round-1-1
春―――――――――四月
新体制となった学校が始まる月でもあり、なんだか浮足立つ空気を連れてくる、そんな月。
そんな誰かに会える……ンなわけがない
学校から少し離れたデパートの近く、そこにひっそりとたたずむ施設。
この時代には少なくなってしまったゲームセンター。
そこに彼がいた。
ブレザータイプの制服に身を包みスケルトンタイプの眼鏡をかけ、首からヘッドフォンを掛けている。
彼は一本のスティックと六個のボタンを操作し画面の中に写るキャラクターを操作する。
あちこちに古傷が見える巨大な肉体とそこに磨かれた筋肉がしまわれたツナギにジーンズ姿、特徴的なの男
その名前はヴォルフ
多彩な投げ技と重い打撃を武器とする重量級のキャラクター。
接近戦では投げ技と打撃の二択が強力で,いずれも決まれば高い火力を叩き出せるのが魅力とされている
キャラクター中では最大級の耐久力を誇るほか,バックステップのスキが小さいおかげで,近距離からの攻めに対しても無類の強さを誇る。
しかし、唯一の弱点とも言えるのはダッシュ、空中ダッシュを持たないうえに歩行速度も遅いために相手に近づくまでに多大な苦労を強いられるのが弱点。
飛び道具を出す敵に対しては絶対に接近のチャンスを掴みたい。
我慢と瞬時の判断が必要な場面が多いこのキャラクター。
彼はこのキャラクターを使い現在、百八連勝という恐るべき数をこなしていた。
過去には対戦台とオンライン専用の筐体が分けられていたがこの時代は進歩が進み
オンライン待機中には対面台での対戦も可能になった台の前に座り込んで静かに画面の中を見つめ戦っていた。
相手キャラクターは「ユウ」
このゲームでの主人公であり、格ゲーにおける「三種の神器」(飛び道具、対空技、突進技)などを揃えた、スタンダードな性能のキャラクターとされた
いわゆる「リュ〇ケン」タイプの性能を受け継ぐ格闘ゲームの伝統的なキャラクター。
ヴォルフの当たれば体力を大きく削る攻撃。
範囲こそ広いものの、一度空振れば後隙の多過ぎる通常攻撃。
これは、パワープレイをする大型のキャラクターによく見られる特徴である。
しかし彼のプレイは一味違った。
二ラウンド目をとられ、K.O.という二文字が画面に表示された
「くそがっ、最弱キャラが!」
反対側から、声と台を蹴る鈍い音が聞こえてくる。
その声を聞いて、彼はにやりと口を歪めて笑みを浮かべた。
先程も挙げたようにヴォルフは『機動力がなく隙が大きいが、火力は高い』というキャラクターに入れられ、パワープレイをする大型のキャラクター、例を挙げるならストリー〇ファイター内ならザ〇ギエフや〇ューゴー、ア〇ゲイルなどの体が大きく「重量級」によく見られる特徴である。
「いける。」
今まで何も話さなかった彼がボソリと呟く。
ピアノの鍵盤の様に叩かれる六個のボタン、そこから放たれる技。
このキャラクターを選択する者もあまりおらず勝利を得たいのならば他のキャラクターを使えばいい
このキャラクターを人は「最弱」と呼んだ。
一瞬、黒みを帯びた彼の目は鈍く光り、指はその間にも動き続ける
画面横に立っていた眼鏡の少年は、生唾を飲み込んで画面を見守っていた。
いよいよ戦闘も終盤、という所だろう。
対戦相手の「ユウ」から離れ、ヴォルフの周囲を禍々しい「波動」が覆う。
一撃必殺技「ペイバック」
相手を放り投げて、そのままキャッチするとにやりとした笑顔で何度も、何度も鉄のような拳で殴りつけそして勢いよく相手の身体をボールのように丸めて
投球ポーズをとり大きく振りかぶって投げる。
相手キャラクターは壁に叩きつけられる姿が最期に写る
彼の画面上に、『YOU WIN』の文字が浮かぶ。
彼が見つめている画面には百九回勝利したことを示す表示が出ていた。
画面前に置いていたノートをリュックに回収すると
彼はパイプ椅子を台に戻し、左腕に巻いていた旧式の腕時計で時間を確認した。
彼はヘッドホンを装着すると台に背を向けて出口を通りそのまま、彼は帰り道を歩いた。




