round 4-2
大会2日目
TOP32、TOP16までが繰り広げられ、明日に残れるのは四分の一
背中にはアーケードコントローラーと、試合用の飲み物を入れた水筒を収納したリュックを背負い会場に乗り込む。
携帯に入れたプレイリストを選択し今日の気分に合わせたものにして置き、すぐに再生できるようにしておく。
試合は朝の一番最初から、加えて配信台。
朝一番に流れる試合が俺の試合って……。まじかよ。
相手はもうすでに席に座りコントローラーを繋げたりと準備している。
リュックを下ろして、準備し始めた
相手が誰であろうと
やるしかねぇ。
勝ち残ってしまった……
ピアニストだった経歴が明かされて、しかも朝一から配信される試合が私の試合とは
テンションが下がる。
私がここにいるのは運だけではなく、実力でいるのだと実感する。
相手が到着したのを片目で見る、相手は確か高校生だった筈。
私と十歳以上離れている相手なのか思いながら自分の調整に戻る。
ピアノに費やした十年、子供一人が成長することの速度を思い知らされた。
芸術とは時にして容赦のないものだ。
特に音楽や美術に関してのことを言うならば才能という一言で切り捨てられる。
たとえば、指から血のにじむまで練習するような努力を積み重ねても。たとえば譜面がボロボロになるまで読み込んで発表に臨んでも。
『君の代わりなんていくらでもいるから』
そんな言葉を投げかけられれば、綱渡りしていた足が強制的に崩されたようなものだ。
ボタンチェックを行い、普段通りの動きが出来るか、ラグがないかとチェックしていく。
右手が置かれる位置にはボタンが八個、左手が置かれる位置にはボタンが六個
普段あるものがこのコントローラーにはない。
キャラクターを動かすためのスティックがないのだ。
その動きもボタンに配置されている。
知り合いの技術者に頼んだボタンだけのコントローラー、既存のアーケードコントローラーを改造してスティックの動きさえもボタンに配置された
オンリーワンのコントローラー
君の努力が足りなかった。
なんて言わせない。
相手のキャラクターはバズヴ、飛び道具なのに間合いが狭いスローイングナイフ、設置兼対空技の術式札
トリッキーな戦法を得意とするテクニカルな玄人向けとされている。
先日行われたプール(予選)でのプレイを見ていたが、他のプレイヤーとは違い丁寧なプレイをしているなと言う感じだった。
普段はヴォルフのような自分の強みを相手に押し付け、相手の体力を奪っていくスタイルを取るのかと思えば、飛び道具を利用し特殊ゲージを溜めていきそこからゲージ使用で発動したタイミングからトリッキーな戦い方を行うというプレイスタイル。
私のキャラクターはモールニヤ、全体的に低リスクで確実なターンを取ることが出来る技が揃っている、コマンドサンボ特有の関節技を使ったカウンターを得意とする「待つ」タイプのキャラクター。
キャラクター的にはこちらが、相性が悪い。
それでもこっちの方が勝てそうな気がする。
相手が親指を立てて準備完了のサインをだしているのを確認してこちらも頷き対戦モードに移行する。
私はモールニヤを選び、いつものパンツスーツスタイルから、記念仕様の真っ赤なドレス姿に変更する。
相手がバズヴを選択し、今までのようにコスチュームを変更し、黒のジャケットに緩く締めた青いネクタイのスーツスタイル。
そしてそこからバズヴがゲージを使用した際に持つ武器を選択する。
特殊警棒であれば中、近距離をメインに、ゴルフクラブであれば中距離をメインとして戦うことになる。
どちらを選択するのか。
今まで通り特殊警棒であれば、持ち込んだ戦い方がうまく刺さるはず。
ゴルフクラブの場合であっても、モールニヤの得意な間合いに持ち込めば行けるはずだ。
相手は特殊警棒を選択。
持ち込んでいたイヤホンを耳に差し込み軽く深呼吸。
開始だ。
同じその時その瞬間、解説台では
『午前九時から開催されていますSeptember・Joker・Gaming格闘ゲーム部門「チームアルゴス」選抜予選。配信での実況はわたくしエンジ、そして解説は』
白のベストにチェックのシャツ、そしてヘッドセットをした男性、その横には
『はい、パンゴリン・アスリート・グループ所属のニーマです。本日は宜しくお願いします』
黄色と黒を基調にしたセンザンコウ、それが描かれたユニフォームに身を包んだ女性があいさつする。
『本日行われるのはウィナーズ、ルーザーズを合わせたTOP32、ここから24名が脱落し明日のTOP8に残りチームアルゴスに所属できるかどうかの試合となります。』
『本日の配信台で行われる第一試合は現役高校生のJam選手VS元ピアニストとという異色の経歴を持つカント選手です。ニーマさんはこの試合どう思いますか?』
『そうですね……Jam選手のバズヴの動き、先日のプール(予選)で見ていましたが、素晴らしいプレイをしています。相手の苦手な動きを読みつつ攻撃していくスタイルに対応できていないプレイヤーが多く見受けられました。私としても対戦では苦戦しそうな相手だと感じました。』
『一方カント選手のプレイは無駄がなくシンプルに戦うスタイルを決めて迷いなく攻撃を決めていく姿が印象的でした。』
『なるほど、配信を見ている皆さんはどうなんでしょうか? 』
配信のみで表示されているコメント欄には様々なコメントが書かれていた。
両者の戦いを楽しみにするものもいれば、勝敗予想しているものもいる。
まさに混戦状態と言ってもおかしくはない。
『さて、両者の準備が終了したようです。それではジャムバズヴVSカントモールニヤ、試合開始です。』