫画家としていつも仕事場で寝泊まりしているため、元々住んでいた家は売り払い、俺がより学校に通いやすいようにと学校近くのマンションで一人暮らしをすることになったのだ。
ガチャ
マンションに着き、鍵で玄関のドアを開ける。そしてキッチンに向かうべく、リビングの方へと急ぐ。
「あっ、お帰り~」
「おう、ただいま」
「ねーヒロ~、お腹すいた~」
「ちょっと待ってろ、すぐ作るから」
「急ピッチでお願いね~」
「・・・・・って何で居る?」
あまりに自然な流れ故にそのままスルーする所だったぞ。
「何でいるんですかね?西園寺 陽菜さん」
「そんな他人行儀な呼び方はしないで欲しいな、私とヒロの仲じゃない」
「私とヒロの仲じゃないって、出会ってから1年もたってないだろ」
「でも、合鍵くれたでしょ」
西園寺 陽菜、彼女とは中学も違えば高校のクラスも違う。じゃあ、どうして知り合ったかというとクラスメイトであり友達でもある黎斗繋がりだ。
黎斗と西園寺は親同士でも交流があり、二人は幼馴染みらしい。西園寺と初めて会ったのは黎斗と昼飯を食べているとき、ふらりと現れて弁当のおかずを軒並みかっさらっていったのがきっかけだった。
それからちょくちょく一緒に飯を食べたり、遊びに行ったりはしたが、常に黎斗も一緒に居たし、友達の友達という間柄から変わることはないと思っていた。
けれど最近妙に馴れ馴れしいしというか、こうして一人暮らしをしている俺の家に勝手に入ってきてるし、距離感が分からなくなってきている。
「二人の間に時間の長さなんて些細なこと、大切なのは深さ、そして愛し合う心よ」
キリッと言い切る西園寺、そんな風に今みたいな言葉を恥ずかしげも無く口に出来ることは素直に尊敬する。
「どっちにしろ俺とお前の間には深さも愛し合う心もないだろ」
「ひっどーい」
ぶーっと口を膨らませる西園寺。しかしこちらとしても事実を言っただけだからそんな顔をされても困る。
「あれ? なんだか目の下赤くなってる?」
うっ、気付かれた。あんまりこいつに知られたくはなかったんだけどな。
「さあ? いつもこんなもんじゃないか?」
「隠してもダメ。顔だけじゃなくて、様子も少しおかしかったもん。何かあったの?」
俺の様子から何かあったと確信している西園寺に嘘は通じなさそうだな。
「話してみなよ、誰かに話すだけで楽になるもんだよ」
いつになく優しい口調で俺が話すのを待つ西園寺。
まあ、西園寺には直接関係は無いことだし、誰かに言いふらしたりをしないだろう。
「分かった、話すよ」
それから俺は黎斗に話したように黎斗に関わることは伏せながら、出来るだけの全てを話した。ただ黎斗の時と違うのは俺の心はすでに救われているということを付け足した。
黎斗に涙を流してもらって、俺は誰かに必要とされているのだと思うことが出来たのだから。
「・・・・・ってことがあったんだ」
話終えるまで西園寺はただ黙って俺の話に耳を傾けてくれていた。きっとかなり俺に気を遣ってくれたのだろう。正直、西園寺がこんな風に気を遣って接してくれるとは思っていなかったから驚きが大きいな。
話を聞き終えて西園寺はどういう反応をするんだろうか。
「なーんだ、そんなことかー。真剣に聞いて損したー」
「ええ・・・・・」
さっきまでの真剣な表情はどこへやら、一気にいつもの西園寺に戻ってしまった。
「あの、一応これ結構な悩みだったんだけど」
「いや、この話だったら元から知ってたしさほど驚きはなかったなって」
ええ・・・こいつ知ってたの?
「朱音とか言う人との仲が恋人どころかクラスメイト以下まで冷め切っていることも、香住とか言う人がヒロのこと厄介者だと思っていることとか、あとヒロが女子の間で束縛DV最低彼氏って言われて嫌われていることも全部知ってるよ、あっ、もちろんそれを広めたのが朱音とか言う人だってこともね」
「え? 俺女子の間でそんな風に呼ばれてるの?」
真美と葉月が俺の悪口を黎斗や他の人に広めていることは知っていたけど、まさかそこまで言われているとは・・・・・
あいつらの幸せを願ったことを若干後悔してしまった。やっぱりちょっと痛い目見た方がいいなと思ってしまう。
「うん、だからヒロって一部の女子には大分嫌われてるよ?」
「へー、マジか」
「うん、マジ」
どうやら俺は知らない間に二人にメッタ打ちされていたらしい。
「知ってるなら教えるか、止めてくれても良かったんじゃないか?」
西園寺ならそれくらいのこと、簡単にできると思うんだが、
「いやよ。だって私にメリットないもの」
「俺とお前の仲なんだろ? だったら助けてくれたって」
「まあ、確かに私とヒロの仲は誰よりも深いし、心が通じ合っているけれどそれとこれとは別、ライバルが勝手に消えてくれるんだもん。だったら止めるよりもいっそライバルになるかも知れない人を全員一掃した方がいいかなって」
ん? 何か・・・自意識過剰かも知れないけど、今の発言で引っかかることがあったぞ。
「ねぇ?」
今までの真剣な雰囲気とも軽い雰囲気とも違う、少し色っぽい雰囲気を醸し出し、瞳をゆっくりとこちらに向けてくる。
「・・・・・何だ」
「朱音って人とは別れたんだよね?」
西園寺の瞳に引っ張られ、逃げることが許さない。
「ああ、そうだな」
「じゃあ、今ヒロはフリーな訳だよね」
「そうだな、そういうことになる」
「ねぇ、私がこれから言おうとしていることが何か分かる?」
「ああ、何となくはな」
この流れ、普通に考えれば誰だって分かる。
「じゃあ、答え合わせね。・・・・・私と付き合って」
ああ、正解だったよ。楽勝すぎる問題だった。
「一応俺は振られたばっかなんだけど、傷心しているときに告白するのはちょっと卑怯なんじゃないか?」
「そういう意見もあるかも知れないけれど、私はそうは思わないな。自分の恋をかなえるためならこれも1つの戦略でしょ?」
「それで、返事は?」
西園寺の大きな瞳が向けられ、こちらも真剣に返さなければならないと思わされる。
「俺は今まで西園寺のことを恋愛対象として見たことは無かった。ここで告白を受けることはお前への侮辱になってしまう。だからお前の告白を受けることは出来ないよ」
それが俺の正直な気持ち。精一杯の誠意を込めた答えだった。
「そっか・・・・・」
結果、西園寺を傷つけてしまったかも知れない。けれど真剣に俺に接してくれた人に嘘をつくことはしたくなかった。
「・・・・・うん!! まあ、それでもいっか!!」
「・・・・・へ?」
しばらく俯いていたかと思ったらそう言っていつもの明るい西園寺に戻り、笑顔を浮かべた。
「随分立ち直りが早いんだな、てっきりしばらくは気まずい時間が続くと思っていたぞ」
最悪、西園寺との縁すら途切れてしまうのではないかと内心ではヒヤヒヤしていたのに。
「だってまだフラれたわけじゃないし、今まで恋愛対象として見ていなかったから今は付き合えないってだけでしょ? だったらむしろここからがスタートってことじゃない?」
「まあ、確かにそう言えなくもないけど」
「これでヒロは私のこと、嫌でも意識しちゃうでしょ? もちろん恋愛的な意味で」
「それはそうだな」
「だったら落ち込む必要なんてないじゃない、これからヒロのことを骨の髄までメロメロにすればいいんだからさ」
そう言うと西園寺はお腹すいた~と言って夜飯を要求してくる。このポジティブさは見習いたいぐらいだ。
「俺を惚れさせるのは至難の業だと思うぞ、陽菜」
そう呼ぶと陽菜は一瞬驚いた表情を見せ、それをすぐに笑顔へと変える。
「ふふっ、むしろ望むところだよ。絶対惚れさせてやるんだから!!」
陽菜はそう言って、こちらに駆け寄ってくる。そしてそのまま、桜色の唇を俺の頬にそっと触れさせた。その柔らかい感触は俺が初めて経験するもので思わずたじろいでしまう。その様子を見ていた陽菜はとても楽しそうな笑みを浮かべて・・・・・
「だから私達のことも、ちゃんと見ててね」
祈るようにそう陽菜は呟いた。
その言葉にどれだけの想いが込められているか、それは誰よりも知っている。
一方的に想い続けて、誰よりもその人のことを考えて、その人に見て欲しいと努力して、だけどそれを相手に見てもらえない。
それはとてもつらいことだ。俺はそのつらさを身をもって知っている。
だから俺もちゃんと向き合うよ。今までの君に向き合ってこなかった分、これからの君に。
勢いで書いたので矛盾だったり設定ミスなどがあるかも知れません。
間違いがあれば教えていただけるとありがたいです。